異世界(イキり)ファンタジー(一章完結)   作:伊勢うこ

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 いつも読んでいただきありがとうございます! 
 中々UAや評価値は上がりませんが、少しずつ書いていきたい今日この頃。あとメリークリスマスでした!


イキった夜を迎える ールフェイリア先生の魔法資源講座ー

 

 他人を心配してここまで損な気分になったのは初めてだった。

 

 

 下戸ドワーフ、もといドドンが吐瀉物をぶちまけたあの後。

 俺たちは擬態樹の亡骸の内、魔法資源として売れそうな一部を回収してその場を後にした。

 こういうのはアレだが、いつまでもゲロ臭い場所に長居したくはなかった。

 

 吐いた本人曰く、一度吐けば問題ないとのことなので今後は大丈夫だと思いたい。

 吐くと分かってたなら飲むなよとか、それってホントに二日酔いなのかと色々言いたいことはあったが、その場は移動を優先した。

 戦闘直後に他のモンスターにまで襲われるのはゴメンだった。

 

 

 再び隊列を組んで巨大樹と草木の生い茂る森を進むこと数時間。

 その間に何度か擬態樹(さっきの戦闘の奴らよりは小ぶり)に遭遇したか、問題無く撃退。

 幾度かの小休憩を挟みながら、地図を頼りに目的地へと歩き続ける。

 本日最後のモンスターの襲撃を退けた頃には陽が沈み始め、辺りには夜の帷が降りようとしていた。

 

 

 

 

 揺れる炎の影。

 パチパチと鳴る、木が燃える音。

 

 倒れた樹木に背もたれながら、俺たちは焚き火を囲んでいた。

 陽が落ち始めた頃に見つけた、夜を過ごすには丁度いいくらいの開けた空間。

 倒木がいくつか転がるここが、今日の俺たちの仮の拠点。

 

 焚き火に落ちていた枯れ枝を放り投げ、俺は頭上に広がる星空を眺めた。

 

 おかしな話だといつも思う。

 ここは“大穴“の先にある世界。

 つまりは現世から見て海よりさらに下に広がる世界のはずなのに、上を見れば夜空が広がって星もある。

 

 まぁ、実際あれらが本当に星なのかは分からないが、そこは割とどうでもいい。

 

 

 そのままぼぉーっと星々を見ていると、目の前に影が。

 

 

「少しいいか?」

 

 

 ルフェイリアだった。

 意外だ。正直、彼女からこちらに近づいてくるとは思っていなかった。

 

 

「あぁ、大丈夫だけど」

「そうか」

 

 

 失礼する、と一言告げると俺と人一人分の間隔を空けて座った。

 

 

「昼間は助けられた。改めて礼を言いたい」

「よしてくれ。俺だって別に大した活躍出来なかったし」

 

 

 礼なら今はこの場にいないあの土鍛種(ドワーフ)の戦士に言って欲しい。

「迷惑をかけたから詫びに食えるもんでも取ってくる」と言って森の中へ入っていったが、まだ戻る気配はない。

 食糧に関しては一応持ってきた保存食(大して美味くない)があるため態々取りに行くことはないのだが、本人なりの責任の取り方なのかも。

 また戻していないといいんだが……。

 

 

「だが、お前に助けられたのは事実だ。ありがとう」

「お、おぅ……」

 

 

 確かに命を助けたかもしれないが、ここまでちゃんと礼を言われるとは。

 昨晩あんなことがあって、昼間にもおちょくったからてっきりなぁなぁのまま済むと思っていた。

 

 この森霊種の女性は、俺が思っていたより律儀なのかもしれない。

 

 

「いや、まぁ、なに、なんていうの? そんな大したことはないっつーか、うん、あれだ、余裕だから、ヨユー」

「変なところで強がる奴だな。礼くらい、素直に受け取っておけ」

 

 

 クスりと笑うルフェイリア。

 そういえば、笑ったところは初めて見る。

 最初に会った時は仏頂面だったし、酒場でも笑いはせず、昼間は怒らせてしまった。

 そうだよな。

 コイツ加減下手な魔術師だけど、美人なんだった。

 

 眉目秀麗な彼女の笑う横顔は、上手く言えないがそれだけで絵になる。

 

 

「さっきは何をしていたんだ? 何やら考え込んでいたようだったが」

「え? あ、あぁー……」

 

 

 いかんいかん。

 つい顔を逸らしてしまった。

 何か言わなければ。

 まさか見惚れてしまっていたなんて言えないし。

 

 

「いや別に。不思議だなぁーって思ってただけだよ」

「不思議か、確かにな。この異界そのものもそうだが、私には様々な種族が手を取り合って探索していることも不思議な感じがする」

 

 

 彼女の言うことも分からなくはない。

 表向き種族間の争いは沈静化したようだが、完全に敵対意識が無くなった訳ではないのだ。

 そんなに簡単に解決する問題ではないということだろう。

 異なる種族同士が諍いを起こすところは、探索者になってから何度か俺も見かけたことがある。

 

 

「確か、仲違いしてたんだっけ? 魔法資源を巡って」

「あぁ。何せ古くから魔法資源は我々の生活や文化に密着していたからな。それが次第に減り始め、取り合いになり、やがて戦にまで発展した」

 

 

 魔法資源は町の街灯などにも使われており、全く関わらずに生きて来たという者は殆どいないだろう。

 田舎に住んでいた俺でさえそうなのだから、どれだけ広く浸透しているかは言わずもがな。

 

 昼間倒した擬態樹から採取したものの一部を袋から取り出す。

 

 

「こんな木の化け物の破片をかけて?」

「そう馬鹿に出来たものではないぞ。価値は高くないが、その欠片も立派な魔法資源。あの“大穴“が開き、魔法資源に富んだこの新天地の存在が明らかになるまでは、我々の祖先はそれを欲していたのだからな」

 

 

 一部例外を除き、こうしたモンスターから採取した部位なども魔法資源に数えられる。

 モンスターの死体さえ争いを起こすほど必要にしていたと考えると、なんだか後の世に生まれた身としてはご先祖様たちが哀れに思えてきた。

 

 

「必要なのは解るけど、そうまでするものかね?」

「そうなのではないか。実際、魔法資源の為に争いを止め、様々な種族が協力してあの海上都市が出来たのだ」

「ふーん」

「つまりそれくらい重要な資源だということだな。おまえはあまり興味が無さそうだから知らないかもしれんが、そもそも魔法資源とは────」

 

 

 以下ルフェイリア先生の長い解説。

 要約すると、魔法資源とは大きく分けて三つに分類されるそう。

 

 ①それ自体が魔力を帯びていること。

 ②特殊な効果を有していること。

 ③魔力に適応していること。

 

 この条件のいずれか一つでも満たしていればそれは魔法資源と称される。

 

 ①はモンスターの死骸などが当てはまる。

 モンスター自体が魔力を有しており(種類や個体差もあるが)、その遺体にも魔力が残留する。

 採取した素材そのものに魔力が込もるため、それを利用した道具などが作られる他、魔力を抽出して別の用途に用いられることも。

 

 ②は一部の薬草などが挙げられる。

 調合することにより、その薬草から作られた薬でしか得られない効果もある。

 探索者が怪我をした時に飲む薬水などもその例。

 自然回復よりずっと早く治り、上質なものは致命傷でも治すとか。

 

 ③は魔法鉱石などがいい例だ。

 普通の物質は、魔力を流すと著しく劣化することがある。

 だが魔法鉱石ならばその心配はなく、それを加工して作られた剣などは魔力を流すことでむしろ切れ味が上がるそうな。

 ちなみに魔術師が使う杖なんかも魔力を扱う関係上、当然ながら魔法資源で作られる。

 

 

「お前はもう少し勉強した方がいいな。知識はいつの時代も宝だ。いつ何時、何が起こるか分からぬ探索者である以上、知識を……」

「わかったわかった、分かりましたよ。帰ったらちょっと組合で本でも借りて勉強してみますよ」

「あぁ、是非そうしろ」

 

 

 知識欲旺盛な彼女と違い、魔法資源がどういうものかなんて碌に知らずに生きてきたが、探索者としては確かに知っていた方がいいかもしれない。

 魔法資源か否かの見分けなどつかなくても、この異界では魔法資源だらけだからどうにかなると思っていた。

 

 あぁ、そうだ。

 彼女に聞きたいことがあったのだった。

 

 

「なぁ、勉強ついでにもう一つ聞いていいか?」

「何だ?」

高位森霊種(ハイエルフ)ってなに?」

 

 

 俺がそう尋ねると、ルフェイリアは少し残念なものを見る目でこちらを見返した。

 なんだよその目は。

 

 やがてはぁ、とため息をつくと、先程よりも沈んだ声を出す。

 

 

「本当に知らないのか?」

「あぁ。言っとくけど、俺だけじゃなくて普通の人間種は知らないと思うぞ。そこそこ長く探索者やってりゃ話は別なんだろうけど、俺はまだ始めて二ヶ月かそこらだしな」

 

 

 故郷には森霊種すら居なかったのだ。

 フロートラムに初めて来た時に生まれて初めて森霊種が本当にいるのだと知った。

 そんな奴が高位森霊種とは何なのかなど知っている筈もなく。

 

 

「……そうか。いや、これは知っていて当然と思っていた私の落ち度でもあるか。種族で常識の差があるのは当然、か」

 

 

 知らないのが俺だけでないと知ったルフェイリアは少し驚いたようで微かに眼を開くと、細い顎に手を当てふむと頷いた。

 

 

「高位森霊種というのは、森霊種の中でも精霊の血を濃く受け継ぐ者のことだ。その分、強力な魔術を扱える。そうだな、人間種でいうところの貴族や王族に近い、と言えば想像がつくか?」

「まぁ、なんとなくだけど」

 

 

 生憎、俺は人間種の国でも田舎の方で生まれ育ったため、貴族だの王族だのに縁はなかったのだが。

 

 

「つまり良いとこのお嬢様ってこと?」

「それとは少し違うが……まぁ、そんな認識で構わん」

 

 

 あながち的外れでもないらしい。

 確かにそう言われても仕草などに違和感はない。

 

 

 風が吹き、パチリと焚べられた枝の爆ぜる音。

 焚き火の向こう側、森の中から揺れるランタンの灯りが薄らと見える。

 ドドンが帰ってきたようだ。

 

 

「戻ったぞぃ、飯にしようや」

 




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