ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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さぁ、二巻突入前に温めておいたオリジナル展開です。そして極とカチドキを出す為に必要な人物も出ます。ご期待ください


第十話 錆びたロックシード 異世界からの侵略者

「嘘だろ!?」

 

 朝起きた俺はオレンジのロックシードを見て、思わず叫ぶ。

 

「錆びてる……!?」

 

 手に取ったオレンジのロックシードは見事に錆びている。一体何があったのか。

 

「おっはよ~……し、失礼しま~す」

 

「おう、待てやレヴィ」

 

 テンションMAXで部屋に入ったレヴィは錆びたロックシードを見た瞬間、一気にテンションを落として部屋を出ようとした。取り敢えず怪しいので首根っこを捕まえる。

 

「何か知ってるのか?」

 

「し、知らないよ!?昨日、コウタが寝てる隙にコウタの真似しようとして間違って洗剤の中に落としたなんて無いからね!!!」

 

 つまり、そういうことである。俺は大きくため息を吐いて、ロックシードをポケットに突っ込む。仕方ない、今日の式典はパインで行くか。

 

「取り敢えず、次からは気を付けろよ」

 

「う、うん。御免」

 

 シュンと項垂れるレヴィの頭を撫でながら居間へ向かう。

 

「む?どうしたのだ、レヴィ?」

 

「恐らく、昨日の件で怒られたのでしょう」

 

「あぁ、アレは怒られても仕方ないですね」

 

「お前等も知ってたのか」

 

 レヴィのお陰で怒るタイミングを逃した俺はそう苦笑して朝食を作る。まぁ、子供のやった事だ。大目に見てやろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「いいえ、怒るべきです!!」

 

 身を乗り出して聖天子が強い口調で告げる。

 

「いや、でもさ。レヴィの奴も反省してるみたいだし、それなら大丈夫だろ?」

 

「ダメです!!そういうときはもっとキチンと怒るべきです。凰蓮さんから聞いていますけど、コウタさんはレヴィちゃんには甘すぎです」

 

 式典も終わり、今朝の事を話していた筈なのに何故俺は聖天子に怒られているのか。

 

「いや、相手は子供だろ?甘やかすのは普通じゃないか?」

 

「いいえ、子供だから叱るのは当然です。甘やかすな、とは言いませんが叱る所はしっかりと叱らなければいけません」

 

 そういって、紅茶を一口飲んだ彼女は一息つく。

 

「でもな~」

 

「でも、なんですか?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 そう答えた瞬間、扉を開けて戦極さんが入ってきた。何がそんなに嬉しいのかスキップである。正直キモイ。

 

「いや~、実に清々しい気分だ。聖天子様、戦極ドライバー、量産に成功です」

 

 そういって、彼はテーブルに置かれた錆びたロックシードを見て、驚く。

 

「こ、これは一体……!?」

 

 また、面倒な事になった。そう思いながら俺は戦極さんに朝の事を伝える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それで、木更さん。俺はなんで此処に居るんだ?」

 

「あのね、里見君。女の子一人でスイーツ食べに行くってかなり悲惨なのよ?」

 

「だったら、延珠と二人でいけばいいじゃねえか」

 

「それだと、蓮太郎が寂しくて死んでしまうからな」

 

「誰も寂しがんねえよ」

 

 嬉しそうな延珠の言葉に力無く答える。

 

「ていうか、俺は今、疲れてんだよ。早く家に帰って寝たいんだけど?」

 

「でも、それは自業自得でしょ?」

 

「ぐっ!?」

 

 そう、今日の式典の際、両親の名前が出た時に驚き、聖天子に近寄った瞬間、あの仮面ライダーに間に入られた。しかも、バナナのライダーは俺の首元に槍を突き付けて。アレは流石に拙いと思った。そのお陰で今の俺は随分とローテンションなのだ。

 

「ほらほら、さっさと行くわよ」

 

 そういって、歩き出した木更さんの後に続く延珠。俺も歩き出そうとした時、背後でバイクのエンジン音が響いた。振り向けば桜をイメージしたバイクが停車していた。

 

「あら、バイクで二人乗りなんていいわね」

 

「む~、蓮太郎!!次は自転車ではなくバイクで移動だ」

 

「無茶言うな!!まだ免許取ってねえよ!!」

 

 そう言いながら視線を戻せばバイクが変形。大きめの錠前になった。

 

「はい?」

 

 俺の間抜けな声にバイクに乗っていた二人が振り向く。同い年くらい……というか、片方はオレンジの仮面ライダーじゃないか。そして隣の人物は。

 

「あら、先程ぶりですね。里見さん」

 

「聖天子様……?」

 

 カジュアルな服装に着替えた聖天子が立っていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「どうでしょうか、相席しませんか?」

 

 聖天子のその言葉に俺を含めた天童民警のメンバーは店の奥。聖天子が使う個室に入る。

 

「メニューとお冷……」

 

「あぁ、ありがとう。キリエも偉いな」

 

「うん、皆で働くの楽しいから」

 

 そうはにかんで笑うキリエは凰蓮さんに呼ばれて厨房の方へと歩いて行く。

 

「なぁ、此処は労働基準法って言葉があるのか?」

 

「【呪われた子供たち】にソレが含まれんなら訴えられてるだろうな」

 

 何処か棘がある言葉に俺がそう返せば、里見が露骨に顔を歪める。

 

「お前、相手は子供だぞ?」

 

「おいおい、コッチは保護してるんだぞ?それに、アイツ等が嫌々接客やってる様に見えるのか?」

 

 そういって、親指で店内を示せばそこには笑顔で客と接するレヴィ達がいる。

 

「アイツ等が【呪われた子供たち】だってバレたらヤバいんじゃないのか?」

 

「もう知られてる。というか、此処は【呪われた子供たち】を養っている親子が主な客層だ。特にこの時間帯は普通の人間の方が少ない」

 

 そういって、メニューを開いて、女性陣に見えるようにする。俺は水を飲んで不思議そうな顔で接客をしている子たちを見ている蓮太郎を見る。

 

「式典の時も思ったけど、お前ってやたらめったら相手に噛み付くよな?そういう癖、治した方がいいと思うぞ?」

 

「余計な御世話だ」

 

「苦労してますね。木更社長」

 

「本当よ。里見君が甲斐性なしのお陰で我が社は何時もカツカツなのよ」

 

 ヨヨヨ、とハンカチで目元を拭う彼女に蓮太郎が頬を引き攣る。ふと、視線を聖天子に向ければオロオロとしていた。俺は小さくため息を吐く。

 

「まぁ、あんまり喧嘩腰なのも楽しくない。ある程度は答えられるけど、質問あるか?」

 

「此処は割引をやっておるのか?」

 

 すると、何か言おうとした蓮太郎を差し置いて、延珠が声を上げる。

 

「そうだな、今日はやってないけど来週はカップルデーで四割引きだな」

 

「蓮太郎!!」

 

「里見君!!」

 

 二人はほぼ同時に叫んでいた。呼ばれた蓮太郎は驚いている。あぁ、他人のこういうのを見るのは楽しいな。

 

「頑張れ、里見。男の見せ所だぞ?」

 

「……月に一回!!それ以上は無理だからな!!」

 

「ありがとう、里見君。やっぱり里見君は最高の社員ね!!」

 

「うむ、やはり蓮太郎は妾のふぃあんせだ!!」

 

「里見、お前ってやっぱりそういう趣味が……」

 

「ねえよ!!」

 

 テーブルを思わず叩いた蓮太郎に注文を聞きに来たユーリが小さく悲鳴を上げて俺の影に隠れる。

 

「あ~あ……」

 

「里見君、最低……」

 

「蓮太郎、今のはない」

 

「里見さんってそういう人なんですね」

 

「ま、待て!!誤解だ!!そんな目で俺を見るなぁ!!!」

 

 怯えているユーリの頭を優しく撫でながら落ち着かせる。

 

「あんまり、刺激してやるなよ?赤とピンクの子以外は外周区で育ったからコッチはまだ不慣れだし」

 

「そ、そうか。悪かった」

 

 そういって、頭を下げる蓮太郎にユーリも落ち着いたのか、何時もの笑みを浮かべて。

 

「御注文は決まりましたか?」

 

「俺はイマジンケーキとレモンティーだな。聖天子は?」

 

「そうですね。私はガイムオレンジと紅茶を」

 

「私と延珠ちゃんはキマイラケーキとミルクティーを二つずつ」

 

「俺はそうだな。インフィニティーケーキとアイスコーヒー一つ」

 

 メニューを聞き終えたユーリは厨房へと向かう。その後ろ姿を眺めている蓮太郎。

 

「里見、言っておくがウチは店員のお触り禁止だぞ?」

 

「蓮太郎!?妾というモノがありながら!?」

 

「さ、里見君!?それは流石に拙いわよ!?」

 

「さ、最低です!!」

 

「ま、待て!!今のはどう考えても冤罪だろうが!!!」

 

 疑う女性陣を相手に慌てた蓮太郎は咳払いをして俺を見る。

 

「お前に質問がある」

 

「答えられる範囲でなら?」

 

「先ず一つ。あの子たちはどうやって?」

 

「だから保護したって言ったろ?最初に会ったレヴィを成り行きで助けてその後、この店で居候している間にレヴィの友人がやってきたんだ。んで、それと同時に保護した双子を連れて来た」

 

「その双子というのは外周区の者ではないのか?」

 

「元民警だ。けど、プロモーターを目の前で殺されて、暗闇の中、丸一日過ごした事で戦線復帰はほぼ無理だと言われたんだ」

 

 そういうと、説明を聞いた三人が視線を外す。

 

「そうか……悪い、なんかお前の事、誤解してた」

 

「お互い様だ。まさか、少し生意気な奴だと思ってたけど、幼女に手を出す変態だったなんて」

 

「おいコラ!!!」

 

 冗談で言ったが、見事なまでに食い付いた。

 

「落ち付け、冗談だ。それと、質問はそれで終わりか?」

 

「待って、貴方達仮面ライダーの事だけど」

 

「それはお答えできません」

 

 毅然と告げたのは聖天子だ。木更は彼女へと視線を向ける。

 

「私は彼に質問をしたのですが?」

 

「葛葉コウタは私の護衛です。護衛の彼に代わって私が答えるという事の意味が分からない訳ではないでしょう?」

 

 つまり、それだけ重要かつ秘密の事だ。

 

「まぁ、そうだな。そっちの誰かがウチのプロフェッサーのモルモットに志願すれば嫌でも分かるぞ?」

 

「モルモットって……」

 

 露骨に嫌そうな顔をする三人を見て。

 

「他には?」

 

「コウタは聖天子と恋人同士なのか?」

 

 延珠の言葉に聖天子が咳き込む。俺はどう答えようか考えた後、告げる。

 

「想像にお任せする」

 

「おぉ、そうか。分かった。うむ、妾も他人のぷらいばしーに土足で踏み込むのは拙いな」

 

 うんうん、と頷く延珠を見て、隣で咳き込んでいる聖天子の背を撫でてやる。

 

「うん、でもお似合いよね。身分を越えた恋。王道だけど、やっぱり憧れるな~」

 

 そういって、チラリと蓮太郎を見る木更。

 

「お待たせしました~♪」

 

「レヴィ、落とさないように気を付けるのだぞ?」

 

 上機嫌のレヴィとやや心配そうにレヴィを見るディアーチェがやってきた。

 

「あれ、ディアーチェ。厨房離れて大丈夫なのか?」

 

「今日はそこまで混んではいないのでな。それに我が入った所で、二人のヘルプ程度だ」

 

 そういって、俺達の前にケーキを並べる。

 

「ごゆっくり~♪」

 

 そう言いつつも、ケーキに目を奪われているレヴィの耳を引っ張って、二人が部屋から出て行く。

 

「蛭子親子は死んだのか?」

 

 ふと、気になった事を聞く。蓮太郎は驚きつつ、頷く。

 

「あぁ、多分死んでる。海に落ちたから死体は確認してない。娘の方は茫然として海を見ていたからもしかしたら生きてるかもな」

 

「そっか……」

 

 思い出すのは嬉しそうにパフェを食べる娘の方だ。あの顔を見れないのは少しだけ寂しいが、奴等は敵だ。もしかしたら手を下していたのは俺だったかもしれないし、他の誰かだったかもしれない。不謹慎だが、俺が殺さなくて良かったと思っている。

 

「戦いたかったのか?」

 

「まさか。進んで人殺しをする気はないさ」

 

 そういって、俺は桃とブドウ、南津海が乗り、ハスカップのジャムでコーティングされたケーキを切り分ける。

 

「俺の力は守る為の力だ。切羽詰まってない限りは攻める気はないよ。尤も、力に守るも攻めるもないけどね」

 

 切り分けたケーキの一角を食べる。適度な酸味が口の中に甘さを残さない。やはり、凰蓮さんのケーキは格別だ。

 

「そうね。力とは使う人間によって色々と変わるわよね」

 

 ため息交じりに告げる木更はしかし、ケーキを食べた瞬間、目を見開く。

 

「え?何コレ!?本当にケーキ?ケーキに似た神様の食べ物じゃないの!?」

 

 大袈裟すぎる。先程まで漂っていた空気などブチ壊しである。視線を向ければ延珠も同じようにケーキを食べている。

 

「蓮太郎!!御代わりはダメか!?」

 

「ダメだ!!俺だって我慢するんだ。お前も我慢しろ」

 

「いえ、それは間違っていますよ。里見さん」

 

 何故か、聖天子が真摯な瞳で蓮太郎を見据える。

 

「いいですか?女生と男性では我慢の限界が違うんです。特にこういったスイーツ等は女性には我慢できない物なのです」

 

 うんうん、と木更、延珠が頷く。これは口を挟まない方が吉だな。

 

「ですので、しっかり食べさせないといけません」

 

「いや、けど太るだろ?」

 

 そう答えた瞬間、女性陣三名から殺気が滲み出る。

 

「「「スイーツは別腹!!!」」」

 

 静かに告げられた言葉に顔を青くした蓮太郎は暫く睨み続ける女性陣に対して謝り続けていた。

 

「あらあら、どうやら新規のお客様は当店のスイーツを気に入ってくれたようね」

 

 そういって、やってくるのは京水さんだ。突然現れた筋骨隆々の男性に蓮太郎達が固まる。当然だろう、可愛らしいピンクのエプロンを身に付けた角刈りの男性がオネエ言葉で喋っているのだ。

 

「あれ?厨房にいなくて大丈夫なんですか?」

 

「今は休憩中。所で、コウタ君。そちらのイケメンを紹介して貰っていいかしら?」

 

 そういって、蓮太郎にウィンクすれば蓮太郎の顔が引き攣る。

 

「里見蓮太郎。この前のステージⅤを倒した奴。詳しい事は本人から直に聞いた方がいいかも」

 

「イケメンで強いのね!!嫌いじゃないわ!!!」

 

 キャア、と黄色い声を上げて、熱い視線を蓮太郎に投げる京水さん。その視線の間に木更と延珠が割って入る。

 

「蓮太郎は妾のふぃあんせなのだぞ!?お、お前が入る余地などない!!」

 

「そ、そうよ!!里見君はノーマルよ……多分」

 

「ちょ!?木更さん!!最後のいらない!!」

 

 そういって、騒ぐ三人の中、尤もスタイルの良い木更を見た京水さんは顎に手を当てて。

 

「イイ身体してるじゃなぁい……でも、私の方がオッパイ大きいわ」

 

「え……?」

 

「私の方が!!オッパイ大きいわ!!!!」

 

 絶叫である。更に言えば、京水さんの場合は胸囲である。まぁ、広義的にはあってるかもしれないが、あんな暑苦しい胸板を俺は女性のと同一視したくない。

 

「コウタ~♪」

 

 そんなカオスな状況に清涼剤の様な笑顔と共にやってきたのはレヴィだ。掲げているアップルパイを見れば、休憩なのだと分かる。

 

「よいしょっと」

 

「お前な、別に構わねえけど、なんか断り入れて座れよ」

 

 当然のように俺の膝の上に座るレヴィに告げるも、目の前のアップルパイに瞳を輝かせているレヴィには届かない。

 

「む?レヴィのは美味しそうだな」

 

「まだ、お店で出せないけど、自信作~♪」

 

 そういって、パイを頬張るレヴィは嬉しそうに笑っている。

 

「本当にパティシエ見習いなのね。ちょっと驚いたわ」

 

「まぁ、この子が成功するのはもっと先でしょうし。評価されるなんてもっともっと先の事よね」

 

 京水さんがそう言って、部屋から出て行く。その際に蓮太郎へとウィンクして。

 

「レヴィ、お主は何故、パティシエを目指すのだ?」

 

「え?だって、ボク食べるの好きだから。パティシエになったら毎日美味しいモノ作って食べられるでしょ?」

 

 そう告げたレヴィは最後の一欠を口の中に放り込む。

 

「それにボクは身体を動かすのも好きだけど。皆の笑顔も好きだから」

 

「それで、パティシエか。レヴィは凄いな」

 

 どこか羨ましそうな目で告げられた言葉にレヴィは照れながらも。

 

「延珠も凄いよ~。あ、凄い同士ボク達は友達だね~」

 

 そういって、レヴィは両手の指を絡め、小指だけ立てたサインを出す。以前教えた物だ。

 

「?なんだ、ソレは?」

 

「これはね、友達の印♪」

 

「む?こ、こうか?」

 

「こうだよ~」

 

 そんな光景に思わず笑ってしまう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「やぁ、葛葉君。よく来たね!!」

 

 翌日、早朝に呼び出された俺は出勤するサラリーマンの波に揉まれながら聖居の地下室に来ていた。そこでとても爽やかな笑みを浮かべた戦極さんが迎えられる。

 

「何か良い事でもあったんですか?」

 

「勿論!!一つは助手が見付かった事。一つはデータ収集の為に実験体が見付かった事」

 

 もう隠そうともしねえよ、この人。

 

「そして君の錆びたロックシードについて幾つか分かった事が原因だね」

 

「流石に洗剤で錆びる訳ないですよね」

 

「まぁ、当然だね。恐らくは別の要因だろう。私はエネルギー切れだと踏んでいる」

 

 エネルギー切れ?確かにスイカのロックシードは使えば一日の間使用できない制限があるが、オレンジもそうなのだろうか。

 

「まぁ、私の推測だからまだ分かっていないがね。取り敢えず君から貰ったロックシードは研究に使っているから、他にロックシードないかな?」

 

「ん~、それじゃ、コレとコレ、後コレだな」

 

 重複したメロン、オレンジ、バナナのロックシードを渡す。他にも今まで集まったロックシードが入ったビニール袋をテーブルに置く。中に入っているのはクルミ、マツボックリ、ドングリが五個ずつだ。戦極さんは受け取ったソレをチューブやケーブルで繋ぎ合わせ、錆びたロックシードが入ったシリンダーに繋げる。

 

「では、夏世君。頼めるかな?」

 

「分かりました、プロフェッサー」

 

 そう返事したのは以前、先日サインを渡した夏世だ。彼女は軽快な音を立てながらキーボードを叩く。

 

【リキッド!!】

 

 そんなイケメンボイスと共に錆びたオレンジロックシードを入れたシリンダーに炭酸を

コップに注いだ音が響き、謎の液体が注がれる。まぁ、戦極さんの趣味だろう。視界の端にあるシリンダーに収められた【白いドライバー】はきっと気の所為だ。

 

「ていうか、助手ってこの子?」

 

「先日。民警をクビになったらしくてね。ちょっとした場所で出会って、そのまま流れで私の助手となったんだ」

 

「てことは、さっき言ってた協力者ってのは?」

 

「将監さんです」

 

 成る程。まぁ、戦極さんに優秀な協力者が出来たのならば安心だ。コレで、呉島さんの苦労も減るだろう。この前、あの人俺を戒斗と間違えてたし。

 

「おぉ!!見たまえ、葛葉君!!」

 

 嬉しそうな声に視線を向ければなにやら不思議な液体に浸かったオレンジロックシードの錆びが取れ、綺麗になっていく。

 

「ん?なんか、変じゃありません?前よりも色が綺麗っていうか」

 

「これは推測だが、三つのエネルギーを取りこんでロックシードそのものが進化しているのではないか?」

 

 そう言っているとシリンダーを満たしていた液体が無くなる。シリンダーを退かし、手に取ってみる。元々銀色だったベースカラーまでもがオレンジに変わり、所々クリアパーツで構成されている以外は特に変化はない。

 

「変身すれば分かるか」

 

 そう思い、ベルトを嵌めた瞬間、警告音が響いた。

 

「おや?何事かな?」

 

 戦極さんの言葉に夏世が直ぐに状況を確認する。

 

「第一、第二、第三地区で同時に爆発が発生。ソレに乗じて武装した集団が現れたそうです。警察が即座に動いていますが、まるで相手になっていないようですね」

 

 その言葉と共に警察の無線と繋がっているのだろう。男性の悲鳴と共に甲高い声が聞こえる。

 

(ん……?)

 

 その聞き覚えのある声に首を傾げる。

 

「映像は出せるかい?」

 

「今だします」

 

 そういって、大きなディスプレイに映し出されたのは黒尽くめの集団と動物、昆虫を模した怪人達だ。

 

「聖天子に繋いでくれ!!」

 

「え?あ、はい!!」

 

 俺の声に夏世は直ぐに回線を繋ぐ。

 

(嘘だろ?いや、間違いない。アイツ等は……!!)

 

 ガストレアだけでも面倒なのに。そう思っているとディスプレイに聖天子が映し出される。

 

『緊急時です。要件は早くお願いします』

 

「俺と呉島さん、戒斗で時間を稼ぐ。許可をお願いします」

 

 そういって、頭を下げる。視線を下げた所為で、聖天子の顔は分からない。だが、彼女は一度小さく息を吐いて。

 

『許可します。それと、可能ならば彼らの捕獲して下さい』

 

「可能ならな。戦極さん。俺は第一区に向かう。ナビを頼む」

 

「分かった。夏世君、君は葛葉君のナビを頼む。私は貴虎達に連絡する」

 

「はい!!葛葉さん。コレを」

 

 投げ渡されたインカムを耳につけて、扉を抜け、エレベーターに乗り込む。地上に向かう間、何故アイツ等【ショッカー】が現れたのか考える。

 

(アイツ等は最初期の改造人間。いや、再生怪人を考えるとリサイクルされてる可能性もあるか。だが、変だ。アイツ等は何時でも世界に宣戦布告出来た筈。なのに何故こんな微妙な時期に仕掛けて来るんだ?)

 

 エレベーターの扉が開き、駆け出す。途中面倒な相手に絡まれそうだったが、無視してロックビートルのロックシードを放り投げ、飛び乗りバイクを発進させる。

 

『葛葉さん、聞こえますか?』

 

「あぁ、聞こえる。ナビを頼む」

 

『場所はショッピングモール近く。此処からはそう遠くはありません』

 

 言われ、角を曲がればそこから市民が雪崩れ込んできた。

 

「くそ!?」

 

 急停止して、バイクをロックシードに戻しつつ、走り出す。流れに逆らいながらの移動は困難だが、幸い、抜けるのは早かった。

 

「ほう?逃げ遅れか?それとも、コイツ等のように無謀にも挑む愚者か?」

 

 そこには数組の民警が虫の息で転がっていた。イニシエーターは無事だが、プロモーターがヤバい。俺は新しくなったオレンジロックシードを取り出す。

 

「俺が時間を稼ぐ、その内にそいつ等を病院に担ぎ込め」

 

「で、でも……!?」

 

「急げ!!早くしないとそいつ等本当に死ぬぞ!!」

 

 怒鳴れば少女達はプロモーターを担いだり、引き摺ったりしながら離れて行く。

 

「ほう?怪我人を下がらせるとはな。本当に愚か者だったとはな」

 

「お前等は何者だ?」

 

 俺が聞けば先頭にいる蜘蛛の怪人が両手を広げる。

 

「我等は【大ショッカー】!!そして我等は栄えある異世界侵略作戦の尖兵!!」

 

「大ショッカー……!?」

 

 冗談と思いたいが、コイツ等は確かに異世界侵略作戦といった。つまりこの世界ではなく、異世界からの侵略者という事なのだろう。全く面倒な。というか、もしかしたらディケイドとか来るんだろうか。嫌だな~、鳴滝がまたちょっかい出すんだろうな。まぁ、取り敢えず。

 

「簡単に言えば悪の組織か。だったら!!」

 

【フレッシュ!!オレンジ!!】

 

 音声と共に頭上のクラックから輝くオレンジが降りて来る。新しいロックシードを試すには丁度いいな。

 

「変身!!」

 

「なに!?」

 

 ロックシードを持った右腕を引き、左腕は身体を斜めに横切るように伸ばす。そして腕を戻す時にロックシードをセットし、引き戻した左手で掛金を閉じる。

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝の音が周囲に響き渡る。逃げ遅れた市民が視界に入った。尚更、コイツ等から逃げるわけにはいかなくなった。

 

「行くぜ!!」

 

 カッティングブレードでオレンジを斬る。

 

【ソイヤッ!!フレッシュ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!!】

 

 オレンジを被り、鎧を纏った俺は二本に増えた大橙丸を構える。

 

「き、貴様はまさか!?」

 

「俺は鎧武!!仮面ライダー鎧武だ!!」

 

 この世界でも面倒なのに異世界からの侵略者とか。ヒーロー暇なしだな。

 

「ここからは俺のステージだ!!!」

 

 叫びと共に走り出す。

 

「殺せェェッ!!!!」

 

 蜘蛛男の叫びと共に戦闘員が襲いかかる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「に、兄さん!?」

 

「光実。お前は直ぐに避難しろ。私はアイツ等の相手をする」

 

 表情を恐怖に歪めている光実を安心させるように撫でてから前へ出る。ベルトを装着し、ロックシードを掲げる。

 

【メロン!!】

 

 音声に気付いたのか、民警の相手をしていた奴等は私を見る。先程、凌馬経由で聞いたが、奴等は異世界からの侵略者らしい。

 

「【異世界からの侵略者対変身ヒーロー】か……ふ、子供が好きそうな話だ」

 

 ならば、仮初とはいえ、ヒーローを名乗っている身としては奴等の思惑を阻止しなければなるまい。

 

「変身!!」

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝が響き渡り、光実が驚いたように私を見る。そういえば、コレを見せるのは初めてだったか。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

 変身を終えた私は無双セイバーを抜き、その切っ先を両手が鋭い刃となったジャガーの怪人へと向ける。

 

「貴様は何者だ!?」

 

「私は斬月。仮面ライダー斬月だ」

 

 ゆっくりと一歩目を歩む。すると相手は吼えるように叫ぶ。

 

「いざ、参る」

 

 静かに告げたその言葉が戦闘の合図だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふん、随分と面白いテロリストだ」

 

 眼前の集団に向かって、俺はそう告げる。ベルトを装着し、視線を後ろへと向ける。

 

「ザック、市民の避難を最優先しろ。アイツ等は俺が引き受ける」

 

「分かった。負けるなよ、戒斗」

 

「ふん、誰に言っている」

 

【バナナ!!】

 

 俺は視線を奴等に向ける。同じ服を着た、同じ体系の男達のその奥、蟹と蝙蝠を合体させたような怪人がいる。

 

「此処はペコのお気に入りのダンスステージだ。お前達が踊る場所じゃない」

 

【ロック・オン!!】

 

 ファンファーレが鳴り響き、集団の視線がステージの上に立つ俺に集まる。

 

「変身!!」

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 変身を終えた俺はバナスピアーを構える。

 

「何者だ!?」

 

 聞かれ、俺はマスクの下で笑う。葛葉のアイディアも捨てた物じゃないな。

 

「バロン。仮面ライダーバロンだ!!」

 

 告げ、走り出す。さぁ、無法者には相応の罰を与えるとしよう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「異界からの異邦人か……」

 

 眼前に浮かびあがる映像を見ながら私はそう呟く。すると、背後の空間が灰色一色に染まる。

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

 そういって、笑みを浮かべるのは捨てた故郷にいる筈の男。

 

「何用だ。此処は貴様が来るべき世界ではない」

 

「冷たい事言うなよ。元仲間だろう?」

 

「消えよ、蛇。貴様の満足する物などこの世界の何処にもありはしない」

 

「みたいだな~。すっげぇ、崖っぷちじゃねえか。こんなとこで何してるんだションエミュ?」

 

 隣にやってきた奴は眼前の映像を見て、奴は声を上げる。

 

「驚いた。此処にもアーマードライダーがいるのか」

 

「何だ、ソレは?彼等は自身を仮面ライダーと名乗っていたぞ?」

 

「あぁ、成る程。そういう世界か。それにしても、お前さんの行きついた世界は実に退屈しないな」

 

 そういって、奴は指を鳴らす。すると、私の後ろの空間が捻じれ、今は果実を求めるモノに変わった哀れな者達が現れる。

 

「戯れは止せ、蛇よ」

 

言葉と共にこのモノ達を消し去る。この場だけではない。蛇がこの世界に開いた場所から溢れたモノ達全てだ。

 

「流石はロシュオの片腕だ。力は鈍っていないようだな」

 

「ロシュオは王としての責務を放棄したのだ。故に彼等は造られた命に弄ばれた」

 

「ま、否定はしないさ。それで?お前さんはどうする?」

 

「あの者達に興味が出た」

 

「この世界のライダー達か。今から会いに行くか?」

 

「いや、破壊者が去ってからの方がいいだろう」

 

 そう告げれば、確かにと蛇が頷く。

 

「【世界の破壊者にして修復者】……か。先ずは【予言者】が来てからだな」

 

「あ奴は唯の哀れな男だ」

 

「容赦ないね。まぁ、確かに。本来【世界の破壊者】が世界から与えられた任務はほころびが生じた世界の入り口を一度開け放ち、後に自身が去る事で入り口を固く締める事だ。それが何の因果か、単なる悪者扱い。それもこれも【予言者】がある事ない事、吹聴するから困ったもんだ」

 

「奴も世界の救済を願った者だ。奴は世界に救世主の到来を予言し、崩壊する世界を見守っていた。破壊者が間に合わず、崩壊した世界もあるだろう。そういった、絶望や失望。悲しみ、怒りが今の奴を形作っている」

 

「アイツも苦労してるんだな」

 

 そういって、奴は木に生った実を手に取り、形を変え始める。

 

「お前が手を出さないなら、先ずは俺が手を出そうか?」

 

「構わん、だが、あまり出しゃばるな。此処では貴様が異邦人なのだからな」

 

「ソイツはお互いさまさ」

 

 そういって、奴が掲げるのは映像に映った人間が持っていた物と同じ波動を感じる実だ。

 

「それで?レプリカの知恵の実は持っているのか?」

 

「貴様がコレに興味を示すとはな」

 

 そういって、取り出すのは本物よりも幾分か、輝きを失った果実だ。私がこの世界に渡る際に作り出した。レプリカの実。オリジナルの十分の一しか力はないが、この世界では充分だろう。

 

「別に。単にこの世界のアイツにも渡す事があるかもしれないな、と思ってな。さて、俺は【予言者】が現れるまで姿を隠すかね」

 

 そういって蛇が消える。

 

「さて、これからお前達はどう動くのだ。人間よ」

 




投稿完了!!さて、出ました【大ショッカー】スペースやスーパーだと語呂が悪いので、こうなりました。えぇ、時系列的な物はガン無視です。そしてサガラとオリジナルのオーバーロードの登場です。このオーバーロードは以前、感想を貰ったカーキスさんからのアイディアを利用させてもらっています。また、ションエミュを人間の言葉に訳すと……
次回からは原作に突入しながら【大ショッカー】とのバトル。ご期待ください



次回の転生者の花道は……



「我が名は地獄大使!!大ショッカーの幹部よ。さぁ、トカゲロン!!やるがいい」



「私、コウタさんが居なくなった後なんて、想像できないんです」



「実はこのドライバー。戦極ドライバーよりも高い性能を引き出す代わりに少々、無茶な設計をしてね。そこら辺の調整をしない限り、正規のテスターに装備させる訳にはいかないんだ」

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