【英語】
問 以下の英文を訳しなさい。
[This is the bookshelf that my grandmother had used regularly.]
平賀源二の答え
[これは私の祖母が愛用していた本棚です。]
教師のコメント
正解です。よく勉強していますね。
工藤信也の答え
[これは本棚で、あれは私の祖母です。]
教師のコメント
この場合の『that』は、『あれ』という意味ではありません。
谷村誠二の答え
[これはあの私のすごい母が持って使って普通にしていたブックスヘルフです。]
教師のコメント
努力は認めます。
「……え?」
Fクラスにはびこっていた高揚感は、坂本の一言で立ち消えかけていた。
この教室に不満はある。改善するには試験召喚戦争しかありえないし、もしかしたら俺達にも勝利の目があるのかもしれない。
だが、
「Aクラスにはどうやっても勝てないんじゃないのか?」
同じことをクラスメイト達も思ったようで、
『勝てるわけがない』
『どうしてAクラスなんだ』
『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ』
『負け戦ならしたくない』
『姫路さんがいたら何もいらない』
そんな悲鳴が教室のあちこちから上がる。
当然だ。AクラスとFクラスとの間には、天と地以上の戦力差があるのだから。
文月学園において、成績順に差のつけられた教室のレベルを上げる方法は『試験召喚戦争』しかない。
そして、この試験召喚戦争は、テストの点数に強さが依存する『召喚獣』を用いて戦うのだ。簡単に言ってしまえば、バカより天才の召喚獣の方が強いというわけだ。
テストの点なんて満点が決まってるのだから、頭がいいと言っても頭打ちになる、なんて意見が聞こえてきそうだがそれは全くの間違いだ。
なぜなら、文月学園で採用されているテストには『満点』というものが存在しないからだ。一時間の制限時間で、点数も問題数も無制限の問題をひたすら解きまくるというのがこの学園のテストである。故に、頭がいいやつは数百点という成績をとることができるのだ。学年首席になると、各科目で400点オーバーもざらだと聞いたこともある。
もちろん、あくまでも戦争であるために、複数人で奇襲をしたり得意科目で挑んだりという事は可能である。が、AクラスとFクラスの点数は文字通り桁が違う。正面から挑んだとしたらAクラス一人に対して3,4人でも負ける可能性がある。
そんな圧倒的な戦力差を前に、それでも坂本は宣言する。
「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる」
その目には、確信が宿っているようだった。しかし、
『何を馬鹿なことを』
『Fクラスは代表もバカだったのか』
『出来るわけないだろう』
否定的な意見が教室中を飛び交っている。俺も完全に同意見だ。どう考えても勝てる勝負とは思えない。
その疑問を坂本にぶつけてみる。
「そんな大口を叩けるってことは何か根拠があるのか?」
すると、坂本は迷うことなく口を開いた。
「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている」
その言葉に、教室のざわめきはさらに大きくなる。
学力最低のFクラスにそんな要素があるのか?
「それを今から説明してやる」
そう言って、俺達を壇上から見下ろす坂本は一人の男子生徒の名を呼んだ。
「おい、康太。畳に顔を付けて姫路のスカートを覗いてないで前に来い」
「…………!!(ブンブン)」
「は、はわっ」
康太と呼ばれた生徒は、畳の跡の付いた顔と手を左右に振り否定のポーズを取っている。姫路さんがスカートを押さえて後ずさると、康太は畳の跡を隠しながら壇上へと歩き出した。
アイツは……確か、友達作りが趣味で投網が得意な奴だったか。
「土屋康太。こいつがあの有名な、
アイツがムッツリーニだと……?
ムッツリーニとは異様なまでのムッツリスケベで、その名は学年中の男子生徒から畏怖と畏敬を以て挙げられる。俄かには信じがたいが……あれほどまでに明確な証拠があるのにもかかわらずいまだに覗きを否定しているところを見ると真実なのかもしれない。
ムッツリーニは保健体育の成績がずば抜けていて、総得点の八割を保健体育でカバーしていると聞いたことがある。それが本当ならば、Aクラスに対し強力な武器になる。
そんな話を知ってか知らずか、クラスのざわめきは加速していく。
「姫路のことは説明する必要もないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」
「えっ? わ、私ですか?」
「ああ。ウチの主戦力だ。期待している」
……そうか、このFクラスには姫路さんがいたんだ。学年次席の実力者である彼女がいるのだから、Fクラスの勝利はぐっと現実味を帯びたものになる。
「彼女さえいれば何もいらないな」
ところで、さっきから姫路さんにラブコールを送り続けている工藤は一体どうしたんだろうか。
「特定の教科においてはかなりの実力を持つヤツがこのクラスにはムッツリーニ以外にも何人かいるし、学力以外の面で能力を発揮するヤツだっている」
言われてみれば、ここにいる学力最低の烙印を押された生徒の中には、特定の教科や学業以外に打ち込んできてその分野においては人並を大きく上回る生徒が少なからずいる。
「当然俺も全力を尽くす」
坂本の言葉に、どこかから坂本は小学生の頃は天才だった、という話が聞こえてくる。もしそうならば、代表としての実力は計り知れないかもしれない。こうしてFクラスの皆をまとめ上げているところを考えると、相当の策士である可能性もある。
ふと気が付くと、いつの間にか教室内のざわめきは困惑によるものとは全く異なるものになっていた。
俺達にもAクラスが倒せるんじゃないか、そんな雰囲気が教室を埋め尽くしていた。
「それに、吉井明久だっている」
……シン――
そして、幻のように消えた。
えっと、吉井明久って誰だったっけ。
「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ! まったくそんな必要はないよね!」
ああ、吉井明久ってダーリンのことか。
教室のざわめきがまた困惑によるものに戻ってしまった。
「ほら! 折角上がりかけてた士気に翳りが見えてるし! 僕は普通の人間なんだから皆は知らなくて当然なんだよ!」
「そうか、知らないようなら教えてやる。こいつの肩書は《観察処分者》だ」
観察処分者?それって――
「それって、バカの代名詞じゃなかったか?」
「ち、違うよっ! ちょっとお茶目な十六歳に与えられる愛称で」
「そうだ。バカの代名詞だ」
「肯定するな、バカ雄二!」
確か、学生生活を営む上で問題のある生徒に課せられる処分で、学業がおろそかになっていることと生活態度がよろしくないことの両方を満たした生徒のみが対象だったはずだ。それ故に、開校以来一人しか出ていないという話だったが……まさかコイツだったとは。
観察処分者は、普段から教師の雑用を命じられている。
わずかな点数でも人間の数倍の力を誇る試験召喚獣は、観察処分者のものだけ特別に物に触れることが出来る。重い教科書類などを運ぶのにもってこいというわけだ。
そのかわり、その試験召喚獣の受けた負担の何割かは観察処分者である本人に返って来るらしい。試験召喚獣が腕を切られれば、観察処分者の腕にも痛みが走る、といった具合だ。
要するに、
「おいそれと召喚できないヤツが一人いるってことだよな」
俺の発言に、須川と工藤が同時にうなずいていた。
「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」
「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきところだよね?」
「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う」
「うわ、すっごい大胆に無視された!」
想いというのはそう簡単に届かないもののようだ。
「皆、この境遇は大いに不満だろう?」
『当然だ!!』
坂本の問いかけに、俺達は全力で答える。
「ならば、全員
『おおーーっ!!』
さらに声を張り上げる。
「俺達に必要なのは卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」
『うおおーーっ!!』
俺達は、拳を思いっきり突き上げた。
後ろを見てみると、あの姫路さんも小さく拳を作り揚げていた。
今、Fクラス全員の気持ちが一つになったのだ。
『やってやる』と。
その様子を見て満足げに頷いた坂本は、小さくよしと呟いてから、
「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」
と告げた。
下位勢力の宣戦布告の使者って大抵ひどい目に遭うらしいが……黙っておこう。
同じことにダーリンも気づいたみたいだが、坂本に言いくるめられていた。
「わかったよ。それなら使者は僕がやるよ」
「ああ、頼んだぞ」
死者としてDクラスに逝くダーリンを、俺達クラスメイトは大きな歓声と拍手で見送った。
そして、誰からともなく声が漏れる。
「アイツバカだな」
姫路さんですら、否定することは出来なそうだった。
「さて、明久が宣戦布告をしている間に皆にはやってもらいたいことがある」
ダーリンが教室を出てすぐに、坂本は俺達に告げた。
「クラス分け発表の紙はまだ持ってるよな? その裏面に、振り分け試験の成績が書いてあるはずだから確認してくれ」
そういえば、須川に紙を見せた時、そんなものがあったような気がする。
鞄から封筒を取り出し、改めて確認する。
縦に並んだ科目名の横にそれぞれの科目の点数。最下段には総合点が書いてある。
ううむ、我ながらこれはひどい。得意な数学でさえ60点台だ。
「その点数が今現在の皆の持ち点だ。俺はクラス代表兼参謀としてその点数を把握する必要がある」
坂本は参謀もこなすらしい。何か策がありそうなことを言っていたから当然と言えるかもしれないが。
「しかし、振り分け試験で本領を発揮できなかったものや、春休みの間に猛勉強をしたものもいるかもしれない」
俺や姫路さんは前者に入る。
後者には……Fクラスにそんな人物はいるのだろうか。もしかすると姫路さんは春休み中も勉強していたかもしれないが。
「だから、全員『今試験を受けて取れる点数の予測』を振り分け試験の点数の横に書いて俺に提出してほしい」
今の姫路さんの持ち点はゼロだ。いくら姫路さんが学年次席であったとしても戦闘が始まった瞬間に戦死となる。それを防ぐため、最初に補充試験を受けさせるつもりなのだろう。俺にとってもありがたい。
「これは試験召喚戦争に勝つために必要な事だ。見栄を張らずに事実を書いてくれ」
『了解』
皆、各自の卓袱台の前に座って、坂本の指示に従い点数を書いていく。
えっと、英語は調子が良くても50点は行かないな。現国はぎりぎり50点を超えるぐらいで、数学は――よし、こんなもんか。すべての教科の予測点数を書いて、最後に電卓でそれを合計して総合点を出す。
間違いが無いことを確認してから、坂本に提出する。
「谷村だ。よろしくな、坂本」
「おう。……ん、やけに振り分け試験と予測点数が開いてるな。何があったんだ?」
「振り分け試験の日に転んで怪我してな。そのせいで本気を出せなかった」
「そうか……ふむ、理系科目はそこそこの戦力になるな。ありがとう、役割については後でまとめて連絡する」
「ああ、頼んだぞ」
ふう、疲れた。
ふと周りを見渡してみると、どうやら俺が最後だったらしい。まあ、ほとんどの生徒は実力通りだっただろう。
「皆、ご苦労だった。明久が帰ってきたら何人かを集めてミーティングをするから、これから呼ぶヤツ以外は昼休みに入ってくれ」
そうして、坂本は次々に名前を呼んでいく。その中に俺や須川の名前は無かった。
「よし、学食に行こうぜ」
HRが終わったら秀吉に木下さんについて色々と聞いてみようと思ったが、肝心の秀吉がミーティングに呼ばれたので、また今度にする。
ミーティングに呼ばれなかった俺は、須川と工藤を誘って一足先に昼食をとることにした。
「おう。今日は景気づけに良いもん食うぞー」
「早く行こうぜ。他はまだ授業中だし、今なら一番乗りできるぞ」
「それもそうだな。学食はいつも混むからな」
そんなことを話しながらドアの方へと向かうと、傷だらけのボロ雑巾が転がり込んできた。
「騙されたぁっ!」
よく見ると、それはボロ雑巾ではなくダーリンだった。どうやらDクラスから暴行を受けたらしい。
そんなダーリンに対して、坂本は平然と言ってのけた。
「やはりそうきたか」
「やはりってなんだよ! やっぱり使者への暴行は予想通りだったんじゃないか!」
「当然だ。そんなことも予想できないで代表が務まるか」
「少しは悪びれろよ!」
坂本とダーリンの関係性は本当に友人でいいのか気になったが、腹の虫が泣き始めたので俺達は大声でわめき散らすダーリンを背に学食へと向かった。
学食へ向かっているうちにチャイムが鳴ってしまったが、なんとか無事に席を確保することが出来た。
「それにしても、まさか初日から試召戦争をすることになるとはな」
安いカレーを口に掻き込みながら、須川は話を切り出す。
「さっきはなんか乗っちまったけどよ、本当に勝てるのか?」
「勝てるんじゃないか? 坂本が説明してた事は交じりっ気無しの事実なわけだし」
姫路さんだけでもかなりの戦力になる。彼女一人でごり押すことも戦略としては充分にアリだ。
「そういえば、なんでDクラスに宣戦布告したんだ? Aクラスを狙うなら最初からそうすればいいのに」
当然ともいえる疑問を口にしたのはラーメンをすすっていた工藤である。
「んー……確かにそうだな。開戦前に坂本に聞いてみようぜ」
俺は野菜炒め定食をつまみながら適当に返答する。あの何か考えていそうな坂本の事だ、何か策があるに違いない。
学力最低クラスといえど、やはりこの文月学園の最大の特徴である試召戦争には興味があるようで、俺達は試召戦争に勝つために話し出す。
「なあ須川、お前って得意教科は何だったっけ」
「あ? 俺はあれだ、理系が得意だな。つってもせいぜい80程度が限界だ」
「へえ、得意教科でもそんなもんなんだな」
「Fクラスなんてそんなもんだろ? 大体、俺は苦手教科でも50は確保できるっつうの」
須川は全体としてのばらつきが無いらしい。一点突破は出来なくともどの科目でもある程度の点数を持っているというのも結構戦力になるかもしれない。
「工藤は社会が得意だったよな」
「ああ。ヤマが当たれば150点突破もあり得ない話じゃない。日本史とかは結構流れが掴めると面白いんだぜ?」
「日本史って……お前古典は酷いじゃねえか」
「同じ日本の歴史でも、日本史と古典はまるで違うからな。っていうかお前だって古典は散々だろ」
「それはそうだが……」
工藤は社会の一点突破型になる。日本史や世界史、現代社会あたりだ。須川と工藤、それぞれの勉強の方針は違うようで、工藤は社会に自分のアイデンティティを見出したようだ。
「んで、谷村。お前は?」
「あ? 知ってるだろ、俺は――」
俺が自分の成績について話そうとすると、ある生徒が話しかけてきた。
「よう、ここいいか?」
「別にいいぜ、
俺の前の空席にコンビニの惣菜パンを持って座ったのは、一年生の時に俺達のクラスメイトだった平賀
「なあ、お前ってどこのクラスになったんだ? 今年に入ってからかなり頑張ってたみたいだったけど」
「聞いて驚くなよ、須川。なんと、Dクラスだ!」
「な、お前がDクラスだと!? せいぜいEクラスどまりだと思ってたのに!」
「まあ、色々と惜しかったんだけどな……」
惜しかった? どういう事だろう。
「それで、お前達はどこなんだ?」
「……三人ともFだ」
「……そうか」
年が明けてから振り分け試験に向けて必死に頑張ってきた平賀と、何もせず自分のやりたいことばかりやってきた俺達でクラスに差が出るのは別にかまわない。
というかそれが当然なのであり、そうでなかったらあまりに平賀が不憫すぎる。
問題なのは、今日の午後から試召戦争をするのが『Fクラス』対『Dクラス』ということである。
つまり、かつての級友が刃を交わすことになるのだ。
「なあ谷村。なんだって初日に試召戦争なんか仕掛けてきたんだ? 戦力差があまりに露骨すぎるだろ?」
「あ? 理由は一つしかねえだろ。今のままでも勝てるからだ」
「言うねえ。学力差は歴然としてるのにか?」
「もちろんだ」
「そこまで言うからには何か根拠でもあるんだろうな?」
「あるさ。いいか? うちのクラスにはひ――」
姫路さんがいる――そう言おうとしたときに、須川と工藤のごつい手によって口をふさがれた。
ちょっと待て、俺まだ食事終わってねえんだぞ。
(バカ! 姫路さんはウチの秘密兵器だぞ!)
(そんな簡単に言うんじゃない、バカ!)
二人が小声で俺に耳打ちをしてくる。
そうか、危うく手の内をばらすところだった。
「? お前のクラスには何があるんだ?」
幸い平賀は姫路さんの存在に気づいてないようだった。まだ誤魔化せる。
「ひ、ひ、ひ……秘策だよ」
「秘策?」
「ああそうだ。Fクラスにはお前達Dクラスを倒す秘策がある」
「秘策ねえ……」
平賀は、納得したようなそうでないような表情をした。
が、特に気にも留めなかったようで、席を立った。アイツもう食い切ったのか。
「そうかい、じゃあ楽しみにしてるぜ」
「おう。俺らの底力を見せてやる」
「はいはい、返り討ちにしてやるからな」
そう言って、平賀はパンのゴミをポケットに突っ込んで食堂を後にした。
アイツ、パンを買ってきたならわざわざ混み合う食堂に来なくていいのに……そんなに俺達に会いたかったのか?
平賀の言動に俺は若干の違和感を覚えた。
しかし、いつまでも気にしているわけにもいかないので、再び野菜炒め定食を口へと運ぶ。
「試召戦争か……」
この昼休みが終われば、初めての試験召喚戦争が始まる。
不安要素も少なくないが、とりあえず始めに受けるであろう補充試験で簡単な問題が出るように、神様に祈っておいた。
当面は原作と同じ流れになると思いますが、出来るだけ違った目線を楽しめるように頑張ります。