そんなわけでして、智、そんな絶望状態の紅奈に対し、
「それじゃ、紅奈、そうならないためにどうしたらいいと思う?」
と優しく尋ねると、紅奈、
「私、不幸な人生を送りたくない。智、どうしたらいいか教えて」
とすがるように問いかけてきた。そんな紅奈に対し、智、優しくこう答えた。
「それはね、僕と一緒にまわりに抗うことだよ」
この智の答え、これには智の次のような思いがあった。
(紅奈が僕と一緒にまわりに抗うことができれば紅奈はきっと自分のことを「道具」だと思わないはず。だって、まわりに抗う道具なんてないのだから・・・)
そう、智は、紅奈が智と一緒にまわりに抗うことができれば紅奈は自分のことを「ただの道具」であると思わなくなる、そう考えてのである。
そんな智の答えに対し紅奈はこう考えてしまった。
(たしかにこのままだと私は絶望し続けるしかない。でも、私はただの道具・・・。ただの道具だからこそまわりに抗うことなんてできない・・・)
そう、紅奈はまだ自分のことをただの道具だと思っていたのである。ただの道具だからこそまわりに、自分の両親に抗うことができない、紅奈はいまだにそう思い込んでいたのだる。それくらい、紅奈の両親からの洗脳はいまだに生き続けていたのである。そのためか、紅奈の口から、
「私はただの道具・・・。だから、まわりに抗えない・・・」
といまだに弱気な発言をしていた。
そんな紅奈の言葉に智はこう考えてしまう。
(紅奈はいまだに洗脳が解けていない。ならば・・・)
そんな智の思いからか、智、紅奈に対して脅しをかける。
「紅奈、このままだと、自分がただの道具あと思い続けたら、きっと不幸な人生を送ることになる!!それは絶対に嫌だろ!!」
この智の脅しの言葉は今さっきの、不安の、絶望の思いに浸かっていた紅奈にとって効果は絶大だった。だって、智のこの言葉を聞いて紅奈はこう考えてしまったのだから・・・。
(うぅ、たしかに、このままいけば、自分が道具であると思い続けていたら絶対に不幸な人生を送ることになってしまう。そんなの私にとって絶望じゃない・・・)
智が紅奈に先ほどみせた未来への絶望は紅奈にとってトラウマになろうとしていた。そこに智のさらなる脅しにより紅奈の不安は最高潮に達しようとしていた。そんとためか、紅奈、さらに弱気になってか、
「私・・・、このままだと・・・、絶望・・・するしかない・・・」
と生きるのを諦めたような言葉を発してしまう。
そんな弱気になった紅奈に対し、智、
(さらにさらに畳みかける!!)
と思っては紅奈に対しこう言う。
「だからこそ、紅奈、僕と一緒にまわりに抗おう。そして、紅奈、道具という考えから一緒に飛び出そう!!」
そんな智の言葉に対し、紅奈、ついにこう考えるようになった。
(このままだと、ただの道具のままだと、私、絶対に不幸になってしまう。そんなの嫌だ!!絶対に嫌!!それなら、私、道具という考えから飛び出したい!!)
そう、ついに紅奈も自分の両親の道具から、いや、これから先の絶望という未来、そうならないためにも「両親のただの道具」から飛び出そうと考えるようになったのである。
だが、紅奈、そこにある種の不安がよぎってしまう。それは・・・、
(でも、その道具から飛び出して本当に輝かしい未来へと進めるのだろうか?そう限らないのでは・・・。もしかすると今以上に悪くなるかも・・・。そんなもの嫌!!)
そう、たとえ紅奈がまわりに、自分の両親に対して抗ったとしても本当に今以上に幸せになる、とは限らないのである。これまで自分の両親のただの道具であった紅奈であるが、その道具から飛び出して一からやっていく、それすなわち、これまであった平穏な生活すべてを失うことを意味していた。それは承諾した上で最初から自分自身ですべてのことをしないといけない、さらに、それが輝かしい未来へとつながるとも限らない、もしかすると、今以上に悪くなる、そう紅奈は危惧していたのである。そのためか、紅奈、智に対して、
「でも、そうしたとしても本当に私が幸せになるとは限らないでしょ。そうだったら私はただの道具でいた方が・・・」
とさらに弱気になってしまった。
そんな紅奈をみてか、智、こう感じた。
(紅奈にとってまわりに抗うことはすべてを失うことを意味するのか。だからこそ、紅奈はまわりに抗うことをためらってしまうんだ・・・)
智は紅奈の今の状況を感じていたようである。すべてを失う、それは紅奈にとってとても勇気がいること、いや、大きな決意がいることだった。そのため、これまで自分のことを自分の両親のただの道具、としか考えていなかった紅奈にとってそれはとても大きな決断だといえた。そう考えると紅奈がそれをためらっているのも不思議ではなかったのだ。
というわけで、智、紅奈についてもう一度考えてみることにした。
(紅奈と僕はどっかで似ている。これまでの人生、いつもまわりから強要されている、だからこそ、僕は紅奈に共感してしまう。その共感があるからゆえに僕は紅奈に対してなにかしたい、一緒になにかをしたい、そう思ってしまう。それって一種の仲間意識なのかもな・・・)
智にとって紅奈は一種の仲間だと考えていた。それはこれまでの人生が2人とも似ているからなのかもしれない。前述の通り、智と紅奈は似たような、ともにまわりからなにかを強要されてしまう人生を過ごしてきた、智はそこに共感し紅奈のことを仲間だと思ったのだ。だからこそ、そんな紅奈に対して一緒になにかをしたい、いや、紅奈と一緒にまわりに抗いたい、そう智が思ってもおかしくはなかったのだ。
だが、そんな紅奈はその先への一歩をだすことができずにいた。すべてを失いながらもその先の輝かしい未来へと進む、本当にそれができるのか、という不安を紅奈が感じていたからだった。そんな紅奈の不安を感じていた智は仲間意識からか紅奈のことをこう思ってしまう。
(僕は「(仲間だと思っている)紅奈と一緒にまわりに抗おう」と言った。それは自分自身がその言葉自体に責任を持つことになる。対して、紅奈はその責任を持つことに躊躇している。紅奈はその責任を負うこと自体不安に感じているんだ・・・)
自分が言うこと、それにはすべて責任がついてくる。その責任がついてくるからこそ自分が言うことには信憑性がつくのである。なので、智が紅奈に言ったこと、「自分と一緒にまわりに抗おう」、その責任は智が負うことになる。ところが、もし、紅奈が智の言うことに同意した場合、紅奈もその責任を智と一緒に負うことになる。その責任を負うこと自体今の紅奈からすればとても不安に感じられずにいられなかったのだ。それすなわち、(紅奈からすれば、)これまであったすべてを失いながらも本当に輝かしい未来へと進めるのか、という不安である。その不安が、その責任を負うことができるのか、それが紅奈が躊躇している理由だったのだ。
そんなことを考えた上でついに智はあることを決意した。
(ならば、この僕が・・・、この僕が・・・、紅奈の・・・)
その思いとともに智は紅奈に対して大声でこう言い出したのである。
「ならば、紅奈、僕が紅奈の分までその責任を負ってあげる!!絶対に紅奈のことを幸せにしてみせる!!」
そう、ついに智は紅奈の分までまわりに抗う、その責任を紅奈の分まで負うこと、そして、紅奈を幸せにしてみせる、そう決意したのである。
そんな智の決意を聞いた瞬間、紅奈、
どぎっ!!
と感じたのか智に対してこう思ってしまう。
(智が私の分までその責任を負う、そう聞いてしまうと、私、智がかっこよくみえてしまう・・・。それどころか、私、そんな智のことを信じようとしてしまう・・・。そう考えてしまうと私の心のなかにある不安なんて智の前では意味がないようにみえてしまうよ・・・)
そう、紅奈は智のその決意をかっこよく感じるとともに智のことを信じようとしてきたのである。紅奈にとって智の決意の言葉は紅奈自身にあった不安を打ち消すものだった。紅奈はすべてを失いながらも輝かしい未来へと進むことができるのか、このまま自分の父親の道具として生きていくことが幸せでは、という不安を感じていた。だが、智の決意の言葉はその不安すら打ち消すものだった。いや、智がすべての責任を負う、智が自分のことを幸せにしてみせる、その智の決意の言葉はそれくらい紅奈のなかにあったすべての不安を打ち消すくらいの威力があったのである、「智がいれば絶対に大丈夫」、そう紅奈が信じるくらいに・・・。
そして、すべての不安を拭い去った紅奈は智に対しこう告げたのである。
「智、私、智と一緒にまわりに対して抗ってみせる!!智と一緒なら大丈夫、そう思えてくるよ!!」
このとき、紅奈はついに自分の両親からの呪縛から、「自分の父親のただの道具」から飛び出すことができたのである。それは紅奈にとってとても大きな一歩となった。紅奈はこれまで「自分はただの道具」と思い込み、いや、そんな呪縛・洗脳により自分の両親に束縛され、さらに、紅奈のまわりにはその呪縛・洗脳を解いてくれる者がいなかったため、その呪縛・洗脳から逃れることができなかった。まぁ、スクールアイドル部の理亜や花樹、桜花だったらその呪縛・洗脳から紅奈を解放することができたかもしれないのだが紅奈はその呪縛、いや、両親からの洗脳により誰にも相談することすらできなかったのである、だって、これまでの紅奈自身、「自分は両親のただの道具」、それが当たり前だったと考えていたのだから・・・。だが、一緒にパフォーマンスをしている智、いや、自分と同じような人生を歩んでいた智はそんな紅奈の心のなかに入ってきては紅奈のこころのなかにある「自分の父親の道具」という呪縛・洗脳を無視せずそこから紅奈を解き放とうとした。最初のころはその呪縛・洗脳により紅奈はそこから逃げることすらしなかった。だが、智は諦めずに紅奈に対して説得?しただけでなく、「紅奈の分までその責任を負う、だからこそ、紅奈と一緒にこれから先を進んでいこう」、そう智は紅奈に対して誓ったのである。これにより紅奈は「自分の父親のただの道具」という呪縛・洗脳から抜け出す、飛び出すことができたのである。
ただ、このとき、紅奈にはそれとは別の思いが生まれようとしていた。それは・・・、
ドキドキ、ドキドキ
という紅奈の心臓の鼓動によるものだった。紅奈は自分が持っていた呪縛・洗脳から抜け出すことができたものの、いまだに自分の心臓の鼓動が収まらかったのである。これには、紅奈、
(あれっ、なんで私の心臓の鼓動が止まらないの?どうして、どうして?)
と、別の意味で困惑していた。本当ならすぐに自分の心臓の鼓動はゆっくりになるはずだった。ところがそれが収まらず、いまだに早いままだった。もろん、それは紅奈の顔の表情にもでるもので紅奈の顔の表情も困惑そうに、いや、まるでゆでだこになっているようなものだった。そのためか、智、紅奈の顔の表情をみてか、
「紅奈、なんか僕が言っていることに対してまだ困惑しているのか?」
と紅奈に尋ねるも、紅奈、すぐに、
「いや、なんでもないよ。ただの照れ隠しだよ・・・」
と答えると智も、
「なんだ、そうか・・・」
と納得してしまった・・・。
だが、このとき、紅奈の心のなかでは、
ガクッ
という音が鳴るとともにあることが起きていた。
(あれっ、智が私の言葉に納得した瞬間、私、なにかショックを受けたような気がする・・・。こんな思い、初めて・・・。これっていったいなに?)
そう、紅奈はこれまで感じたことがないような、「なんでもない」と智がそう言ったことでなにかショックを感じた、そんな初めての感覚に対してこれまでとは別の戸惑いを感じていたのである。それは紅奈にとって未知ともいえる感覚であり戸惑うのも無理ではなかった。これまでは自分のことを「ただの道具」としか思っていなかった紅奈にとってこれまでに感じたことがにないようなものに対してはその免疫はなかった。そのため、これまで感じたことないような感覚をもろに受けた紅奈はそれにより別の意味での戸惑いを感じたのである。
だが、今は智と一緒にまわりに抗うことを決めた、ということもあり、紅奈、
(でも、私、智と一緒にまわりに抗うことを決めたんだ!!今はそのことを優先しよう。この初めての感覚についてはあとで考えることにしよう)
と思っては自分が受けた初めての感覚については後回しにした。ただ、このときの初めての感覚があまりに意外なもの、いや、紅奈と智にとってとても大事なものだとわかるのはのちのちの話である・・・。