モブとテストと優等生   作:相川葵

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遂に、試召戦争が始まります!


第四問 初めての試召戦争

【数学】

 問 以下の問いに答えなさい。

『(1)4sinX+3cos3X=2の方程式を満たし、かつ第一象限に存在するXの値を一つ答えなさい。

 (2)sin(A+B)と等しい式を示すのは次のどれか、①~④の中から選びなさい。

   ①sinA+cosB ②sinA-cosB

   ③sinAcosB   ④sinAcosB+cosAsinB』

 

 

 

 姫路瑞希の答え

『(1)X=π/6

 (2)④』

 

 教師のコメント

 そうですね。角度を『°』ではなく『π』で書いてありますし、完璧です。

 

 

 

 島田美波の答え

『(1)X=5π/6

 (2)④』

 

 教師のコメント

 (1)について。確かにこの答えを代入すると成立はしますがX=5π/6は第一象限にないため不正解となります。日本語に不慣れで大変だとは思いますが、島田さんの場合最低限の単語だけでも覚えると成績が向上すると思います。

 

 

 

 須川亮の答え

『(1)X=8

 (2)③  を正解にしてください』

 

 教師のコメント

 しません。

 

 

 

 工藤信也の答え

『(1)X=□←正解の値

 (2)◯←正解の番号』

 

 教師のコメント

 その解答はずるいと思います。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

【化学】

 問 次の化学式で表される物質をそれぞれ答えなさい。

『(1)CH3COOH

 (2)HO-CH2-CH2-OH

 (3)C15H31COOH』

 

 

『代表! 木下達が本格的に戦闘を開始した!』

『よし横田、伝令だ。逃げたらコロスと明久達に伝えてこい!』

『了解!』

 

 えっと……(1)は酢酸だろ?

 (2)は確か、何とかグリコール……ああそうだ、エチレングリコールだ。

 (3)は……うわ、これ脂肪酸か。パルン酸とかオルニチン酸とかそんな感じだったはずだけど、正直覚えていない。

 

『坂本! A班が世界史の田中を確保した模様!』

『分かった! 確実にここまで連れてくるように手配しろ!』

『オーケー!』

 

 今年度初の試験召喚戦争が開戦してから数十分が経過して、各クラスの先頭部隊が遂に衝突したらしい。皆、それぞれに与えられた役目を果たすべく全力を尽くしている。

 須川や工藤は中堅部隊に配属され、その猛威を振るっていることだろう。

 

『戻ってきたか秀吉! 戦況はどうなってる?』

『今は中堅部隊が渡り廊下で戦っておるが、長期戦にはならなそうじゃ』

『ふむ、じゃあ各自補給試験に取り組んでくれ!』

『『了解』(じゃ)』

 

 そんな中俺に与えられたのは、今回Dクラスが先生を確保した科目のうち俺の成績が戦力として認められた化学の補充試験を受けることだった。

 そのため、先程から怒号の飛び交う教室で必死に試験を解いているのであった。

 えっと、次の問題はベンゼンの化学式か。……ふむ、ド忘れしたな。適当に答えておこう。

 

 

 

 

 試験時間が残り五分を切った頃、ふいにブツンと音がしたかと思うと、校内放送が始まった。シャーペンを動かしながら一体どんな内容だろうかと耳を澄ますと、聞こえてきたのは須川の声だった。

 

《連絡いたします》

 

 何か試召戦争に関わる事なのだろうが、一体何の連絡なんだ?

 

《船越先生、船越先生》

 

 呼び出したのは、数学を担当する船越先生(自称アラフォーの独身)だった。

 

《吉井明久君が、生徒と教師の垣根を越えた男と女の大事な話があるそうです》

 

 なんだなんだ、一体何が起こってるんだ?

 船越先生と言えば、婚期を逃してついに単位を盾に生徒に交際を迫っていると専らの評判だが……船越先生をあんな形で呼び出すなんて、それこそ自殺行為としか思えない。

待てよ……確か、須川の配属された中堅部隊の隊長は吉なんとか……ダーリンだったはずだ。……そうか、こうしておけば船越先生を戦場から遠ざけることが出来る。つまり、戦線を拡大させないための措置なのかもしれない。

 自らの人生を犠牲にしてまで勝利に貢献するとは……やるな。

 

 

 

 

「現在、前線で中堅部隊が踏ん張っているが、状況はかなり厳しいらしい」

 

 化学の補充試験を終えて出撃の準備を整えていると、坂本による現状の報告が始まった。

 

「今の前線のフィールドは化学だ。だから、化学特化の連中で援軍を構成する。近藤と朝倉と君島と――と谷村だ」

 

 よし。名前が呼ばれた。

 化学なら補充試験で成績が上がるって言ったから補充試験を受けたんだし、化学特化部隊に配属されるのは当然なんだが。

 

「行くぞ、お前達!」

『おおーーっ!!!!』

 

 大きな掛け声とともに、Fクラス代表である坂本率いる俺達援軍は教室を飛び出した。

 

「明久、あと少し持ちこたえろ!」

 

 はるか前方に、にぎやかな戦場が見える。

 なんか随分とウチのクラスが少ない気がするんだが……。

 

「坂本、さすがに戦力差が出てきたのか?」

「そうだろうな。長期戦にするのがこっちの作戦とはいえ、長い時間戦っていたらそりゃあ地の戦力で追いやられるに決まってる」

「それでも、俺達が勝つには……」

「ああ、正攻法で行っても代表にたどり着く前に数で押されて姫路はやられちまう。どうにか直接対決に持ち込むにはあの作戦しかない」

 

 振り分け試験を途中退室したために持ち点がゼロの姫路さんは、現在Fクラスで補充試験を受けている。

 

「そのためにも、今の戦場を後退させるわけにはいかない! 何としても守り抜くんだ!」

『了解!』

 

 よし、もうすぐで合流できる!

 前線まであと一歩となった段階で、試獣召喚の準備を整える。

 と、

 

 

 ガシャァァン!

 

 

 廊下中に、破砕音が鳴り響く。

 え? 何? 何の音?

 

「構うな! 進め!」

 

 止まりかけた援軍の足は、坂本の檄によって再び動き出す。

 

『うわっ! 島田さん! そんなものをどうする気だよ!』

 

 すると、今度は悲鳴のような声と共に、景気のいい効果音。

 

 

 プシャァァッ!

 

 

 廊下中を消火器の粉が埋め尽くす。

 島田さん、なかなか男前な事をするんだな。

 しかし、このおかげで戦闘はいったんストップし、援軍もだいぶ前に進むことが出来た。直後、なぜかスプリンクラーが発動し、視界がクリアーになる。

 島田さんの教師をも恐れぬ勇敢な行動により、援軍は無事に中堅部隊全滅前に到着することが出来た。

 こっからは俺の出番(ターン)だ!

 

「待たせたな、ダーリン! 五十嵐先生! Fクラス谷村誠二が行きます!」

「ありがとう、谷村君! でもその呼び名だけは勘弁して!? ほら、Dクラスの人達がすごい変な目でこっちを見てるから!」

「すまん! まだ名前を憶えてないんだ! 吉田だっけ!?」

「惜しい! 吉井明久だよ!」

「よし、覚えた!」

「……本当かな!?」

 

 気を取り直して、既に召喚獣を喚び出していたDクラスの女子生徒に向かい、そして言い放つ。

 

試獣召喚(サモン)!」

 

 直後、足元に魔法陣が現れる。

 自分の中から何かが出ていくような、言葉では言い表しづらい感覚に包まれる。

 そして現れたのはデフォルメされた俺の姿。

 相手の召喚獣が、鎧に身を包んで切れ味の良さそうな日本刀を構えているのに対し、現れた俺の召喚獣が来ているのは学生服で、その手に持っているのは……

 

「「……筆箱?」」

 

 あ、ハモった。

 あまりの出来事に、敵と同じリアクションを取る始末。

 

「ちょ、ちょっと待ってもらってもいいですか……?」

「うん……」

 

 確か、この召喚獣の服装や武器は基本的に振り分け試験の結果に影響されたはずだ。散々な結果だったから、しょぼい武器になるのは仕方がない。

 仕方ないにしても、武器が筆箱というのはあまりにも……ん? この筆箱、開くな。

 筆箱のチャックを開けると、中から大量の文房具が出てきた。

 シャーペンに消しゴム、ものさし、ボールペン、カッターナイフ、ホッチキス、e t c(エトセトラ)……。

 

「もしかして、俺の武器って文房具(コ レ)か!?」

 

 何故だ!?

 いったいどうして試験召喚システムは俺の武器を文房具なんかにしたんだ!? いくら弱くたってもうちょっと武器っぽい何かがあるだろうに!

 俺が勉強が好きだったら文房具というのもありで……いや、だとすれば文房具は弱すぎるか……なんにせよ、きっとシステムの不具合に違いない。いつか学園長に言って直してもらわねば。

 とりあえず、今は目の前の敵に集中しないといけないな。

 どうでもいいけど、これ、点数が上がれば強くなるよな……?

 

「「……」」

 

 周りに怒号や悲鳴が飛び交っているにもかかわらず、相対するDクラス生徒と俺との間には気まずい沈黙が流れていた。

 

「そろそろ、始めてもいい……?」

 

 相手が耐え切れなくなって話しかけてきた。

 

「お、おう……」

「それじゃ……」

 

 互いに一呼吸おいてから、

 

「ここは絶対に守り切って見せる!」

「そうは行きませんよ! Fクラス援軍部隊、いざ参る!」

 

 仕切りなおして、ようやく俺達の召喚獣バトルが始まった。

 いつの間にか、もともと召喚されていた相手の召喚獣と新たに召喚された俺の召喚獣の頭上に、それぞれの得点が表示されていた。

 

 

『【化学】

 Dクラス  香川 希

         43点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

         87点』

 

 

 む、化学は得意だったが、残念ながら90点には届かなかったらしい。ただ、俺達は援軍部隊で、相手は前線部隊。相手は今までにそれなりに点を消費しているから、これでも十分戦えるはずだ。

 

「ここは一気に決めさせてもらいます!」

 

 左手にボールペン、右手にカッターナイフを一つずつ持って特攻する俺の召喚獣。点差があるから、これで倒せるはずだっ……!

 

「きゃあっ!」

 

 相手――香川さんの召喚獣がとっさに日本刀を前に出す。まずい! このままでは俺の召喚獣が真っ二つになってしまう!

 

「くそっ!」

 

 ギリギリで横に跳んで日本刀を回避する俺の召喚獣。あれ? これやばくね?

 

 

『【化学】

 Dクラス  香川 希

         43点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

         76点』

 

 

 日本刀は意地で躱したものの、転んだ衝撃で少し点が減ってしまった。

 まずいまずいまずい!

 

「……? これ、行けるかも……!」

 

 ほら、香川さんが自信を付けてきた。どうする……このままだとやられてしまう……!

 一旦間合いを取って作戦を立てる。

 クソッ、何かないか? 何か相手の不意を付けるような……。

 

 

 

 あ。あった。

 

 

 

 いや、でもこれいけるか……? しかし、他に方法も……。

 よし、やるしかない。

 

「ふふふ……なかなかやりますね、香川さん。けど、次はこうはいきませんよ!」

「無駄よ! 文房具ごとき(そんなもの)じゃ日本刀は防げないわ!」

「それはどうでしょうね!」

 

 俺がさっきと同じように召喚獣を相手の元へ走らせると、香川さんの召喚獣もさっきと同じく日本刀を前に構えていた。

 

「さっきと同じじゃない!」

「いいや、違いますよ」

 

 俺の召喚獣はギリギリまで香川さんの召喚獣に近づき、そして、

 

「食らえ!」

 

 チャックの開いた筆箱を引っ掴み、全力で相手の手元に投げつけた。

 

「きゃっ!」

 

 召喚獣はわずかな点数でも人間をはるかに上回る力を持ち、その力は点数に比例していく。1.5倍以上の力で投げつけられた筆箱は、いくつもの文房具をまき散らしながら香川さんの召喚獣の手元に直撃し、当然、香川さんの召喚獣はその衝撃に耐えられず日本刀を落としてしまう。

 

「しまっ――」

「これで終わりです!」

 

 残しておいたカッターナイフを持って、香川さんの召喚獣の首をめがけて飛びかかる。落下する日本刀に腕がかすったような気がしたが、そんなことは気にしない!

 

 

『【化学】

 Dクラス  香川 希

          0点

     VS

 Fクラス  谷村誠二

         54点』

 

 

「ふぅ……」

 

 なんとか、勝利した。

 召喚獣にも人間と同じく弱点があり、腕がかすったぐらいなら多少点が減るだけだが、首を狙われたら致命傷にすらなりうるのだ。

 召喚獣の操作なんて走り回ったりするぐらいしかできなかったから不安だったが、あそこまでの至近距離なら投げつけても当たるようだ。一応操作が上手くいかなかった時の為に文房具がばらまかれるようにつかんだから、もしかするとまったくコントロールが定まってなかったのかもしれないが。

 多分これは俺のメインの戦法に……なるのか?

 一応、召喚獣で物を投げる練習をしておこう。

 

「戦死者は補習!」

「い、いやあああぁぁぁぁぁ……」

 

 香川さんは、どこからともなく現れた鉄人によって、どこかへと連れて行かれた。

 たしか、戦死者は補習室で監禁されるんだったっけか。

 周りを見てみると、坂本の作戦は上手くいったようで、Fクラスが戦線の優位を取っていた。

 

「くっ! ここは退くぞ! 全員遅れるな!」

「深追いはするな。俺達も明久の部隊を回収したら一旦戻るぞ」

 

 敵部隊長の塚本と我らがFクラス代表の坂本が、それぞれに指示を出す。坂本は、下手に深追いして相手の本隊が出てくるのを嫌ってこんな消極的な指示を出したのだろう。

 坂本がどれだけの実力を持っているのかはともかく、坂本は補充試験を受けていない訳だから持ち点はDクラスに及ばないFクラスレベルである。

 各自の戦いが終わり、俺達は互いに自分達への教室へと戻ることになった。

 

 

 ……あれ? 島田さん、いなくない?

 

 




少し長すぎたので分割。
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