とはいえ、智と紅奈の2人でまわりに抗おうと決めた・・・のだが、ちょうどそのとき、2人のいる楽屋代わりのテントのなかに入る人が1人・・・。その人はテントのなかにいる2人に対してこう言った。
「智に紅奈、はやく急いで!!」
この声に智がその声がする方に振り向くとこう言った。
「あっ、花樹先生・・・」
そう、2人に声をかけてきたのは花樹だった。花樹は智と紅奈に対しこう言った。
「2人とも本番はもうすぐです。すぐにステージに戻りなさい!!」
これには、智、紅奈、ともに、
「たしかにそうだった!!忘れていた・・・」(智)
「私も・・・」(紅奈)
と驚いてしまう。どうやら、2人とも、もうすぐステージ本番であることを忘れていたようだった。
だが、ここにきて2人はつい弱気になってしまう。
「でも、僕たち、一度も最後まで合わせることができなかったはず・・・」(智)
「うん。このままだと本番は絶対に失敗してしまう・・・」(紅奈)
それに追い打ちをかけるかのように智と紅奈はあることも思い出した。
「それに、たしか、このステージ、PWとの対バンじゃなかったはず・・・」(智)
「うっ、たしかにそうだった・・・」(紅奈)
そう、このステージは鶴見たちPWとの対バンであった。そのためか、智、こんなことを口にする。
「僕はPWに勝たないといけない。でも、今の僕たちじゃPWには太刀打ちできない。でも、PWに勝たないと、勝たないと・・・」
智は再び悲しい現実に直面していた。鶴見たちPWに勝たないといけない、だけど、智たちの今の、最後まで1度も合わせることができなかった、今の自分たちでは鶴見たちPWに勝つことなんてできない、それでも勝たないといけない、そのジレンマに智は再び直面していた。そんな智に対し紅奈はただ、
「智・・・」
と言うことしかできなかった。先ほどまで智から元気をもらっていた紅奈であったがそんな智の悲しい現実に直面したために打ちのめされている今の姿にどうすることもできない、そんな自分の姿に、紅奈、
(うぅ、なんとか智の役に立ちたい。でも、今の私じゃ・・・)
とこれまた弱気になるしかなかった・・・。
そんな悲しい現実に打ちのめされている智とそんな智に対してどうすることもできない紅奈、そのためか、2人がいる楽屋代わりのテントのなかはとても暗いムードが漂っていた。それに助長するがごとく、智の口から、
「PWに勝たないといけない。でも、今の僕たちじゃ・・・。でも、勝たないと・・・」
という言葉がいまだに流れていた。
このままだと、とても暗いムードのままだと最悪の結末が待っている、そう感じに・・・、そうなろうとしていた・・・、そんなとき、突然、こんな大きな声がテント中に響き渡った。
「本当に勝つ必要があるの?別に勝たなくてもいいんじゃないの?」
この声に、智、紅奈、ともに、
「「えっ!!」」
と言ってはテントの入口の方を見る。すると、そこには・・・、
「「乃亜!!」」(智・紅奈)
そう、そこにいたのは乃亜・・・と、
「私のことを忘れていないかなぁ・・・」(桜花)
「「それに、桜花先生!!」」(智・紅奈)
乃亜の車椅子を押していた桜花だった。
そんな乃亜と桜花の突然の出現にびっくりする智と紅奈に対し乃亜はこう叫ぶ。
「別にPWに勝つ必要なんてないんじゃないかな。それよりもこのステージを私と智と紅奈の3人で楽しむことが重要じゃないかな」
この乃亜の発言に智と紅奈は、
「「一緒に楽しむ!?」」
と驚いてしまう。いや、智に至っては乃亜に対して、
「乃亜、なんで楽しむことが重要なわけ?この戦いは勝たないといけないんだぞ!!」
と反論してしまう。智自身、「この戦いは勝たないといけない」という気持ちが強かったからだった。
だが、そんな智の反論に乃亜はこう言い返す。
「私は別にPWに勝つことに固執する必要はないと思うよ。それよりも、このステージを最後まで楽しむことを考えた方がとてもいいと思うよ。「勝利こそすべて」、じゃなくて、「楽しむことがすべて」、だよ!!」
この乃亜の言葉であるが、これは乃亜が考えた末に出した答えであった。最初、何度やっても最後まで合わせることができないためか、乃亜、こう疑問に思ってしまう。
(なにか私たちに足りないものがあるのではないかなぁ?)
その乃亜なりに出した疑問、その疑問の答えを出すために、あと、過去の先輩たちのライブを見て少しでも参考にするために乃亜は空いた時間をみつけては聖女スクールアイドル部の過去のライブ映像、特に、今の先生たちである理亜と花樹がいたSNOW CRYSTALのライブ映像を繰り返し見ていたのである。すると、乃亜、そのライブ映像を見てあることに気づいた。
(あっ、ライブをしている人たちの顔の表情、いつも笑っている・・・)
そう、どんなライブ映像であっても(一部を除いては)みんなずっと笑顔でパフォーマンスをしていたのである。
で、そのことに気づいた乃亜は花樹に対しあることを尋ねた、本番の前日に、夜遅くに・・・。
「花樹先生、過去のライブ映像を見て思ったのですが、なぜ、いつも、みんな、笑顔でパフォーマンスをしているのですか?」
すると、花樹、こう答えたのである。
「あっ、それはな、みんな、ある思いでいつもライブをしていたんだ」
これには、乃亜、花樹に対して食い入るようにさらに尋ねた。
「その思いってなんなのですか?」
この乃亜の問いに、花樹、こう答えてくれた、笑顔でもって・・・。
「それはな、「楽しむことがすべて」、という思いなんだ」
この花樹の答えに、乃亜、さらに聞き返す。
「「楽しむことがすべて」?」
で、この乃亜の問いに花樹はある話をした。
「そう、「楽しむことがすべて」。実は俺は、昔、スクールアイドルは「勝利こそすべて」だと思っていたんだ。でも、理亜やあつこと一緒にスクールアイドルとして活動していくうちにあることに気づいたんだ、「スクールアイドルは「勝利こそすべて」じゃない、「楽しむことがすべて」」、だと・・・」
この花樹の話に、乃亜、あることに気づく。
「あっ、たしかに、(花樹、理亜、あつこの)SNOW CRYSTALのライブ、途中まで、花樹先生の顔の表情、こわばっていました。だけど、あるライブを境に、花樹先生、笑顔でパフォーマンスするようになった!!」
これには、花樹、
「それこそが俺の考えが変わったという証拠だ。俺も最初のころは「スクールアイドルは「勝利こそすべて」」だと思っていた。だけど、あるライブのときに、理亜やあつこ、そして、みんなから「スクールアイドルは「楽しむことがすべて」」だと気づいたんだ。そうしたらそのライブは大成功、それ以降、俺は「スクールアイドルは「楽しむことがすべて」」を信条にライブをするようになったんだ」
と答えた。たしかに花樹が聖女のスクールアイドル部に入部したときは父親(猪波悪鬼)の影響もあってか「勝利こそすべて」という考えが強かった。だが、あるライブを境に、函館の閉館するデパートで行われたライブ対決のときに花樹は、理亜やあつこ、そして、みんなから「スクールアイドルは「楽しむことがすべて」」と教えられた、というか、そう気づいたのである。その瞬間、そのライブ対決の際、花樹はスクールアイドルを楽しむことができるようになったばかりかライブパフォーマンスが格段進化したのである。こうして花樹は、「楽しむことこそすべて」の信条のもと、これまで活躍してきた、というのである。
でもって、その話を花樹から聞いた乃亜はこう考えるようになる。
(うわ~、目から鱗だよ!!「楽しむことがすべて」、そう考えたらなんかどんなときでも、ライブが、ステージが、楽しくなりそうだよ!!)
それは乃亜にとってとても驚きに満ちた考え、いや、感覚だった。これまでは、乃亜、自分が車椅子生活になったことでちょっと後ろめたい思いになっていた。あこがれのスクールアイドルなんてできないと思っていた。だが、聖女のスクールアイドル部に入部してから、智、紅奈、理亜、花樹、桜花、の支えもあって車椅子でもスクールアイドルとして活動することができるようになった。ただ、それでも乃亜は車椅子、なので、全体練習のとき、あれだけ車椅子に慣れるように、車椅子でもパフォーマンスできるように猛特訓したのに、それにもかかわらず智と紅奈に合わせることができなかった。それにより乃亜はまた後ろめたい思いをしてしまった。でも、花樹の今さっきの一言が、「楽しむことがすべて」という考えを知ることができたことで乃亜はそんな後ろめたい思い以上に、これでライブを、ステージを楽しむことができる、そう思えるようになったのである。だって、「楽しむことがすべて」という思いがあればたとえライブの途中で失敗したとしても「失敗した」ことによるダメージばはそこまで受けなくて済む・・・、というよりも、失敗しても、ほかのメンバーの「あまり気にするな」「それよりもこのライブを一緒にもっと楽しもう」という思いによって仲間ともっと団結することができるだけでなく、もっと、このライブ、このステージを楽しむことができる、そう乃亜は感じたのである。
こうして乃亜は花樹の言葉をもとに、一晩中、考えた末に、ライブを、ステージを、スクールアイドルを全力で楽しむことを心に決めたのである。さらに、祭り本番の日になんってこのステージが対バンよる戦いとわかり、さらに、鶴見たちPWの、「勝利こそすべて」、それを体現したようなステージを見て、乃亜、こう思ったのである。
(PWのステージってまるで「勝利こそすべて」を体現しているようにみえる。でも、今の私からみたら、「楽しむことがすべて」、その考えでもってみたら、なんか楽しくない、なんかつまらないものにみえてしまう。やっぱり「スクールアイドルは「楽しむことがすべて」だね!!)
これにより、乃亜、自分の今持つ思い、「スクールアイドルは「楽しむことがすべて」」、それを確固たるものにしたのである。
そして、今に至るのだが、乃亜のこの言葉を発したとしても智はいまだに、
「でも、勝たないと・・・、PWに勝たないと・・・」
と勝利にこだわろうとしていた。
だが、その一方で紅奈の考えは違っていた。このとき、紅奈はこう考えていた。
(たしかに乃亜の言葉は一理ある。先輩たちもこう言っていた、「この聖女のスクールアイドル部のモットーは「楽しむことがすべて」だと。だって、この部のモットーのおかげで聖女のスクールアイドル部は優秀な成績を残すことができたのだから・・・)
そう、花樹、理亜、あつこのSNOW CRYSTAL以降、聖女のスクールアイドル部は「楽しむことがすべて」というモットーを掲げるようになった。その結果、聖女のスクールアイドル部はとても優秀な成績を残すことができるようになったのである。そのためか、紅奈、こう考えるようになってきた。
(「楽しむことがすべて」か・・・。私もそのモットーのもと、頑張ってみるか・・・)
これまで紅奈は自分が自分の父親のただの道具だと思い込んでいたため、「楽しむことがすべて」という聖女スクールアイドル部のモットーを受け入れることができなかった。だが、智によって「自分の父親のただの道具」という呪縛・洗脳から解き離れた今、そのモットー、「楽しむことがすべて」、それを受け入れることができるようになったのである。
そして、紅奈はこうも考えるようになった。
(そして、「勝利こそすべて」という考えに捕らわれている智を解放するには私の力が必要じゃないかな)
その考えのもと、智に対し、紅奈、大声でこう言った。
「智、私からお願い、今はPWに勝つことなんて忘れてこのライブを全力で一緒に楽しもう!!」
この紅奈の言葉に、智、
(えっ、PWに勝つことを忘れる、って!!紅奈、なにいっているわけ?本当にそれでいいというわけ?)
と突然のことだったのか半信半疑の様子。そのためか、智、
「本当にそれでいいわけ?」
と逆に疑ってしまう。そんな智の言葉に、紅奈、
(今の智って今さっきの私と同じじゃない!!そんな智の姿なんて嫌!!)
と思ってしまう。今まで智は紅奈がもつ呪縛・洗脳を解き放つために一生懸命頑張っていた。でも、今は前の智に、いや、今さっきの紅奈と同じ、悲しい現実という呪縛に打ちのめされている智に戻っている、と紅奈はそう思ったである。そして、そんな智なんて、今さっきの自分と同じような智なんて嫌だと紅奈はそう考えるようになったのである。
そのためか、紅奈、あることを決意する。
(ならば、今度は私が智を目覚めさせてあげる!!)
この決意でもって、紅奈、智に迫ろうとする。これには、智、
「えっ、紅奈・・・」
と驚くも、紅奈、自分の顔を智に近づけるとともに、
ギロッ
という目でもって智の目を見た。むろん、これには、智、
(紅奈がなにか言おうとしている・・・)
と紅奈の目に自分の目の目線を合わせると、紅奈、それを察知してか、力強く、こう言った。
「智、今は「PWに勝たないといけない」という考えは捨てて!!まずはこのステージを楽しむことに専念して!!」
この紅奈の力強い言葉に、智、
(うぅ、圧がすごい・・・。今は紅奈の言うことを聞いたほうがいいかも・・・)
と紅奈の圧に負けたのか、
「紅奈、わかった、わかった。今は紅奈の言う通りにする、PWに勝つことよりもこの祭りのステージを楽しむことに専念する」
と白旗をあげてしまった。
こうして、智もこの祭りのステージを楽しむことに決めたことで、乃亜、智、紅奈、ともに勝負するよりもこの祭りのステージを楽しむことをともに誓ったようなかたちになった、ちょうどそのとき、乃亜たちがいるテントに、
「聖女スクールアイドル部のみなさん、ステージの準備をお願いします」
という祭りスタッフの声が聞こえてきた。これには、桜花、
「乃亜に智、そして、紅奈、もうすぐ本番だよ!!今は勝ち負けよりも全力でこのステージを楽しんできなさい!!どんな結果であっても3人なら大丈夫だからね!!」
と力強く言うと、乃亜たち3人とも、
「「「はいっ!!!」」」
と元気よく答えてくれた。このときの3人はこれまでのような、一緒に最後まで合わせることができなかったためにくよくよしていた、そんな表情ではなく、とても生き生きしているような、それくらいの笑顔になっていた。