モブとテストと優等生   作:相川葵

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第一問 祭りの季節がやってきた

【清涼祭アンケート】

 学園祭の出し物を決めるためのアンケートにご協力ください。

 『あなたが今欲しいものは何ですか?』

 

 

 

 工藤信也の答え

『時間』

 

教師のコメント

 残念ながら時間は有限ですが、だらだらと過ごす時間を減らす事で時間を有効に使うことが出来ます。てきぱきと行動することを心がけましょう。

 

 

 

 須川亮の答え

『彼女』

 

 教師のコメント

 学生の本分は勉強! と言いたいところですが、青春も学生の本分の一つだと先生は思います。学園祭で良き出会いがあるといいですね。

 

 

 

 橋本和希の答え

『校内新聞のネタ』

 

 教師のコメント

 そう言えば新聞部でしたね。校内新聞をいつも楽しみに読んでいます。清涼祭では様々な企画やブースがありますから、それを記事にしてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 谷村誠二の答え

『校内新聞のネタ』

 

 教師のコメント

 谷村君も新聞部でしたっけ?

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 橋本による奇妙な取材を受けてから数日。

 『清涼祭』まで二週間となり、授業は6時限中2時限がL H R(ロングホームルーム)になる特別編成へと移行していた。このLHRが清涼祭のための準備時間になる。

 各クラスでは、それぞれの出店の為に教室を改造したり道具を手配したりといった準備がすでに行われている。この学園特有の『試験召喚システム』を利用した出し物の為に、開発者である学園長に掛け合っているクラスもあると聞いた。

 当然、我らが2-FもそのLHRの時間は与えられている。その時間を利用して俺達は――

 

『よっしゃー! 締まっていくぜー!』

『おおー!』

 

 準備なんか一切せずに、校庭で野球をしていた。

 

『吉井! こいっ!』

『勝負だ須川君!』

 

 バッターボックスの須川とマウンド上の吉井が、そんな声を掛け合っているのが聞こえた。

 

「いやー、それにしても暇だな」

「だな」

 

 俺と工藤は、外野の守備についている。しかし、案外吉井と坂本のバッテリーが強く、なかなか外野までボールが飛んでこない。一応俺がライト、工藤がセンターに配置されたものの、適当な位置まで寄って雑談をしていた。どうせ遊びだ。文句も言われまい。

 

「そういえば、お前あの噂知ってるか?」

「噂?」

 

 ぼうっとホームの方を眺めていると、工藤がそんなことを言い出した。

 噂って、また俺の変な噂が流れてるのか?

 

「あの噂はガセネタだぞ! 信じるんじゃねえ!」

「あ? 何言ってるんだ?」

「え? 俺に関する噂じゃないのか?」

「ちげえよ。早合点するな」

 

 違ったらしい。

 だとしたらなんだろうか?

 

「この文月学園の『都市伝説』についての噂だ」

「『都市伝説』?」

 

 都市伝説と言えば、口裂け女だとか、学園の経営には陰謀が絡んでいるとかそういう話の事か?

 

「そんなのが文月学園にあったのか」

「そういう噂がな。あくまで文月学園に絡んだものだから、『学園伝説』って呼ばれてるな」

「ふうん。どういう噂なんだ?」

「定番なものばかりだよ。えーと、俺が知ってるのは……」

 

 そして、工藤がつらつらと学園伝説を語り始めた。長々と話してくれたが、簡単にまとめると、

 

 学園長室から地下迷宮につながる扉がある。

 召喚獣は異世界の自分である。

 学園が盗聴器と監視カメラで生徒を監視している。

 図書室には黒魔術の本がある。

 4階旧校舎の女子トイレに幽霊がいる。

 必殺料理人が調理室で夜な夜な弁当を作っている。

 教頭室には金銀財宝が眠っている。

 観察処分者は食事をすべて塩とサラダ油にされる。

 

 大体こんな感じだった。

 

「ま、ホントかどうかは分からないけどな」

「……割とツッコミどころが多いんだが」

 

 特に最後のヤツとか明らかにおかしい。そんな塩と油だけで生きていける人間なんかいるわけないんだから。

 

「幽霊とか陰謀とか、割と定番なんだな」

「ああ。ほとんどが作り話だろうしな」

 

 都市伝説なんて、そんなものだろう。それか、些細な噂に尾ひれがたくさんついたものだ。

 

「大体幽霊なんかいるわけないだろ」

「いや、分からんぞ、谷村。そもそも『試験召喚システム』の仕組みもよくわからないし、一応あれにはオカルトが絡んでるんだろ?」

 

 確かに、かつて見た学校のパンフレットには、『科学とオカルトと偶然により誕生した試験召喚システム』だなんて文言が並んでいた気もするが。

 

「うるせえ。幽霊なんかいてたまるか」

「……そういえば、お前ホラーとか苦手だったな」

 

 そんな他愛もない話をしていると。

 

『貴様ら、学園祭の準備をサボって何をしているか!』

『やばい! 鉄人だ!』

 

 校舎から鉄人がとんでもないスピードで飛び出してきた。

 

『吉井! どうせ貴様が主犯だろう!』

『違います! クラス代表の雄二が提案したんです!』

『とにかく全員教室へ戻れ! この時期になってもまだ出し物が決まっていないなんて、うちのクラスだけだぞ!』

『『はーい……』』

 

「戻るか」

「だな」

 

 鉄人の指導が拳に変わらないうちに、俺達はそそくさとかび臭い教室へと舞い戻った。

 

 

 

 

「さて、もうすぐ春の学園祭、『清涼祭』が開催されるわけだが」

 

 野球を中断された後、Fクラスの代表である坂本が教壇に立ちながら告げる。それを、俺達は床に敷かれたござの上に座りながら眺めていた。

 

「とりあえず、クラスから2名ずつ運営委員を出さなきゃならないので、それを最初に決める」

 

 基本的に生徒の自主性を尊重するこの文月学園では、清涼祭の運営も生徒主体で行う。やりたいことがあるなら自分達でやれ、という方針なのだ。そこで、運営委員会というものが設立される。

 しかし、運営委員というのは、仕事の量が半端じゃない。この時期の自由時間はほぼ無くなると考えて差し支えないレベルだ。

 さて、この清涼祭だが、はっきり言って俺はあまり興味がない。Fクラスの出し物なんてたかが知れているし、学園祭で何かをやりたい! という強い思いがあるわけでもない。木下さんと一緒に清涼祭を巡るなんてことができればいいが、あまりそれが出来そうな気もしない。

 

「そこで、その二人をクラスの実行委員とするので、議事進行や出店に関わる全てを任せることにする。一応聞くが、運営委員をやりたい奴はいるか? ……まあいないわな」

 

 坂本が、だるそうに言葉をつづける。坂本も、俺と同じように清涼祭に向けてのやる気がないらしく、他人に任せる気満々だ。そもそも、さっきの野球を提案したのも坂本だったし、新学期初日に俺達を鼓舞したあの坂本とは大違いだ。

 そんな坂本は、教卓の中からティッシュ箱を取り出した。

 

「じゃあ、くじで決める。こんなこともあろうかと、1から50まで数字が書かれた紙をこの中に入れておいた。ここから俺が2枚引くから、その出席番号の奴が運営委員だ。恨みっこなしの一発勝負。それでいいな?」

 

 坂本はそう言いながら俺達を見下ろすが(俺達は実質地べたに座っているから当然こうなる)、異論は出なかった。どうせ誰もやりたがらないし、自分が当たる確率は50分の2。高い確率じゃない。

 

「よし、じゃあ引くぞ」

 

 坂本がティッシュ箱に手を突っ込んだ。

 そして……。

 

 

 

 

「あー……というわけで、運営委員の谷村だ」

「同じく吉井……はあ、なんで僕が」

 

 運営委員として選ばれたのは、俺と吉井だった。くそ……。

 

「運が悪かったからだ、諦めろ。んじゃ、後はお前らに任せたぞ」

 

 俺達が教壇に立つと、入れ替わりに坂本は席に戻っていった。そして、すぐに横になる。興味の無さを隠そうともしていない。

 運営委員なんて面倒くさいが……選ばれてしまったものは仕方がないな。さっさと終わらせてしまおう。

 

「じゃあ、俺が議事進行をやるから吉井は板書を頼む」

「了解」

 

 素直に引き受けた吉井は黒板の前に立つ。きょろきょろとチョークを探した後、結局まともな物は見つからず床からチョークのかけらを拾い上げた。本当にひどい設備だ。

 

「じゃあ、誰か清涼祭でやりたい出し物がある人はいるか?」

 

 俺がそう尋ねると、真っ先に手を挙げたのは意外にも秀吉だった。

 

「はい、秀吉」

「うむ」

 

 名前を呼ばれた秀吉はその場に立ち上がる。

 

「ワシが提案するのは演劇じゃ」

「演劇?」

「そうじゃ。ワシが演劇部に所属しておるのは皆知っているじゃろうが、それをこのFクラスでやってみたいのじゃ」

「でも、秀吉は部活の出し物で演劇するんじゃないの?」

 

 吉井が尋ねる。

 

「それはそれじゃ。このFクラスには個性的な面子が揃っておるし、悲劇から喜劇まで様々なものが出来そうじゃからの」

 

 ふむ。演劇に関しては俺達は素人だが、秀吉に教えてもらったりすればそれなりの物はできるかもしれない。自然と秀吉の負担は大きくなるだろうが、その秀吉の意見だ。尊重したい。それに、正直面白そうでもある。

 

「吉井、黒板にメモを」

「はーい。えーと……」

 

 吉井は、唸り声を出しながらチョークを走らせる。

 

 

 

【候補① 寅劇『Fクラスの非劇』】

 

 

 

『…………』

「吉井……」

「え? 何か間違えた?」

「俺が書記をやる。お前が議事進行をしろ」

「え? え?」

 

 疑問符を頭に浮かべる吉井と役割交換をする。

 

「じゃあ、他に意見のある人は? はい、工藤君」

「俺はお化け屋敷をやってみたい」

「お化け屋敷かあ」

 

 なるほど。お化け屋敷と言えば、学園祭の定番だ。

 

「この教室にもマッチするからいいかもしれないな」

 

 ヒビだらけの壁、常時入り込む隙間風、カチカチと点滅する蛍光灯……最低ランクのさらにその下に位置するこの教室は、何もしなくてもお化け屋敷状態だ。

 

 クラス内からも声が上がる。

 

『面白そうだな』

『でも、お化け屋敷って他のクラスがやってなかったか?』

『しかも、お化け屋敷ってカップルがやってくるだろ』

『そうか。いちゃつくカップルを目の前にすることになるのか……』

『…………ちっ』

『待てお前ら。うまく脅かして彼氏のみっともないところを見せれば、破局させることができるんじゃないか?』

『それだ須川!』

『よし! お化け屋敷にしよう! とびっきりの恐怖の館を作り上げるんだ!』

 

 否定的な意見も上がったが、全体的には肯定的なようだ。お化け屋敷に入るのは勘弁してほしいが、作る分には面白いのかもしれない。

 

「とりあえず、候補にしようか。谷村君」

「はいはい」

 

 えーと、今の意見をまとめると、

 

 

 

【候捕② お化け屋式『破局の館』】

 

 

 

『…………』

 

 あれ? なぜか視線が痛い気がする。

 

「他に意見は……はい、姫路さん」

「はい」

 

 次に手を挙げたのは姫路さん。

 

「私は喫茶店をやりたいです。これも定番ですよね」

 

 喫茶店か。確かに姫路さんの言う通り、定番の一つだ。

 

『ううん……悪くはないがインパクトに欠けるな』

 

 そんな声が聞こえてくる。

 それもそうだな……。

 

「なら、何かテーマを決めたらいいんじゃないか? 和風喫茶とかメイド喫茶とか、そういう縛りを入れたら話題にもなるだろ」

「お、いいね、谷村君。じゃあ、何かしらの縛りを入れるという事で」

 

 吉井が賛同してくれた。

 

『縛りか……中華喫茶とかどうだ? おしゃれだぞ』

『クレープ屋ってのは? クレープなら持ち歩くから宣伝にもなるし』

『かき氷とかアイスとかもいいだろ。やっぱり冷たいものが人気出ると思うんだ』

『それで当日に雨が降ったら悲惨じゃないか?』

『普通に焼きそばやお好み焼きは?』

『それは普通すぎて面白くない』

 

 クラスメイトからも意見がたくさん出てくるが、まとまりがない。

 

「とりあえず、何かしらのテーマを決めた喫茶店ってことでいいかな?」

 

 ひとまずの意見として吉井がまとめてくれた。

 

「じゃあ候補に入れるぞ」

 

 

 

【候捕③ 契茶店『何かで縛る』】

 

 

 

「意見はこんなもんか」

「食事系は喫茶店にまとまるだろうし、これでいいよね」

 

 と、意見を閉め切ろうとしたとき、教室のドアががらりと開いて鉄人が現れた。

 

「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」

 

 この気温では聞きたくないむさくるしい声だが、文句を言っても殴られるだけだ。

 

「今のところ、候補は黒板に書いてある三つです」

 

 吉井がそれに答えると、鉄人はその候補に視線を移した。

 

 

 

【候補① 寅劇『Fクラスの非劇』】

【候捕② お化け屋式『破局の館』】

【候捕③ 契茶店『何かで縛る』】

 

 

 

「……補習の時間を倍にした方が良いかもしれんな」

 

 しまった! 俺達がバカだと思われている!

 

「ち、違うんです! 最初の一つは吉井が書いたから、文句は吉井に言ってください!」

「あとの二つがおかしいのは谷村君のせいです!」

 

 俺と吉井が互いに責任を押し付けあう。自分が書いたことで鉄人があきれてるんだぞ! その責任くらいちゃんととれ!

 

『せ、先生! 俺達はまじめにやってたんです!』

『吉井と谷村がそうやって書いたんです!』

『バカなのは二人だけなんです!』

「なんだとお前ら! 俺のどこが吉井だって!?」

「ちょっと待った谷村君。今『バカ=吉井()』という方程式を作らなかった?」

 

 俺達に責任を押し付けて補習を回避しようとするクラスメイト達。なんて姑息な連中だ。

 

「静かにしろ! みっともない言い訳をするな!」

 

 そんな状況を見かねて、鉄人が一喝する。静かになるFクラス一同。

 それにしても、ちょっと鉄人を見直した。クラスメイトを身代わりに逃げようとする精神を叱責するなんて、なんだかんだ言っても教師なんだな。

 

「先生は、こんなバカを運営委員に選んだことを反省しろと言ってるんだ!」

 

 前言撤回。本当は教師じゃないだろ。

 

「言われてるぞ、吉井」

「何言ってるんだよ、谷村君。キミの事だろ」

「二人ともだ」

「「そんなバカな!?」」

「どうして貴様らはそこまで心外そうな顔ができるんだ?」

 

 心底不思議そうに告げる鉄人。

 

「だって、吉井は観察処分者じゃないですか! 俺を吉井と一緒にしないでください!」

 

 というか、最近は噂のせいもあって吉井とワンセットにされることが多い気がする。失礼な話だ。

 そんな俺の文句を聞いた鉄人はさも当然という風に答える。

 

「確かに吉井は観察処分者だが、俺は個人的にお前を《準観察処分者》と思っている」

「どうしてですか!」

「吉井に影響されたかは知らんが、最近の騒動の中心には貴様がいるじゃないか」

 

 言われてみれば、先日のラブレター騒動の他にも細々とした騒ぎで鉄人に度々叱られている。けれど、それだって俺は巻き込まれただけだ。決して吉井のような主犯じゃない。

 

「そんな……! 俺が吉井と同じ扱いなんて!」

「ねえ、さっきから二人とも僕の事をなんだと思ってるの?」

「「バカ」」

「なんてことを!」

 

 綺麗にハモる俺と鉄人。

 

「それにだ、谷村。成績面の話ならお前は吉井をバカに出来んぞ」

「え? どうしてですか?」

「最近は頑張ってるようでわずかばかりの改善がみられるが、それでも総合科目の点数は吉井よりお前の方が低いんだからな」

「…………」

「ええっ! 僕より点が低い事って、無言で大粒の涙を流すほどつらい事なの!?」

「当たり前だろう、吉井」

「鉄人は黙ってろ!」

 

 よし、今日からはもっと勉強しよう。こんな吉井(バカ)に負けるなんて、どんな悪評よりも屈辱的だ。

 

「まったくお前達は……少しはまじめにやったらどうだ。稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そういった気持ちすらないのか?」

 

 泣いたり喚いたりしている俺や吉井をみて、あきれたように鉄人がそんな台詞をこぼす。それを聞いて、クラスの皆はざわめきだした。

 

『そうか! その手があったか!』

『試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないのか!』

『ボロボロのござにみかん箱なんてやってられるか!』

 

 一気に教室内が活気づく。当然だ。元々設備に不満を覚えて試召戦争を始めたのに、当時よりもさらにひどい設備になっている。我慢なんてできるわけもない。

 

「み、皆さん! 頑張りましょう!」

 

 という姫路さんの声も聞こえてきた。立ち上がって拳を豊かな胸の前で握り、やる気満々と言った様子だ。さっきも意見を出してくれたし、よほど清涼祭を楽しみにしているらしい。

 

『で、出し物はどれが良い? できるだけ儲けが出る方が良いよな』

『木下には悪いが、演劇はあまり儲からなそうだ』

『お化け屋敷は回転率をあげれば儲かるんじゃないか?』

『それを言ったら喫茶店が一番だろう。利潤は大きいぞ』

 

 クラスメイトからも元気な声がたくさん上がる。

 

『初期投資の少ない展示系はどうだ?』

『それは利益が少なくて結局儲からないだろう』

『カジノを作ればいいんじゃないか? 胴元のテラ銭でぼろ儲けだ』

『それは法に触れるだろ……』

「ちょっと、お前ら落ち着け!」

 

 意見が次々と挙がるのはありがたいが、これじゃまとまりそうにない。

 

「こんなまとまりのないクラスだったか? 試召戦争の時はもっと一致団結してただろ」

 

 何とかしようと、吉井に話しかける。

 

「ううん……多分雄二のおかげじゃないかな」

「坂本の?」

「うん。アイツは人をまとめ上げるのが得意だから、そのおかげであの時は上手くいってたのかも」

 

 なるほどな……。改めて思うが、坂本はすごいことをしていたのかもしれない。

 

「どうにかして坂本にリーダーを任せられないか? 運営委員はともかく、これをまとめるのは俺やお前には厳しいだろ」

「僕もそうしたいところだけど、雄二は自分の興味がない事には基本的にかかわらないし、無理だと思うよ」

「そうか……」

 

 そうやって話す間も意見は飛び交っていて、収まる気配はない。

 どうしたもんかと手をこまねいていると、

 

「あーもう! 埒が明かない!」

 

 と叫んで島田さんが立ち上がり、黒板の前へとやってきた。

 

「皆! 静かにして! いろいろ意見が出たけどキリがないから、さっき出た候補の中から一つ決めるからね! 具体的にどうするかはその後!」

 

 無理やり話を進める島田さん。急に出てきたのでびっくりしたが、正直に言うとありがたい。

 

「ほら、文句言わない! この三つの中から一つだけ選んで手を挙げてね!」

 

 島田さんは反論を眼力で抑え込みながら多数決を取り始めた。

 そして、

 

「はいじゃあFクラスの出し物は喫茶店にします!」

 

 島田さんのおかげでひとまず出し物が決定した。

 

「じゃあ、どんな喫茶店にするかはまた話し合うってことで。とりあえずまたアキ達が意見を集めて、また最後に多数決をしましょう」

「分かったよ、美波」

「島田さん、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 そう言い残して、島田さんは自分の席へと戻っていった。なるほど、強引だが島田さんもリーダーシップがある。

 

「じゃあ、やりたい喫茶店のテーマを募っていくぞ。とりあえず、さっき名前が挙がったやつは一応黒板に書いておくが」

 

 俺が例で挙げたものも含めて、黒板に列挙していく。

 

 

 

『和風喫茶』『メイド喫茶』

『中華喫茶』『アイス屋』

『クレープ屋』『焼きそば、お好み焼き』

 

 

 

「これ以外で意見がある奴はいるか?」

 

 鉄人の鉄拳とともに字を直しながら書き終わったところでもう一度質問する。

 

「ねえ、僕からもいいかな?」

 

 すると、手を挙げたのは俺のすぐそばに立つ吉井。

 

「なんだ?」

「どの喫茶店をするにしてもさ、このFクラスの教室だと雰囲気を出したりするのが大変だよね?」

「あー……壁のひび割れとかか?」

「そうそう」

 

 確かに吉井の言う通り、このFクラスの設備はとても飲食店を経営できるようなもんじゃない。もちろん徹底的に掃除はするつもりだが、それでも見た目の問題がある。

 

「だったら、喫茶店自体やめるのか? また一から考え直すことになるが」

「そうじゃなくて、逆にこの設備を生かそうってこと」

「生かす?」

「ほら、さっき候補に挙がったお化け屋敷の時にさ、谷村君が『この教室にぴったりだ』って言ってたでしょ?」

「ああ、そういえば」

「だから、『お化け喫茶』なんてのもいいかもしれないって思ったんだ。それっぽい料理や飲み物を出してさ」

 

 お化け喫茶か……ふむ。

 

「吉井の発案にしてはいいかもしれないな」

 

 お化け屋敷や喫茶店はあれど、それを組み合わせた模擬店はなかなか目にしない。インパクトの面でも文句なしだ。

 さっきの候補一覧に、『お化け喫茶』と書き加える。

 

『たしかに、吉井の癖にいいアイデアだな……』

『吉井が出したとは思えないな』

『アイツ本当に吉井なのか?』

『バカ、あんなバカ面が吉井以外にいるわけないだろ』

『それもそうだな』

 

 と、クラスメイトの声。

 

「良かったな吉井。皆お前を褒めてるぞ」

「後半はただの罵倒だよね!?」

 

 前半も罵倒だったと思うが。

 

「おかしい……僕ほどの美少年もそういないはずなのに……」

「さて、他にアイデアのあるやつは……いないみたいだな」

 

 何やらよくわからないことを言っている吉井を無視して進行を進める。

 

「じゃあこの中から決を採っていく。さっきと同じように、一人一回手を挙げてくれ」

 

 さっきの島田さんを参考にして多数決を取る。

 そして。

 

「というわけで、今年のFクラスの出し物はお化け喫茶に決定だ」

 

 中華喫茶、和風喫茶とも票が割れたが、最終的にお化け喫茶が僅差でトップになった。

 本当は、この後料理や飾りつけのアイデアだしとか、役割分担などを決めたかったのだが、ちょうどここでチャイムが鳴ってしまった。野球に加えて議論が一度崩壊したのも、時間を浪費した原因だろう。

 

「……ま、出し物が決まっただけ良しとするか。じゃあ、今日はここまで。細かいことはまた次回な」

 

 そんな俺の言葉で、LHRが終了する。

 こうして、2年Fクラスの清涼祭が本格的に幕を開けた。




本来モブのはずの谷村君がいつの間にか鉄人に目を付けられていますね。
出店はせっかくなので原作と変えました。
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