異世界(イキり)ファンタジー(一章完結)   作:伊勢うこ

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イキって竜と追いかけっこ ー逃走劇ー

 

 最後の希望を落としたらしい。

 

 心当たりはある。

 今も俺の背中を追いかけてくるあんちくしょうを発見した時、無意識に握っていた。

 目が合うと信号弾を握ったまま疾走。

 そして奴の尾に捕まり宙を舞ったので、その時手から落ちたのだ。

 

 

 ちくしょう。

 一体俺が何をやったんてんだ。

 確かに品行方正とは言えない男だが、しかしだからと言ってこんな目に遭う程のことでもないだろう。

 ひでぇや神様。

 

 

「はっ、ゼェ……!」

 

 

 流石に息が切れてきた。

 汗も止まらない。

 いくら探索者が肉体労働とはいえ、体力には限界がある。

 このままではやがて動けなくなったところでやられる。

 

 そうなる前に何とかしなくては。

 

 

「っ! あれは……!!」

 

 

 しめた! 

 正面やや右、大きな岩をくり抜いたような穴。

 

 あそこなら竜擬きも入って来れない上に上からも監視されない。

 

 

「うおぉぉぉぉおお!!」

 

 

 力を振り絞って岩の洞窟に飛び込む。

 竜擬きは中までは追ってこないようだ。

 奥に進み、やっと一度足を止める。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ──……!」

 

 

 堪らず腰を下ろす。

 洞窟内は日が差さず、ひんやりとして涼しい。

 水を取り出し、口に流す。

 

 一息ついたが、落ち着く暇はない。

 考えるのはあの白い怪物の対処法。

 

 

「まずは、現状の整理か」

 

 

 ここは察するに深度Ⅳ。

 それは恐らく間違いない。

 信号弾は失くしたから仲間の応援は望めない。

 持ち物も大したものは無い。

 

 敵は一体だがこちらも一人。

 しかも敵は俺より格上の探索者を容易く一掃出来る怪物。

 援護はない。

 初めての地なので土地勘や地の利もない。

 

 

「最悪だな……」

 

 

 怪物とのタイマン。

 御伽噺の英雄ならともかく、俺には荷が勝ちすぎる相手だ。

 正真正銘の絶望戦。

 敗色濃厚。

 

 だがどうにかしなければ死ぬ。

 なら。

 

 

「やるしか、ないか」

 

 

 戦おう。

 奇跡に縋ってでも、惨めでも、みっともなくても。

 戦って、イキって生き残ってやる。

 

 

「こんなとこで死ねるかよっ!」

 

 

 いつだってアロ・クリストは舐められて、イキって、後悔して、追い詰められてからが本番なのだから。

 

 

 

 

 休息を挟み。

 洞窟を出て、俺は再び走り出す。

 それに釣られて竜擬きも動き出した。

 

 

 先程までと違い、ただ闇雲に走る訳ではない。

 目指すは深度ⅣとⅢの境界線。

 仲間がいるであろう地に向かう。

 

 もはや策とも言えないが、少しでも可能性があるならば賭けるしかない。

 安全地帯かもしれなくとも、ずっとあの洞窟にいる訳にもいかない。

 

 

 問題はここが具体的に深度Ⅳの何処かだが。

 竜擬きに連れ去られて最初に目を覚ましたあの場所から、薄らとだが深度ⅢとⅣを分けるあの絶壁が見えた。

 

 距離があったから確証は無い。

 だがあれがもしあの山の如き巨大な断層であったのなら、現在地はまだⅢに近い所ということになる。

 

 なら、可能性はある。

 

 どうにかしてあそこまで辿り着き、合流を果たす。

 辿り着けたとしてもどうやってあの巨壁を下るかだが……。

 

 

「……ん?」

 

 

 違和感。

 後ろから迫っている筈の重圧を感じない。

 走りながら首だけを後ろに向けると、そこにあの白い怪物の姿はない。

 

 なんだ? 

 もしかして諦めてくれたのだろうか。

 縄張りから外れたのであの宝箱でも眺めに帰っていったのか? 

 

 

 ────直後、進行方向で爆発。

 

 

「っっっ!?」

 

 

 砂と小石の瀑布。

 そのあまりに一瞬の出来事に声をあげる間もなく、俺は後方に数メートル吹き飛ばされた。

 

 

「〜〜〜〜っ!! くそっ、なんっだよ……!?」

 

 

 ぺっぺっと口に入った砂を吐き出し、悪態をつく。

 尻餅をついた姿勢から直ぐに立ち上がり、抜剣。

 腰を落として戦闘体制。

 

 何が起きた。

 いや、何かが上から落ちてきたことは分かる。

 何となく予想はつくが。

 頼むから深度Ⅳの有翼モンスターの死骸とかであってくれ。

 

 

 しかし運命の女神は俺の細やかな希望を嘲笑う。

 

 

 土煙が晴れた先にいたのは、やはり白い奴だった。

 追いかけっこはやめて直接潰しにかかって来たらしい。

 

 

「態々降りてくるとは、ご苦労様ですね白蜥蜴擬き……」

 

 

 そういう余計な気遣いは本当にいらない。

 大人しくさっきまでみたいに飛んで追いかけてこいよ。

 何着地してんだよしかも派手に。

 

 あと少しで着くってのに。

 

 

「くそったれっ!!」

 

 

 道を塞がれた。

 いよいよ逃げ場なし。

 腹を括るしかない。

 

 無意識に呼吸が荒くなる俺とは対極的に、正面の怪物は唸り声一つあげない。

 深度Ⅲにいた時と同じように、ただこちらをじっと見ている。

 

 本当になんなんだコイツ。

 俺を殺さずに連れてきたことといい、目的がさっぱり解らない。

 探索者を害する気がない? 

 いや、たとしたらあの《第三線級》の探索者たちがやられていたことに説明がつかない。

 アイツらが、俺でも実力差が分かる奴を相手に自分たちから挑みかかったとか? 

 欲をかいてこの未知のモンスターを倒し、あわよくば未知の魔法資源を持って帰ろうと? 

 ない話ではないだろうが、普通は逃げるだろ。

 

 駄目だ、やっぱり考えても解らん。

 解るのはとにかくコイツをどうにかしてこの先に進まないといけないということだけ。

 どうにかする方法は分かっていないが。

 

 

 睨み合いになる。

 俺は剣を構えたまま少しずつ、ゆっくりと後退。

 それに気づいているかは不明だが、奴は動きを見せない。

 

 このまま上手くいけば戦わずに済むかも。

 そんな俺の淡い期待は、またもあっさりと裏切られた。

 

 周囲から足音。

 それも複数。

 ザザザザと音を立てて現れたのは、モンスターの群れ。

 人間の子供くらいの背丈はある、二本足で立つ蜥蜴のような姿。

 指には鋭利な鉤爪が並び、口にはこれまた鋭い乱杭歯。

 

 腹を空かせたのか涎を垂らす十数匹の個体が俺と竜擬きを囲んだ。

 

 一難やって来てまた一難。

 どうせならせめて目の前の奴をどうにかしてから来て欲しかった。

 

 合図が出されることもないまま、一斉に襲いかかってくる。

 思ったより速い。

 高低差があるエリアなためか、脚の筋肉が発達しているようだ。

 

 二足歩行蜥蜴の一体が俺に襲いかかる。

 鉤爪による一撃を剣で受ける。

 予想より重いが、俺でも戦えそうなレベルだ。

 深度Ⅳに生息するモンスターとはいえ、群れで活動する種だからか一体一体は大したことない。

 

 他の奴らはあの竜擬きの方に向かったらしい。

 あっちの方が大きいし食いでがあるとでも判断したのか。

 俺の相手は一体で十分と思われたのかと、モンスターに舐められたようなような気がしないでもないが、今はよしとしよう。

 

 蜥蜴モンスターと競り合っていると、背後からの悲鳴に加え背中には生暖かい感触が。

 

 なんだ? 

 しかも目の前の蜥蜴モンスターまで心なしか顔を青くしている気がする。

 チラリと視線を後ろへ流す。

 

 

 血の海だった。

 十匹近くいたはずの二足歩行の蜥蜴モンスターは、一匹の例外も許されず血の海に沈んでいる。

 ある個体は岩壁に叩きつけられ、ある個体は地面と怪物の腕との間に挟まれ顔が無く、ある個体は胴を怪物の尾で貫かれている。

 俺の背中に触れたモノも、そういうことだろう。

 

 唐突に周囲に漂う濃い血臭。

 臭いもそうだが視覚的にもキツい。

 あの竜擬き、やはり向かってくる相手には容赦しないらしい。

 

 やはりあんなのと戦ってられない。

 俺と同様の感想を眼前の蜥蜴モンスターも抱いたのか、二人(?)で顔を合わせ────

 

 

「戦略的撤退────!!」

 

 

 同時に、同じ方向へ駆け出した。

 同じタイミングで走り出せば当然蜥蜴モンスターの方が速いので、無理矢理蜥蜴の首に捕まる。

 振り解こうと暴れるが、逃がさない。

 ここまで来たら、俺たち運命共同体だぜ! 

 

 白い怪物は獲物を逃すまいと、ドシンドシンと地を揺らしながら追いかけてくる。

 

 そう差はないが、こちらの方が速い。

 モンスターの首に右手でしがみつきつつ、空いた左手で懐から白い小玉を取り出す。

 

 

「これでもどう、ぞ!」

 

 

 竜擬き目掛けて投げつけたのは煙幕弾。

 効果があるかもしれない、あるといいなぁと投げた球が破裂。

 周囲を白い煙が包み込む。

 

 奴の足が若干鈍くなった隙に、俺と蜥蜴は距離を稼いだのだった。

 

 




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