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ドドンが狩ってきた猪と牛を合体させて二で割ったようなモンスターの肉を火にかけて焼くその間。
俺たちはお喋りに花を咲かせることにした。
「今更かもしれんが、お前さんらは何故この依頼を受けた?」
会話の中身は、やはりというべきか引き受けた依頼について。
そりゃあそうだ。
なにせ分からないことだらけなのだから。
報酬の真偽、依頼者の正体、詳しすぎる地図、そして目的地である“無かった筈の竜の巣“。
パッと思いつくのはこんなあたりか。
しかしこれだけ思いつくということは、つまりそれだけ怪しいということだ。
あの依頼主、妖精種のチャッピーとか言ったか。
あいつはかなり怪しい。怪しすぎる。
俺たちに言っていない重要なことがあると、探索者の勘が告げている。探索者になったのは数ヶ月前だけど。
「何故もなにも、頼まれたからだ」
「いや、それだけでこんな依頼受けないだろ……」
頼まれたから引き受けますでは探索者は成り立たない。
そりゃあ困っている人を助けることは大事かもしれないが、こちらは命懸けのケースもあるのだ。
一切の打算なく引き受けるというのは難しい。
「困った少女を前にして、助けないという選択肢はないだろう」
「そりゃあそうかもしれないけど、そういうことじゃなくてさ。てか、あいつ妖精種だから下手すると俺たち全員よりも歳上だぞ?」
「…………そ、そういうお前はどうなのだ、クリスト? 何故依頼を引き受けた?」
コイツ、露骨に話を変えやがった。
しかし、俺が依頼を受けた理由か。
馬鹿正直に言うのは恥ずかしい。多少誤魔化すしかあるまい。
「俺はあれだよ、なんだ、やっぱ報酬だよホーシュー。“大穴“が開いた理由なんて誰も……」
「報酬は集められた時に初めて聞いたが、お前は違ったのか?」
「そういやワシもあの時初めて聞いたのぅ」
……。
…………。
「…………お、俺のことはどうでもいいよ。ドドンは? ドドンはなんで受けたんだ?」
「おいクリスト?」
「ワシは酒場で飲んどったら声かけられての。そん時のことはあまり覚えてないが、依頼を受けたことと集合場所だけは覚えとった」
瓶を片手に、ワハハと笑う土鍛種。
ホントになんで引き受けたんだ、このおっさん……。
というか。
「おっさん、飲むのはいいけど程々にしとけよ」
「全くだ。明日も昼間のようになられては困る」
「心配するな、量はちゃんと抑えオロロロロロロロロ」
「今吐けって意味じゃねえよ!?」
「依頼が終わるまで禁酒だ下戸ドワーフ! 禁酒!」
この後メチャクチャだった。色々と。
ドドンがキラキラ(比喩表現)を出し終えて落ち着いた頃。
火を通していた肉を食べながら、俺たちは再び焚き火を囲んで話をしていた。
今度は探索者としての話より、もっと個人的なところの話を。
最初は「こうしてチームを組んだのも何かの縁」と言い出したドドンから。
「ワシが探索者になった理由は、まぁ色々あるが一番は酒じゃ」
「酒?」
「飲めもしないのにか?」
「ほっとけ。ワシら土鍛種は殆どが大酒飲みじゃが、ワシは知っての通り大して飲めん。それが理由で故郷では浮いててのぅ、馬鹿にされたことも多かった」
確かに。
土鍛種といえば鍛治を好み、酒をこよなく愛し、たらふく飲む印象が強い。
酒の席で言葉を重ね、友情を育み、時に喧嘩して交流する。
彼らの文化圏にあって酒が飲めないといのは、俺たち他種族が想像するよりも深刻なことなのかもしれない。
「じゃがワシは酒が好きじゃ。美味い酒は尚更好きじゃ。じゃからこう決めた」
酒瓶を地面にドンと置き、顔が赤くなった男はこう語った。
「いつか世界一美味い酒を見つけて、馬鹿にした奴らの前で美味そうにそれを全部飲み干してやるとな!」
そう言い切ったドドンの顔は晴れやかな表情だった。
迷いや悩みのない、快晴のような笑顔。
いい歳したオッサンが夢を語るなんて、恥ずかしいと思われるとは微塵も考えていないことがその表情から見て取れる。
それが少しだけ、羨ましいと思った。
「その前にその下戸をなんとかした方がいいんじゃないのか? せっかくの酒、全部吐き出すことになるぞ」
「そうだな。先に酒を飲めるようになる薬でも探した方がいい」
「バカもん。薬なんぞ探してられるか。ワシは酒を探すんじゃ、酒を」
けどそれを口にするのは少し恥ずかしかったので、ついからかってしまった。
何というか、自分に無いものを彼が持っているのがカッコよく見えて、比較して自分がカッコ悪く思えてしまったのだ。
同じ探索者でも、こうも違うものなのかと。
「それって異界にあるの?」
「さてな。じゃが、ここならあってもおかしくなかろうと思ったからワシは来た。それだけよ」
言い終えると、ドドンは再び酒瓶を手にして中身を呷った。
「まぁワシの話はこんなもんでいいじゃろ。お前さんはどうなんじゃ、ルフェイリア。なんぞ夢の一つもないのか? まさか理由も無くこんな異界に来た訳じゃあるまい?」
「夢か。そうだな……」
理由を問われた魔術師は、夜空を見上げる。
その色彩の異なる両眼には何かを懐かしむような、彼方に想いを馳せるような、そんなはっきりとしない感情が揺蕩う。
一呼吸置いて、口を開く。
「最初に会った時にも話したが、私はこの異界の知識、情報が欲しい。そしていつか誰も踏み込んだことのない、異界の果てに行く」
「異界の果てって……」
「そうだ、“極点到達“を成し遂げる」
“極点到達“。
広大な異界の果てにあるとされる到達点。
全ての探索者の目標。
基本的に深度の数字が大きくなる程、発見される魔法資源は貴重なものになる。
ならば、この異世界の果てに眠る代物は、どれほどの価値を持つのか。
それを見つけた者には、どれ程の栄誉と名声が与えられるのか。
探索者の最高峰たる《最先端》もまた、この極点に辿り着くために未知の新大陸に進出しているのだ。
「だから知識か」
「あぁ。何せ異界には来たばかりでな、右も左も分からんという程ではないが」
「来たばかり?」
俺は異界には数ヶ月前に来たばかりなのでてっきり自分が一番新参者なのとばかり思っていたが、もしかして違うのか?
「ちなみに聞くけど、異界にはいつから……?」
「二週間前だ。ついでに言うなら、これが初めての依頼だ」
「に、二週間……」
俺より後に来たのに、俺より色々知っていて魔法の腕もあるとは……加減下手だけど。
ま、負けた……。
「てことは《第五線級》か、驚いたわい。魔法といい知識量といい、《第四線級》以上はあると思っとったんじゃが」
「褒められる程ではない。現にこの森については殆ど何も知らなかったのだからな」
「謙遜するなぃ。死ななかっただけ大したもんじゃ」
というか二週間て、新人研修を終えたばっかじゃないか。
俺、殆ど新人に負けたのか、そっかぁ……。
こういう奴がどんどん上の階級になっていくんだろうなぁ。
「私の話はこんなところか。最後はクリストだが……」
「へぇっ!?」
俺が密かに落ち込んでいる間にルフェイリアの話が終わり、自分の出番が回ってきてしまった。
いかん。何を言えばいい?
俺には二人のような立派な夢や目標など無い。
探索者になったのだってイキって故郷を飛び出した結果だし、そもそも俺に探索者なんて向いていない。
今だって故郷に帰りたいが、一流の探索者になるまで帰らないといった手前そういう訳にもいかないから異界に残っているのだ。
目標といえばそれくらいだが、この二人の後にそんなこと言うのは正直恥ずかしい。
どうする……!?
「これは聞くまでもないな。酒場で一度聞いているのだ」
「おぉ、そうじゃったな」
「へ?」
え、なに?
一度聞いた? どこで? 酒場で?
俺何か言ったっけ? 何も……
『ーーーーいつか《最先端》の探索者になる男だぜ?』
…………言ったわ。
「え、いや、あれはですね……」
「正直意外だったぞ。お前にそこまで大きな目標があったとはな。お前も極点を目指しているのか?」
「あー、うん、まぁ探索者としては一応ね?」
「えぇのぅ。無理だと馬鹿にする者もおるが、どうせならそれくらいの目標を持たんとな!」
「お、おぉ……」
またやってしまった。
なんでハッキリ違うと言わないんだ。
俺の馬鹿、アホ、ろくでなしのイキり野郎。
勘違いさせちまった上に《最先端》の探索者を目指す羽目になってしまった。
今からでも……いや駄目だ。
ここで否定したら、ただのイキり野郎から嘘つきイキり野郎になってしまう……!
そんなことになったらいよいよお終いだ。
ここまで来たらもう、俺に出来るのは──
「まぁアレだよ、《最先端》目指すのは探索者の嗜みっていうか? 当然のことだからね、そんな大したことじゃないから。むしろ目指さないほうがアレだから」
──ひたすらイキりまくることだけだ……!
その日、俺たちはこんな感じで互いのことを語りあった。
夜空の下で、火を囲い、釜はなかったが同じ飯を食う。
チームを組んだことはなかったが、これならもっと早く誰かと組めばよかったと、そう思った。
そしてそれから数日後。
俺たちは、ついに目的地である竜の巣に到着した。
そこで待つ
異界の未知を、初めて目にすることになる。
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