【国語】
問 以下の問いに答えなさい。
『「すこぶる」を使って短文を作りなさい』
木下優子の答え
『私の祖父はすこぶる元気だ。』
教師のコメント。
正解です。『すこぶる』とは、『非常に』のように程度がはなはだしいさまを表す副詞です。
橋本和希の答え
『僕は頭がいいのですこぶる成績が良いです。』
教師のコメント
これも正解にしなくてはならないのが教師の辛いところです。
須川亮の答え
『友人が廊下ですこぶった。』
教師のコメント
『すこぶる』を動詞として使わないでください。
谷村誠二の答え
『母さんがすこぶったので父さんは死を覚悟した。』
教師のコメント
お母様が何をなさったのかすこぶる気になります。
大観衆と木下さん達の白い目から逃げるようにして、俺達は召喚大会のコートを後にした。
「いやあ、こんな目に合わないようにとっとと敗退するつもりだったんだけどな」
「まったくです」
とは言いつつ、三回戦で勝てた時点でそれ以降はどうなってもあまり関係がなかったので、二人ともあまり苦々しさはなかった。お互いに四回戦で使用する古典が苦手科目だということはわかっていたし、一糸乱れぬ召喚獣操作を見せられたから十分だろう。
「にしても、こんなさっさと戻ってきてよかったんですか?」
「何が?」
「いや、優子さん達のメイド姿にあれだけ感激してたじゃないですか。せっかくだから話して来たらどうですか?」
「あんなみっともない姿を見せた直後じゃなきゃそうしてたよ」
本当なら、さっき伝え損ねたメイド姿の魅力をたっぷり伝えたいところだ。ただ、あんな醜態をさらした以上はほとぼりが収まるまでは近づかないでおこう。それに、神聖なメイド姿の木下さんに俺なんかが近づくのもはばかられる。ここはメイド喫茶でもないしな。
「そうだ。さっきの木下さん達の姿、ちゃんと撮ってあるか?」
「え? ええ、まあ。しっかりカメラに押さえてますけど」
「……(グッ)」
「何のサムズアップですか。土屋さんと違って僕は写真を売ったりしませんよ」
「売らなくていい。新聞の記事にして大々的に喧伝してくれ」
「それは谷村さんに何の得が……?」
あの美しさを一部の人間だけが知っていていいわけがない。広く知られなければ世界の損失だ。それによってライバルが増えそうな気はするが、優等生として名が知られる木下さんの場合はそんな話今更だろう。
橋本は首をかしげていたが、「まあどのみち記事の一つにするつもりでしたから言われるまでもないですけど」とつぶやいた。よしよし。
「ところで橋本。例のボイスレコーダーの件なんだが」
「出店のシフトがあるのでもう行きますね!」
瞬間的に駆け出す橋本はまるで脱兎。
「……まあいいか」
その姿を追いかける気はない。例の録音は消せるものなら消してほしいが、とはいえあれは大っぴらに広めるスクープというわけでもないから、橋本もアレを喧伝するようなことはしないだろう。アレはアレで、橋本にとっても恥ずかしいエピソードではあるだろうし。……多分。
そんなことより、俺も出店の手伝いに戻らないとなと思ったところで、吉井達のにぎやかな声が聞こえてきた。
「だからね、姫路さん。姫路さんの召喚獣で全力で襲われたら、僕はフィードバックで大変なことになるんだよ?」
「? 知ってますよ?」
「くっ……こんなに歯ごたえのない会話は久しぶりだ……!」
どうやら吉井が姫路さんと島田さんに何かを必死に説いている様子だった。
「何やってるんだ、吉井」
「あ! 谷村君! 助けて!」
助けて、とは穏やかじゃない。何があったのか、その詳細を聞こうとしたところで、
「アキがウチの妹をたぶらかしてるみたいだから二人でお仕置きするところなのよ」
と、島田さん。
「妹って?」
「例のちびっ子だ。島田の妹だったらしい」
「ちびっ子……葉月ちゃんか」
そういえば、葉月ちゃんは妙に吉井になついていたっけ。姉としては吉井なんぞに妹がなついているとなれば心配になるのも頷ける。姫路さんもそのあたりの正義感ともいえる何かが働いてるのかな。
確か、吉井達と島田さん達は次の四回戦でぶつかるはずだ。観察処分者たる吉井を折檻するにはちょうどいいのだろう。
ふむ。
「じゃ、頑張って。俺は教室に戻るから」
「あっ! ちょっと! なんで見捨てるの!?」
「だって、葉月ちゃんにバカがうつったらかわいそうだし」
「確かに……葉月がアキに毒されたら大変ね」
「そこ! 納得しない! 谷村君はバカなんだから真に受けちゃダメだよ!」
「失礼な!」
ついでにいえば、島田さんに逆らうのが怖いというのもある。最近は姫路さんも様子がおかしい時がある気がするし、そういう意味でもここは逃げに徹するのがベターだ。
「くそっ! やっぱり僕の味方はいないのか! これじゃ
「おっ、偉いぞ明久。自分が雑魚だと自覚できたんだな」
「何だと!?」
「あ、もしかして、死面ゾンビって言いたいのか? 確か、味方がいないって意味だったよな?」
「違うわよ谷村。それを言うなら四面校歌でしょ?」
「四面楚歌だと思いますけど……」
と、そんな会話を交わしたところで、俺は吉井達と別れて教室へ向かった。次の試合でどちらが勝つにせよ、ベスト4の一角にFクラスのペアが入り込むことになる。
召喚大会としては良い大番狂わせだ。俺達がしらけさせた分はこれできっとチャラになるだろう。
教室へ戻ると、俺が四回戦へ向かう前よりもさらに繁盛しているようだった。単純に朝より来校者の人数が増えているのかもしれないが、もしそうだとしてもFクラスの前に行列が伸びているのはなかなかうれしい光景だった。
とはいえ感動してばかりもいられない。教室の中に目を向けてみれば、明らかに客の数に対して人員が足りていない。シフトの割り振りはちゃんと決めていたはずだけど、席が埋まった時の忙しさを見誤っていた。それに、慣れの問題もあるようで、さっきシフトに入ったばかりの須川なんかはわかりやすく目をきょろきょろとさ迷わせていた。姫路さん達もいない今、厨房もホールもパンク寸前と言っていい状態になっていた。
「秀吉、手伝うぞ」
「おお、谷村か。うむ、頼むぞい」
教室の奥のロッカーから白装束と覆面を取り出して、それを身にまとって
時折召喚大会や巡回で離れていたとはいえ、朝から教室で仕事をこなしていたおかげで思いのほかウェイターとしてのふるまいが身についていた。客からの注文を聞いて書き留めたメモを厨房担当に投げつけ、食べ終わった客に退店を促して作った空席にまた新たな客を呼び込んでいく。
それを何度か繰り返したところで、妙に客足が……特に男性客が増えていることに気づく。それと同時に、四回戦が終わったと思しき吉井達の姿が入り口のところに見えた。
「ほぅ。なかなかに盛況じゃないか」
「そうだね。結構いい感じだね。試合前に宣伝した甲斐があるよ」
連中も、この盛況ぶりを見て口元に笑みを作っていた。そのそばに立つ姫路さんや島田さんの姿を見て、教室内の客から声が上がる。
『お、あの子たちだ!』
『近くで見ると一層可愛いな!』
ははあ、なるほど。この増えた男性客は、姫路さん達扮する魔女っ娘が目当てか。さっき吉井がつぶやいた試合前の宣伝というのも一役買っているらしい。
そんな吉井めがけて、葉月ちゃんが駆け寄っていく。本当によくなついているな。
「吉井。四回戦はどうだった?」
「どうって言われると……」
と、吉井は答えに困った様子で島田さん、ついで姫路さんと目を合わせ、そして最後に坂本を見た。
「雄二の一人勝ち、かな」
「はあ?」
召喚大会は2対2のチーム戦だろ、と言いかけて、四回戦の科目が古典だったことを思い出す。
「ああ……吉井も島田さんも古典の点数がゴミだから実質タイマンだったのか」
「「そうだけど谷村(君)に言われたくない!」」
きれいにハモリやがって。
「騒がしいのう。お主ら、古典の点数は何点だったのじゃ?」
いつの間にか近くに来ていた秀吉が口をはさんでくる。
「9点」←吉井
「6点」←島田さん
「3点」←俺
「ひどい点数じゃのう……」
ちっ、違うし! 俺は三回戦までの科目で点数が取れれば良かったから古典の勉強はあえてやらなかっただけだし! 本気を出せば二桁くらい余裕で取れるし!
「そこまでにしとけドングリども。それより、やることがあるだろ」
坂本にそう言われて振り返る。確かに、こんな立ち話をしている場合ではない。
「そうだったそうだった……」
「そうですね、喫茶店のお手伝いをしないといけませんよね」
そう言いながら気合を入れる姫路さんを筆頭に、島田さん、秀吉、葉月ちゃんのウェイトレス
さあて、まだまだ忙しくなるぞ。
それからの俺達と言えば、さながら与えられた任務をこなすだけのマシーンになっていた。注文を取って料理を運び、空いた皿を片付け客を追い出して新たに客を呼び込んで……せっせせっせと仕事をこなすうちに、気が付けばあれから一時間ほどの時間が流れていた。
「それじゃ、準決勝に行ってくるね」
「はい。頑張ってくださいね」
召喚大会も気づけば準決勝。決勝戦は明日の午後の予定なので、今日はこれが最後の試合らしい。
聞くところによると、吉井達の次の相手はあの霧島・木下ペア。姫路さんの転校の阻止と如月ハイランドのペアチケットのために優勝を狙う吉井にとっては、負けられない大一番だ。最大の難敵、ともいえる。
「勝てるとは思えないが、ま、頑張ってこい」
正直なところ、Fクラスコンビでベスト4まで進出したのだ。姫路さんのお父さんの認識を改めるには十分だろう。そう思ってそんな声をかけたのだが。
「心配すんな。あんなバケモノどもとまともに勝負するほどバカじゃない」
と、坂本。
「何か策でも?」
「まあな」
「それに、何が何でも勝ってみせるよ。優勝以外する気はないからね」
吉井は吉井で、敵が敵だというのに、あまり気にしていない様子。というより、未だ勝つ気マンマンだった。よっぽど優勝しか目に入ってないらしい。
意気揚々とステージを目指す吉井達の背中を見送って、呟く。
「……あいつ、本当にペアチケットが欲しいんだな」
「吉井君、結局誰と一緒に行くつもりなんでしょうか……?」
「やっぱり本命は坂本なの……?」
不安顔の姫路さんと島田さん。例のラブレター騒動の時も二人は吉井を熱心に問い詰めていたし、よっぽど吉井の恋路が気になるらしい。分かるぜ、あんなバカに先を越されちゃたまったもんじゃないからな。
「……ま、あとで聞き出せばいっか。二人とも、仕事に戻りましょ」
「そうですね」
そう告げて教室の中にもどる二人。俺も中に入って注文を取りに行こうとしたところで、須川に呼び止められてメモを押し付けられた。
「谷村。ドリンクの補充を頼めるか。さっきストックを持ってきてもらったんだが、種類が間違っててな」
「ん、これに書いてあるやつか。分かった。……ってあれ、カギは?」
ストックの回収のために空き教室へ向かおうとしたが、その空き教室のカギが見当たらないことに気づく。来場客が勝手に入っても困るから空き教室はきちんと施錠してあるのだが、これだと俺も入れない。
「おーい! 誰か空き教室のカギ持ちっぱなしになってないか!?」
『俺は持ってねーぞ!』
『さっき補充持ってきたやつ誰だ? 種類間違えたヤツ!』
『吉井だ!』
「……なるほど」
返ってきた連中の声を聞く限り、吉井がカギを持ったまま召喚大会へ向かったらしい。
「まずいな。試合が始まると回収できねえぞ」
「ストックを持ってくるついでにカギを回収してくる。今から急げば校舎にいるうちに捕まえられるだろ」
須川にそう告げて、俺は教室を飛び出す。普段ではあり得ない量の人でごったがえす廊下の中を、生徒玄関目指して走り出した。
「あ、ごめん谷村君! 返し忘れてた!」
なんとか人混みの中をかき分けて、ちょうど外靴に履き替えたところだった吉井達を捕まえることができた。推察通り空き教室のカギは吉井が持っていたらしく、そんな謝罪とともにカギを受け取ることになった。
「まったく、気をつけろよ明久。喫茶店の成功も姫路の転校を止めるには必要事項なんだ。自分で自分の首を絞めるような真似をするな」
「ちょっとお茶目しちゃっただけじゃんか!」
「吉井、お茶目しちゃったなんて可愛い言い方するなよ」
そんな軽口をたたいたところで、二人は外へ出て召喚大会のコートへ向かっていった。カギは回収できたことだし、俺も早くストックを持って教室へ戻らないと。
「っと……急ぐなら奥の通路を使えばよかったのか」
そう思って三階へ戻ろうとしたところで、ふと、人気のない旧校舎側の通路が目に入る。急いで吉井に追いつかないと、と思ってさっきは校舎中央に位置している階段を使って駆け降りてきた。けれど、大勢の人にもまれながらだったから全速力で走れたわけでもない。
対して、旧校舎奥の通路と階段は、一部が来客者立ち入り禁止になっている。多少遠回りになるが、人がいない分こっちを走った方が速そうだ。なんだっけ……急がばマーガレット、みたいなやつか。
そう判断して、悩んでいる時間ももったいないと思って走り出す。一階旧校舎の奥、誰も寄り付かない階段を登ろうと足をかけた。
そこで。
「……ん?」
旧校舎の奥も奥。廊下の角を曲がった先の来客者立ち入り禁止のエリアの隅で、二名の男子が通路に背を向けてごそごそと隠れるように何かをしていた。あそこは……。
「……図書室の前で何やってるんだ?」
ギラギラとした金髪とワックスで固められた刈り上げという派手な髪形の二人は、私服であることとその体格から他校生のように思えた。どうみても、その雰囲気からしてろくなことはしていなさそうだった。人の来ないスペースを見つけたからこっそり休憩を取っている……というような、平和的なものにはとても見えなかった。
「急いでるんだけどな」
はやる気持ちから、階段の先へと目を向ける。とはいえ、曲がりなりにも俺は運営委員だ。こんなのを見つけて無視をするのも気持ちが悪い。面倒だけど、声掛けだけして追い払うか。
「あの、ここは立ち入り禁止ですよ」
一応来客者ではあるわけだから、敬語の方がいいか。そんな判断とともに、背後から連中にそう声をかける。バッと、彼らは焦ったようにこちらを向いた。
「あ、ああ、そうだったのか! いやあ、気づかなかった! なあ?」
「ああ、迷っちまって気づいたらここにいたんだよ」
「ここで何してたんですか。何もないと思いますけど」
「別に何も? ちょっと具合が悪くなったからな、休んでたんだよ」
……しらじらしい。嘘に決まってる。
「体調が悪くなったなら、向こうの方で来客者向けに保健室を開放してますから、そっちにいったらどうですか?」
「いや、そんな大げさなもんじゃない。ちょっと休めばすぐに良くなるから」
俺の提案にも、そんなふうに適当な返事が返ってくる。明らかに軽薄なごまかしだ。怪しい。
そこから、少しだけ沈黙が流れる。
「……なんだよ。休んでるだけだからどっかいけって」
「そう言われても……一応、俺運営委員だからこういうのに目をつぶるわけには」
「良いだろ別に! 誰にも迷惑かけてねえんだからよ!」
いよいよ相手の語気が強くなる。俺を追い払おうとしているが……そもそも、何をやってたんだ? そう思ったところで、彼らが何かを隠すように並んで立っていることに気づいた。図書室の前にいたのだから、当然彼らが隠しているのは図書室の扉だ。
「いやそうは言ってもですね……」
「あっ、おい!」
適当な生返事とともに、ひょいと彼らの奥をのぞき込む。すると、そこに見えたのは。
「……は?」
扉と扉の隙間。カギのかかるまさにその場所に、金属片が差し込まれ、何度もたたかれた跡がある。
これはまさか……。
「お前達、カギを壊そうと……!」
「チッ! どけ!」
最後まで言い切る前に、金髪の男子が俺を突き飛ばす。壁に叩きつけられてぐっとうめき声をあげる間に、二人とも慌てて逃げ出した。
「おい、待て! 何をしてたんだ!」
痛む背中に顔をゆがめながら、廊下の角に消えた彼らを追いかけて俺も角を曲がると、
「ふぎゃ!」
何かに思い切り衝突した。くそ! 今度はなんだ!
「何しやがる!」
「何の騒ぎだ、谷村」
頭上から降ってきた、野太く力強い声。
「て、鉄人!」
「西村先生と呼べ」
「わ、わ、わ! 鉄拳は勘弁してください!」
すんでのところで頭を下げて襲い掛かってきた鉄人のこぶしを交わす。鉄人って呼んだだけで殴ることないんじゃない!?
「……まったく。で、何があったんだ」
と、言いながら、鉄人はさっきまで俺達のいた場所……図書室の前を見た。……壊されかけている扉のカギを。
「谷村。お前、今度は学校の設備の破壊ときたか」
「え、冤罪ですよ!」
疑いの目がこちらに向きかけたのを見て、慌てて弁明を叫ぶ。俺ってそんなに信用ないの!?
「真面目に運営委員やってるじゃないですか! ちょっとは俺のこと信じてくださいよ!」
「分かっている。冗談だ」
「笑えねえよ!」
勘弁してくれ。ただでさえ痛い目に合ってるのに。
「犯人はさっきの他校生か」
「ええ……こんなところでごそごそしてたので声をかけたんです」
「そうか。念のため高橋先生にも伝えておこう」
高橋女史は運営委員会の顧問だ。じきに他の運営委員にも伝わるだろう。ただのいたずら……で済めばいいんだけどな。
「お願いします……って、こんなことしてる場合じゃなかった!」
「ん?」
「出店のドリンクのストックを持ってくるように頼まれてたんですよ! それじゃ!」
慌てて鉄人に別れを告げ、三階目指して階段を駆け上った。