今回はいつもより少し短めになりますが、よろしくお願いします。
何とかあの竜擬きと一度距離をおけた。
あの投げつけた煙幕弾が功を奏したのか、暫くするとこちらを追う足音が聞こえなくなった。
だが、それで諦めてくれたとは考えにくい。
いずれまた追ってくるだろう。
あの辺りで動かずに待ち伏せしている可能性もある。
俺が深度Ⅲを目指している以上、あいつをどうにかしなければならない。
「どうすっかなぁ……」
上手くアイツを躱せればそれにこしたことはないが、そうはならないだろう。
過度な期待は危険だ。
壁のような岩に背をつけながら空を仰ぐ。
一緒に逃げた蜥蜴モンスターとは別れた。
別れたというか俺がしがみついていた手を離しただけだが。
離した後も興奮状態で走り続け、何処かへと去っていった。
まぁあの蜥蜴のことはいい。
問題はやはりあの白い竜擬き。
やつのいる地点をどうにか超え、あの断層に辿り着かなければいけない。
当然奴は妨害してくるだろう。
さっきまでと違い、今度はこちらから奴の方へ近づくことになる。
となると、どうするべきか。
ある程度までは見つからずに近づけるだろうが、そこから先の直接戦闘は避けられない。
つまり交戦前提の策がいる。
それも戦闘後に生き残れるものが。
ならこちらから仕掛ける方がいい。
奴にダメージを与え、怯んだ隙に全力で深度Ⅲ方向へダッシュ。
奴に効くような罠を張れるアイテムもない以上、これしかない。
「コイツを使うか」
手元で動くソレを使えば、何とかなるか。
成功率は決して高くはないが、また空から追いかけられて深度Ⅳの奥に誘い込まれるようなことになるよりはマシだ。
さぁ────
「反撃開始だ……!」
背もたれにしていた岩をよじ登り、遠眼鏡で奴を発見。
位置を確認した後、やや遠回りをしつつ慎重に動く出す。
見つからないように何とか奴を上から見下ろせる岩を登る。
体を隠しながら、最後にもう一度ヤツの姿をチラりと確認。
よし、気付いていない。
作戦開始だ。
ヤツの足元目掛けて再び煙幕玉を放る。
放物線を描き二、三度バウンドして地面に転がると白い煙が吐き出され、辺りを包む。
さらに追加して臭い玉を投入。
これで奴の嗅覚が敏感でも関係ない。頭蓋骨の用な仮面のせいで鼻は見えないが。
白に続き黄土色の煙が広がる。
強烈な臭いがこちらにまで届くが我慢だ。
臭くてオエッと吐きそうになるくらい臭いが、堪えて奴を上から観察する。
下からでは煙で少し先さえ見えないが、上からなら丸裸だ。
薄い黄色の煙に動揺した様子はない。
俺を探して首を左右に振っている。
今が好機────!
投げ込まれたモノにより煙が揺れ、バタバタと音を立てる。
それを感知した竜擬きがその方向に顔を向けた。
投げたのは蜥蜴モンスターの尻尾。
アレとの別れ際に、尾の先端部分だけを切断しておいたのだ。
何かの役に立つかもと咄嗟に思いついただけだったが、こうも早く活躍するとは。
奴の頭がこちらとは完全に反対方向を向いた。
仕掛けるなら、今が絶好────!
「────っらぁ!!」
岩から飛び降り、その勢いを利用して振り下ろした渾身の一振りが、白き怪物の尾の一端を斬り落とした。
奇妙な感触。
今まで斬ってきたどのモンスターとも違う手応え。
何というか、こう、滑りを帯びたような、そんな感触だった。
コイツがそういう特別なモンスターであるからなのか、それとも竜も斬ったらこんな感覚なのかは分からない。
とにかく繰り出した剣閃は過たず奴の白い尾の先端を斬り落とした。
落とした先端が、ぼとりと地に転がる。
悲鳴も呻き声も無かった。
「うわっ!?」
尾の断面から噴き出す白い液体。
顔の一部と、髪にもかかった。
なんだコレ?
血、なのか?
確かにそれっぽい粘度だが、鉄臭さはない。
体表だけでなく血まで真っ白なのかよ。
よく見たら切断した尾の断面まで白い。
本当に何なんだコイツは?
見た目もそうだが、身体の中まで不自然過ぎる。
竜であるか否かとかいう前に、そもそもこの異界の自然の中に生きるモンスターなのか?
まるで────
いや、それは今考えることじゃない。
脳内を行き交う疑問とにっくき化物の尾を斬ったことへの達成感で足を止めそうになるが、直ぐにこの場を離脱しなければ。
剣を鞘に収め、逃走しようとした時。
ヒュオッ、と風を切る音がした。
「────」
その音が聞こえた刹那、俺の体は岩に叩きつけられていた。
肺の中にあった空気が根こそぎ無くなる。
悲鳴をあげる間もない。
だが、身体中の悲鳴はよく聞こえる。
痛ぇ。
上手く呼吸が出来ない。
視界がハッキリしない。
頭が岩に直撃するのは避けられた筈なのに。
かろうじてあの斬られた尾で弾かれたことは分かったが、にしてもこの威力。
お陰で左腕の感覚が殆どない。
右腕も、というより全身に鈍い痛みが走る。
とても動けそうにない。
流石は最強生物、の擬きだと他人事のように感心する。
次第に煙が晴れていき、互いの姿が徐々に鮮明に見え始める。
奴はこちらに一歩、二歩と近づいてくる。
距離を置こうにも、このザマでは動けない。
ちくしょう、これまでか。
イキってばっかの人生だった。
そのくせ実力は無いから後になって後悔して。
最終的にはなんとかなると思っていたが、今回はダメだったらしい。
巨体の影に包まれる。
白い怪物は前脚を振りかぶる。
探索者を何人、モンスターを何体も屠ってきたであろう爪を持つ腕。
それが俺の命を絶とうと迫り────
「ぬんっっっっ!!!!」
視界の端に吹き飛んでいった。
怪物の不意を突いた一撃は奴の横腹に突き刺さり、奴はドッと轟音をあげて岩に衝突。
砲弾のように奴を吹き飛ばした張本人は、ドシンと着地した。
「何とか、間に合ったようじゃな」
竜擬きがいた場所には、一人の戦士が立っていた。
大きな盾を構えた、土鍛種の戦士が。
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