ヤンデレな女の子に愛されるだけの話   作:ストレア=リネレイト

21 / 24
皆様お久しぶりです(約4ヶ月ぶり)細かい事は活動報告または後書きで。
約1万4000字と長いですがまずは楽しんで!
誤字脱字あったら報告ください。

4/8 誤字報告ありがとうございます。なのですが…誤って報告を消してしまい
  誰か分からなくなってしまいました。すみません!
  誤字以外に表現に関しても教えてくれたので助かりました!


飼い犬に手を噛まれる

 ダッダッダッ

 少女が学校の廊下を爆走していた。

 その目は何かを必死に探しており、周りの者は思わず端の方へ寄ってしまう程だった。

 そして先生に呼び止められようとも気にも止めずに走っていた。

 

「…あ!いたぁ!」

 

 やがて何かをみつけたようで更にスピードを上げて……そこに居た少年へ飛びかかった。

 

「ぐべぇ!……って、さっさとどけ!歩希!」

 

「えへへ、だってそこに新太がいるから」

 

 このたった今、飛びかかった少女は春園 歩希(はるぞの ふき)だ。

 その少女は可愛らしいボブカットで黄金の様に輝く小麦色の髪をしており、

 そのくりくりとした大きな瞳やコロコロ変わる表情、体全体を使って喜びを表すその姿

 それは美少女と言っても差し支えはないものだった。

 

「理由になってないし、いいからどけ!!」

 

「おおーまたやってんな~」

「さすがバカップル」

 

「違うわ!!」

 

 先程から歩希に抱きつかれてるこの少年は犬飼 新太(いぬかい あらた)

 たった今「バカップル」と揶揄られたばかりではあるが

 新太の言う通り実際に付き合っているわけではない。

 

「おいそこ、何さっきから廊下を走り回ってんだ?」

 

 二人がじゃれている後ろから怒気混じりの声が飛んできた。

 歩希が恐る恐る後ろへ振り向くいた。

 

「げ、先生じゃん」

 

「そうだぞ、春園が何回も廊下を爆走してるのを見ている先生だ」

 

 歩希が怒られる未来を察知した瞬間、新太は逃げる事にした。

 

「先生、俺は関係無いので、教室へ…「だめだ」なんで!?」

 

「そりゃこいつの責任は保護者であるお前の責任だからな」

 

「誰が保護者だ!!」

 

「そんなの決まってんだろ。本人公認だぞ?」

 

(本人公認って別に俺は認めたことねぇよ!クッソ、一体誰が……)

 

 本人公認とはどう言うことだろうか。こんなふざけた事を言いそうなのは誰か。

 頭の中で探して、ふと気付いた。

 

(本人公認?本人ってこの場合俺と…)

 

「えへへ///」

 

「お前だな絶対!!」

 

 そこには顔に私がやりましたと言わんばかりの歩希がいた。 

 新太はゆっくりと歩希に近寄り、思いっきりほっぺたを引っ張った。

 

「このっ。この口が悪いんか」

 

「ほへぇんひゃい。ほうひひゃへん〜〜(ごめんなさい。もうしません〜〜)」

 

「おいそこ、いちゃついてるとこ悪いんだがお説教の時間だ」

 

「なんでだよ〜〜!」

 

 

「ったく、酷い目にあったわ」

 

「えへへ」

 

 二人の関係を表すなら正確にはこうだ。

「犬と飼い主」

 少なくとも新太自身はそう思っている。

 

「ねぇねぇ、これあげる!」

 

「ん?これジュースじゃん。いつの間に買ってきたんだよ」

 

「さっきのお詫びとして買った」

 

 歩希はペットボトルを渡すとすぐさま少し屈み新太を見つめた。

 

「ったく、しょーがないな。ほらわしゃわしゃわしゃ〜!」

 

「きゃ〜〜〜〜〜!!」

 

 歩希の意図を察した新太は全力で歩希の頭を撫で始めた。

 歩希はもっともっとと言うように新太に体を寄せていく。

 周りには普通に人は居る。だが二人は気にも止めずにじゃれ合っていた。

 周りからは「あ、バカップルか」と慣れた様に呟かれる。もはや風景の一部かの様だ。

 

 勿論だが二人は付き合ってはいない。

 二人は出会ってから一年以上経っておりここまで仲良くなっているが、

 初めからこうだった訳ではない。

 最初から歩希は元気だったが体に触れてくるほどでは無かったし

 新太も美少女である歩希に関わるたびに心をドギマギさせていた。

 

 だがそれは今ではどうだろう

 

「ほーれ!よしよしよし」

 

「えへへへ~~//」

 

 新太の目には主人に甘える大型犬しか写っていない。

 どうしてこんな事になってしまったのだろうか。

 


 

 入学したての頃、歩希はその見た目と元気で誰とでも親しくなれる雰囲気から

 直ぐに学年中に広まりクラスの中心で愛されキャラとなった。

 新太も中心とまでは行かないが周りと仲良くでき、歩希と話す事も多くなった。

 

「… それでねー凄い楽しかったんだ」

 

「へー!」

 

「あ、そうだ!今週末丁度もう一回行くんだけど春園さんも一緒に行く?」

 

「あー……。私、小学生の弟が居るからあんまりそういうの行けないんだ…」

 

「え!弟さん居るんだ。じゃあ面倒見なきゃだね。わかった」

 

「うん。…また今度行こうね!」

 

 歩希は少し俯いた後またいつものように笑った。

 それはぱっと見一緒に出かけれないのを残念に思っている様だ。

 新太自身にもそう見えた。だが暫く関わっていく内に何処か違和感を感じる様になった。

 

◆◆◆

 

 新太は家で歩希に対する違和感について考えていた。

 

 特に気になるのが「小学生の弟」だ。

 歩希は誰かに誘われても弟を理由にいつも断っている。

 どんな時でも使うので一部からは嘘かと疑問を持たれてさえいる。

 だけどそうでは無い気がする。

 弟に関して喋る時に偶に見せる顔、特に「弟の世話なんて偉いね」「お姉ちゃんなんだ」

 と周りから言われた時の歩希の反応は少し影を感じた。

 

(うーん、考えてても良くわかんないなぁ。気のせいかもしれないし

漫画でも読もうかな……)

 

 漫画アプリを開くと偶々とある漫画がホームに出て来た。

 それは自殺しようとしているヒロインを主人公が救う話で

 確かヒロインの自殺の理由は出来の良い妹と比べられて…的な感じだった気がする。

 

(出来の良い妹…春雨さんには弟がいたな。もしかして……そうか、そう言うことか!)

 

 新太の頭の中でカチリと何かがハマる音がした。

 

(きっと彼女は出来の良い弟と比べられて劣等感を抱いているんだ。

だから家族関係の話になるとあんな反応をするんだ)

 

 はっきりと言えば新太の推理は穴だらけであるがそれを訂正する者はいなかった。

 新太は自分の推理が当たっていると確信して明日、歩希に話しかける事にした。

 

 

「ねえ、春園さん。ちょっと話があるんだけどいいかな」

 

「?いいよ、新太くん」

 

 彼女の様子はいつもの様に天真爛漫でこっちまでも元気になる。

 そんな彼女にいきなり家庭について聞く事になる。だが何かあってからでは遅いのだ。

 歩希を人気の無い場所まで連れて来た新太は意を決して歩希に聞いた。

 

「あー。なんかさ春園さんは悩みとかあったりしない?」

 

「どうしたの?いきなり」

 

 新太は歩希の雰囲気が少しだけ変わったのを感じた。

 少しだけ体に緊張が走る。

 

「いや、無ければいいんだけどさ。なんとなく聞いただけ」

 

「ふーん。じゃあ、もし有るって人がいたらどうするの?」

 

「え?」

 

 新太は困り果てた。聞いたは良いもののそれ以外は何も考えてなかった。

 新太は焦りつつ必死に頭を働かせた。何か、何かいい答えは無いか……

 その時、昨日の漫画の事を思い出した。そうだ、そこではどうしていた?

 1分にも満たない時を経て新太は口を開いた。

 

「ありきたりだけど隣で寄り添ってあげるとか、話を聞くとか?

 手を握って君の味方だよって言うだけでも全然違うんじゃないかな」

 

「聞いてなかったけど、なんでそんな事を私に聞こうと思ったの?」

 

「偶に苦しそうな顔をしてる様に見えたから……

 ってずっと見つめてたとかいう訳じゃ無いけど」

 

「……そっか

 

 歩希は小さく呟くとまたいつもの笑顔に戻った。

 

「優しいんだね!それじゃ頼りにしてるよ!バイバイ!」

 

 そのまま走り去って行った。

 そして残された新太は少しの間立ち尽くしていた。

 冷静になると自分が何をしたのか思い出した。

 

(俺って今唐突に女子を呼び出してなんか色々やっちゃって無かったか?

確証もなくお前って悩みあるんだろって決めつけてなかったか?)

 

「ぐぅうう、なんか怖くなって来たぁ」

 

 この後、新太は何事も無かった感を出して教室に戻った。

 そして後日、徐々に歩希からのスキンシップが増えていくことになった。

 最初は向こうから話しかけて来る様になり、もしかしたら昨日の事が

 プラスになったのか?と思える程度だったのが日が経つにつれて

 一緒に居る時間が増え、どこにでもついて来る様になったり、逆につれて行かれたりする様に

 なった。

 

「そうそうそれ…あ、新太くんだ、おはよう!…ごめん、いくね」

 

「いやいや、行ってきな〜」

 

 歩希は友達と話していた様だが、こちらへ来るらしい。

 最近は朝、教室に入る度に誰かと話してようがこっちを優先する様になった。

 

「なあ、本当に大丈夫なのか?何か話してたろ」

 

「ううん全然大丈夫!そんなのより今日一緒に学食いこうよ。私食べたい物が〜〜」

 

 歩希は流れる様に新太の隣に行き、腕を絡めた。

 周りからは少しだけ歓声が上がり同時に悔し涙を流す者も出た。

 

(やっっば女子の香りなんですけど。なんで春園さんはこんなに近くで話されてるんでしょうか!?

距離感バグってんだろ。いつまで経っても慣れないし!

てかおかしいって先週は隣にピッタリとくっつくだけだったでしょうが!!)

 

 二人きりで話したあの日から歩希はアハ体験かの様にちょっとずつ

 物理的に距離を近づけて来ていた。

 そして意外にもそれは効果的で最初はちょっと肌が触れるだけでろくに返事も出来なかったのが

 今では少しくっ付かれる位なら表面上は何事も無く振る舞える様になった。

 

「……ねぇ聞いてる?」

 

「え!?あ、うんうん勿論いいよ」

 

「やったー!」

 

◆◆◆

 

 ある日の体育の授業中にて。

 

「いやぁ、新太はいいよな!あんな良い彼女がいて」

 

「だれだよそれ!…あ、投げる方向ミスった!」

 

「よっと!…春園さんに決まってんだろって」

 

「そっちボール飛んでったぞー!」

 

 今はソフトボールでキャッチ練習をしている。

 そして新太の友人である飯田の「あぁ〜彼女ほしーな」と言ういつもの呟きから始まった。

 

「あいよーっほら、でなんで春園が出てくんだよ。どう見てもそこまで行かないだろ」

 

「いや何ゆーてんの?どう見てもそうだろ」

 

 事実、二人はどこに行くにしても一緒で腕を組んだりしているのだ。

 客観的に見ても十分にそういった仲には見えるだろう。

 

「うーん、えー?まぁ物理的な距離はだいぶ近いけどさ…どんな奴にでもそんな感じじゃない?

 別に俺だけがそう見られてる訳じゃ無いでしょ」

 

「うわー!これが彼氏の余裕ってか!!そんなに余裕ぶってると気付いた時には遅いんだぞ

 むかつくからボール当ててやる、オラ!」

 

 飯田は心底呆れた。あんなに良い彼女作っといてしかも彼女の方は新太をとても

 気にかけてると言うのに…

 

「あっぶな!!いやだから付き合ってねぇての!ホントどう言う事だよ」

 

「ハァ〜しょうがねえな。俺が二人が別れない様にアドバイスしてやんよ」

 

「いやだk「お前の自信はわかったから、聞くだけ聞けって」はぁ」

 

 新太は諦めた。おそらく飯田は俺が何をいっても聞く耳を持たないだろう。

 そして飯田は得意げに語り始めた。

 

「まずな、春園さんはお前とその他じゃ反応が全然違うからな。

 例えば朝お前が来ると絶対にお前の方に行くんだ。まずこれでお前がどれだけ大事かわかるな?

 あの子、凄い嫉妬深そうだぞ。」

 

「いや、ないない。春園がなんで俺に嫉妬するんだよ」

 

「彼氏が違う女の子と楽しそうにしてたらそりゃ嫉妬するだろ」

 

「彼氏じゃねぇっての」

 

「とにかくお前は覚えていないかもだけどなそん時の顔凄かったんだぞ。なんて言うかな…

 『何あの子、私の彼氏に色目使って…』って顔だったぞ」

 

「はいはい、覚えときまーす」

 

「お前絶対直ぐに忘れるじゃん!」

 

 この時の新太は軽く流したがこの事は後々意味を知る事になるのだった。

 

◆◆◆

 

 先日の飯田との会話をしてとある事に気づいた新太。

 それは自分と歩希の絡みが周りからしたらイチャイチャしてる様に見える事だ。

 正直、役得だなぁとショートする頭でいつも思っていたが周りからの

 見え方を知った今は話が別である。

 

「ねぇちゃん居る?」

 

「はいよー」

 

 新太は思った。女の事は同じ女に聞けばいいと。

 と言う事で新太は姉に聞く事にした。

 

「聞きたい事あるんだけどさ、女心って分かる?」

 

「あんた女に向かって何言ってのよ」

 

「それでさ、実は最近困った事があってさ」

 

「スルーしたわね…まあ良いわ。全てわかったわ。つまり女ね」

 

「間違っては居ないけどさ」

 

「いや〜遂に新太にも春が来たか〜。で、どんな相手で何があったの!」

 

「はぁ、えーとクラスの女子の距離が凄い近いんだけど、どうしたらいい?」

 

「キャーーーキター!!純粋で初々しい!!」

 

 騒がしい姉を目にしてちゃんと話を聞いてくれるか少し心配になったが

 スルーして続きを話す事にした。

 

「その子は元々家族関係で問題があったぽくてさ」

 

「それを新太が解決したのね!わーー!漫画の主人公みたいじゃない!!

 アンタやるわね!!」

 

「……それで距離が近いのはなんでかなーって」

 

「好きだからでしょ」

 

 姉は当たり前の様に言い切った。

 

「違うよ!他に、なんか、もっとないの!?」

 

「他にってそっちこそ他になんかないの?あるでしょ、良い感じのエピソード

 ない訳?」

 

「えー?そうだな……」

 

 新太は他に何か無いか思い出そうとした。

 すると気になる事が一つ。

 

「あ、なんか毎日ちょっとずつ距離を詰めて来るんだけど「キャー、なんていじらしい!」

 ……あれなんだよ休日とか土日挟んだ後だけグイって来るんだよ」

 

 すると姉は何か分かったのかニヤニヤとし出した。

 そしてやれやれと首を振った。

 

「ふ〜ん、なるほどねぇ。そんな事もわからないなんて新太の乙女心への

 理解度はまだまだね。」

 

「は?なんだよ」

 

「決まってるじゃない!好きな男子と二日もあえない。寂しくて寂しくて

 胸が張り裂けそう!!そして久しぶりに見る事で思いが溢れだす!どお!?」

 

 姉は語り終わった様でドヤ顔でこちらを向いた。

 一応姉の言葉を受け止めて新太は考える。

 

(とりあえず好きな男子とかは置いといて寂しいとかはあるかもな)

 

 姉に聞くまで失念していたが歩希には厳しい家庭環境という大前提があるのだ。

 やっと現れた自分の事を理解してくれる人。だが会えるのは学校のみ、休日という

 長い2日を家で過ごすのは苦痛だろう。

 

「ありがと。どうすれば良いか分かった」

 

「おお、じゃあ良い報告待ってるよー」

 

 部屋に戻るとボスッと自分のベッドに倒れ込み自分のすべき事を再確認する。

 

(春園は闇を抱えてるんだ…だから積極的に触れて来る。

つまりこっちからも積極的に接すればその内、家の事なんて気にならなくなるだろう。

今まで愛に触れて来なかった悲しき少女だ。

だからその分を俺が補ってやらなくちゃいけないんだ!)

 

 新太はその胸に強い決意を宿した。

 自ら女の人に触れに行くのはかなりのハードルがある。

 だがそれで彼女が救われるなら十分である。

 

 そうして新太と歩希の関係はまた変わり、今の様になった。

 新太は次の日から実行して歩希を含め、周りを驚かせたが直ぐに「あ、付き合ったんだな」

 となった。

 


 

 そして現在、長い長い回想を経て、新太は今……海外にいる。

 いや、正確に言うならば客船の上にて全力で楽しんでいた。

 

「「うわ〜〜!海、輝いてる!!」」

 

「あんまり身を乗り出して落ちないでよ〜」

 

「「はーい」」

 

 事の発端は数日前。姉がいきなり部屋に突撃してきた。

 

「新太!明日から旅行行くわよ!!豪華クルーズ船!大体1〜2週間」

 

「は!?いきなり何言ってんだ」

 

「実はさ〜この前福引で当てちゃったのよ。しかもその存在忘れてて〜w」

 

「はぁ、でも俺学校あるし……」

 

「ハッハッハ。すでに学校には所用で行けません。と言ってあるので問題ナシで〜す。

 と言う事で40秒で支度しな!家族全員で行くわよ!」

 

 と言う事で新太は突然ではあるが旅行に行く事になった。

 それではその間、歩希はどうなってしまうのだろうか。

 飼い主を失った忠犬はどうすれば良いのだろうか。どうやって生きていくのだろうか。

 

◆◆◆

 

 私には大切な人がいる。

 その人は唯一本当の自分を曝け出すことができて私の悩みを全て受け止めてくれる人。

 私の過去はただ一つ。ただ、良い姉である事だけを求められてそれに応えるだけ。

 弟が生まれてから親はそれだけを私に求めてきた。

 もちろん愛情だって少しは注いでいたのだろう。だけどそれは弟がいて初めて成り立つ私

 であってありのままの私ではない。

 

 私はちゃんと良い姉であろうとした。親からも周りからも褒められた。

 それが嬉しくて私は頑張った。明るく振る舞い、誰にでも優しい自慢の姉。

 全ては両親に褒めてほしい、認められたい。そんな子供のよくある欲求で。

 

 けどある日の事、そんな純粋な思いにも簡単にヒビが入ってしまった。

 

 その日は弟と近くの公園に遊びに行っていた。

 すると弟が他の子供が肩車されるのをみて私にもやってほしいと言ってきた。

 私は最初は無理だと思い断ったが駄々をこね始めてしまったのだ。

 私は代わりにおんぶする事にした。

 

「わーい!」

 

 どうやら喜んでくれている様だ。でも動かれると少しキツイかも。

 この時はまだ小学生で私には小さいとは言え弟を長時間も安定して持っていられる力はなかった。

 つまり......

 

「あっ、あまり動かないで...きゃっ!」

 

 当然の如くつまずいてしまった。

 さらに前のめりに転んでしまった為背負っていた弟の下敷きになってしまった。

 

「イタタ…」

 

 弟は転んだ時の恐怖で泣き出してしまった。

 自分の膝を見ると擦りむけて血が出てしまっている。いたい。

 だけど自分はお姉ちゃんだ。涙はこらえてまずは弟の心配をしなくちゃ。

 必死に我慢して弟に話しかようとした。

 

「ちょっと!!大丈夫!?何があったの!」

 

 どうやらお母さんが泣き声を聞いて駆けつけてくれたみたい。

 そのまま弟の元へ行き、頭を撫でてあやしている。

 少しして弟が落ち着くと次はこっちに来た。

 

 やった!自分も頭を撫でて貰える!!そう思って頭を前に出した。

 

 パシンッ

 

「え………」

 

 頬に走る痛みと衝撃で頭の中に空白が生まれた。

 

「何をやってるの!!」

 

 なんでそんなに怒ってるの?私お姉ちゃんしてたよ??

 

「なんで?そんなのあなたが弟を泣かせたからに決まってるでしょ!!」

 

 で、でも私は頼まれて、おんぶして。それで背中で動いちゃうから…

 

「自分のミスを弟のせいにしないで!!」

 

 でもほら!わたし泣かなかったよ。それで、それで…

 

「はぁ?その程度は姉として当たり前じゃないの?」

 

 

「それじゃあ、姉失格ね」

 

 

 わたしは目の前が歪んで真っ暗になって何もわからなくなった。

 私は親に今までの全てを否定されたのだ。褒められたいからその為に頑張ってきたのに。

 

 お母さんは弟をおんぶすると私の手を引いて歩き出した。

 私に出来るのは足をもつれさせながら痛みに耐えるだけだった。

 

 中学に上がっても私はまだ良い姉を演じていた。

 勿論とっくに親が私を見ていない事には気づいている。

 でも、心のどこかでもしかしたらと思って続けていたらもう戻れなかった。

 

 そして何事もなく3年が過ぎて高校に入った。選んだのは少し遠めの高校。

 家から近いと中学の人も一緒に来る事になる。

 私の事を知ってる人が居ない所なら、私は本当の自分を出していけると思ったのだ。

 

 だけど現実はそこまで甘くない。私が約十年もの間被り続けてきた仮面は

 固くくっついて取れなくなってしまった。

 

 結局高校も同じ様に過ごすのかなぁ…と思っていた。

 

「ねえ、春園さん。ちょっと話があるんだけどいいかな」

 

「?いいよ、新太くん」

 

 最初は告白でもされるのかと思った。

 実際に中学でも何回かあったけど、全部私の見た目が〜とか性格が〜みたいな

 結局は作られた外側しか見てないものだった。

 結果として女子からは妬まれて肩身が狭くなった。

 入学して半年も経たずにこれか……とか考えてたら。

 

「あー。なんかさ春園さんは悩みとかあったりしない?」

 

 予想とは全然違うものだった。初めての質問に無意識に警戒してしまう。

 

「どうしたの?いきなり」

 

「いや、無ければいいんだけどさ。なんとなく聞いただけ」

 

 その表情は何処となく何かを心配していて、『なんとなく』と言うくせに

 最初の質問は少し確信を得ている様な感じがあった。

 気になった、試したくなった。だから聞いてみた。

 

「ありきたりだけど隣で寄り添ってあげるとか、話を聞くとか?

 手を握って君の味方だよって言うだけでも全然違うんじゃないかな」

 

 じゃあ、なんで…

 

「偶に苦しそうな顔をしてる様に見えたから……

 ってずっと見つめてたとかいう訳じゃ無いけど」

 

 バレてたんだ。上手く隠してるつもりだったんだけどな。

 

「……そっか」

 

 この人はちゃんと私を見てくれたんだ。

 この時はまだ私の気持ちに整理がついてなくて逃げる様に帰ってしまった。

 家でも彼の事が頭から離れない。

 だから次の日から私はこの人の近くにいる事にした。

 寄り添ってくれるんでしょ?私の味方なんでしょ?

 

 暫くして私は完全に彼の虜になっていた。

 私を呼んでくれる声が好き。安心さてくれる匂いが好き。

 私に触れてくれる手、そこに居るって感じさせてくれる体温、そして何より君の暖かい心が好き。

 

 いつでも何処でも君の事で頭がいっぱいで

 休みの日は会えないから寂しくなる。

 でも月曜日になったらまた会えるから頑張れる。

 

 君が他に女の子と話してるのを見ると胸が苦しくて

 つい睨んでしまう。私が居るんだからそんなに親しくしちゃダメだよね?

 私わかるよ?君が相手の体見てる事に。触りたいなら言ってくれれば良いのに。

 

 君との毎日が楽しくてたくさん笑顔になれた。私には仮面の外し方はわからないけど

 本当の自分として生きていると思えた。

 君から接してくれる様になった時は嬉しくて舞い上がったりもした。

 

じゃあなんで私を捨てたの……

 

 

◆◆◆

 

「それじゃあホームルーム終わるぞ」

 

 いつもの様な呑気な声でホームルームが終わる。

 だが歩希の心は穏やかではなかった。

 

「先生、新太は今日も休みなんですか?」

 

「なんだ、聞いてないのか。

 確かにここ二日は休んでるが病気って訳じゃないからな心配はしなくて良いぞ」

 

「よかったぁ…じゃあなんで休んでるんですか?」

 

「ああ、所用あるから暫く登校はできないらしい」

 

 新太が病気ではない事に安心はしたが、「暫く登校できない」と言うところに疑問が出る。

 歩希の知る新太は黙って何処かへ行く様な性格では無いはずだ。

 だったら何故、どうして……

 

(しばらく学校に来ない?会えないって事?な、なんで言ってくれなかったの。

もしかして会いたくないって事?)

 

 彼は今何処にいて、何をして、あとどれ程で帰ってくるのだろう。

 そして気付いた。自分と彼の繋がりはここ(学校)しかない事に。

 歩希は新太の家も知らなければ連絡先さえ知らない。

 歩希にとってスマホは薄い言葉が永遠に送られてくるだけの板であり、持っているだけで

 大して使うこともないので忘れていた。

 そして何より慢心していた。学校では絶対会えるから、と。

 

 歩希はどうすれば良いかわからなくって俯いてしまった。

 もう歩希には何もできない。連絡手段もなければ家の場所もわからない。

 

 

「あ〜……そうだな。そう言えば今日はプリントが多かったな〜

 そこら辺に届けてくれそうな人居ないかな〜」

 

「……ぇ?先生?」

 

 突然、わざとらしく声を上げた先生に面をくらってしまう歩希。

 

「おっと、そこにいるのは今日休みの犬飼と仲のいい春園じゃないか

 申し訳ないんだがこのプリント届けてくれないかな〜」

 

 先生の手には一枚のプリントが握られていて間違っても多いとは言えない量だ。

 だが歩希は段々と先生の意を察してきた。

 

「先生!私がプリント持って行きます……あっ。でも場所が…」

 

「大丈夫だ。学校には生徒の情報がプロファイルして置いてあるからな。

 ただし、俺に教えられた事は絶対に言うなよ。一発でアウトだからな。」

 

 歩希は初めて先生が頼れると思った。

 そしてすぐに職員室へ行き住所を教えてもらった。

 

「先生、ありがとうございました。早速行ってきます!」

 

 先生に感謝を伝えるや否や歩希は急いで新太の家へと向かった。

 

「あ、おい!せめて放課後に……行っちゃった。

 ったく、暫くって言っても一週間ないのになぁ」

 

◆◆◆

 

「はぁ、はぁ…ここが新太の家……」

 

 十数分後、歩希は新太の家の前に立っていた。

 誰か中にいないか確認してみるが電気は付いていなかった。

 念の為にインターホンも鳴らしてみるが待ってみても返事は無かった。

 

(どうしよう…家にいない。でも車はあるって事は歩きとかって事だよね。

すぐに帰ってくるって事だよね………待たなくちゃ)

 

 歩希はドアのすぐ側で腰を下ろした。

 時折り顔を出して誰か来ないかと見て誰も来てなくて

 足音がしてバッと顔を上げても全然違う人で落胆して。

 そんなこんなで夕方になってしまった。

 

 それでも歩希は待っていた。

 きっと、きっとすぐ帰ってくるから。

 

 だが当然の如く新太は帰ってこない。

 歩希はもう道路を覗く事すらやめてしまった。

 ただぼんやりと時間が過ぎていった。

 

「へくちっ………?」

 

 唐突に出たくしゃみと共に歩希は顔を上げた。眩い光に目を細める。

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。体は芯まで冷え切っている。

 風邪を引く事は間違いないだろう

 

(結局帰ってこなかったんだ……)

 

 しかしこのまま凍えている訳にもいかない。

 立ってそこら辺でも歩こうか。

 歩希は重い身体を持ち上げ歩みだ……せなかった。

 

「っ!!」

 

 立つ所までは上手く行った。ただ、一歩目から崩れる様に倒れてしまった。

 もう一度立とうとするが足に力が入らない。次第に視界が白く染まってきた。

 息が荒くなってやけにそれが耳に響く。心なしか頭も回らない。

 

「うわっ!ちょっと、大丈夫ですか!?」

 

「今すぐ救急車を......」

 

◆◆◆

 

「お大事に~」

 

「で、どういうことなのか説明してくれる?」

 

「………」ぐうううぅぅ

 

「はぁ、まずは家でご飯ね。話はそこで聞くから」

 

 簡単に言うと私は貧血と約一日飲まず食わずだったせいで倒れた。

 ずっと座ってたのにいきなり立ったから頭に血が行かなかったのだ。

 そこを通りがかった人が助けてくれたというわけだ。

 車の中で気まずい時間をしばし過ごして家に着いた。

 

 

「はい、食べなさい」

 

 出されたのは食べやすい雑炊。仄かな塩味が体に染みる。

 

「で、何があったの」

 

「っ………」

 

 正直言いたくなかった。お母さんには今まで新太の事を話したことがない。

 何より新太が居なくなったという事実を受け入れたくなかった。

 食べ終わっても私には俯くことしかできなかった。

 

「はぁ、黙ってても何もわからないんだけど。

 昨日帰って来なかった時は先生に聞いて友達の家にいったのまではわかったわ。

 正直この時点でも連絡して欲しかったけど歩希はあまりスマホを使わないし。

 それでさっき病院から電話が来た時の私の気持ちわかる?

 人の家の前で飲まず食わずで居座ってたら倒れたですって」

 

 お母さんは改めて私の目を見た。

 

「何を考えてるの!その家の人にも、私達にも迷惑かけて!

 どうするの?あの子が小学校で『あの子の姉は人の家の前に居座るらしい』

 なんて言われたら。そもそもね一日中なにも飲まない、食べないなんて

 死にたいの!?ってちょっと!!どこに行くの歩希!」

 

 目から流れる雫をそのままに私は自分の部屋のドアを叩く様に閉めた。

 

(結局私を見てくれるのは新太だけ…。でも新太いなくなちゃった。

死にたいの?…か。新太が居ない世界で生きている意味ってあるのかな)

 

 

 

◆◆◆

 

「フ〜〜〜!久しぶり!ニッポン!」

 

「いやー楽しかったわね。あぁ、このお菓子友達の分まで残せるかしら…」

 

 太陽が輝き、カモメの声が心地よく耳に届く港で犬飼一家は一週間振りに

 日本の地に足をつけた。

 両手にはスーツケースとお土産を握りしめている。

 

「二人ともはしゃいでるとこ悪いけど、お母さんたち早くタクシーで休みたいわ」

 

「はーい、じゃあ早く乗り場行こ」

 

 早速タクシーを捕まえて乗り込んだ。

 新太の膝には大量のお土産とは別の小さな紙袋が置いてある。

 彼女は気に入ってくれるだろうか。

 今はそんな事を気にしても仕方がない。

 先にトランクにある大量の荷物を気にするべきだ。

 

 今日は日曜。明日には学校へ行くから一日で終わらせなきゃ。   

 


 

 久しぶりに校舎を見る。そして何故か周りから見られる。

 いや、おそらくあれだろう。一週間丸々居なかったんだ不思議がられてもおかしくない。

 俺と歩希はセットみたいに思われてるから、今日までは歩希一人だったからな。

 

 …早く教室へ行くか。

 なんとなくで早歩きをして教室へ行く。扉を開ければいつも見る面々が。

 

「おはよ。お前ら久しぶりだな!」

 

「あ、犬飼!今まで何してたんだよ!」

 

「聞いて驚け、ちょっと船で優雅に旅を、な」

 

「お前何やってんだ!」

 

 そんなに羨ましいか、と思ったら何か違う様だ。

 むしろ何か、切羽詰まっている様な気迫を感じる。

 

「お前、春園さんはどうした」

 

 歩希?教室を見渡してみると…確かに居ないな。

 いつもなら一番に学校へ来て待ってましたと言わんばかりに俺の所へ来るのに。

 

「歩希居ないじゃん。休みか?」

 

「ああ、そうだよ居ないんだよ!お前のとこ行くって学校抜けてそれっきり!!」

 

「え?どういう事だ」

 

「数日前に先生が春園さんはお前のとこに行くって言ってたんだよ。

 でも次の日には春園さんも来なくなっちゃって先生に聞いてもなんでかはぐらかすし」

 

 旅行に行っている間に歩希が俺の家に来た?

 何でそんな事を……

 

 その瞬間、俺は走り出していた。

 

「おい、何処行くんだ!?」

 

「歩希の家だ!いかなきゃ!!」

 

 全速力で廊下を走る。歩希は俺の家の場所を知らないはずだ。

 ならば誰かに聞いたはずだ。それは…

 

「先生!歩希の家教えてください!」 

 

「おわっ!犬飼、久しぶりに来ていきなりだな」

 

「いいから教えてください。今すぐ行きたいんです」

 

「はぁ、お前もかよ。一応言うがこれ、個人情報の流出と大差ないからな。

 まぁ、もう一回やっちゃってるけど」

 

 先生は渋々デスクからファイルを取り出してパラパラめくりだした。

 とあるページで手を止めてメモ用紙に素早く書き写していく。

 

「ほれ、これが住所だ。行きながらでもスマホで調べれば出てくるだろ」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺は先生からメモを受け取ると直ぐに駆け出した。

 

「お前は今日はサボり扱いだからな。これぐらい受け入れろ。

 あと事故だけは……っていないし」

 

◆◆◆

 

 市街地を駆け抜ける。偶に歩いている人を避けて、スマホで現在地を確認する。

 手に握る荷物が煩わしくて置いてこなかった事を後悔する。

 

「ハァ、ハァ……クソッ」

 

 ああ、なんで忘れていたんだ。春園歩希という少女について自分はよく知っていただろ。

 歩希のあの陰を忘れていたわけではない。それを消し飛ばせるくらい楽しませようとしていた。

 でも油断していた。今の歩希なら俺がいなくても周りの人と過ごせると思っていた。

 

「こ、この辺りに…」

 

 スマホを見るにこの辺りのはずだ。表札を手前から順番に見ていく。

 

(浅木、前田、これも違う……久遠、春園!あった)

 

 春園と書かれた家の前に立った。おそらく歩希はここに居るはずだ。

 一度だけ深呼吸して呼び鈴を押した。

 

「すみません、春園歩希さんのお宅で間違い無いですか?

 同じクラスの犬飼新太です」

 

 ……反応がないな。もしかしていないのだろうか。

 念の為にもう一度押してみるか。

 

「お待たせしてごめんなさい。もう始業の時間だと思うのだけれど、うちの娘に何か?」

 

 ボタンに手を置いたところで丁度女性が出て来た。

 見たところ歩希の母親だろう。

 

「歩希さんがここ数日休んでるって聞いて…えっと今家にいるんですか?」

 

「ええ、居るには居るんだけど……」

 

 そこから聞いた話によっておおまかな経緯は知ることができた。

 だが歩希の母親から聞こえたのはあまりいい言葉ではなかった。

 聞いている限り少しは歩希の心配をしているのだろう。

 だがどちらかと言えば自分やその周りを気にしているだけに見える。

 

「会わせてもらえませんか?」

 

「構わないけど…あの子、今ちょっと不安定みたいで私にも心を開いてくれないの気をつけてね」

 

(そりゃそうだろうな。だって原因はあんただろ)

 

 内心で悪態をつき、出来るだけ表に出ないように気を張る。

 やがて案内されたのは一つのドア。

 

「ココが歩希の部屋です。さっき犬飼君が来たときに声をかけたんだけど返事がなくて…

 帰る時は一声かけてくれたら嬉しいわ。それじゃあね」

 

 一言だけお礼をつげた。なんていうか直ぐに帰ると思ってそうだな。

 改めてドアを見る。この奥に歩希はいるんだ。

 

「やるか…歩希、聞こえてるか。急に居なくなってゴメンな。話がしたいんだ開けてくれるか?」

 

 …返事がないが微かに物音がした。

 

「今思えばさ、歩希の事を学校以外じゃあまり知らなかったなって。

 だからさ、これからは学校以外でも会わない?

 いっぱい遊ん「やめてよ!」」

 

「私を惑わさせないで!もう私に囁かないでよ。いないってわかってるんだから!!」

 

 やっと聞けたその声はあまりにも悲痛なものだった。

 歩希は俺の事を幻聴か何かだと思っているらしい。

 ここまで追い込まれてしまったのは俺のせいでもあるのだろう。

 

 俺がするべきなのはこの扉を開けてもらうのではなく開ける事なのかもしれない。

 

「歩希、入るぞ」

 

 幸いにも部屋に鍵の類は無い。込めた力はそのままドアを押し開けていく。

 まず目の前に入って来たのはベッドの上で丸くなっている歩希の姿だった。

 それはあまりにも弱々しく必死に身を守ろうとしている子供に見えた。

 

「ぃや、こないで……」

 

 俺は迷わず歩希を抱きしめた。

 歩希は引き剥がそうと抗うがそれも押さえつけるように腕に力を入れる。

 そして優しく背中を叩く。子供をあやす様にトン、トンと。

 

「歩希…歩希、俺はここにいるよ。もう何処にも行かない。こっちを見て」

 

「……あ、れ…あらた?ほんもの??」

 

 歩希は初めて俺の目を見た。戸惑いと迷いを露わにしながら。

 俺は真っ直ぐ歩希の目を見つめた。

 

「本物だよ。ほらこうやってちゃんと触れられる」

 

「うぅぅ、あらた〜〜」

 

 歩希は泣き出して俺に抱きついた。何も言わずに頭を撫でる。

 

「なぁ、歩希。言いたい事があるんだ」

 

 俺のその一言に歩希の体が少し震える。

 だがあえて俺は真面目な雰囲気を出した。

 

「歩希、俺達は学校でずっと一緒にいたよな。めっちゃ楽しかった。

 でもさっき、俺は歩希の事全然知らないって感じた。

 だからお前の事をもっと知りたい。学校以外での歩希を知りたい。

 春園歩希さん、あなたが好きです。付き合ってください」

 

 歩希は大きく目を見開き、息を飲んだ。

 たった今告げられた言葉を理解しようと思わず固まってしまう。

 その静かな時間はとても長かった。でも新太はそれすら大事に噛み締めていた。

 やがて歩希はゆっくりと口を開いた。目にはいっぱいの涙を浮かべて歓喜に身を震わせながら。

 

 

 

「うん、私も新太の、事が、大好きです、愛してます。

 こちらこそ、よろしくお願いします……!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 愛する彼を抱いていた腕をゆっくりと離した。

 さっきまで胸に渦巻いていた不安も絶望も今はどこにも無い。

 あるのは唯、目の前にいる大切な人に対する愛と依存心だけだ。

 

「歩希、落ち着いたか?」

 

「うん、ありがと」

 

 彼の声が私の心を暖めてくれる。

 さっきまで泣いていた事を考えると変な顔をしていなかったか、

 恥ずかしい姿を見せてしまった。と顔が赤くなるが微かに歓喜も感じていた。

 「私の事がもっと知りたい」そう言ってくれた。

 こういう情けない姿を見せるのも少し、ほんの少しは悪くない。

 

「……///」

 

 まぁそれでも恥ずかしい事に変わりはないが。

 

「…?ねえ、あの袋って何?」

 

 ふと目を逸らすと扉のそばに学校のバックとは別に小さな紙袋が置いてあった。

 

「ああ、実はここ一週間は旅行に行ってたんだ」

 

 初めて知った真実に少しだけムカッとしてしまう。

 

「へー、私が悲しんでる間にそんな事してたん………だ」

 

 新太が紙袋から小さな長方形の箱と正方形の箱を出して来た。

 

「実は学校で渡そうと思ってたんだけど……こんな形になっちゃった。

 開けてみて」

 

 彼から箱を手渡された。簡素な装飾だがむしろそれが高級感を引き出している箱だ。

 私は少し困惑しつつも箱を開いた。

 

「わぁ……綺麗」

 

 中身は可愛らしいヘアピンとネックレス。

 彼自身が選んでくれたのだろうか。

 こういったプレゼントを貰うのは初めてだ。

 目を輝かせていると彼が心配そうに聞いて来た。

 

「あーその、気に入ってくれたかな」

 

 こちらを伺う様な顔に少し笑ってしまう。返事は一つしかない。

 大事な大事な装飾品を身に付けながら言う。

 

「当たり前じゃん。だって彼氏からの初めてのプレゼントだよ!

 どう?似合ってる?」

 

 彼は聞き返されると思ってなかったのか豆鉄砲をくらってしまった。

 でもすぐに気を取り直して答えた。

 

「当たり前じゃん。可愛い彼女が身につけてくれたんだぞ」

 

 答えはひとつしかなかった。

 




主人公 犬飼 新太(いぬかい あらた)
天才的な推理力で女の子を一人救ってしまった。
いい男すぎる。

ヤンデレ娘 春園 歩希(はるぞの ふき)
家庭環境(主に母親)のせいで生まれたヤンデレ娘。
どこかの天才的推理力のおかげで闇を暴かれ依存心をこれでもかと
持ってかれた。交際する様になった事で闇は大体消し飛んだ。
尚、依存心と独占欲は置き土産。
犬→歩くの大好き=嬉しい→歩喜→歩希

姉 (A級戦犯)
姉、名前などない。豪運の持ち主。
その豪運によって商店街の福引で一山当ててしまった。
結果的には良くなってるので、二人のキューピッドと言えなくもない。

以下後書き

皆様お久しぶりです。実は去年の12月21日に1周年を迎えています。
4ヶ月と長い期間が空いても書こうと思えるのは皆様のお気に入り等で目に見える応援があるからです。
ありがとうございます。
次の話に関してはかなり頭の中ではできているのですぐ投稿できるかと思います。
これからもこの作品をよろしくお願いします。続きは活動報告で。

お気に入りと感想、評価をしてくれると次は4ヶ月も間が開かないぞ!!
ついでにアンケート答えて(はーと)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。