ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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今回でティナについては一応解決。打開策はなんというか、えぇ、ちょっとガッカリな感じですみません(泣)

それと、活動報告と言うのを書いてみました。内容は……まぁ、アンケートと言うか、意見を聞くような感じですね。もし、よければ覗いてみてください


第十三話 幼き狙撃者 実験の前準備

「呉島さん。一つ聞いていいですか?」

 

「なんだ?」

 

 腕に包帯を巻き、資料へと視線を落としている呉島さんに俺は部屋に聞こえる声で告げる。

 

「俺、今日の会議は前回の反省と今後の対策会議って聞いたんですけど。何時まで自分の責任を他人に押し付けようとする汚い大人の茶番を見てればいいんですか?というか、コイツ等聖天子守る気あんの?」

 

 会議室で怒鳴り散らしている保脇を指さしながら告げれば奴は顔を真っ赤にして、俺を睨む。そう、あの狙撃事件を無事とは言えずとも切り抜けた俺を最初に待っていたのは……泣きながら俺を心配する聖天子だった。

 

(まぁ、確かに心配はさせたよな)

 

 あの時は仕方なかったとはいえ、変身が後少しでも遅れていたらあの世行きだ。そういった意味では運が良かったのだが、泣きながら俺を叱る聖天子を見てこれからはもう少し心配させないように気を付けようと思った。

 そしてその二日後、早速対策会議という事で会議室に蓮太郎と共に来たのだが、待っていたのは対策会議とは名ばかりの責任の押し付け合いだった。因みに会議が遅くなったのは【大ショッカー】の襲撃の際に殉職した隊員の書類関係に保脇が関わっていた為に遅れたという。呉島さんはお陰で冷静に情報を整理できたと言っていた。

 

「そもそも、責任を問われるべきは護衛官だろう?なんで、議題が何時の間にか犯人が誰かに変わってんの?」

 

「素人は黙っていろ!!」

 

「んじゃ、里見蓮太郎が犯人だって説明してくんない?素人にも分かりやすく証拠を出してさ」

 

「今まで一度として聖天子様が狙われる事はなかったのに、コイツが雇われた途端、先の事件が起き、テロリストまで現れた。コイツが犯人とテロリストに繋がっているのは明白だ!!証拠など、コイツを取り押さえれば自ずと出て来る!!!」

 

 そうドヤ顔と共に告げる。俺は思わず茫然としてしまい、更にその表情で論破したのだと勘違いした保脇は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「馬鹿じゃねえの?」

 

「なっ!?」

 

 思わず告げてしまう。まぁ、俺が言わなくてもそろそろ呉島さんが声を出しそうだったので、先に俺の意見を言わせて貰おう。

 

「保脇さん。アンタ確か、内通者が出ないように計画書は自分達で作成するって言ってたよな?」

 

「そ、それがどうした?」

 

「そこが可笑しいだろ。俺達はその計画書を貰ってないし、当然俺達実働部隊預かりの里見蓮太郎にも情報が行き渡ってない。コイツは当日、事務官に聖居へと向かうように連絡されて、俺達と合流して、リムジンに乗ったんだ。その状況でどうやってその犯人と連絡できるんだ?」

 

「ぐ……」

 

 実は嘘である。確かに護衛ルートは教えられてないが、そこは戦極さんが頑張ってくれた。ものの数分で保脇のPCにハッキング。計画書をコピーした後、俺達が確認し、蓮太郎に渡して処分させた。因みに蓮太郎が計画書を処分したのは確認済み。既に会議室に向かう前に蓮太郎へ大体の経緯を話しているのでアイツもちゃんと空気を読んで黙っている。まぁ、その事を話した際に微妙な顔をされたが。

 

「さて、ではそろそろ対策会議へと移行しよう」

 

 そう告げて、立ち上がった呉島さんに護衛官以外の人物が期待する様な眼差しで呉島さんを見る。SPとしての実力を買われ、実績も確かに上げた人物の言葉である。期待は充分だろう。流石は呉島さんだ。

 

「く、呉島!!勝手なことを!!」

 

「保脇三尉……」

 

 決して強くはないが、静かな迫力を持って、呉島さんが保脇を呼ぶ。それだけで保脇は顔を青くして、黙りこむ。俺はいそいそと呉島さんの隣に座る。

 

「この場の会議は何のためにするものだ?」

 

「……そ、それは今後の為の」

 

「そう、起きてしまった事件の二度目を防ぐために行う会議だ。だが、貴方がやった事は議題をダラダラと長引かせるばかりか、全く関係の無い事を声高に主張し、場を混乱させているに過ぎない」

 

「そ、その男は犯人と内通しているんだぞ!!」

 

 まだ言うか、コイツは。

 

「仮に彼が犯人と内通していた場合、彼を捕縛すればそれで終わりなのか?」

 

「あ、当たり前だろう」

 

「私はそうは思えない。聖天子様を暗殺する様な輩だ。恐らくは今回限りという事はないだろう。彼を捕縛し、監禁した所で事態は好転しない。更に護衛が減った現在、同じように襲撃があった場合、どうするのだ?」

 

「そ、それは……」

 

「その襲撃で万が一にでも聖天子様が亡くなった場合、全ての責任は護衛計画を一人で練った貴方に集中する事になるが?」

 

 その言葉で保脇はもう何も言えない。

 

「里見蓮太郎の力は強力だ。その為に私は彼をこのまま聖天子様の護衛を任せたい。それは彼の身の潔白を証明する事と、私個人が彼を菊之丞閣下の身内として信頼しているからだ。無論!!彼がもし犯人と内通していたと発覚した場合、全ての責任は私が負う」

 

 静かに告げられた言葉には有無を言わさぬ迫力があり、この人ならば、と信じさせるに足る貫禄がある。戒斗が呉島さんを隊長と慕うのが良く分かった。視線を蓮太郎へと向ければ蓮太郎は何処か気恥しそうに頬を掻いている。

 

「また、先日の襲撃事件を菊之丞閣下に報告した」

 

 その言葉に会議室がざわめく。

 

「なっ!?き、貴様、何故そんな事を!!」

 

「何故?おかしなことを聞く。国家元首が狙われるような事案が発生したのだ。この東京エリアを離れているとはいえ、最高責任者である菊之丞閣下に報告するのは当然だろう」

 

 そういって、呉島さんは持っていた資料を保脇の目の前にまで投げる。

 

「そしてその報告により護衛官には特別任務が言い渡された」

 

「ば、バカな!?我々は聖天子付護衛官だぞ!?何故、我々が本来の職務ではなく、別の任務などと!!」

 

「その本来の職務がこなせていないからじゃないのかな?」

 

 そう告げたのは会議室にやってきた戦極さんだ。その横には聖天子がいる。

 

「その書類には菊之丞閣下と聖天子様のサインがあるだろう?」

 

「う、嘘だ……!?」

 

 書類の一部分を見た保脇が愕然とする。

 

「嘘ではありません。今回、保脇三尉率いる護衛官はテロリスト【大ショッカー】の捜査を行って貰います。プロフェッサー」

 

「仰せのままに」

 

 そういって、戦極さんは保脇の前にアタッシュケースを置き、開ける。

 

「新型の【ゲネシスドライバー】及び【エナジーロックシード】の試作品だ。この装備は実働部隊が使っている【戦極ドライバー】のデータを基に造り出したモノでね。その性能は軽く見積もっても【戦極ドライバー】の数倍だ」

 

 その言葉に保脇が顔を上げ、ドライバーとロックシードを見つめる。

 

「これなら【大ショッカー】相手でも問題ないだろう。いいデータを期待しているよ」

 

「テロリストの件、任せられますか?」

 

 聖天子の言葉に保脇は無言でケースを手に取る。

 

「お任せ下さい。必ずやご期待に応えましょう」

 

 そう、爽やかな笑みと共に保脇は部下を引き連れて会議室を去っていく。その際、俺を盗み見ていた。嫌な予感がするんだけど。

 

「では、早速対策会議を行う」

 

 呉島さんの一言で、本当の会議が開始された。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「保脇隊長。本当に宜しかったのですか?」

 

 部下の一人がそう聞いてくる。

 

「仕方ないだろう。あの書類にはお二方のサインが確かにあった。つまり、あの任務を拒否すれば我々に待っているのは除隊か左遷のどちらかだ」

 

 そう告げれば部下たちが沈み込む。

 

「まぁ、そう悲観するな。我々には新しい力が手に入った」

 

「しかし、ソレを使ってもアイツ等を倒せるかどうか」

 

 もう一人の声に僕は思わず笑ってしまう。

 

「何を勘違いしているんだ?起動実験も無しに実戦で使う訳ないだろう?」

 

 そういって、彼等を見渡す。

 

「丁度、この力を試すには打ってつけの相手がいるじゃないか」

 

 僕の言葉に彼等は笑う。そう、【新しい力】があるならば最早【古い力】に価値など無いのだから。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「はぁ……」

 

 夕焼け空の下、私はここ最近では日課になった行きつけのベンチで人を待っています。けれど、今の私はとてもではないが、その人と楽しく話せる気分ではなかった。

 

(失くしちゃった……初めてのプレゼントだったのに)

 

 僅か十年と少しの人生で初めて、戦いには無縁の贈り物。大切にして、大事にしようとしたそのプレゼントを先日、失くしてしまった。

 

(やっぱり、あの時、部屋に置いておくべきでした)

 

 きっと、舞い上がっていたのだろう。だから私は【任務】の時もその髪飾りを付けていた。初めてのプレゼントを片時でも手放したくなかったから。

 

(その結果がコレですか……戒斗さんにどう謝ればいいんでしょう)

 

 ため息を吐いた時、ここ最近、嗅ぎ慣れた匂いが鼻腔を擽る。

 

「今日も来てたのか」

 

「戒斗さん……」

 

「まぁいい。こっちも聞きたい事があったからな」

 

 そういうと、私にドーナツの袋を手渡し、何時ものように私の隣に座る。

 

「先日、とある場所でこんな物を拾った」

 

「え?」

 

 言われ、目の前に出されたモノを見て、今まで考えていた言い訳が真っ白に消えた。

 

「あ……ソレ……」

 

「その場所は一般人では入れない場所だ。更に言えば、出入り口は鍵が閉まっていて、開けられた形跡は見られなかった」

 

 淡々と告げられる言葉が罪状を読み上げる言葉の様で私からどんどん逃げ場をなくしていく。

 

「そしてその場所は先日、聖天子を狙撃したであろう人物がいたと思われる場所にあった」

 

 決定的だった。その言葉を聞いた瞬間、隠し持っていた拳銃を戒斗さんに向ける。

 

「……やはりか。お前であって欲しくなかったが」

 

 残念そうな戒斗さんの言葉に私はグッと拳銃を強く向ける。人通りは少なく、近くにはドーナツ屋の店員のみ。しかも、此処からでは死角となる。銃声を聞いて、反応する前に逃げれば何とかなる。

 

「……っ!?」

 

 筈なのに。今までの人生で数えるのも億劫になる程の回数を積み上げた動作で、今では目を瞑っていても出来るのに。私の手は言う事を聞かず震えている。

 

「撃たないのか?」

 

「……っ?!し、知られた以上は……い、生かしておく事は出来ません……」

 

「ならなぜ、直ぐに撃たない」

 

「それは……」

 

 分からない。理性では撃て、と叫んでいるのに。彼に銃を向ければ今までの事を思い出す。不器用だけど、私の話をちゃんと聞いてくれて、寂しい気分を紛らわせてくれる戒斗さん。初めて……生まれて初めて贈り物をくれた戒斗さん。両手で数えられるほどの回数しか会って、話していないのに。それなのに。

 

「……撃てません」

 

 気付けば、私は拳銃を地面に落し、泣いていた。溢れる涙と共に胸から大声で泣き出したい衝動が湧き上がってくる。

 

「それでいい。もう、お前は誰かを殺さなくていいんだ」

 

 そう呟き、戒斗さんは私を優しく抱きしめてくれた。初めての人の温もり。優しい言葉。私はもう、湧き上がる感情を止める事が出来なかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ティナは【呪われた子供たち】という俺の推測は当たっていた。そして聖天子狙撃犯だという事も。だが、そうだとしても1km先の目標を正確に撃ち抜く技量は幾らなんでもおかしい。その疑問はティナの口から語られた。

 

「私は【呪われた子供たち】であり【機械化兵士】の改造を受けた【ハイブリット】なんです」

 

 思い切り泣いて、スッキリしたのだろう。思いつめた表情は消え、何処か晴れやかな表情の彼女が告げた内容は、あまり聞きたくない内容だった。

 

「お前を執刀したのは?」

 

「……エイン・ランド博士です。私以外にも多くの子が実験に使われて、私は上手く適合できましたけど」

 

 その言葉だけで、俺はゆっくりと息を吐く。彼女の身の上とセットで聞かされた内容だけで握った拳は赤く滲んでいた。

 

「今回の任務は聖天子を暗殺する事。そして適度に私という存在を知らせる事です」

 

「成る程な。【呪われた子供たち】が聖天子を殺し、完全に【ガストレア新法】を瓦解させる事で、安定して素材を供給する事が望みか」

 

 一度、大きく息を吐いて落ち着く。

 

「これから私はどうなりますか?」

 

「お前は未遂とはいえ、国家元首を殺そうとした。それだけで極刑は免れない」

 

「……そうですか」

 

「だが……」

 

 俺は告げる。俺にとって都合の良い事を。

 

「だが、もし犯人が他に居るならばお前は唯の一般人となる」

 

「何を……言っているんですか?」

 

 意味が分からない、という表情で告げるティナの眼は俺を真っ直ぐに見ていた。

 

「お前も恐らくは先日のテロリストについて知っているだろう?」

 

「……はい、博士も既に部下の人間で調査させたんですが、戻ってこなかった様です」

 

「そいつ等を犯人に仕立て上げる」

 

 俺の言葉にティナが驚く。

 

「お前がもし、死にたくないのならば俺はそう報告する。お前も含めてな」

 

 俺の言葉にティナは俯き、ゆっくりと首を横に振る。

 

「ダメです。私の身体はテクノロジーの塊です。生かしておけばきっと、追手が来ます」

 

「俺はお前の意見を聞いているんだ」

 

 ティナの肩に手を置いて、無理矢理視線を合わせる。

 

「お前はどうしたい?死にたいのか、生きたいのか?」

 

 ジッと彼女の瞳を見て、告げればティナはゆっくりと俯き、涙を流し始める。

 

「……たくない」

 

「聞こえないぞ」

 

「死にたくないです!!まだ私、戒斗さんの事全然知らないし、もっと戒斗さんと一緒にいたいです……」

 

 涙を流しながらもしっかりと自分の意思を告げる彼女のポケットから着信音が鳴り響く。

 

「あ……」

 

 俺は素早くそのポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押して耳に当てる。

 

『定時の報告をせよ』

 

 固く事務的な声だ。この男が、この男がティナを、名も知らぬ子供たちを殺す為の兵器に造り変え、そして失敗作として多くの子供たちを殺した張本人。

 

『どうした?報告をしろ』

 

「貴様がエイン・ランドだな」

 

『なっ!?だ、誰だ貴様は!?』

 

 俺の声に相手は酷く狼狽する。

 

「俺の事など、どうだっていい。貴様の飼い犬は既に始末した。分かるか?貴様の計画はこれで破綻した」

 

『貴様がティナを!?くっ、役立たずめ!!』

 

「……一つ聞く。貴様は一体何の為にティナを造り変えた?」

 

『ソレを知って、どうする―――』

 

「応えろ!!エイン・ランド!!!」

 

 エインという男の声を聞き、先程まで抑えていた怒りも込めて俺は電話越しの外道に叫ぶ。相手が息を呑む気配が伝わる。

 

『……何かと思えば下らない事を。貴様は科学の発展の為に犠牲が必要だという事を知らんようだな』

 

「犠牲だと?たかが、数十人分の兵士と同等の働きをする代替品を造った所で、貴様の科学は理解されないだろう?」

 

『貴様には分からんだろう。所詮は科学の一端も理解できぬ凡人にはな』

 

「あぁ、俺には貴様の様な狂人の考えは理解できん。貴様の科学の為の犠牲になった奴の事を考えれば尚更な」

 

『犠牲?あぁ、貴様はもしや私が執刀したアレ等を犠牲と勘違いしているのか?』

 

 その言葉に俺の頭は一気に冷えていく。これ以上、この男の狂言には付き合うな。そう思いながらも男は語る。まるで出来の悪い教え子を叱る教師のように。

 

『アレ等は私の理論を実証する為の道具に過ぎない。そもそも人ですらないのだ。君とて、積木を積み上げる際、不要と判断し、捨てた積木に何か思う事はあるのかね?』

 

「……もういい」

 

 もう既に燃え上がる様な怒りは無く。ただ静かに燃える怒りが俺を支配していた。

 

「貴様は俺の敵だ。殺すべき対象だ。今は見逃してやる。だが、覚えておけ。何時か俺の槍が貴様の心臓を貫く事を。ソレが貴様の最後だ」

 

 返事を聞かず、通話を切り。携帯を足下に落として踏み砕く。

 

「行くぞ、ティナ」

 

「え?あ、はい。でもその前に」

 

 俺は携帯を取り出そうとした手を優しく掴まれる。

 

「先ずは治療が先です」

 

 そう微笑むティナに俺も小さく笑みを浮かべた。

 

(アイツは……葛葉は守る者がいるから強くなれる、そう言っていたな)

 

 今なら何となく分かる気がする。ベンチに座り、手に着いた血を水で洗い流し、慣れない手つきで包帯を巻くティナを見て、俺はそう思う。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「という訳だ」

 

「いきなり携帯で犯人を見付けたって言われた時は驚いたけど。【ハイブリッド】ね……」

 

 会議を終えた俺達に戒斗から電話が来た。内容は狙撃事件の犯人を確保した。という内容。正直、驚いてその場で声を上げてしまった。その後、聖天子と呉島さん。戦極さん。序でに蓮太郎を連れて、研究室で待っていると戒斗が金髪幼女を連れて来て事情を説明した(その際、研究室の二人と少女に面識があった蓮太郎が随分と驚いていたが、ここは割愛しておこう)。

 

「成る程、事情は分かりました。しかし、私を狙った事に関しては事実ですから相応の罰は必要でしょう」

 

 何処か悲痛な表情で告げる聖天子。恐らくは少女、ティナの生い立ちに同乗しているのだろう。その上で国家元首としての言葉を告げなければならないのは【ガストレア新法】を掲げる彼女にとっては辛い選択なのは想像に難くない。

 

「その事で、相談がある」

 

「あぁ、なんとなく分かった。戒斗、お前【大ショッカー】を利用するつもりか?」

 

 戒斗がティナを見て、声を上げた時、俺が遮る。アイツが何の策もなく彼女を犯人として連れて来る筈が無い。案の定、俺の言葉に戒斗が頷く。

 

「あぁ、今回の狙撃事件の犯人は奴等の怪人、ないしは戦闘員の仕事として扱って貰いたい」

 

「確かに国家元首の命を【呪われた子供たち】が狙ったという事が公になれば、彼女達の地位はもう修復不可能になるな」

 

 呉島さんが目を閉じてそう告げる。聖天子は顎に手を当てて。

 

「しかし、そう都合よく事が運ぶと思いますか?」

 

「まぁ、アイツ等がコッチの行動を読んでくれれば助かるんだけどな。まぁ、そこらへんは大丈夫だと思うぜ?」

 

「根拠は?」

 

 蓮太郎が腕を組んで聞いてくる。ティナの生い立ちを聞いてからというものの、不機嫌気味だ。まぁ、気持ちは分かるが。

 

「アイツ等、怪人たちのテストとして街に放っているだろう?それに加えて、聖天子を狙った幹部がいる。次も同じように現れてくれるかどうかは分からないが、聖天子を狙ってくれれば犯人として周囲に信じさせる事ができる」

 

「ま、そういう情報戦は私に任せたまえ。君達は護衛に専念していればいい」

 

「そうだな。とはいえ、上手く行くかどうかは運次第だが」

 

 呉島さんの言葉に俺達が頷き、聖天子も頷く。

 

「では、その方向で行きましょう。それまではティナさんの身柄ですが」

 

「葛葉」

 

「了解、俺から凰蓮さんに頼んでみるよ。とはいえ、返事は明日以降だ。それまでは」

 

「あぁ、俺が責任を持つ」

 

「え?……えぇ!?」

 

 戒斗の言葉に今まで会話に参加できず、コーヒーをチビチビと飲んでいたティナが声を上げる。その顔は見事なまでに真っ赤だ。

 

「お前としては不本意だろうが、我慢してくれ」

 

「ふ、不本意なんて。そんな事ないです!!あの、えと……」

 

 そういって、ティナは居住まいを正した後、礼儀正しく頭を下げて。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「……待て、その言葉は何処で覚えた」

 

 ティナの爆弾発言に俺達は声こそ上げないが笑う。ティナはキョトンとした顔で。

 

「いえ、東京エリアに来る前に読んだ資料には女性が男性の家にお世話になる時に使う言葉だと書かれていたので」

 

「……いや、確かに間違ってはいないが」

 

 そう戒斗が額に手を当てて、ため息交じりに告げる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なんだか、凄い勢いで事件が収束しましたね」

 

 その言葉に俺は苦笑して頷く。

 

「確かに。対策会議開いた後に犯人が捕まったからな。まぁ、後は上手く【大ショッカー】が現れるのを待つだけだな」

 

「正直、出て来て欲しくありませんけど」

 

「まぁ、確かに」

 

 お互いに笑う。

 

「これから恐らく【大ショッカー】も動きだしますね」

 

「あぁ、全く迷惑な話だ。コッチはガストレアもいるし、最悪同じ人間で争わなくちゃいけないし」

 

「えぇ、ゾディアックも一体は倒しましたが、それだけ。残るゾディアックは八体。その全てを打倒し、そして地上からガストレアを駆逐する」

 

「その後に子供たちを認めさせて漸くガストレア問題は決着か。道は遠いな」

 

 本当に遠い。一体、どれほどの時間を使えば、どれほどの屍を築けばそこへ至れるのか。案外、簡単なのかもしれないし、そもそも不可能なのかもしれない。

 

「ですが、立ち止まっていてもどうしようもありません」

 

「だな。元から一本道だし、進むしかないよな」

 

「はい、ですからコウタさん。頼りにしますからね?」

 

 聖天子の言葉に俺は笑って頷く。けれど、聖天子は俯いて表情を暗くする。

 

「きっとこれからコウタさん。いえ【仮面ライダー】の力が必要な事が起きます。そしてその度にきっと危険なんて言葉では言い表せない様な困難にアナタを向かわせてしまう」

 

 そういって、聖天子は両手を強く握りしめる。

 

「我が侭なのは理解してます。無謀な事なのも。けれど、必ず生きて帰って来て下さいね」

 

「……あぁ、分かってる。改めて誓うよ。お前を独りになんてさせない」

 

 そう告げて、彼女の手を優しく握る。

 

「破ったら怒りますから」

 

「それは怖いな」

 

 そういって俺達は笑いだす。きっと大丈夫。そんな気がした。

 

「あ、そうでした」

 

 すると、聖天子は手を叩いてナニカを思い出す。

 

「実はコウタさんに伝えないといけない事があるんです」

 

「伝えないといけない事?」

 

 そう聞けば聖天子は悪戯を思い付いた様な無邪気な笑みを浮かべている。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「むぅ……」

 

「どうかしたんですか?延珠さん」

 

「済まないな、蓮太郎君。折角の休日を邪魔して」

 

「気にしなくていいさ。丁度、俺も暇だったし」

 

 対策会議から三日後の休日。昼下がりの午後の公園で私は光実の付き添いで出会った友人とその保護者に思わず苦笑してしまった。

 

「しかし、世間は狭い物だな」

 

「確かに。延珠の味方だった子の兄貴がアンタだったとは。俺も驚きだ」

 

 光実と延珠とは違うベンチで座った私と里見蓮太郎は缶コーヒー片手に談笑している。

 

「……なぁ、保脇の事だけどさ」

 

「彼か……まぁ、君が言いたい事も何となく分かっている。凌馬が渡した新型ドライバーだろう?」

 

 彼が頷く。彼はコーヒーを一口飲み。

 

「正直、不安だ。アイツはアンタ等の力に嫉妬しているぜ。俺を締め上げて来た時なんかは葛葉の奴も一緒に罵倒してたしな」

 

『貴様のみならず、葛葉コウタのように偶然手に入れた力で舞い上がる人間は聖天子様のおそばには相応しくない』

 

 依頼の話を聞いた時の会話を聞かせてくれた彼の表情には本当にいいのか、という疑問が浮かんでいた。

 

「君の危惧は理解できる。私もこの話を持ちかけて来た凌馬には同じ質問をしたからな」

 

「アンタの発案じゃなかったのか。いや、考えてみればそうか。アンタ、なんていうかそんな雰囲気が無いからな」

 

「そう思ってくれるなら嬉しい限りだ。とはいえ、私も善人という訳ではない。聖居にとってあまりにも不要な存在は必要ないからな。だから私は凌馬の考えに乗った」

 

「それが、新型ドライバーを渡す事か?」

 

「正確には新型ドライバーの力で暴走させる事だ。アイツの事だ。力を手にした所で【大ショッカー】の調査などしないだろう」

 

 私の言葉に彼は驚く。

 

「もしかして、わざとなのか?」

 

「あぁ、凌馬は新型ドライバーを完成させる為には実戦的なデータが必要だと言っていた。そのデータ取りに保脇が選ばれたという事だ」

 

「えげつないな。まぁ、他にアイツを退かす方法が無いからいいけどさ。アイツ、葛葉を襲うかもしれないぜ?」

 

「十中八九そうなるだろう。彼には伝えてないが、問題はない筈だ」

 

「信頼してるんだな」

 

 顎に手を乗せて、そう呟いた彼に私は苦笑する。

 

「無論だ。そして私以上に葛葉コウタは聖天子様に信頼されているからな」

 

「成る程ね。保脇が狙うのは確実という事か。筋書きとしてはこうか?新型ドライバーの力で襲いかかった保脇を聖天子が【偶然】目撃。責任問題として保脇と奴の部下をクビか左遷って所か?」

 

「大体はな。とはいえ、上手く行くとは思えないがな」

 

「例の【大ショッカー】か?」

 

「それもある」

 

 だが、問題は保脇個人だ。

 

「人間というのは力を手に入れれば変わる者だ。君も何となく理解出来るだろう?」

 

「まぁ、な……」

 

「奴はその力で逆恨みしている葛葉に襲いかかるだろう。だが、果たしてその時、保脇に聖天子様の静止の言葉が聞こえるかどうかは疑問だがな」

 

 だが、それすらも凌馬にとっては好都合なのだろう。私も保脇のやり方には不満があり、彼を今の地位から外せればと思った事は何度もある。

 

「保脇は自分が目に掛けた人間を配下にし、権力を笠に様々な事をやった」

 

 思い出すだけでも怒りが湧き上がる。

 

「単に威張って怒鳴り散らすならば可愛い物だ。だが、アイツ等は外周区で【狩り】をやっていたそうだ」

 

「それって、まさか……!?」

 

 恐らくは気付いたのだろう。彼の言葉に頷けば、彼もまた怒りに震えた表情で右手の缶コーヒーを握りつぶした。

 

「本来ならばこんな汚点を無関係の君に話す事は避けるべきなのだが、どうして凌馬の提案に私が乗ったか、その動機について話しておきたかった」

 

「あぁ、アンタの怒りも分かるさ。それにアンタも悪い奴じゃないってのが分かった」

 

 そういって、コーヒーをゴミ箱に投げ入れ、コーヒーに濡れた手を見て、渋い顔をした彼にハンカチを渡す。

 

「いや、私も善人ではない。もし、本物の善人だとするならば正当な手段で裁くべきだ」

 

「だけど、そういう奴に限って法で裁けない奴らばっかだ」

 

「だとしてもだ。今回のように私刑同然の行いをやってよいという免罪符にはならない。今回の行動は凌馬の研究によって東京エリアの軍備。保脇とその部下を天秤に測っただけでしかない。確かに彼等がやった行いの報いを与えるのは間違ってはいないだろう。だが、それでも正当な手段でなければいけない筈だ」

 

 それが出来ない。私は彼らの命と今後の生活よりも東京エリアの名も知らぬ市民とそして子供たちの未来を選んだ。

 

「確かに数の話で言えば、私は間違っていないのだろう」

 

「いや、アンタは正しいよ。呉島さん」

 

 そう彼は視線を下げて、告げる。

 

「確かにアンタのやった事は間違った事かも知れない。けどさ、アイツ等が救うほんの一握りの人間よりもアンタが救った人間の方が遥かに多い筈なんだ。だから、そう自分を卑下しないでくれ」

 

 そう言って、笑いかけてくれる彼に私も小さく笑う。

 

「そう言ってくれると気が楽になる」

 

「ソイツは良かった。所で、呉島さん。アンタはその【呪われた子供たち】に関しては」

 

「あぁ、そうだな。かつてはガストレアと同じように憎んでいたよ。だが、考えを変えた」

 

 そういって、私は延珠と談笑している光実を見る。

 

「私の考えを変えてくれたのは光実のお陰だ」

 

「そっか。俺もさ、最初はアンタと同じで子供たちも憎んでいたんだ。けど、延珠が俺のパートナーになって色々と喧嘩とかして、アイツ等も同じなんだなって気付いたんだ」

 

「だとするなら、光実と彼女が友人となったのは必然だったかもしれないな」

 

「かもな」

 

 そういって、私達は笑い合う。

 




投稿完了!!解決策は作者でももうちょっとひねった方が良かったかな?とか思った感じです。

全て【大ショッカー】の仕業なんだ!!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?

次話は休憩という感じに平和的なシャルモンの幼女たちが【この世界】のとある人たちとの交流する話です。人選は作者が思うこの子なら波長があう人はコイツだろうという考えなので、あの人がいたりいなかったり……お楽しみに



次回の転生者の花道は……




「おはようございます、湊さん。プロフェッサーは今どこに?」



「映司さんて【幸福な王子】に出て来る王子様の銅像みたいです」



「それよりも、晴人さん、バイトはいいんですか?」



「真司さんには以前の取材の時にキリエを守ってくれた恩がありますし。私も何か手伝いたいんです」



「飽きました。巧さんは見てて飽きないので面白いです」



「事務所の前で独り言をブツブツと。仕事はどうしたのだ、このハーフボイルド」



「「博物館……キタァーーーーッッ!!!!!!!」」

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