ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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第四話 お披露目 勝負

 時刻は早朝。空は雲一つない青空で今日一日は快晴だろう。

 

「ほらほら、ペース落ちてるわよ?ダッシュ、ダッシュ!!」

 

「やっほ~♪」

 

 前を走る迷彩服姿の凰蓮さんの声にレヴィは嬉しそうな声と共に凄まじい速度で俺を追い抜く。因みに俺はもう既に息が上がっている。それもそうだ。朝も早くというより日の出前に叩き起こされ、店から今まで休憩なしの走り込みだ。

 

「……もう少し……体力付けるんだった」

 

 転生する前の怠惰な生活を初めて呪った。せめて、帰宅部ではなく運動部に入れば良かった。

 

「ほら、コウタ二等兵!!もっと、腕を振って走りなさい」

 

「コウタ、頑張れ~」

 

 視線の先、ベンチに座って水筒片手に手を振っているレヴィとそのベンチに片足を乗せ、ビシッと俺を指さす凰蓮さんに俺はラストスパートとして一気に駆け、ベンチを通り過ぎてからゆっくりと歩いて止まる。

 

「今どきの若者としては上々ね。でも、満足に戦いたいならこれくらいで息を乱しては駄目よ!!」

 

「駄目だぞ~?」

 

 何が面白いのか、レヴィが嬉しそうに告げる。俺は呼吸を落ちつける。

 

「それにしても、いきなり特訓なんてどうしたんですか?」

 

「あぁ、そういえば言ってなかったわね。ほら、この前、貴方の隊長さんが来たでしょ?」

 

「え?あぁ、呉島さんですか。そういえば、俺って実働部隊に入る事になったんだっけ」

 

 一週間前、ミミズのガストレアを倒した後、増えた戦極ドライバーと謎の男について聖天子と彼女の補佐官でその時まで海外に出張していた天童菊之丞という人に話した。二人は謎の男について気になっていたが、同時に増えた戦極ドライバーとロックシードにも興味を持ったようだ。

 

「それにしても、聖天子も思い切るわね~」

 

 凰蓮さんが嬉しそうに呟く中、俺はレヴィから受け取った水筒の中身を飲む。。

 ドライバーに興味を持った菊之丞に呉島さんは研究用として自身のドライバーを俺は何時の間にかドライバーに生っていたヒマワリとクルミのロックシードを渡す。また、戦極ドライバーは、装着者以外は使えないという制約の為、研究する為には必然的に呉島さんが研究に付き合う事になり、本人は弟との時間が少なくなってしまったと苦笑していた。

 

「元々、二人だけの隊でしたからね。俺が入るのは確定だったんでしょう?」

 

「まぁ、貴方さえ良ければ、という事前提だけどね。それでも聖天子が菊之丞さんを説き伏せたのは驚いたわぁ。まぁ、そんな話は置いといて、その隊長さんに頼まれたのよ。貴方はまだまだ素人だし、体力面も危ないしね。ある程度の体力や力を付けて貰わなくちゃ困るのよ。だから、頼まれたの」

 

 そう言って、笑う凰蓮さん。驚くべき事にこの人、補佐官である菊之丞さんとはかつて知り合っているらしく、楽しげに会話しているらしい。

 

「さて、休憩は終わりよ!!」

 

 そう凰蓮さんが告げると俺達の視界の先に一台のトラックが止まる。

 

「やぁ、今日も早いね。凰蓮さん」

 

「Bonjour!当然よ。プロは下準備を怠らないの。今日はどんなのが入ったかしら?」

 

「あぁ!!新鮮なバナナとメロンが入ってるよ!!」

 

 どうやら店の仕入れの様だ。ものの数分で買い物を終わらせた凰蓮さんは大きめの段ボールを両肩に乗せ、大きな紙袋を逞しい両腕に吊るして満面の笑みで帰ってくる。

 

「てんちょー、美味しそうなの入った?」

 

「馬鹿ね。これから美味しく作るのよ。さぁ、早く帰らないと。あ、コウタ君、これお願いね」

 

「うぉっ!?これ、何入ってるんですか!?」

 

 受け取った段ボールはかなり重い。かすかに土の匂いと混じって嗅いだ事のある匂いが混ざっている。

 

「もしかして、スイカですか?まだ早いんじゃ?」

 

「馬鹿ね。旬の物なんて関係ないわ。如何にお客に満足してもらうか、ソレが問題なのよ。他にもバナナにメロン、マンゴーにブドウと色々と買ったわ。さぁ、走って戻るわよ!!」

 

「おぉ~!!」

 

 紙袋を掲げたレヴィの嬉しそうな声が勢いよく遠のく。残されたのは俺一人。

 

「マジか……!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「だぁ!!着いたぁ~!!」

 

 あれから全力で走り、店に着いた。店の事で凰蓮さんに逆らう事は出来ない為、行きよりも速く帰ってこれた自分を内心で褒める。

 

「コウタ君、その段ボールはこっちに持ってきて」

 

「了解」

 

「コウタ~、お腹減った~」

 

「お前、走りながらオニギリ食ってなかったか?」

 

 バンバンと机を叩いて朝食を催促するレヴィに小さくため息を吐きながら俺は食パンと卵、ハチミツ等を用意する。

 

「今日の朝食はフレンチトーストね」

 

「あ、流石に分かりますか。手抜きじゃないんですけどね」

 

「いいのよ。食べる相手の事を想って作るのならどんな料理だって最高の物になるわ」

 

 そういって、ウィンクする凰蓮さん。最初は背筋が寒くなる感覚に襲われたが、今はもう慣れた。慣れっていうのは本当に凄いな。

 

「うし、完成」

 

「はやく、はやく~」

 

 フォークとナイフを持って、催促するレヴィの前に出来あがったフレンチトーストを置く。

 

「おぉ~」

 

 キラキラと瞳を輝かせて、レヴィが食べ始める。俺の分の朝食を作ろうとした時、携帯が鳴る。

 

「はい」

 

『おはようございます。コウタさん、今大丈夫ですか?』

 

 相手は聖天子だ。そういえば、携帯を凰蓮さんから貰った時に聖天子だけしか登録されてなかったな。

 

「大丈夫だけど、どうしたんだ?」

 

『いえ、今日のご予定を戒斗さんに伝えたのですが、コウタさんの連絡先を知らないそうで……』

 

「あぁ、そっか。アイツの連絡先聞いてなかったっけ」

 

 タイミングが悪くて聞けず仕舞いだった。まぁ、登録した所で、俺の携帯には聖天子、呉島さん、凰蓮さんに戒斗と見事に寂しいのだが。

 

「それで、伝言って言うのは?」

 

『はい、先日のベルトとロックシードに関して、プロフェッサーからデータを取りたいと言われたんです。そしたら折角なので、民警の方々も呼んで大々的にアピールしようと菊之丞さんが提案して来たんです』

 

「成る程ね。分かった、今からそっち行くよ。けど、聖居でするのか?」

 

 疑問の言葉に電話越しに小さく笑いが聞こえた。

 

『流石にソレは不味いですよ。場所は外周区に近い自衛隊駐屯地です。場所は凰蓮さんに聞けば教えてくれます』

 

「分かった。それと、聖天子以外に誰が来るんだ?」

 

『そうですね。私と菊之丞さん。それと護衛部隊の方々と民警で都合が付く方たちですね。とはいえ、私の呼びかけですから』

 

「つまり、全てと思っていいと?大丈夫なのか?」

 

『ふふ、コウタさんがいますから』

 

 ストレートに告げられて顔が赤くなる。不思議そうに近づくレヴィの額を手で押さえる。凰蓮さんがサムズアップ。

 

「分かった。じゃあ、これからそっちに向かうよ」

 

『はい、お待ちしています』

 

 携帯を切って、立ち上がれば凰蓮さんがメモ紙を渡してくれた。

 

「場所は此処よ。少し迷うけど、モノリスを目印にすれば分かるわ」

 

「助かります。んじゃ、行ってきます」

 

 そういって、俺は扉を開ける。

 

「あぁ、それと」

 

「はい?」

 

 呼び止められ、振り向く。そこには何処か楽しそうな凰蓮さんがいる。

 

「次に携帯を使う時はちゃんとモードを切り替えなさい。通話ダダ漏れよ」

 

「……はい」

 

 全部聞かれていた。そう思うととても恥ずかしくなる。俺は熱くなった顔を冷ます為に走り出す。そういえば、朝飯食い損ねたな。まぁ、コンビニ寄ればいいか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「青春してるわね~」

 

「せいしゅん~?」

 

「レヴィにはまだ早いわね。さぁ、ご飯が終わったら掃除からよ!!今日も稼ぐわよ~」

 

「おぉ~!!」

 

「お待ちなさい!!」

 

 入口で放たれた言葉にワテクシは視線を扉に映す。

 

「あ、アナタは……!?」

 

「久しぶりね、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ!!!」

 

 クイッと腰を捻らせてポーズを取る相手。ふふ、動きに無駄が消えたわね。そしてあの目。

 

「随分と腕を上げたようね」

 

「勿論、あの時の雪辱……晴らしに来たわ!!」

 

「勝負って事ね。それならワテクシとアナタ、どちらが上か。お客に決めて貰おうじゃないの。レヴィ!!」

 

 パンパンと手を叩けばレヴィがこっちにやってくる。

 

「十三番の看板を表に出しなさい。今日はお店の営業ではなくてよ!!」

 

「おぉ~!!」

 

「そう!!今日は私とアナタの!!」

 

 お互いにポーズを取る。ふふ、やるじゃない。

 

「「決闘よ!!!」」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「うっは~、凄い人だな」

 

「民警の社長とプロモーター、イニシエーターだからな。しかし、こんなに多いと流れ弾が危ないな」

 

「ふん、それくらいは奴等が何とかするさ。それよりもこの服はどういう事だ?」

 

 戒斗の言葉に俺と呉島さんが苦笑する。

 

「仕方ないだろ。これが俺達実働部隊の正式な制服だ」

 

「お前、あんな笑顔の聖天子に手渡されて文句言うのか?」

 

「ぐっ!?だが、白一色は落ち着かん」

 

 そう、俺達は白一色の服を纏っている。デザインは和で統一されており、何処か侍が着る和服に近い。とはいえ、戦闘も視野に入れている為、動きやすく丈夫で更に軽いとかなり質の良いモノになっている。

 

「正直、変身できる俺達に必要なのかな?」

 

「こればかりは仕方ない。腐っても聖天子様の護衛だ。半端な服では示しが付かん」

 

 そういって、苦笑する呉島さんの言葉に戒斗は鼻を鳴らす。

 

「あ、そうだ。二人に渡す物があるんだった」

 

 そういって、戒斗と呉島さんに二つずつ、ロックシードを渡す。

 

「俺だけじゃ使いきれないし。二人も状況に応じて使えれば戦闘が楽になるでしょう?」

 

「ほう、面白い」

 

「助かる。それにしても、ロックシードを生成するベルトか。君のだけは特別製の様だな」

 

 興味深そうに俺のベルトを見る呉島さん。

 

「そういえば、あのミミズのガストレア。肉片を拾ってたんですね」

 

「ん?そういえば、報告してなかったな。あのガストレアについては後で聖天子様から伝えられるだろうから我々は待っていればいい」

 

「葛葉」

 

 戒斗が真剣な表情で問いかける。

 

「挨拶の後、俺達は民警達の前で模擬戦を行う事になっている。先ずは俺とお前、そして呉島隊長と民警の中から名乗り出たイニシエーターとの試合だ」

 

「最初に俺達か」

 

 なんだか、緊張するな。

 

「言っておくが、手は抜かない」

 

「俺もだ、お互いに全力で行こう」

 

 そういって、俺は拳を向ける。一瞬、眼を見開いた戒斗は小さく笑い、拳を合わせ。

 

「言っておくが、勝つのは俺だ」

 

「ほう、聞いた通り、お若い様ですね」

 

 そんな時、廊下の奥から声が聞こえた。振り向けば、そこには白い外套に制帽、腰に指した拳銃が特徴の男がやってくる。護衛隊の人間だが、見覚えが無い。

 

「失礼だけど、アンタは?」

 

「僕は保脇卓人。護衛隊の隊長を務めています。君には先日、部下が迷惑を掛けたようで、詫びようと思っていたのですよ」

 

「そうだったのか。まぁ、気にしてないよ。俺はほら、記憶も無いし、戸籍も無いから疑うのも仕方ないと思ってるし」

 

「そう言って頂けると嬉しい。今日は君達のお披露目だ。その前に、君達へ伝えなければならない事があったんです」

 

 そういって、浮かべていた笑みが消え、弱者を甚振る蛇の様な顔つきに変わる。同時に後ろの戒斗が舌打ちする。

 

(成る程、類は友をって奴ね)

 

 内心でため息を吐く。

 

「あまり、調子に乗らない事だね。聖天子様を救い、そしてガストレアを倒した君の【幸運】は称賛に値する。だが、それは全て君が持っているその力だ。君自身の力じゃない」

 

 まぁ、当然だ。俺自身は撃たれれば死ぬような脆い人間だ。

 

「それで?俺みたいな運の良い奴に手柄を横取りされた無能共の隊長が何の用だ?」

 

 朝っぱらから面倒な奴に絡まれた、という事を隠さずに告げれば、隣の呉島さんは苦笑。後ろの戒斗に至っては笑うのを我慢する。対する保脇は顔を怒りで引き攣らせる。

 

「黙れ!!聖天子様を守るのは本来僕達の役目だ。貴様等のような馬の骨がしゃしゃり出るな!!!」

 

「なら精々、その馬の骨よりも働くんだな」

 

 戒斗がそう告げる。うわ、今凄くスッキリしたよ。

 

「それにしても、嫌われるのはいいんだけど、アンタは随分と俺を嫌うね。なんでだ?」

 

「それは貴様が聖天子様から信頼を寄せられているからだ。僕よりもな!!」

 

 そういって、腰からナイフを取り出して、俺の首に突き付ける。

 

「今からでも遅くは無い。この後の模擬戦で無様に負けろ」

 

「それはまた、面白い冗談だ。アンタ、護衛なんかよりもそっち系の方がウケルかもな」

 

「いいか!!僕は貴様が気に入らない!!聖天子様に信頼を寄せられるのは護衛隊長の僕だけでいいんだ!!」

 

「なんで、そこまで拘るんだ?」

 

 俺の疑問に呉島さんは額に手を置き、後ろの戒斗は大きくため息を吐いた。あれ?ひょっとして俺が間違っている。だが、対する保脇は厭らしい笑みを浮かべて舌なめずりする。

 

「聖天子様はお美しく成長なされ、今年で十六歳となられた。ならば、そろそろ国家元首の世継ぎも必要だろう?」

 

「あぁ、成る程。お前、ロリコンか」

 

 納得して、告げた言葉に戒斗が腹を抱えて笑いだし、呉島さんも必死に堪えている。

 

「止めとけって。アンタじゃ釣り合わねえよ」

 

「なっ!?貴様!!!」

 

 突き付けたナイフに力を込められる直前、聖天子の講演開始を告げるアナウンスが流れた。

 

「くっ」

 

「ほら、アンタも早く行きなよ。隊長が遅れちゃ、聖天子様もがっかりするぜ?」

 

 俺の言葉に保脇は恨みがましく俺を見ながら俺達の横を通り過ぎる。やれやれ、面倒なことだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「一週間前に現れたガストレアの資料は既に皆さまの許へ送りました。その資料に載っているデータは全て事実です。今回は発見が速かった事、そしてそのガストレア事態が東京エリアに来た事により衰弱していた事で被害は最小限で済みました。しかし、資料にある通りそのガストレアはステージⅠでしたが発見時、バラニウムを克服するほどの進化を遂げていました」

 

 壇上に立つ聖天子が駐屯地に集まった民警に説明している。

 

「流石に演説は堂に入ってるな」

 

「聖天子様は【ガストレア新法】を掲げているからな、講演の機会は多い。それ以外でも、取材やテレビ出演などもやっておられる」

 

 呉島さんが壁に背中を預けて答える。何処か、眠そうだ。

 

「呉島さん、何時に寝ました?」

 

「四時半だな」

 

「俺が叩き起こされたのと同時?」

 

「今日は三時間も寝れたんだが?」

 

 うん、ブラックだな研究チーム。

 

「出番までは時間がありますし、仮眠でもしてきたらどうですか?」

 

「いや、それには及ばない」

 

 そういって、呉島さんはベルトに嵌まっているヒマワリロックシードを見せる。

 

「コレのお陰で大分楽なんだ」

 

「なら、良いんですけど」

 

「では、そのガストレアを倒した新兵器をご覧に入れましょう」

 

 演説が終わったのか、聖天子が此方を見る。俺は小さく手を振って答えると呉島さんが肩に手を置いた。

 

「ベルトとロックシードは研究チームが開発した事になっている。詳しい事が分かるまでは黙秘してくれ」

 

「分かりました」

 

 そう答えて、俺は歩き出す。同時に俺と対面するように歩いてくる戒斗に視線が集中する。

 

(これならガストレア相手の方がストレス少ないかな?)

 

 どうも、慣れていない為、緊張する。まぁ、戦い始めれば気にならないだろう。

 

「彼等は私の護衛隊に所属する実働部隊の隊員です。プロモーターでもイニシエーターでもない彼らの実力に疑問を持つのは当然でしょう。新兵器のお披露目と共に彼らの実力をお見せします」

 

 その言葉と共に俺達はベルトを装着する。そして注目の中、お互いにロックシードを掲げる。

 

【オレンジ!!】

 

【バナナ!!】

 

「「変身!!」」

 

 俺達の頭上にオレンジとバナナが現れる。俺はロックシードを掲げた腕を引き、その動きと共に身体を捻った後、戻す動きでベルトに装着する。戒斗は錠前に指を掛けて、ロックシードを回転させながらベルトに装着させる。

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝とファンファーレが鳴り響く中、【客席】からどよめきの声が上がる。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 オレンジとバナナを被り、ソレが変形して鎧となる。俺は大橙丸を肩に担ぎ、戒斗はバナスピアーを構える。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「蓮太郎、妾は夢でも見ているのか?」

 

「いや、俺も同じ光景見てるだろうから、夢じゃないと思う」

 

「まさか、あんな物を開発していたなんて」

 

 民警用の客席の一番後ろ。必然的に一番高い場所で立ち見をしていた俺達は目の前の光景に唖然としていた。俺と同じ年の奴が二人迎い合っていたと思ったら上からバナナとオレンジが降って来て特撮ヒーロー物のバトルを繰り広げた。

 

「頭が痛くなってきた……なんだ、あの格好いいの!!」

 

「蓮太郎……」

 

「里見くん……」

 

 隣で女性二人が若干、憐れんだ目をしているが、気にしない。バナナが持つ槍が高速で繰り出されるが、オレンジが手に持った二刀でソレを受け、弾き、逸らし、反撃する。ソレは舞いの様であり、男と男の全力のぶつかり合いだ。

 

「やっぱ、変身ヒーローは男の夢だったのか……」

 

 なんだか、自分の事の様に嬉しい。

 

「ま、まぁ、新兵器の名前に偽りはなさそうね。あの強さに頑強さ。装備の類にバラニウムが使われていないのは気になるけど、それでも充分に強いわ」

 

「うむ、妾たちも負けてはおれんな、蓮太郎!!」

 

「え?あ、そうか。アイツ等って競争相手になるのか、テンション下がるな~」

 

 出来れば、仲良くしていきたいがどうだろうか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 目の前でコウタさんと戒斗君が戦っている。本当は応援なんかしてはいけないだろうが、何時の間にか私は闘うコウタさんを目で追っている。

 

「あ……!?」

 

 思わず声を上げてしまう。けど、ソレはコウタさんが危うく槍の一撃を貰いそうになったからだ。多分、私の所為ではない。後ろに立つ菊之丞さんの視線が一瞬だけ鋭くなった。……後で、コウタさんに文句を言いましょう。

 

「そろそろ、趣向を変えてみるか?」

 

【マツボックリ!!】

 

「ふん、いいだろう!!」

 

【イチゴ!!】

 

【ロック・オン!!】

 

 コウタさんの言葉に二人は違うロックシードを取り出し、ベルトに嵌め直す。そして二人の鎧が消え、代わりに彼らの頭上にマツボックリとイチゴが現れた。マツボックリとは随分場違いな感じがするのですが。

 

【ソイヤッ!!マツボックリアームズ!!一撃!!インザシャドウ!!!】

 

【カモンッ!!イチゴアームズ!!シュシュッと・スパーク!!】

 

 何処か忍者を思わせる黒い姿となったコウタさんと赤一色になった戒斗君が武器を構える。

 

「行くぜ!!」

 

 コウタさんが手に持った新たな武器、槍を一回転させて、構えながら走る。

 

「成る程、こういう武器か!!」

 

 戒斗君が両手に持ったクナイを投げる。投げていいんでしょうか?

 

「うおっ!?結構派手だな」

 

 クナイを槍で払った瞬間、小さな爆発が起きる。そして戒斗君の手には新しいクナイが。凄いですね。何本あるんでしょうか。

 

「ハァッ!!」

 

「くっ!?」

 

 突き、払い、振り下ろす。槍の特徴である遠い間合いでの戦いにクナイでは分が悪いですね。代わりにスピードがさっきのバナナよりも段違いですけど、スピードが変わっているのはコウタさんも同じ様ですが、やはりリーチの差は歴然。

 

「ちっ」

 

【マンゴー!!】

 

「おっと、それじゃ!!」

 

【パイン!!】

 

 鎧が消え、今度はパイナップルとマンゴーが。ロックシードは幾つあるんでしょうか?

 

【ロック・オン!!】

 

 マンゴーとパイナップルを被るシュールな二人になんというか、慣れてしまいました。

 

【ソイヤッ!!パインアームズ!!粉砕・デストロイ!!】

 

【カモンッ!!マンゴーアームズ!!Fight of Hammer!!】

 

 コウタさんは右手にパイナップルを模した鎖付きのハンマー。恐らくはフレイルを。戒斗君はメイスと呼ばれる武器を構えている。

 

「最終ラウンドと行こうか」

 

「いいだろう!!」

 

 鎖が擦れる音と、重いモノが風を切る音が聞こえた瞬間、戒斗君の両手が振り上げられる。同時にガァン、という重いモノがぶつかった音が響いた。

 

「っと、とと」

 

「ふん、どうやら使い慣れていないようだな!!」

 

「そうでもない、さ!!」

 

 メイスを構えて、突撃する戒斗君を前にコウタさんは腰の刀を引き抜き、その柄にフレイルの取っ手を連結させる。

 

「行くぜ!!」

 

 刀を振り、身体全体を回転させた勢いでフレイルが戒斗君に襲いかかる。

 

「舐めるな!!」

 

 だけど、その一撃もメイスの一撃によって弾かれる。そして戒斗さんが腰の刀部分を持った。

 

【カモンッ!!マンゴー・オーレ!!】

 

 その音声が響くと同時に戒斗君がメイスで円を描く様に振り回す。

 

【ソイヤッ!!パイン・スカッシュ!!】

 

 今度はコウタさんが跳び上がり、手に持ったパインを蹴る。同時に蹴られたパインは巨大化した。

 

「ダァッ!!!」

 

 ハンマー投げの要領で振り上げたメイスから巨大なマンゴーが飛び出してパインと激突した。そして蹴ったコウタさんが跳び蹴りの姿勢に変わっていた。

 

【ソイヤッ!!パイン・スカッシュ!!】

 

 

音声が聞こえる。コウタさんを見れば伸ばした脚の先には爆発へと進むパインの輪切りがある。

 

「セイヤー!!」

 

 その叫びと共に輪切りのパインを一枚一枚蹴破りながらコウタさんが爆発の中を抜ける。

 

【カモンッ!!マンゴー・スカッシュ!!】

 

 だが、その音声が聞こえると共に爆発の中で更に爆発が起きる。

 

「うお!?」

 

「ぐあっ!?」

 

 爆発の中からコウタさんと戒斗君が吹き飛んで地面を転がる。思わず立ち上がってしまう。

 

「本気でやるとこうなるのか……」

 

「フン、ベルトの力を試すのに丁度良かったな」

 

【バナナ!!】

 

 バナナのロックシードを取り出した戒斗さんに私は驚く。まさか、まだやるのだろうか。

 

「おい、戒斗。お前、まだやる気なのか?」

 

「当然だろう?俺とお前、まだ立てる力は残っている。それに俺は負けを認めるほど潔くはない。お前はどうだ、葛葉?」

 

【ロック・オン!!】

 

 既にマンゴーの鎧は消えた戒斗さんの頭上にはバナナが浮かんでいる。

 

「そうだな、この際だ。白黒ハッキリするのも良いか!!」

 

【オレンジ!!】

 

 立ち上がり、オレンジのロックシードを構える。

 

【ロック・オン!!】

 

「お、お待ちなさい。これ以上は――」

 

「男同士の戦いに口を挟まないで頂きたい」

 

 戒斗さんの言葉は丁寧だけど、有無を言わさぬ迫力があり、気圧された私は椅子に力無く座ってしまう。

 

「大丈夫だって、酷い怪我はしないから」

 

 そう、私を安心させるように手を振って、告げるのはコウタさんだ。でも、それでも、私は心配なんです。そう言いたいのに。今日ほど、自分の地位を恨んだ事はないかもしれません。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

【カモンッ!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

 音声と一瞬の閃光を背中に残して二人が駆ける。二人が武器を振り被ったその瞬間。

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

 二人の間に割って入った呉島隊長が盾と刀で二人の武器を防いだ。

 

「二人ともそこまでだ。これ以上やるのならば、せめて人がいない所でやれ」

 

 冷静な言葉に二人は暫く黙る。

 

「……そうだな。これ以上は止めるか」

 

「……フン、確かにこれ以上【観客】を怯えさせるのも不味いか」

 

本当は数秒の沈黙だった筈なのに私には何時間もの間黙っていたように見えた二人が構えを崩し、変身を解いた。

 

「済まない、隊長。少し浮かれていたようだ」

 

「だな……少し頭に血が昇ってたわ。ごめん、呉島さん」

 

「気にするな。だが、次からは気を付けろ。私から言うのはそれだけだ」

 

 素直に自分の非を認めさせる呉島隊長に感心しつつ、そんなアッサリと納得させる彼の人柄に少しだけ嫉妬してしまう自分がいる事に苦笑する。

 

「き、貴様等!!聖天子様に万が一があったらどうする気だ!?」

 

 そんな私の思いを吹き飛ばす様な大声が横から聞こえ、思わず身体が跳ね上がる。見れば、保脇隊長がコウタさん達、どちらかというとコウタさんに対して、怒鳴っている。

 

「そんな素人がするようなミスをすると思っているのか?」

 

「我々が使うこの力は我々が一番理解しています。その為に聖天子様から離れて戦うように指示していました。この距離ならば万が一聖天子様に被害が及んでもアナタ方、護衛隊が身を呈して聖天子様を守れるでしょう?」

 

「確かにそうですね」

 

 思わず呉島隊長の言葉に同意してしまう。そして私の言葉に保脇隊長が狼狽し、俯く。これは、私の所為でしょうか?

 

「しかし、私が自身の部下同士の戦いと彼らの気持ちを理解出来なかったのは私のミスです。聖天子様、お望みとあらば、この呉島貴虎。どのような罰をも受ける所存です」

 

 そういって、頭を下げる呉島隊長にコウタさん達も同じように頭を下げる。

 

「そ、そうだ!!貴様には聖天子様から罰が―――」

 

「いえ、罰を与える必要はありません」

 

 私の言葉に隣の保脇隊長が絶句する。本当はこんな風に他人の言葉を遮る事はしたくありませんでしたが、これ以上彼を喋らせれば護衛隊の醜態を……もう手遅れでしたね。そんな事実に内心でため息を吐く。

 

「お二人の戦いぶりは確かに危険な物ですが、逆にこの場に集まる皆さまには十分に伝わったでしょう。その為、今回の事は不問とします。呉島一尉、この決定に不満があるのならば今度はこの様な事が無い様に部下のお二人を指導しなさい」

 

「寛大なお言葉、有難うございます」

 

 そう告げた呉島隊長は後ろの二人に目配せする。二人は小さく頷いて壇上近くに歩き始める。

 

「では、続けましょう。次は隊長である呉島貴虎と此処に集まった方々から我こそは、という方と戦って貰います。誰か、おられますか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なぁ、蓮太郎」

 

「ダメだ」

 

「ダメよ。延珠ちゃんじゃ、分が悪いわ」

 

 声を上げた延珠に俺達が同時に告げる。あの二人の攻撃を片手で止めたアイツは強い。

 

「いや、別に妾は戦おうとは思っておらんぞ?だが、あれほどの力を見せて尚、戦おうとする者がおるのか?」

 

「いるでしょうね。自分達の実力に少なからずプライドを持った人間なら特に反応するわ。そういった者達を倒してあの兵器がどれだけ有用か見せつけるのかが、この戦いの目的よ」

 

 個人的には気に食わない。けど、そうする事で政府は民警全てに言外に伝える事が出来る。お前達に頼らずとも、我々は戦えるという事を。

 

「上手い手ね。此処で誰かが名乗りを上げて、戦ってもさっきの戦いで充分過ぎる力を見せつけた。相手に勝てば更にその力を誇示し、負けてもその実用性は確か。どちらに転んでもアッチにとっては問題ないという事かしら」

 

「気に食わねえ」

 

「こらこら……」

 

 口から勝手に出た言葉に木更さんが苦笑する。すると、会場でどよめきが上がった。

 

「おぉ、一人出て来たぞ!!」

 

「イニシエーターね。プロモーターか、会社の指示かしら」

 

 俺も声に釣られて、随分と荒れた訓練場を見る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 呉島さんの前に建ったのはフリルが可愛らしい服を着た少女だ。十歳前後に加えて、腰の二刀、そして爛々と輝く赤い瞳を見れば、彼女が【呪われし子供】だというのが分かる。

 

「強いな……」

 

 隣の戒斗が呟く。俺は頷きつつも、驚き逆に納得する。それもそうか、此処が【ブラック・ブレット】の世界なら当然だろう。

 

「戒斗、嫌な予感がする。何時でも聖天子を守れるように準備した方が良い」

 

「……分かった」

 

 戒斗は少しだけ訝しげな表情を見せたが、同意してくれた。どうやらテロの危険性を考えたのだろう。

 

「済まないが、名前を聞いてもいいかな?」

 

 歩き出した俺の視線の先、呉島さんが少女に問いかけた。少女は腰の二刀を引き抜き、笑顔を浮かべた。

 

「蛭子小比奈。十歳です」

 




投稿完了!!どうも、作者です。今回はこんな感じ。原作キャラもチラホラ出して、クロスオーバーらしさが出てれば嬉しいです。そして保脇のキャラを地味に悩んでいる作者なのである。こんな感じかな?それとも、もっと変態チックな方がいいかな?とか、考えながらセリフを書いています。何かご意見があれば、保脇だけじゃなくても構いませんので書いてくれると嬉しいかな(チラ)では、次回もお楽しみに



次回の転生者の花道は……



「死んじゃえ♪」



「あれ?呉島さんから聞いてなかった?俺達のコードネームだよ。ほら、こんな風に全身隠してんだし、個人名も隠した方が良いと思ってさ」



「戦極凌馬だ。君には感謝している。とても興味深い研究資料を提供してくれた事にね」

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