モブとテストと優等生   作:相川葵

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第五問 清涼祭開幕!

【現代社会】

 問 以下の状況を引き起こした出来事の名称を答えなさい。

『1970年代、トイレットペーパーや洗剤、砂糖、醤油などの買い占めが起き、スーパーなどで商品不足が多発した』

 

 

 

 橋本和希の答え

『オイルショック』

 

 姫路瑞希の答え

『石油危機』

 

 教師のコメント

 どちらも正解です。

 1973年、第四次中東戦争を引き金として、中東の原油産油国が原油価格の引き上げを決定しました。それにより世界で経済混乱が引き起こされました。

 その影響で当時の日本では紙不足になるという噂が流れ、市民はこぞってトイレットペーパーの買い占めを行ったのです。

 

 

 

 谷村誠二の答え

『電気ショック!』

 

 教師のコメント

 先生は痛いのは嫌いです。

 

 

 

 工藤信也の答え

『バーゲンセール』

 

 教師のコメント

 価格は高騰しています。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「……おお、結構ふいんき出てるな」

雰囲気(ふんいき)、じゃぞ。谷村よ」

 

 時は流れて、清涼祭当日の朝。

 我らがFクラスの教室は、いつもの廃墟からお化け屋敷風喫茶へと様変わりしていた。その名も、『お化けとおやすみ!』。お化けと一緒にいたら心は休まらない気もするが、ホントにお化けがいるわけではない。

 まあ、つまるところ廃墟ではあるけれど、いつものような単なるボロ教室ではなく、いかにも何かが出そうな演出がなされていて、正直ちょっと怖い。

 

「どうなることかと思ったが、なんとかなるもんなんだな」

 

 そう呟く俺の脳裏には、ここ数日の突貫作業が蘇っていた。

 スタートダッシュが大いに遅れたFクラスの清涼祭準備だったが、清涼祭当日にどうにか間に合わせることができた。

 

「清涼祭の売上で教室の設備を変えられるってのがあったからか? 皆張り切ってたし」

「まあそれもあるけど……やっぱり雄二のおかげだよね」

「だな」

「まったく、あのバカのどこにこんな力があるんだろ」

 

 吉井の言う通り、準備が間に合ったのは坂本の統率力によるところが大きい。仕事の割り振りもスマートだったし、皆をやる気にさせるのも上手かった。さすが坂本、といったところだろう。

 と、そんな話をしていると、

 

「戻ったわよー」

「すいません。遅くなっちゃいました」

 

 このクラスの清涼剤、島田さんと姫路さんが着替えから戻ってきた。

 

「……おお」

 

 思わず声が漏れる。

 お化け屋敷風喫茶ということで、二人とも魔女のコスプレをすることになった。ちなみに衣装の監修、製作はムッツリーニだ。

 魔女とお化け屋敷に関係があるのかと言われたら微妙な気がしないでもないが、可愛さの前では些末な問題と言えよう。ついでに言えば、もう一人のFクラスの清涼剤である秀吉も当然魔女の格好をしている。

 

「姫路さん、似合ってるよ! 皆を助ける魔法使いみたいだよ!」

「そ、そうですか? 良かったです」

「ねえアキ、ウチは? 似合ってるかしら?」

「うん、美波も似合ってるよ。白雪姫に毒リンゴを渡した魔女みたいで右腕があらぬ方向へ曲がっていく!」

「なんでウチは悪役なのよ!」

 

 そんな魔女の三人は全員ホール担当である。ただでさえ男子率の高いFクラスなので、可憐な方々にはホールに出てもらうことが俺と吉井の独断で決定した。

 ちなみに、姫路さんを厨房に立たせないためという裏の理由がある。お化け喫茶だからって本当にお化けを作るわけにもいかないし。

 

「それにしても、あの少ない予算でよくここまで出来たもんだな」

「まったくだよ」

 

 と、島田さんに技をかけられたままの吉井が相槌を打つ。

 Fクラスにおける清涼祭準備で何が一番苦しかったかと言えば、その予算の少なさである。何をするにしてもお金の問題はついて回るもので、Fクラスに与えられる予算だけではまともな準備はとてもできなかった。その問題を坂本にぶつけたところ、得られた回答は、

 

『んなもん簡単だろ。金が無いんだったら有るところから貰えばいい』

 

 というものだった。

 そんなわけで、『お化けとおやすみ!』内にあるものは殆どが他クラスの余りものだったりする。流石に直接金をせびることはしなかった。

 姫路さんたちの衣装にはAクラス、Cクラスから貰った布がところどころに使われているし、教室の壁に飾られている火の玉やクモの巣の飾りはDクラスとEクラスから何枚かずつ譲ってもらった画用紙によるものだ。

 ああ、『予算がないので余ってる材料をください』と言ったときの木下さんや村田さんの視線は辛かったなあ……見下すような憐れむような……。

 

「………………」

「どうしたの? 谷村君」

「いや、なんでもない」

 

 いかんいかん、あのことは忘れよう。

 そんなこんなで手に入れた画用紙は、壁際に並んでいる墓石にも使われている。ちなみに、この墓石たちの正体は俺たち愛用のみかん箱を積み重ねたものだ。せっかくFクラスに大量にあるのだから活用しようというもったいない精神の結晶である。

 そして、各所に置いてある風化したデザインの机やイスは空き教室から盗ってきて改造を加えたものだ。無くなった机を探す先生達(主に鉄人)に見つからないように隠すのは大変だった。

 

「ま、さすがに床までは手が回らなかったがな」

 

 きちんと掃除はしたが、床は本来のFクラスのそのままだ。まあ、元から廃墟なのでお化け屋敷の演出にマッチしている。問題は無いだろう。

 

「学園祭の出店って考えたら十分な出来だよね」

 

 ようやく島田さんの技から抜け出した吉井。

 

「ああ。見栄えはバッチリだろ。あとは肝心の料理だが……」

「…………完璧」

「ひっ!」

 

 よぎった不安を打ち消すように現れたムッツリーニの声。いきなり背後から声をかけるもんだから軽く悲鳴を上げてしまった。

 振り向けば、厨房担当のムッツリーニと、その厨房の最終チェックをしていた坂本が立っていた。

 

「…………そんなに怖がらなくてもいいのに」

「だったらその存在感を消す癖を直してくれ」

 

 なんでそんなことをする必要があるんだ。ただでさえビビッ……違う、気配に敏感になってるというのに。

 

「それで? 厨房の準備は終わったのか?」

「…………これ、試食用」

 

 厨房担当のムッツリーニの差し出したお盆には、いくつかのコップと小さく丸い水色のゼリーが乗っていた。コップの中には、白い液体が入っていた。

 

「目玉商品のお化けジュースと火の玉ゼリーだそうだ」

 

 坂本が商品名を教えてくれた。

 

「わあ……きれいで美味しそうですね」

「ホントね。土屋、もらってもいい?」

「…………(コクリ)」

 

 姫路さんと島田さんが火の玉ゼリーに手を伸ばし、口へと運ぶ。

 

「これ、美味しいです!」

「本当! 口の中で甘さが広がって幸せな気分になるわね」

「…………自信作」

 

 思いのほかの大絶賛。それを見て秀吉も手を伸ばす。

 

「うむ。食感も面白いのう。冷えておるから人気もきっと出るであろうし」

「ジュースも美味しいですね」

「そうね。甘さは思ったより控えめで、少し酸味もあって……火の玉ゼリーとよく合うわ」

 

 二人の意識がどこかにトリップしそうになっている。そんなに美味いのか。

 

「それじゃ、俺も貰おうかな」

「あ、僕も」

「…………(スッ)」

 

 ムッツリーニの差し出すお盆から、俺は火の玉ゼリーを、吉井はお化けジュースを手に取った。

 この火の玉ゼリー、微妙に赤みがかってるな。色違いか?

 なんてことを考えながらそれを口に放り込んだ。

 

「ふむ。口の中に苦みが広がって、噛めば噛むほどドンドン不愉快な気分にグハッ」

 

 全身から力が抜けてその場にドサリと倒れ込んだ俺。

 なんだ、何が起きた!?

 

「お、当たりだな谷村。それは姫路お手製のゼリーだぞ」

 

 小声でそんなことをささやいてくる坂本。こいつ、知ってて黙ってやがったのか。

 ふと視界に入るのは、俺と同じく床に倒れこむ吉井。アイツも当たり(ハズレ)を引いたな?

 というか、なんで姫路さんがゼリーを作ってるんだよ! ムッツリーニにはちゃんと姫路さんを厨房に入れないように伝えておいたはずだろ!

 そんな遺志を乗せてムッツリーニをにらみつけると、ムッツリーニは申し訳なさそうに目を伏せた。

 ふむ、姫路さんの熱意に負けて厨房に立たせてしまったからその処理を俺と吉井に押し付けたのか。なるほど、外道め。

 

「あの、どうしたんですか? 吉井君、谷村君?」

「ちょっと、大丈夫?」

 

 二人はいきなり倒れた俺たちを心配してくれているようだ。目の前でクラスメイトが倒れたんだから当然の反応か。

 

「あ、う、うん。最近寝不足だっただけだから」

 

 吉井はよろよろと立ち上がる。

 俺もそれに続いて、ああ、俺も大したことは……としゃべろうとして、口が動かないことに気づいた。

 あれ?

 

「……谷村君? 谷村君!?」

 

 心配そうな吉井の声。

 大丈夫だ、安心しろ――という声も俺の口から出てこない。

 あれ!? なんでだ!? 姫路さん特製ジュースを飲んだ吉井は普通に起き上がってるのに!

 ふと気づけば、手足の感覚がなくなっていた。パニック状態の中、動かない視界から情報を探ると、床に広がる白い液体に気が付いた。

 それと同時に、坂本とムッツリーニが小声で何かを話す。

 

「そうか……明久は少ししか口に含まずに済んだが、谷村は一気に一口で食っちまったんだな」

「…………毒をモロに食らった形」

 

 ああ、なるほど。そういう理由だったのか。

 

 …………。

 

 いや、なんも解決してねえ! 理由がわかっても、結果俺が死にかけてるのは変わってねえじゃねえか!

 やだ! 死にたくない! 誰か助けて!

 すると、俺の声にならない悲鳴が届いたのか、ムッツリーニが必死の形相でお茶を運んできた。

 

「…………とにかく飲み込んで」

 

 珍しい鬼気迫る声とともに、ムッツリーニが俺の口にお茶を流し込む。いつだったかも使用した、お茶の抗菌作用作戦だ。かなり熱くて口の中がやけどしそうだが、体が動かないのでどうすることもできない。

 坂本もさすがに焦ったようで、お茶のお代わりを汲みに行っていた。

 

 

 

 

 結局、体の感覚が戻ってくるまでの数分間、俺は必死でお茶を飲み続けることになった。女子陣の心配そうな声と、吉井のごまかす声がにぎやかだったことが意識を失わなかった要因と言えよう。

 

「……あー、谷村。すまなかった」

「…………まさかあれほどとは」

 

 そんな風に生還の要因を確認していると、特製ゼリーのことを知っていた二人が謝ってきた。

 

「……まあ、救命作業をしてくれたから、特にこれ以上は何も言わないでおいてやるよ」

 

 ただし、いつか仕返ししてやるからな。覚えてやがれ。

 

「とにかく、特製ゼリーと特製ジュースは絶対に客に出すなよ。ムッツリーニ」

「…………(コクリ)」

 

 姫路さんたちの反応を見るに、普通の料理はとても出来がいいようだ。特製殺人料理の混入さえなければ問題ないだろう。

 そんなこんなで出店の最終確認をしていると。

 

「谷村さーん。うわっ、すごい雰囲気ですね」

 

 と、のんきな声が聞こえてきた。

 橋本だ。

 

「どうだ、いい出来栄えだろ。で、何の用だ?」

「何の用って……もうすぐ召喚大会の時間ですよ」

「え?」

 

 ふと腕時計を見れば、なるほど、確かにそんな時間になっていた。俺たちの召喚大会一回戦は、一般開放と同じ時間に始まると聞いている。

 

「忘れてたんですか?」

「いや、まあ、ははは……」

 

 生死の境をさまよっててそれどころじゃなかった、とは言うまい。

 

「あ、僕たちの試合ももうすぐだね」

「だな。ってわけで、お化け喫茶の運営はとりあえず秀吉とムッツリーニに任せる。俺たちは召喚大会に行ってくるからな。姫路と島田も、召喚大会の時間まではウェイトレスとして働いてくれ」

 

 テキパキと指示を出す坂本。本当に頼りになる。

 

「それは別にいいけど……アンタたちも召喚大会に出るの?」

 

 確認するように俺たち……特に吉井を見る島田さん。

 

「え? あ、うん。色々あってね」

 

 ん? 煮え切らない返事だな。

 

「もしかして、賞品が目的とか……?」

 

 島田さんはあることに思い至ったようで、怪しむような視線を吉井に向けている。

 

「う~ん。一応そういうことになるかな」

「なんだ、お前らもやっぱり参加賞の食券目当てか」

「あ、それももちろん目的の一つではあるんだけど」

 

 おや、吉井はどうしたんだろう。食券以外に目的があるのか? さっきから何かごまかすように歯切れが悪いし。

 

「……誰と行くつもり?」

「ほぇ?」

「吉井君。私も知りたいです。誰と行こうと思っていたんですか?」

 

 攻撃的な目になる島田さんに続いて、姫路さんまでもが戦闘態勢に入る。

 というか、誰と行きたいって……もしかして、如月ハイランドのペアチケットのことか。アレは確か優勝賞品だったよな?

 

「だ、誰と行くって言われても……」

「明久は俺と行くつもりなんだ」

 

 吉井が答えに窮していると、坂本が助け船を出した。

 って、吉井と坂本の二人で如月ハイランドに?

 

「え? 坂本とペアチケットで、『幸せになり』に行くの……?」

「ちょ、ちょっと雄二!」

 

 それを聞いて驚く島田さんと吉井。

 ん? どうして吉井まで……あ、そうか。本当は秘密にしておきたかったんだな。

 

「というか、お前たち、優勝する気なのか?」

 

 吉井の召喚獣の操作技術の高さは知ってるし、坂本の策士っぷりも知っている。ただ、それでも優勝は難しいはずだ。

 だというのに、

 

「え? あ、うん。そのつもりで参加したんだし」

 

 なんでもないようにさらりと言ってのける吉井。

 お前――

 

「お前、そんなに坂本と一緒に如月ハイランドに行きたいのか」

「違っ!」

「違わないさ。そうだろう? 明久」

「ぐぐぐ……う、うん……」

 

 吉井は一瞬否定しようとしたものの、坂本のセリフを聞いて苦渋の表情で頭を縦に振った。よく分からないが、脅迫を受けてるように見える。

 

「じゃ、じゃあ、本当に吉井君は坂本君と一緒に行きたいんですね……?」

「う、うん」

 

 悲しむような姫路さんの声。なんだろう。何人もの思惑が飛び交ってるような気がする。

 まあ、とにかく、坂本もまんざらでもないんだったら、俺と吉井の噂を払拭するいい機会に……。

 

「俺は何度も断っているんだがな」

「えっ」

「なんだ。吉井が一方的にラブコールを送っているだけか」

「いや、何を言い出すんだよ雄二!」

 

 焦りだす吉井。全く、せわしない奴だ。落ち着いている俺を見習え。

 

「アキ。アンタやっぱり、谷村よりも坂本の方が……」

「ちょっと待ってくれ島田さん! どうしてそこで俺の名前が出てくるんだ! 俺と吉井はこいつらとは違って何もないからな!」

「おいおい谷村、俺だって違うさ。明久が俺に言い寄ってくるだけだ」

「ああああ! 僕の悪評が広まっていくぅ! また同性愛の似合いそうな生徒ランキングが上がってしまうじゃないか!」

「あ、吉井さん、僕の新聞読んでくれてるんですか? ここだけの情報ですけど、今度の新聞でまたランキングがひとつ上がりますよ」

「もう遅かった!」

 

 ここで吉井に追い打ちをかける橋本の残酷なニュース(お知らせ)

 

「ハハハ、俺とは違ってお前はどんどん高みへ行くようだな」

「谷村さんは2ランクアップですね」

「……チクショウ」

「まあでも、吉井さんと比べたらまだまだですよ。上位に食い込めるように頑張ってくださいね」

「ランクダウンするよう頑張ってやるからな」

 

 頑張ろう、マジで。

 

「吉井君。男の子なんですから、できれば女の子に興味を持った方が……」

「それができれば明久も苦労はしてないさ」

「雄二! それっぽいことを言うんじゃない! フォローになってないんだよ!」

「っと、いい加減行かないとまずいな。ほら、行くぞ明久」

「僕たちも行きましょうか、谷村さん」

「ああ」

「くそっ! まだ誤解が解けてないのに! と、とにかく、今雄二が言ったことは全部嘘だからね、姫路さん、美波!」

 

 間違いなく意味が無いだろう吉井の弁明を聞きながら、俺たちは教室を後にした。

 

 

 

 

 数分後、俺たちが到着したのはここ数日炎天下の中作り上げた特設ステージだ。こうして完成しているのを見ると、やはり感慨深い。

 

「それじゃ、僕たちはこっちだから」

「おう」

 

 吉井たちと別れて、俺たちの試合が行われるコートへと向かう。召喚大会のコートとして用意してあるのは6面分だったかな?

 

「よう、谷村」

 

 コートの近くにたどり着くと、一回戦の相手である平賀に声を掛けられた。開始時間まではまだ少しあるみたいで、暇してるようだ。

 

「うっす。どうだ、クラスの出店の方は」

「いい出来だぞ。良かったら後で来てくれ」

「おう、そうさせてもらうわ。お前もウチのお化け喫茶に来いよ?」

「ああ」

「……で、まあ、それはいいんだが」

 

 視線を、平賀の隣に立つ女子へと移す。ええと、この子が……

 

「Eクラスの三上よ、よろしくね」

 

 平賀のペア相手であり、橋本のクラスメイトでもある。

 

「あ、どうも、Fクラスの谷村です」

 

 と、自己紹介を終えてから、前から気になっていたことを平賀に問いかける。

 

「お前、なんで女子とペア組んでるんだ? クラスも違うのに」

「ああ、三上さんとは中学が一緒なんだ。だから前から知り合いでな」

 

 ふうん。せっかくだから召喚大会に出てみようとかそういう感じか。

 あっさりと理由を述べる平賀の隣を見れば、三上さんの頬が少し赤くなっている、気がする。くそ、羨ま……じゃない、腹立たしいが、せっかくの清涼祭で血を見るのも忍びない。

 と、ブレザーに忍ばせたカッターの刃を密かに仕舞っていると。

 

「というか、お前たちだって似たようなもんだろ? トーナメント表には橋本はEクラスって書いてあったぞ」

 

 と、今度は逆に平賀に問われる。

 

「まあ、それはそうなんだが……」

 

 平賀は、橋本が女子であることには気づいていないようだ。まあ、わざわざ説明する必要もないだろう。

 

「俺も橋本も、運営委員なんだ。そのつながりだよ」

 

 実際のところはそれ以前から知り合ってたが。

 

「まあ、ただの参加賞目当てなんですけど」

「……ふうん。そうか」

「ああ。橋本に誘われたんだ」

「それに、せっかくのイベントですから出ておこうとも思いまして。だからまあ、負けてもいいとは考えてたんですけどね」

 

 負けてもいい、か。

 

「…………」

「みなさん、そろそろ始まりますので、配置についてください」

 

 雑談を、長谷川先生が遮った。俺たちの試合の立ち合い人であり、担当教科は数学だ。

 

「じゃあ、谷村。よろしくやろうぜ」

「ああ」

 

 軽く言葉を交わして、試合コートの対面に立つ。

 

「えー、それでは、試験召喚大会一回戦を始めます。三回戦までは一般公開もありませんので、緊張せずに全力を出してください」

 

 一回戦だと、試合数も多いし何よりクラスの出店の方が盛り上がっている。観戦者はほとんどいない。

 まあ、こっちの方がやりやすい。人に見られると恥ずかしいし。

 

「平賀君。頑張ろうね!」

「だね、三上さん。谷村たちは参加賞目当てみたいだし、きっと勝てるよ」

 

 と、平賀たちが励ましあっている。

 

「悪いな、平賀。こっちも負けられねえんだよ」

「おや、ずいぶん気合が入ってますね、谷村さん」

 

 ぽつりと独り言をつぶやくと、負けられない理由そのものである橋本に話しかけられた。

 

「……まあ、せっかく出るんだったら、やっぱ勝ちたいだろ」

「ふうん……」

「……なんだその反応」

「いえ、なんでもありませんよ」

 

 うまくごまかせただろう。というか、橋本がバカにされてムカついたからなんてわかるわけがないし、もしもバレたら恥ずかしすぎる。

 

「それでは、召喚してください」

 

 おっと、いつの間にか召喚フィールドが広がっていた。

 よし、頑張りますか。

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

 四つの声が重なり、コートに幾何学模様が現れる。お馴染みの、召喚者をデフォルメした召喚獣のお出ましだ。

 

 

『【数学】

 Dクラス  平賀源二 & Eクラス  三上美子

        124点           85点』

 

 

 まず現れたのは、平賀・三上ペアの召喚獣。

 平賀の西洋風の召喚獣に、三上さんの魔法書を携えた召喚獣。もし魔法攻撃でもしてきたら厄介だが……まあ、点数としてはどちらも各クラスの平均点をやや下回る程度だ。平賀の得意科目は現国だったはずだし、三上さんも文系なのだろう。

 科目が数学であることが幸いした。数学は俺の得意科目だし、これなら一回戦突破は楽勝だな。

 そんなことを考えながら俺たちの召喚獣が現れるのを待つ。俺の召喚獣はいつも通り、文月学園の制服に筆箱装備。

 対して橋本の召喚獣だが、その姿はすでにここ数日のステージ設営で目にしている。明治時代を思わせるハイカラな袴姿で、巨大な召喚獣サイズの万年筆を背負っていた。勝負になるとどんな武器を持って現れるのやら――

 

 

『【数学】

 Fクラス  谷村誠二 & Eクラス  橋本和希

        187点          17点』

 

 

「……おい」

「なんでしょう、谷村さん」

「『なんでしょう』じゃねえよ! なんだよその点数! お前Fクラスじゃねえよな!?」

「いや、仕方ないじゃないですか。数学はちんぷんかんぷんなんですから」

「開き直ってやがる……」

 

 召喚獣自体はステージ設営の手伝いの時に見ていたが、その時は総合得点しか表示されていなかった。それを見る限りは標準的なEクラスの点を取っていたのに……!

 そんな橋本の召喚獣は、これまで背負っていた大きな万年筆をまるで木刀かのように両手で持ち構えていた。

 ん?

 

「お前、武器は!?」

「あ、そういえば持ってませんね。この万年筆が武器なんじゃないですか?」

「またこのパターンかよ!」

「まあ落ち着いてくださいよ。僕だってまさか勝負になっても万年筆しか持ってないなんて思わなかったんですから」

 

 いや、確かに橋本を責めるのは筋違いなんだが……。

 仕方ない。とにかく、この戦力で平賀達に勝つ方法を考えないといけない。

 どうする、どうすれば勝てる……?

 

「谷村さん、いい作戦を思いつきましたよ」

「ん?」

 

 うんうん唸っていると、橋本にそんなことを言い出した。

 

「その名も、『谷村さんが頑張る作戦』と言いましてですね」

「もういい。大体分かった」

 

 言われなくても頑張ってやるよ!

 

「ちょっと、流石に冗談ですよ」

「冗談に聞こえなかったぞ」

「まあ、囮くらいにはなります。この点数だとたかが知れてるでしょうけどね」

 

 ……囮か。

 

「じゃあ、橋本」

「はい」

「俺のために死んでくれるか」

「……はい?」

 

 

 

 

「両者、準備はよろしいですか?」

「「「「はいっ」」」」

「それでは、始めてください」

 

 橋本に作戦を伝えたところで、長谷川先生による試合開始の号令がかかった。

 

「よし、かかってこい平賀!」

「言われなくても! 行くよ、三上さん!」

「うん!」

 

 俺の言葉に応えるように、二人の召喚獣が俺の召喚獣のもとへと走り出す。まずは橋本を無視して高得点の俺を二人掛かりでやっつけようという作戦だろう。

 残念だな。その動き、予想通りだ。

 

「させませんよ、三上さん!」

「きゃっ!」

 

 一直線に走る三上さんの召喚獣。その進路を遮ったのは、橋本の召喚獣の持つ万年筆だった。

 

 

『【数学】

 Dクラス  平賀源二 & Eクラス  三上美子

        124点        85点→82点

            VS

 Fクラス  谷村誠二 & Eクラス  橋本和希

        187点          17点』

 

 

「……思いっきり攻撃が入ったはずなんですけど」

 

 3点しか減っていない点数を見て愚痴る橋本。

 17点じゃなあ……。点数差も大きいし、例え攻撃がクリーンヒットしたとしても高ダメージは期待できないだろう。

 

「三上さん!?」

 

 悲鳴を上げた三上さんを心配してか、平賀の召喚獣にブレーキがかかる。

 

「おっと、お前の相手は俺だ」

「……くっ」

 

 橋本が作ってくれたチャンスを無駄にしてはいけない。まずは一閃、カッターナイフを小刀のように叩き込む。

 

 

『【数学】

 Dクラス  平賀源二

     124点→97点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

        187点』

 

 

 とっさに躱されたからか、思ったよりも点が減っていない。クラス代表の意地ってところか。

 

「平賀君、私は大丈夫。橋本さんを倒してから合流するね!」

「分かった!」

 

 平賀は三上さんと連携を取り、1対1が二組の形になる。平賀は、そのまま召喚獣に剣を振りかぶらせた。

 

「谷村、覚悟!」

「覚悟するのはお前の方だ!」

 

 その言葉とともに、召喚獣にボールペンを構えさせて、平賀の召喚獣へと突進――させるフリをして、一歩横へスライドさせた。

 結果として、誰もいなくなった空間へと剣を振り下ろした平賀の召喚獣。

 

「なっ!」

 

 よっしゃ、我ながらナイスフェイント!

 がら空きになった平賀の召喚獣の首筋にボールペンを突き刺す。

 

 

『【数学】

 Dクラス  平賀源二

      97点→23点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

        187点』

 

 

「削り切れなかったか!」

 

 だったら続けざまに攻撃を加えるまでだ!

 

「くそっ!」

 

 最後の力を振り絞って反撃する平賀の召喚獣に対し、トドメを刺すべく再度ボールペンを突き立てた。

 

 

『【数学】

 Dクラス  平賀源二

     23点→ 0点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

    187点→172点』

 

 

「よし!」

 

 多少点は削られたが、平賀撃破だ!

 

「谷村さん! もう限界です!」

 

 すると、橋本の悲鳴が。

 

 

『【数学】

 Eクラス  三上美子

         78点

     VS

 Eクラス  橋本和希

     17点→ 0点』

 

 

 見れば、ちょうど三上さんの召喚獣による魔法攻撃が橋本の召喚獣を直撃していた。あえなく戦闘不能になる橋本の召喚獣。

 しかし、もう橋本は役目を果たしている。橋本に託した作戦とは、俺が平賀を倒すまで命を張って三上さんを引き付けておくことだったのだ。橋本は、ここまで頑張って三上さんの攻撃を躱し続けていた。

 

「充分だ! あとは任せろ、橋本!」

 

 わずかだが相手の点数も削れている。十分すぎる働きだ。時間稼ぎも完璧にできていたし、ここ数日の運営委員の仕事で身に着けた操作技術の成果なのだろう。

 三上さんの召喚獣と相対し、改めて点差を確認する。

 

 

『【数学】

 Eクラス  三上美子

         78点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

        172点』

 

 

 大体100点差か。だったら……。

 俺は、召喚獣にカッターナイフを構えさせて、三上さんの召喚獣に向けて走らせた。

 

「ちょっ……力業!?」

 

 ああ、力業だ。

 このくらい点差が開いているのなら、下手な小細工はしない方が吉だ。

 俺の召喚獣の動きを見て、三上さんの召喚獣は魔法書を開いて俺に向けて魔法攻撃を連発した。もちろんそのすべてを躱すことはできなかったが、急所に当てさせないことはそう難しいことじゃない。

 

「きゃあっ!」

 

 交通事故のように三上さんの召喚獣に衝突する俺の召喚獣。

 

『【数学】

 Eクラス  三上美子

     78点→ 0点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

   172点→123点』

 

 この点差に加えて俺は召喚獣操作の経験も多い。どんでん返しは起こらなかった。

 

「勝者、谷村・橋本ペア!」

 

 長谷川先生による勝ち名乗りが上がる。

 よし! 勝利だ!

 

「ナイスです、谷村さん」

「橋本が粘ってくれたおかげだよ。助かった」

「ともかく、まずは一勝ですね」

「ああ、何とか勝ててよかった……ん?」

 

 橋本の言葉に返事をしてから、妙な違和感を覚えた。

 

「『まずは一勝』って……お前、負けてもいいって言ってなかったか?」

「え? ああ、別に他意はありませんよ。なんだか谷村さんが張り切ってたので僕もその気になっただけです」

「鯛? なんで急に魚の話をしてんだ?」

「……ホント、谷村さんと話してると疲れますね」

 

 こっちのセリフだ。

 さて、それじゃ教室に戻るかな、と思ったその時、先ほど倒した二人のやり取りが目に入った。

 

「平賀君、ごめんなさい。負けちゃった」

「いや、俺が谷村を倒せてたら良かったんだ。対して点も減らせずに倒されちゃったし。だから、三上さんが気に病む必要はないよ」

「平賀君……」

 

 コートの隅で、二人は見つめあっていた。

 なぜだろう。勝ったのに負けた気がする。

 

「………………」

「谷村さん、すごい顔になってますよ」

 

 おっと、いけない。ボケっとしてないで、お化け喫茶の手伝いをしに行かないと。

 俺は平賀達に舌打ちしてから、橋本と別れて教室へと戻った。お客さんが大勢来てるといいんだが。




 ようやく清涼祭開始です。楽しい祭りになるといいですね。
 参考のために原作を読み返す度に、小ネタの質と濃度に圧倒されます。
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