異世界(イキり)ファンタジー(一章完結)   作:伊勢うこ

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 記念すべきかどうか分からん第10話です。


イキってお宝発見だ ー失せ物ー

 

「本当に行かせて良かったのか?」

「行かせた以上、今は待つしかあるまい。良いにしろ悪いにしろ、な」

 

 

 アロが竜の巣へと偵察に赴いた後。

 

 チームメンバーであるルフェイリアとドドンは、一人で行った彼の身を案じていた。

 無理もないことだ。

 戦闘になる可能性は低いとはいえ、《第五線級》の探索者が一人で竜の下へ行くなど、通常であれば命知らずの凶行か自殺としか考えられない。

 

 

「……」

「信じてやれ。あやつなら命を無駄にするような真似はするまいよ」

 

 

 ドドンの言葉を受けるも、やはりルフェイリアの顔には影が差していた。

 良からぬことが起きるのではと不安に駆られつつも、助けを求めてきた男に治療を施す。

 この男に対していい印象はないが、それだけで見殺しにするほどではない。

 

 治療されている男が、何事かを呻くように呟く。

 

 

「ち、くしょう、あの、妖精種の……ガキ……」

「……なに?」

 

 

『妖精種のガキ』。

 男は確かにそう口にした。

 

 真っ先に思い浮かぶのは、ルフェイリア達に依頼をした、あの少女。

 男の言葉が指すのは彼女のことか、或いは別人か。

 

(いや────)

 

 妖精種は異界由来の種族であり、その人数は少ない。

 それは探索者の街であるサルテにおいても同様だ。

 ましてや子供となると、数える程しかいないだろう。

 

 もし仮に。

 男が言う妖精種のガキというのが彼女であったとして。

 この男たちも自分たちと同様の依頼を受けたのなら。

 

 何故、彼女は態々二つのチームに依頼を出したのか。

 

 いや、そもそも二つのチームだけなのか。

 自分たちが知らないだけで、今も他のチームが動いているのか。

 二つだけだとしても、人数は合わせて十にも満たない。

 そんな戦力で果たして本当に竜を討てると思ったのか。

 

 報酬を提示され同意した上で依頼を引き受けたが、やはり引っかかる。

 

 

「おい、今のはどういう……」

 

 

 意識があるかさえ定かでない男に今の言葉を確かめようとした時。

 

 

 視界の端で何かが動いた。

 深度Ⅳの方角。

 森霊種の優れた視力がナニカを捉える。

 

「あれは……」

 

 深度Ⅳに続く、聳え立つ岩旗のキャンパスを何かが過ぎる。

 上へ上へと昇り、そこから弧を描いて深度Ⅳへと入っていく。

 

 豆粒のように見える点が二つ。

 一つは奥に見える、白く大きいであろう何か。

 翼、というより羽のようなものを使って飛んでいる。

 

 もう一つは一つ目のものと比べずっと小さい。

 白い何かから伸びる線に繋がれ、空中を舞っている。

 というか、あれは────

 

 

「クリスト────!?」

 

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「────うぁっ!?」

 

 

 目が覚めた。

 

 青々とした快晴の空が眩しい。

 上体を起こし、空から目を逸らす。

 澄んだ空気で呼吸を繰り返し、息を整える。

 

 

 周囲は乾いた岩肌で覆われた、凸凹とした小さな山のようなものが点在している。

 俺がいるのもそのうちの一つの天辺。

 触れるとザラザラとした感触が。

 

 何故こんな所で寝転がっていたんだ? 

 お陰でどうにも背中が痛い。

 身体を確認すると、特に怪我らしいものはなかったので少し安心する。

 

 

 というか何処だここ? 

 俺は何してたんだっけ? 

 

 最後の記憶は何だったか。

 確か依頼で竜の巣へ向かっていて、途中であのナンパ男を助けて、それから……。

 

 それからどうなった? 

 

 チームメンバーのドドンもルフェイリアもいない。

 二人は何処に行ったんだ? 

 依頼はどうなった? 

 成功したのか? 

 宝は見つかったのか? 

 

 仮にそうだとしたら、どうして俺はこんな所にいるのか。

 寝起きの頭から次々に湧いてくる疑問。

 ふと、コツンと何かが背中に当たる感触が。

 

 

「なんだ?」

 

 

 振り向けばそこにはいかにも「お宝ですよ!」と言わんばかりの、片手で掴めそうな位に小さな宝箱が鎮座していた。

 

 

「……マジですか」

 

 

 こんなことってあるのか。

 いや、これがあの妖精少女が言っていたものと同一かは限らない。

 だが、他にそれらしいものは深度Ⅲに入ってからは見つかっていない。

 これもあのいい加減な依頼主が宝がどんな物か教えなかった所為だ。

 

 しかしこんなにアッサリと見つかるとは。

 何だかズルをしているような罪悪感に襲われるが、まぁ依頼なのだから仕方がない。

 

 

「そういやこれ、中身は何なんだ?」

 

 

 ひょいと宝箱を持ち上げてみる。

 左右に軽く揺らすと、中からコトコトと音がした。空ではないらしい。

 

 開けて中身を確認しようにも鍵がない。

 依頼者の探し物を勝手に開けるのは探索者以前に人としてどうかとは思うが、こっちだってこれのために命をかけて探索したのだ。

 どんな代物か見たいと思うのは自然なことではなかろうか。

 

 しかし鍵がなければどうしようもない。

 俺の力では開きそうもないし、これが魔法で閉じられているならドドンでも無理だろう。

 

 

 開けるのは諦め、宝箱を持って仲間と合流するとしよう。

 

 

 

 ────いや、ちょっと待て。

 

 

 なんで俺は宝がある場所にいるんだ? 

 それは竜が依頼主から奪ったもので、当然それがある場所は竜の──

 

 

 そこまで考えついた時だった。

 唐突に、俺の周囲だけが暗くなる。

 

 俺の真上にいる何かが、光を遮り影を落としたのはすぐに理解した。

 

 ゆっくりと。

 殊更ゆっくりと慎重に、視線を上に向ける。

 

 頭蓋のような被り物。

 天使のような翼。

 そして鱗を失くしたような滑らかな躰。

 

 ────そこにいたのは、白い竜のようなモノ。

 

 

「ですよねぇ……」

 

 

 全部思い出した。

 竜擬きと視線が合ったあの時、俺は全力で逃げた。

 だが奴の伸びる尾に捕まり、縛られたまま深度Ⅳに連れて行かれたのだ。

 絶壁を越えるために飛んだ竜擬きに引かれて俺も宙を舞う羽目になり、しかも急激に上空へ上がったものだから意識を手放していた。

 

 

 そして今に至る。

 

 つうぅっと、頬から流れた汗が一滴顎から落ちた。

 白い有翼の怪物は、二対四枚の羽を器用に使いその場で飛び続けている。

 何を考えているか、まるで読み取れない。

 

 それでも解ることが一つある。

 それは今、俺が取るべき行動。

 つまり────

 

 

すみませんでしたぁぁぁぁああああ!?

 

 

 逃げる。

 この一手しかない。

 こんな時までイキれる訳ないだろいい加減にしろ。

 ただでさえ竜(奴は擬きだが)は宝を好むらしいのに、それを持ち去りでもしたらどんな目に遭うか。

 

 俺は宝の小箱を置き去りにして走り出した。

 岩と砂で出来た塔を駆け下り、少しでも奴と距離を空けるべく駆ける。

 道はまるで分からない。

 途中でモンスターに襲われるかもしれない。

 それでもアレと戦うよりはマシだろうと、只管足を動かした。

 

 

 しかし現実は非常だ。

 

 

「追ってくんなよっ……!」

 

 

 白い怪物は、宙を舞って俺を追跡する。

 遮蔽物はあるが、上から追って来られるのでは身を隠しようにも隠せない。

 上からの視線を遮断できるような場所でなければ意味がない。

 

 じゃあ戦う? 

 いや、無理だ。ホント無理。

 チームで挑みかかっても勝率の低い相手に、俺一人で勝てる筈がない。

 

 

「何かないか、何か……!?」

 

 

 走りながら懐を漁るが、どれもあの怪物に効果があるとは思えない。

第五線級(フィフス)》の俺が持ってるアイテムなんてたかが知れてる。

 いや、待てよ。

 

 

「そうだ、ドドンから貰ったあれなら……!」

 

 

 ドドンが持たせてくれた緊急事態用の信号弾。

 あれを使えば俺の位置を仲間に伝えることが出来る。

 今の俺に打てる最高の一手にして最後の切り札。

 一人ではどうにも出来なくても、彼らとなら────

 

 

 

 ────? 

 

 

ない

 

 

 ない。

 いくら探しても信号弾が見つからない。

 

 

「あれ? あれれ?」

 

 

 懐を探しても。

 カバンの中を探しても。

 

 

アっっっっれぇぇエエエエ!?

 

 

 ある筈のものが無いと、人は変な声が出るらしい。

 そんなどうでもいいことを、空飛ぶ化け物に追いかけられながら俺は学んだ。

 

 

 




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