視聴覚室に移動した乃亜たち3人と、理亜、花樹、桜花、そして、あつこ、視聴覚室に到着するなり、あつこ、花樹に対して、
「花樹さん、申し訳ないのだけどこのDVDをセットしてくれませんか?」
これには、花樹、
「あぁ、いいけど」
と返事するとともにあつこが持っていたDVDを受け取っては視聴覚室に設置してあるデッキにそのDVDをセットした。
すると、あつこ、乃亜たち3人に対してこんなこと言ってきたのである。
「乃亜さん、智君、そして、紅奈さん、今から見せるものをできる限り覚えてください。これはあなたたちにとって初めての曲になります。そして、今を苦しんでいるあなたたちにとって救いになるものになるかもしれません。なぜなら、これはあなたちの先輩である私たちからの贈り物なのですから・・・」
このあつこの言葉に乃亜たち3人は、
ゴクリ
と唾を飲み込む。それくらい乃亜たち3人にとってあつこの言葉は重みのあるものであった。
と、そうこうしているうちに映像が始まる。すると、智、びっくりする。
「この曲、初めて聞いた。これが僕たちにとって初めての曲・・・、そして、この(映像に映る)パフォーマンス、まるで僕たちを映し出したようなものだ・・・」
そう、今、乃亜たち3人が見ている映像、それは、新曲、乃亜たちにとって初めての曲、その曲をバックにパフォーマンスしている3人組の映像だった。だが、それはただの映像ではなかった。それは、まるで、乃亜、智、紅奈、その3人が乗り移ったような、そんなパフォーマンスをしている3人組の映像であった。これには、乃亜、
(こんなふうに動けばみんなと合わせることができるんだ。とても参考になる!!)
と食い入るようにその映像を見ていた。
そんな乃亜の姿を見てか、桜花、こう考えてしまう。
(たしかにこの映像はとても参考になる。というのも、車椅子の乃亜のために車椅子のパフォーマーを入れてパフォーマンスをしている。だからこそ、車椅子の乃亜だけでなく一緒にパフォーマンスをする智と紅奈の参考にもなる。それくらいこの映像はうまくできている・・・)
そう、このDVDの映像であるが、車椅子の乃亜のために車椅子のパフォーマーを入れてパフォーマンスをしている、そんな映像だったのだ。これなら車椅子の乃亜もこの映像が参考になるだけでなく乃亜と一緒にパフォーマンスをする智と紅奈も参考になる、それくらい考えられたパフォーマンスだったのである。むろん、この通りに動けば乃亜たちがパフォーマンスをする際、ぶつからずに済む、といえた。
そんなパフォーマンスの映像を見て、花樹、あることに気づく。
「でも、この映像のパフォーマーだけど、車椅子のパフォーマー以外は、たしか、理亜と聖良のはず。でも、もう一人・・・、車椅子のパフォーマーはいったい誰?」
そう、このDVDの映像に出演しているパフォーマーの3人のうち、車椅子のパフォーマーを除く2人は聖女スクールアイドル部の顧問をしている理亜とその姉である聖良であった。これには、理亜、
「久しぶりに姉さまと一緒に踊れた!!とても嬉しかった!!」
とドヤ顔で自分の感想を述べていた。
そんな理亜はさておき、桜花、その花樹の言葉を受けてか、こんなことを言い出してきた。
「あの車椅子のパフォーマーって、もしかして、私のお姉さま、旺夏じゃないかしら!!」
これには、あつこ、
「たしかにその通り!!あの車椅子のパフォーマーは桜花(はな)さんのお姉さん、今や車椅子ラグビー界のエース、木松旺夏さんです!!」
とこれまたドヤ顔で答えていた。そう、この映像に映る車椅子のパフォーマーは、桜花の姉、旺夏、であった。木松旺夏、高校時代、女子サッカー界のエースとして君臨していたものの、父木松悪斗譲りの傲慢な性格、そして、ゆがんだ「勝利至上主義」によりAqoursと敵対視していた人物である(前作「SNOW CRYSTAL」参照)。だが、高校生活最後のインターハイ県予選決勝で起きた悲惨な事故により旺夏は一生車椅子生活を余儀なくされるくらいの大怪我を負ってしまう。これによりサッカー選手としての選手生命を絶たれてしまった旺夏はそれにより一時期生きる意味を失ってしまうも自分の妹である桜花の働きもあり改めて生きる意味を見つけることができただけでなく改心したのである。それ以降、旺夏は車椅子ラグビーという競技を通じて成長していき、今や、日本の車椅子ラグビーのエースとしてみんなを引っ張っていく存在になったのである。
そんな旺夏の、この映像のパフォーマンスを見て、桜花、少し涙を流す。
「まさか、私のお姉さまが車椅子の乃亜のために協力してくれるなんてとても嬉しいです。私、とても感動しました・・・」
この桜花の言葉にあつこはこう答えた。
「桜花さん、お姉さんである旺夏さんから伝言です、「桜花、私は車椅子の部員が聖女のスクールアイドル部にいることを聞いて姉なりに妹への恩返しとして今回のことを協力させていただきました。桜花、その車椅子の部員とともにこれからも頑張ってください」、と・・・」
この姉旺夏からの伝言、これには、旺夏の妹である桜花、
「旺夏お姉さま、本当にありがとうございます。お姉さまの言葉、目にしみます。乃亜とともにこれからも頑張っていきます」
と涙をさらに流しながら空に向かって誓ったのである。
そうこうしているうちに映像が終わった。正味5分、それくらいの長さであった。だが、乃亜たち3人からすればとても長く感じられるものであった。というのも・・・、
(これが私たちにとって初めての曲・・・。そのパフォーマンスを完璧にマスターすることって本当にできるのかな・・・)(乃亜)
(このパフォーマンス、とても完璧なものだった。それを僕たちだけでしないといけない。これは責任重大だ・・・)(智)
(久しぶりに理亜たちの本気のパフォーマンスを見た・・・。ただそれをただの道具である私にできるのだろうか・・・)(紅奈)
と、このパフォーマンスを自分たちだけで完璧にマスターしないといけない、という思いでいっぱいだったからである。それくらい乃亜たちからすればかなりのプレッシャーを感じていたのである。むろん、それはこの映像のパフォーマンスがとても完璧だったことを物語っていた。そんなこともあり乃亜たち3人ともとても暗い表情をしていた。
そんな乃亜たち3人を察してか、あつこ、乃亜たち3人に対してこう告げた。
「乃亜さんたち、あまり重く受け止めなくてもいいんですよ。たしかに、理亜さん、聖良さん、旺夏さんのパフォーマンスはとても完璧でした。むろん、昨日、合わせたばかり乃亜さんたち3人にとってとても大きなハードルに見えたかもしれません。ですが、理亜さんたちのパフォーマンスを完璧にマスターしろとはいいません。それよりもこのパフォーマンスに少しでも近づくように頑張ってみてください。だって、スクールアイドルは「楽しむことがすべて」、なのですから・・・」
「楽しむことがすべて」・・・、その言葉を聞いた瞬間、乃亜、こんなことを考えてしまう。
(「楽しむことがすべて」・・・、たしかにその通りかもしれない・・・。だって、この映像のパフォーマンスを見て、私、この完璧なパフォーマンスを完璧に覚えないといけない、と思っていた。だけど、あつこの言葉を聞いてちょっとほっとした。だって、スクールアイドル初心者である私でもこの映像のパフォーマンスにできる限り近づけることはできる、それは、「スクールアイドルは楽しむことがすべて」、その考えのもとでできるから・・・)
そう、スクールアイドルは「楽しむことがすべて」、である。もし、この映像のパフォーマンスを完璧に覚えたとしよう、花樹や桜花、理亜みたいなレジェンドスクールアイドルの能力があれば楽しく踊れるかもしれない。だが、乃亜はスクールアイドル初心者である。そんな乃亜に対して「この映像のパフォーマンスを完璧に覚えろ」と命令されてしまっては「楽しむこと」なんてできない、いや、むしろ、乃亜に無理やりさせているように感じてしまう。そう考えるとあつこが言う、「この(映像の)パフォーマンスを少しでも近づく」ように頑張るのであればスクールアイドル初心者である乃亜であっても頑張ることができるのである。それはまわりから無理やりやらせるのでなく乃亜自ら頑張ることで「スクールアイドルを楽しむ」ことができる、そう考えることもできる、のかもしれない。それくらい今の乃亜からすればあつこの言葉は心に響くものであったのかもしれなかった。
とはいえ、理亜は乃亜たち3人に対してこう鼓舞した。
「乃亜、智、紅奈、この新曲を引っ提げて今度のお休みに行われるお祭りのステージに参加しようと思っている。だから、3人とも、この映像を3人のスマホに送ったから各自で復習するように。そして、あつこの言う通り、少しでもこの映像のパフォーマンスに近づくように頑張りなさい!!」
この理亜の言葉に乃亜たち3人とも、
「「「はい、わかりました!!!」」」
と声を合わせて言った・・・。
それ以降、乃亜の生活は一変した。自分たちにとって初めての曲、その映像のパフォーマンスに少しでも近づくこと、そんな目標がたった今、乃亜は今ある時間を少しでもその目標のために使った。たとえば、自分の家に到着するなり、乃亜、
「車椅子をこう動かして・・・、ああして・・・、こうして・・・」
とその曲の動きを一生懸命車椅子を動かしながら復習していた。乃亜自身、この曲に会うまでは自分はどうパフォーマンスをすればいいかわからないところがあった。というのも、車椅子のスクールアイドル、いや、アイドル自体そんなにいなかったのだ。そのため、自分のパフォーマンスの参照となるアイドルがいなかったのだ。そのため、乃亜は花樹と桜花と一緒にどうパフォーマンスすればいいのか右往左往しながら探っていたのである。が、今回の新曲の旺夏のパフォーマンスを見て乃亜は感じるものがあったのだろう、乃亜はその映像の旺夏のパフォーマンスに少しでも近づこうと頑張っていたのである。
ただ、このときの乃亜はとても充実していた。というのも、乃亜、この旺夏のパフォーマンスに少しでも近づくためにいろいろと頑張っていくうちに、
(なんか目の前にある目標に向かって頑張っている自分がいる、そう考えるとなんか楽しく感じちゃう。だって、頑張った分だけ「私は成長しているんだ」と感じることができるから・・・)
と考えるようになったのである。乃亜、これまでは暗中模索の毎日だったため、そこまでスクールアイドルとしての実感が乏しかったのである。まぁ、個別練習より乃亜自身は上半身を中心にパワーアップを果たしてはいたが、それはどの競技にもいえることであり、乃亜自身、個別練習のときは「スクールアイドルをしている」というよりも「全体的なパワーアップをしている」と感じることが多かった。だが、その個別練習により基礎という土台ができたこと、競技用の車椅子という乃亜にとってとても大きな武器を手に入れたこと、そして、自分たちにとって初めての曲、その曲のパフォーマンスに少しでも近づくという目標ができたこと、それが乃亜にとって1つのターニングポイントとなった。これらのことにより乃亜はその目標に向けて自分の土台である基礎と競技用の車椅子という武器でもって一生懸命頑張っている、それは乃亜にとって、「スクールアイドルを楽しんでいる」、そう感じさせるものとなった。なので、乃亜、今、とても充実していた・・・。