異世界(イキり)ファンタジー(一章完結)   作:伊勢うこ

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イキって白黒つけてやれ ー決着ー

 

「あばばばばばばはっ!?」

 

 

 竜擬きの身体を下敷きに、氷の階段を駆け降りる。

 断崖の高さに比例して、掛けられた階段も長いものになっている。

 つまりそれだけ俺はガタガタと衝撃に見舞われるわけで。

 

 一体いつになったら終わるのかと、永遠に思える苦行に耐える。

 怪物の翼に突き立てた剣を握り締めながら、コイツが今だけ飛べたらと強く思った。

 

 

「どわっ!?」

 

 

 着陸。

 土煙が舞う。

 その衝撃で手が剣の柄から離れ、空中に放り投げられる。

 何度か地面にぶつかりながら転がった。

 

 生きている。

 降りている間は凄まじい衝撃の連続だったし、あの高さから落ちたので「あ、これ死んだかも」と覚悟したものだが、奴がクッションになって助かった。

 身体中痛いが大きな怪我もない。

 

 

「アイツは……!?」

 

 

 這いつくばりながらどうにか奴を探す。

 あの巨大なら俺のように放り投げられるようなこともないだろうが、確認は必要だ。

 

 ────いた。

 

 予想通り、階段のちょうど最下段のすぐ側。

 くたばってはいないが、流石にあの氷の巨大階段を砕きながらの降下からの着陸は堪えたらしい。

 起きあがろうとするも上手くいっていない。

 

 

「くっ……」

 

 

 トドメを刺すなら、今がまたとないチャンス。

 右手で側にある筈の剣を探し……。

 さが……。

 

 

「……ないんだけど!?」

 

 

 肝心の武器が手元にない。

 どこにやった!? と焦るより先に見つかった。

 

 まだ奴の翼に刺さったままだ。

 確かに抜けないように刺したけど、そろそろ抜けててよかったんだよー? 

 

 

「くっそ……!」

 

 

 しんどい体をどうにか起こす。

 また奴に近づかなきゃいけない上に武器も無いときた。

 

 どうする、ドドンを待つか? 

 ダメだ、時間がかかり過ぎる。

 その間に奴が起き上がったらまず間違いなく殺される。

 

 自分でやるしかない。

 

 奴の背によじ登って、あの翼から剣を引き抜く。

 そしてそのままトドメを刺す。

 これしか────

 

 

「クリスト!」

「……ルフェイリア?」

 

 

 氷の階段の掛かった断層の反対側、森から現れたのはチームメンバーの彼女だった。

 魔術用の杖で体を支えながらこちらに近寄る。

 

 

「おい、無事か!? ドドンはどうした!?」

「俺は見ての通り。おっさんはまだ向こうにいるハズだ」

 

 

 お互いに満身創痍に近いが、無事ではある。

 再会を祝したいところではあるが、先にやらねばならないことが一つ。

 

 

「アレが宝を奪ったという……」

「竜、みたいなモンだ。やっぱ普通の竜とは違うんだな」

「……あぁ。あんな生物は見たことない」

 

 

 ドドンにも尋ねたが、やはりアレは異様に見えるらしい。

 生理的に受け付けないとまではいかないが、それに近い反応。

 知識豊富な彼女だからこそ、余計に歪に映るのだろう。

 

 

「まだ生きているな」

「興味あるかもしれないけど、悪いな。仕留めるよ」

「構わない。確かに興味がない、と言えば嘘になるが、あれはどうにもな」

 

 

 テキトーに言ったつもりだったが、ホントに興味あったのか。

 てっきり「見るに耐えん。さっさと殺せ」くらいは言うかと思った。

 魔術師って人種は皆そうなんだろうか。

 

 

「トドメ刺しに行く。一応下がっててくれ」

「そんな有様でなにを……と言いたいが、私も正直魔力がもう殆ど空でな。立っているのがやっとだ」

 

 

 怪我の具合はほぼ無傷のルフェイリアと比べて俺の方が酷いが、魔術師にアレに近づけと言うのは酷だろう。

 いくら手負いとはいえ化け物だ。

 何かあっては彼女では対応出来ないだろう。

 

 

「私よりお前がやった方が確実だろう。無茶をさせるようですまないが……」

「お気遣いどーも」

 

 

 ルフェイリアに見送られ、奴の下へ。

 足が重い。

 鉛のようになった全身を酷使して一歩、また一歩と前に進む。

 

 奴との距離があと僅か十メートルもない所にきた時。

 

 

「────っ! クリストっ!!」

 

 

 悲鳴のような、ルフェイリアの声。

 それが聞こえた頃には、ことが既に起きていた。

 

 

「嘘だろ……」

 

 

 立ち上がってしまった。

 奴が、白い竜の姿を真似た怪物が。

 尾を切られ、脇腹に一撃を食らって吹き飛ばされ、頭部の仮面に亀裂を入れられ、翼を貫かれ、氷の階段を破砕しながら高所から堕ちて尚。

 

 奴は、立ち上がった。

 立ち上がってしまった。

 

 

 足が、無意識に一歩後ろに退がった。

 体の内側、どこかは分からない場所から、メキリと何かが折れそうな音がした。

 

 

 早すぎるだろ。

 もうちょっとでいいから大人しく寝てろよ。

 なんで、あと少しで。

 

 なんで────! 

 

 

「────っっああああぁぁぁああ゛あ゛あああ゛!!!」

 

 

 自分でも分からない。

 分からないが、俺は駆け出した。

 ここで進まなければ、終わってしまうと、漠然としたナニカに駆られて。

 

 静止の声を振り払う。

 足の重みを無視する。

 全身の痛みは見ないフリ。

 

 残りあと数メートル。

 奴も俺に的を絞り、前腕を振りかぶる。

 

 来る。

 怪物の一振りが。

 人間なんていとも簡単に絶命し得る、致命の爪が。

 途端に時間が酷く引き延ばされる。

 瞬きするより短い時間が、永遠より長く感じるような、そんな感覚。

 

 ────死ぬのか? 

 

 死ぬだろう。

 あんなもの貰ったら、流石に。

 嫌だなぁ。

 痛いのは嫌だ。

 

 今更止まろうとしても手遅れか。

 間に合わない。

 でもせめて、せめて一瞬でいい。

 一瞬奴の意識を奪ってくれれば、俺がやってやるのになぁ。

 簡単だよ、ヨユーヨユー。

 

 俺なら出来るって。

 

 

 

 

 バカン! と頭上から何かが弾けるような音。

 

 陽光を反射して輝くなにか。

 

 氷だ。

 人の頭ほどの氷の弾が、奴の顎に直撃したのだ。

 その予想と意識の外からの一撃は、十分奴の一瞬を奪うもの。

 

 背後で、誰かが地面に伏す。

 魔力がいよいよ底をついたのか。

 

 感謝の言葉を言う暇もない。

 だから、行動で示すことにした。

 

 それは俺のすぐ足元にあった。

 刃にそれなりに貴重な魔法資源が使われた、《第三線級》の探索者に丁度いい直剣。

 まだ柄に体温が微かに残ったそれの切先を。

 

 

「────ぁあ゛っ!!」

 

 

 俺は奴の、ふざけた仮面の亀裂にぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ぐちゃり、と嫌な感触が伝わる。

 最悪の感触だ。

 他の何かに例えるのも億劫になる。

 

 白い怪物の動きが停止した。

 

 ゆっくりと、剣を引き抜く。

 仮面の小さな破片が、パラパラと足元に落ちる。

 引き抜いた剣の先はやはりというか、白い液体で濡れていた。

 思わずおぇっと声に出た。

 剣を払って血(?)を落とそうとしたが中々落ちない。

 もう本来の持ち主がこれを振るうことはないだろうが、だからといってこれはちょっとね……。

 

 後で洗おうと決め、腰を落とした。

 体から力が抜ける。

 終わったと思ったらもうダメだった。

 依頼はまだ終わってないが、今くらいは休んでもバチは当たらないだろう。

 

 

 倒れた彼女も起こしてやらないとなと、視界から奴を外した折。

 バラバラと、仮面にできたヒビが広がる。

 ひび割れた箇所が大きくなり、やがて拳ほどの穴になった。

 

 そういえば、コイツはどんな顔をしているのか。

 そんなことが気になり、奴の素顔を拝んでやることにした。

 

 仮面で態々隠してあったくらいだから、余程おかしな顔なのだろう。

 もしくは竜の顔ではないとか。

 ありえる。身体のパーツも竜のものではない部分があるくらいだし。

 

 もう動かないと解っていても近づくのは躊躇したが、何事もなく奴の仮面の前についた。

 さーて、どんな顔かしらと、揚々と仮面にできた穴を覗くと────

 

 

「は────?」

 

 

 無かった。

 鼻が、ではない。

 俺が覗いた穴は奴の眉間のあたりに出来たものだ。

 鼻が見えないのは無理もない。

 

 もっと肝心なものが無かったのだ。

 

 目だ。

 目が無い。

 瞳が、瞳孔が、瞼すらもない。

 あると思っていたものが、何一つ。

 

 だが、代わりに妙なものがあった。

 薄黒い、灰色に近い色をした滑りを帯びたナニカ。

 人間の大人の腕くらい太い、ロープのようなものが、何本も重なり合ってまるで蛇がトグロを巻いたような形で鎮座している。

 俺が刺した剣につけられた傷から、ドロドロとしたした白い液体が流れる。

 

 

 何なんだ? 

 コイツは、何なんだ? 

 俺は、何を倒したんだ? 

 

 脊椎が氷柱になったような寒気がした。

 ゾッとする。

 血の気が引く。

 喉が干上がる。

 汗を流したからでも、血を流したからでもない。

 

 

 “触れてはいけないものに触れた“

 

 

 これは、この悪寒は、そういう類のものだ。

 




 読んでいただきありがとうございます!
 次回で一旦の区切りがつく予定になっております。
 ここまで来るだけでも結構かかりました。
 感想、評価などよろしくお願い致します! それでは。
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