モブとテストと優等生   作:相川葵

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対Dクラス戦、後半です。


第五問 邪魔者の近接部隊

【数学】

 問 以下の問いに答えなさい。

『-2x(  2) -4x+1を平方完成しなさい』

 

 

 

 姫路瑞希の答え

『-2(x+1)(      2) +3』

 

 教師のコメント

 正解です。平方完成を理解していますね。

 

 

 

 須川亮の答え

『(-2x(  2) -4x+1)(     2)

 

 教師のコメント

 平方=二乗であることは理解しているみたいですね。

 

 

 

 吉井明久の答え

『この式は既に完成しています』

 

 教師のコメント

 平方完成が理解できなかったようですね。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 あの後教室に戻った俺達は、またも補充試験を受けることとなった。

 中堅部隊は化学の点をだいぶ浪費したし、援軍も彼らほどではないにしろ化学の点を浪費している。それに、まだ上げる余地のある教科を持つヤツが何人もいる。俺がこの時間のうちに受けたのは、Dクラス代表の得意教科だと聞いた文系科目が中心だった。

 最終的には総力でDクラス代表目指して特攻する為、否応なしに敵の大将の得意科目で挑まなくてはならない。

 時刻は、既に放課後である。

 あれ、そういえば……?

 

「なあ坂本」

「どうした谷村」

「Dクラスの代表って誰なんだ?」

「お前が知ってるかは知らんが、平賀源二ってヤツだ」

「……え、あいつが?」

「知ってるのか?」

「ああ、去年クラスメイトだった」

 

 まさかアイツが代表だったとはな……よっぽど勉強したんだろうな。食堂で言っていた、『色々と惜しかった』ってのはもう少しでCクラスだった、という事なのだろうか。

 あれ? だったら食堂で会った時にそのことを言ってくれればよかったのに。少しでも敵に情報を与えたくないとかそんなところだろうか。

 

「谷村、お前がFクラスだってことはアイツにばれてるか?」

「ああ、ばれてる。昼休みで食堂で話しちまったから。まあでも、話さなかったとしても俺の成績はアイツよりは低いからな、警戒はされたと思うぜ」

「そうか……不意打ちに使えたらと思ったが、まあいい。最初に説明した通りで行くぞ」

「了解」

 

 と、そこに化学の補充試験を終えたダー――じゃない、吉井が戻ってきた。

 

「明久、よくやった」

 

 総大将の坂本が非常に晴れやかな笑顔で吉井を褒めたたえる。

 吉井は少し困惑した表情になったが、何かに気づいた様子をした。

 

「校内放送、聞こえてた?」

「ああ。バッチリな」

 

 校内放送……ああ、船越先生のアレか。結局あの後どうなったんだろう。

 

「雄二、須川君がどこにいるか知らない?」

 

 須川を探してるのか? 無事に任務を遂行した須川に感謝でもするつもりなのだろうか。

 

「もうすぐ戻って来るんじゃないか?」

「そう、ありがとう雄二」

 

 そう答えた吉井は、「やれる、僕なら()れる……」と呟いている。もしかするとあの放送は吉井の指示ではなかったのかもしれない。

 

「ちなみに、だが」

 

 坂本が何かを話そうとしているが吉井には届いてなさそうだった。

 

「あの放送を指示したのは俺だ」

「シャァァァアッ!」

「うおっ! 急に吉井が暴れ出したぞ!?」

 

 というかあの放送は坂本の指示だったんだな。

 吉井の凶器が今まさに坂本に届きそうかという時、

 

「あ、船越先生」

 

 と坂本が呟くが早いか否か、吉井は教室の備品を蹴散らして掃除用具入れに駆け込んだ。

 ちなみに、船越先生は来ていない。下手をすると、まだ吉井を待っているんじゃないだろうか。

 

「坂本……お前……」

「さて、馬鹿は放っておいてそろそろ決着を付けるか」

「そうじゃな。ちらほらと下校しておる生徒の姿も見え始めたし、頃合いじゃろう」

 

 坂本は吉井の事はスルーするらしい。まあ、そろそろ対Dクラス戦もクライマックスだから、こんなことにいちいち構ってもいられない。

 

「おっしゃ! Dクラス代表の首級(くび)を獲りに行くぞ!」

『おうっ!』

 

 皆で息をそろえて教室を飛び出す。

 どっちに転んでも、これでこの試召戦争は終結する。

 

「あー明久……船越先生が来たってのは嘘だ」

 

 さすがに申し訳なく思ったのか、教室を出てすぐに坂本が告げた。

 少しして、吉井の叫び声が背後から聞こえた。

 

 

 

 

 開戦から既に数時間が経過し各クラスのHRも終わったため、廊下は帰宅する生徒でごった返していた。その合間を縫うようにして、俺達の合戦は行われている。

 現在主な戦場となっているのは、渡り廊下から旧校舎にかけての部分――Eクラス前である。単純に位置だけを見ればFクラスが負けているのだが、こちらは総力で応戦しているため押しているのはこちらである。さらに、俺達は数の利と教科の利をうまく戦術に組み込んでいるため、Dクラスの前線部隊は虫の息である。

 故に、

 

「Dクラスの本隊だ! 遂に動き出したぞ!」

 

 Dクラスも総力を出さねばならなくなる。

 当然その中にはDクラス代表である平賀の姿もあった。

 

『本体の半分はFクラス代表坂本雄二を獲りに行け! 他のメンバーは囲まれている奴を助けるんだ!』

『『おおー!』』

 

 平賀の号令で、Dクラスメンバーはあっという間に坂本の周りを取り囲む。

 坂本の近くにもこちらの本隊がいるが、おかげで窮地に追いやられてしまった。

 

「Fクラスは全員一度撤退しろ! 人ごみに紛れて攪乱するんだ!」

 

 よく通る坂本の指令。Dクラスでトップの成績である平賀君を倒す戦力が確保できなければ、確かにこの指示は的確で、Fクラスは逃げ惑う事しかできない。

 ――しかし、この状況は単なる劣勢ではない。

 此処が勝負どころと判断したのか、Dクラスの本隊は分散し瀕死のFクラス生徒の追討や坂本の討伐に向かっている。故に、平賀を守る近接部隊はかなりの薄手だ。

 さらに、下校中の生徒――特にEクラス所属に紛れてこっそりと近づくことが出来る。

 つまり、今は危機(ピンチ)であり好機(チャンス)なのである。

 坂本の護衛は本隊に任せておくとして、本隊から離れている俺達は平賀討伐へと向かう。平賀の付近に張ってあるフィールドは……現国か。これなら多少はダメージを与えられる。こちらの人数とやり方次第では、討伐すら視野に入ってくる。

 平賀に見つからないようにうまく隠れて……行ける!

 

「先生! Fクラス谷村が――」

「Dクラス笹島圭吾(ささじまけいご)試獣召喚(サモン)

「くっ! まだ近衛部隊がいたのか!?」

 

 不意に、俺の前に男子生徒が現れた。いくら生徒に紛れても厳しいか……!

 ふと横を向くと、同じタイミングだったのか吉井も近衛部隊に捕まっている。

 俺達は観念して、召喚獣を喚び出す。

 

 

『【現代国語】

 Dクラス  笹島圭吾 & Dクラス  玉野美紀  

        138点          124点

            VS

 Fクラス  谷村誠二 & Fクラス  吉井明久

         52点           48点』

 

 

 当然の如く、近衛部隊には現国が得意な連中を集めたらしい。Dクラスとは思えない点数を所持しており、俺達との点数差は歴然としている。現国の得意な平賀の成績は、これを上回るだろう。

 これでは俺達が平賀にダメージを与えることは出来ない。

 

「残念だったな、Fクラス」

 

 勝ち誇った顔で、俺達から離れた位置から平賀が告げる。

 

「どうやら、防御の薄い所を下校中の生徒に紛れて討つつもりだったみたいだが、俺がやられたらその時点で負けるんだ、近衛部隊を残しておくに決まっているだろう」

「ぐっ」

「念のために二人残しておいてよかったよ。谷村、お前が言う秘策ってのがこのことだとしたら、甘すぎるな」

 

 秘策?

 ……ああ、学食での話か。あんなもんただのハッタリだったから今の今まで忘れていた。

 

「違うな、俺達の用意した秘策はこんなもんじゃない」

 

 だからこそ、俺は言ってやる。

 

「負けるのは、平賀。お前の方だ」

 

 今度は、ハッタリなんかじゃない。

 

「何を言って……?」

 

 

「――試獣召喚(サモン)

 

 

 困惑の表情を浮かべる彼の後ろから申し訳なさそうな姫路さんの声が聞こえ、彼女の召喚獣が現れた。

 

「え? 姫路さん、なんで――」

「えっと……Fクラスの姫路瑞希です。よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ」

「……ああっ!」

 

 玉野さんが何かに気づいた様子を見せたが、既に遅い。

 姫路さんが召喚獣を出した以上Dクラスは誰かが勝負を受けるしかないが、二人しかいない近衛部隊はもう俺達と戦っている。平賀が勝負をしないためには、玉野さんが姫路さんの勝負を受けることしかないが、玉野さんの召喚獣で姫路さんの召喚獣を相手するには距離がありすぎるため、平賀が勝負を受けるしかない。

 召喚フィールドにいたのが運の尽きだった、というわけだ。

 

「その……Dクラス平賀君に現代国語勝負を申し込みます」

「……はぁ。どうも……試獣召喚(サモン)

 

 

『【現代国語】

 Fクラス  姫路瑞希

        339点

     VS

 Dクラス  平賀源二

        152点』

 

 

「え? あ、あれ?」

 

 結果は、言うまでもないだろう。




バカテストを考えるのが一番大変。
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