ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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原作一巻突入!!基本的に一巻はややオリジナルを混ぜつつ、聖天子側ですので主人公との絡みは少ないと思ってください。まぁ、主人公の見せ場はしっかりと作ってありますが。


神を目指した者たち
第六話 意外な客 思わぬ接触


「ふむ、新しいロックシードか」

 

「まぁ、見て貰った方が早いんですけどね」

 

 戦極さんと出会ってから三日目の昼前。俺は新しく手に入ったロックシードを戦極さんに見せる。

 

「面白いのかい?」

 

 そういう彼の表情は親から新しい玩具を貰う前の子供みたいで面白い。

 

「えぇ、驚くと思いますよ」

 

 そういって、俺は錠前を開けて、投げる。投げられた錠前は巨大化しながら変形して一台のバイクになった。

 

「ほう!!確かに面白い!!」

 

 そういって、サクラをモチーフとしたバイク、サクラハリケーンに齧りつく様に近づく。

 

「ロックシードにこんな種類があるとは!!」

 

 そう嬉々として語りながらもパイプやケーブルを繋いで、機械を弄る早さは凄まじく、残像が見えるほどだ。

 

「ふむ、これなら移動用の足としても充分だろう」

 

「いや、戦極さん。呉島さんならまだしも、俺と戒斗は免許持ってませんよ?」

 

「ん?それなら別に問題ないだろ。君が直に聖天子様に言えば、一発だ」

 

 そう確信した笑みで告げられ、そのまま背中を押されて、歩き出す。

 

「善は急げ、だ。さぁ、行こう!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……ロックシードにはそんな種類があるんですね」

 

「えぇ、私も驚きました。それで、どうでしょう?実働部隊の皆にコレを支給してテス……いえ、実用させては?」

 

 今、完全にテストしようとか言ったよな?

 

「コウタさんはどう思います?」

 

「え?あぁ、そうだな。あれば便利だし、それに救助した人も直ぐに運べるから。救助活動も円滑に進むんじゃないか?」

 

 ただ、バイクの免許がな~。そう思っていると、ニヤニヤと笑う戦極さんが聖天子に何事か耳打ちする。すると、彼女は音が出る位に顔を赤くした。そして顎に手を当てて、何かを考え始め、腕を組んでいる俺に気が付くとわざとらしく咳払いする。

 

「そ、そうですね。移動手段は必要です。ですので、戒斗さんとコウタさんには教習所で一通り運転を習って下さい。それと!!そのバイクに乗る時は仕事の時だけですので、勝手に乗り回してはダメですよ?」

 

「お、おう。了解」

 

「いいですか?お、女の人と二人乗りなんてダメですからね?」

 

「わ、分かりました」

 

 何故か、身を乗り出して告げる彼女に俺は首を縦に振って了承する。彼女は納得したのか、頷いて椅子に座り直す。

 

「では、勉強頑張って下さい」

 

「が、頑張ってきます」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ねぇ、パパ~」

 

「ふむ、困った子だ。我慢は大切なんだが?」

 

「お腹空いた~、イジワルなパパきら~い」

 

 後ろで足音が消える。やれやれ、そんなため息と共に振り向けば、我が娘は道端でしゃがんでおり、地面を歩く蟻の大群を眺めている。

 

「パパ~、蟻ってガストレアみたいだね~」

 

「……ふむ、確かに餌に向かって一心不乱に行軍する。確かにガストレアに似てなくもないな。進化した生物と言っても、既存のモノと似通っている。ソレは人やガストレアでも変わらないか」

 

 子供の着眼点は新鮮で面白い。とはいえ、あまりその場に留まれば要らぬ視線を集めるな。

 

「お腹空いたの?」

 

 そんな時だ。娘の後ろで声を掛けたのは長く青い髪をツインテールにした可愛らしい少女だ。赤い瞳を隠そうとせず、しゃがんだ娘を気遣う少女に私はらしくもなく、呆けてしまった。

 

「うん、お腹空いた。パパとずっと歩いて疲れた」

 

「ん~、それじゃ、ボク美味しいお店知ってるよ」

 

「ホント!?」

 

 嬉しそうに小比奈が立ち上がる。

 

「ね、パパ!!」

 

「……ふむ、お嬢さん。その店はここから近いのかね?」

 

「うん、すぐそこだよ。今日は親子デーで三割引き!!」

 

「おぉ~!!」

 

 ニッと笑って、三つ指を立てる少女に感嘆の声を上げる小比奈に自然と口角が上がる。しかし、三割引きか。先日の一件といい最近は良い事があるものだ。

 

「そうだね、これ以上は小比奈も我慢できそうにないだろうし、案内してくれないか?」

 

「はぁい、二名様ごあんな~い♪」

 

「パパ大好き!!」

 

 やれやれ、現金な子だ。だが、好きと言われて笑みが浮かぶのは仕方ない。まぁ、仮面で見えないんだがね。

 

「此処だよ~」

 

「し、【シャルモント】?」

 

「おや、フランス語を読めるようになったのか?凄いな、小比奈は」

 

「えへへ~♪」

 

 以前、基本的な事を教えたが、まさかこんな早くマスターするとは。我が娘は優秀のようだ。

 

「あ、ボクそういうの知ってる。親バカでしょ?」

 

「パパ、バカじゃないもん!!」

 

「え?親バカって子供を大切にする人だよね?」

 

「え?そうなの、パパ?」

 

「ん?ん~、そうなるかな?」

 

「ほら~」

 

 等と、会話しながら店の中に入る。中々、落ち着いた雰囲気だ。それにこの甘い香りは。

 

「ケーキの匂い?」

 

「どうやら此処はデザート専門店のようだ」

 

 まぁ、小比奈は食べられれば問題ないか。私は……内臓があれば良かったのだが。

 

「てんちょー、お客二名、ごあんな~い♪」

 

「二番テーブルに案内して頂戴」

 

 キッチンから聞こえた声は高く、且つ野太い。その声に首を傾げながら少女の後ろを付いて行く。何時の間にか、少女はお冷とお絞りが二つ乗ったお盆を持ち上げている。

 

「お冷とお絞り、後コレがメニューだよ」

 

「小比奈、好きなの頼んでいいよ」

 

「どれにしようかな……」

 

 瞳を輝かせて、メニューを見る彼女を見る。

 

「おじさんは?」

 

「私かい?私はそこまでお腹空いてないからね。コーヒーだけでいいさ」

 

「私、コレにする!!」

 

 そういって、見せたのはメニューの中心にある巨大なパフェ。オレンジとバナナ、メロンが特徴のジャンボパフェだ。

 

「おぉ、いいな。よし、後でボクもこれにしよう!!」

 

 そういって、メニューを聞いた少女はキッチンへと姿を消す。すると、キッチンの方で声が聞こえた。

 

「あ、コウタ!!今日は親子デーだから変身、お願い!!」

 

「またかよ。いや、意味分かんねえし。って、二人まで!?分かりましたよ」

 

 何処か面倒くさそうな少年の声。

 

【オレンジ!!】

 

「変身……」

 

【ロック・オン!!】

 

 やる気のない掛け声と共に店内に法螺貝の音が響き渡る。

 

「これ、なに?」

 

「さぁ、何だろうね」

 

 驚くべき事に店内の親子連れは驚いておらず、逆に今か今か、と期待している。

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

するとキッチンから巨大なオレンジを被った少年が現れる。

 

「は……?」

 

 知らず、口からは間抜けな声が出る。いや、何だアレは?というか、小比奈が身を乗り出して珍しがっているのが妙に可愛いが、今はあの少年が先だ。その少年の被ったオレンジは変形して、鎧となる。あの姿は……。

 

「鎧武!!」

 

 その叫びと共に跳び出す小比奈を斥力フィールドの壁で止める。勢いが強かったのか、壁にめり込むような勢いだ。かなり痛そうだが、仕方あるまい。

 

「小比奈。彼と戦ってはいけないよ」

 

「……どうして?」

 

 赤くなった鼻を擦り、涙目で聞いてくる小比奈は撫でてあげたい可愛さだが、ここは我慢だ。

 

「まだ菓子折りを用意してない。それにここで暴れたら折角のパフェを食べ損ねるよ?」

 

「じゃあ、止める」

 

 即答である。戦闘が大好きなこの子でも空腹には勝てないようだ。

 

「ん?アンタ!!」

 

「やぁ、鎧武君、今日はお客として来たんだ。だから、危ない事は無しにしよう」

 

 私の言葉に彼は暫し黙った後。

 

「……分かったよ。今ここではアンタはお客様だ」

 

 そういって、彼は渡されたデザートを運び、テーブルに座る子供たちと握手したり、肩車したりとサービスしている。

 

「はぁい、お待たせ~」

 

「わぁ!!」

 

「これはまた、美味しそうだ」

 

 色取り取りのクリーム、ジャム、チョコレートの層の頂点にオレンジとメロンが周りを飾り、バナナが添えられており、中々に食欲がそそられる。とはいえ、私は食べられないのが惜しい。

 

「頂きます♪」

 

 小比奈が嬉しそうに持ったスプーンで大きくパフェを切り崩し、掬って口の中に運ぶ。

 

「~~~~~~♡」

 

 頬に両手を当てて、美味しさと幸福感を身体全体で表現する小比奈を見て、こちらまで幸せになりそうだ。

 

「普通にしてると、唯の女の子なんだな」

 

「ふふ、確かにね。まぁ、少々言動が怪しいが。ところで、鎧武君」

 

 何時の間にか、此方に来ている鎧武君に声を掛け、私は客たちの間を笑顔で回る少女を指さす。

 

「彼女は【呪われた子供たち】だろ?何故、迫害されない?」

 

「この店の客は全員【呪われた子供たち】とその親だからな」

 

「なに?」

 

 言われ、よく見れば確かに。子供達は皆少女であり、その瞳は感情の昂りで赤く光っている少女もいる。

 

「何故、そのような子たちがこんなにも大勢……?」

 

「それはウチの店長のお陰かな。この店はさ、主に【呪われた子供たち】を養っている親子や保護者を対象に商売してる店なんだ」

 

 俺も驚いたよ、と彼は呟く。

 

「普通は捨てられるらしいけど、こうやって親として接する人がいるってだけで、少し嬉しい気がするんだ。やっぱり、子供には親が必要だからさ」

 

「……そうかもしれないね」

 

 視線を小比奈に向ける。彼女は嬉しそうにパフェを攻略中だ。今の彼女は血に濡れて笑顔を浮かべる【邪悪な天使】ではなく、単なる少女だ。

 

「君に懐いている少女、イニシエーターとして戦わせないのかね?」

 

 対極に位置するからだろうか、ああやって人と接して笑顔を浮かべる少女を見て、私はそう呟いていた。

 

「確かにその選択肢もあった。俺も聞いた事があるよ。けど、アイツはもう自分でやりたい事を決めていた。だから、俺はソレを尊重させたいんだ」

 

「世間が彼女を認めなくても?」

 

「……難しいよな。けど、だからって諦める奴じゃないんだ。好きな事には真っ直ぐ一直線、ソレがアイツのモットーらしいからな」

 

 そう告げる彼は何処か誇らしかった。だからだろうか。

 

「世界を壊してみないか?」

 

 そう呟く自分がいた。

 

「世界を……?」

 

「そうだ。彼女達が真に理解され、祝福される世界。そして君の力、私の力が必要とされる世界の為に仮初の世界を壊さないか?」

 

「……戦争。終わりのない闘争か?」

 

 やや沈んだ声に私は喉で笑う。

 

「そう、その通りだ」

 

 さぁ、君はどうする?青臭い正義を振りかざすか?それとも、私と共に来るか?

 

「悪いな。俺には無理だ」

 

「理由を聞いても?」

 

 問いを投げる。彼は忙しなく動き、けれど、笑みを絶やさない少女を見て。

 

「アンタはさ、幸福って何なのか考えた事があるか?」

 

「哲学だね。そして答えの曖昧な事を聞く。幸福とは万人が持つ無数の事柄であり、誰一人として同じ物はない」

 

「俺とアンタは違う。別にアンタのその願いを否定する気はない。俺だって、自分の力がどこまで通用するのか、ていう欲はある」

 

 ほう?

 

「きっと、アンタは悪を為そうとしてる。ソレは非難されて然るべきなのかもしれない。けど、あんたにとってソレは生き甲斐なんだろう?」

 

「無論だとも」

 

 なら、と彼は前置きする。

 

「俺にも新しい生き甲斐が出来た。今まで何をやっても中途半端で投げ出してきた俺が命を掛けてもやりたい事が」

 

 そういって、彼は自分の手を見る。

 

「俺の知ってる、俺を信頼してくれる人を守りたい」

 

「偽善だ。君の行いは後に君自身を蝕むだろう」

 

 かもな、と彼は呟く。

 

「俺の行いが偽善で。出来ると分かってやらないのが善だとすれば。偽善で結構、やらない善より、やる偽善の方が俺は好きだからな」

 

「……く、くひ、ヒハハハハハ!!」

 

 腹を抱えて笑う。人目など気にしない。いやはや、何とも嬉しい出会いだ。

 

「いいだろう、鎧武君。君が偽善を貫くならば私は悪を貫こう。そしてその道がぶつかった時を楽しみにしているよ」

 

 そういって、食べ終えた小比奈を連れて会計を済ませ、店を出る。

 

「パパ、何か嬉しそう」

 

「そうだね。私は今、最高に気分が良い」

 

 そういって、小比奈を見れば、彼女の口元にクリームが付いている。ナプキンを取り出し、綺麗に拭きとる。その際、小比奈とあの少女の笑顔が重なる。

 

「小比奈。お前は幸せかい?」

 

「?うん、幸せだよ。パパがいるし、美味しいパフェも食べれたし」

 

 そういって、彼女は笑う。

 

「あ、でもね」

 

 けど、彼女の言葉はそこで途切れない。小比奈はその赤い瞳を爛々と輝かせ。

 

「やっぱり、斬ってる時とか戦ってる時とかの方が幸せかも」

 

「そうか……」

 

 なんと愚かで無知な娘だろうか。こんな歪んだヒトに造り上げた自分はなんと罪深いのだろうか。

 

「パパもそうだよ。パパもね、戦っている時が一番楽しい」

 

 だが、だからこそ愛おしい。私の娘。正しく、私の理想を体現してくれるこの娘が私にとって全てだ。

 

「本当?私も嬉しいな」

 

「ふふ、さぁ行こうか。明日からお仕事の時間だ」

 

「一杯殺せる?」

 

「あぁ、一杯だ。小比奈がもう嫌って言う位ね」

 

 私の言葉に嬉しそうにはしゃぐ小比奈を見て思う。彼は小比奈を殺せるのだろうか、それとも。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お買いもの、お買いもの~♪」

 

「分かったから、暴れるなって」

 

 蛭子親子の意外な出会いから二日。俺はレヴィと一緒に夕飯の買い物に出掛けていた。何時もは一人なのだが、今日は何故か、一緒に行くと言って肩車中だ。

 

「人がゴミのようだ~」

 

「指差すな!!本当にスンマセン!!」

 

 道行く人々を指さして笑うレヴィを叱りながら謝るが、道行く人は暖かな笑みで手を振っている。レヴィの瞳は赤く、夕日を反射して恐らくは妖しく光っている筈だ。それでも、道行く人が気にしていないのはレヴィの振舞いが自然なのと彼女が殆ど笑顔を浮かべている所為だろう。

 

「コウタ~、今日の夕飯はなに~?」

 

「ん~、そうだな。京水さんが魚が食べたいって無茶言ってたから今日はフライとか塩焼きかな」

 

「魚、サカナ~♪」

 

「頼むから骨を取れよ?」

 

 コイツの場合、小骨どころか魚の骨を気にせずムシャムシャと行くので、見てるこっちの喉が痛くなる。

 

「あれ?」

 

 ふと、レヴィが視線の先を見る。俺も視線を移せば。

 

「蓮・太・郎・の・薄・情・者・めぇぇぇッ!!!!!」

 

 遠くの方で何やら赤い髪の少女が大声を上げていた。

 

「誰だろうね~?どうしたんだろう?」

 

「保護者に放置されたのかな?」

 

 恐らくは原作の出来事だろう。少女の先には血だらけの男性が立っている。

 

「どうしたの~?」

 

 男性と話していた少女に近づいて行くと、レヴィが声を掛ける。少女はコッチを振りむいて、眼を見開く。

 

「お主ら、直ぐに逃げろ!!」

 

 叫びと奥に居る男性が変わるのは同時だった。

 

「みゃ!?」

 

「んにゃ!?」

 

 俺は即座にレヴィを右脇に少女を左脇に抱えて、反転。曲がり角まで逃げる。

 

「は、離せ!!妾はアレを倒さねばならぬのだ!!」

 

「その前に避難が先だろう?」

 

 自分でも驚くほどに冷静だ。毎日の訓練のお陰だろう。主に凰蓮さんのしごきと最近加わった京水さんの鞭が原因。

 

「レヴィ、お前は此処でジッとしてろよ?」

 

「覗いちゃ駄目?」

 

「その程度なら問題ない。危なくなったら逃げろよ?」

 

「りょうか~い♪」

 

「お主ら、緊張感なさすぎだ」

 

 俺とレヴィの会話に脱力する少女の後ろ、蜘蛛のガストレアが顔を出し、即座に銃声が聞こえ、ガストレアの眼が潰れる。

 

「モデルスパイダー・ステージⅠを確認。これより交戦に入る!!」

 

「蓮太郎!!」

 

「延珠、無事か!!」

 

 声に振り向けば学生服に拳銃を構えた少年、蓮太郎がいた。少女、延珠は蓮太郎に近づき、その股間を蹴りあげる。

 

「あぁ、あれは痛い」

 

 そういって、俺はガストレアの方を確認しながら近づく。会話を聞くにどうやら自転車から振り落とされた事に御立腹のようだ。

 

「レヴィ、そこの不幸そうな顔の兄ちゃんの後ろにいろ。多分、安全だから」

 

「りょうか~い♪大丈夫?背中トントンしようか?」

 

「た、頼む……」

 

「あ……」

 

 止めようと思ったが、もう無理だ。拳を握ったレヴィが蓮太郎の背中に満面の笑顔で振り下ろした。

 

「おぉ!?」

 

 メリ、とかゴス、とかそんな音が聞こえると共に立ち上がった蓮太郎が地面に沈む。俺は頭の上に?マークを浮かべているレヴィの額にデコピンを叩きこむ。

 

「お前な、やるならもっと加減しろって、前にも言ったろ?」

 

「ご、ごめん~」

 

「お前等、呑気に漫才やってる場合か!!!」

 

 隣の強面のおっさんの声に振り向けば蜘蛛のガストレアが妙に歯並びの良い口を開けて、突っ込んで来ていた。だが、その口は俺を噛み千切る前に閉じられる。

 

「ジャマ!!」

 

 下から掬い上げる様な蹴りを受けて、ガストレアの上半身が浮き上がり、逆さまに倒れ、もがいている。

 

「お前な、民警の仕事取るなよ」

 

「んじゃ、そこの赤いの、一緒にやろ?」

 

「誰が、赤いのか!!妾は藍原延珠だ、青いの!!」

 

「えんちゅ……?」

 

「え・ん・じゅ!!」

 

「だから、漫才は後にしろっての!!!」

 

 またもや、強面のおっさんの声と共に起き上がったガストレアが突っ込んでくる。だが、俺の後ろから響いた銃声と共にガストレアの眼が再度潰れる。

 

「やれ、延珠!!」

 

「応!!」

 

「ようし、やるぞ~!!」

 

 蓮太郎の叫びに応えた延珠が跳ぶ。その速度は余裕で車の速度を超える。その後から声を上げたレヴィがその場でしゃがんだと同時にアスファルトが砕け散る。一瞬でトップスピードに達したレヴィは延珠を易々と追い越す。

 

「んな!?」

 

「ライダァー!!キィック!!!!」

 

 叫びと共にガストレアの半身を抉り飛ばし、地面を滑りながら五メートル先で停止する。同時に延珠の蹴りがガストレアに止めを刺す。

 

「ぃやったぁ~!!」

 

 ピョンピョンと跳ねるレヴィの身体には汚れどころか返り血一つない。血が噴き出す前に通り過ぎた所為だ。冗談かと思われるが、それだけレヴィが速いのだ。

 

「立てるか?」

 

「あ、あぁ。あの子はイニシエーターなのか?」

 

「いや、唯のパティシエ見習いだよ」

 

「な、なんだと!?」

 

 絶句する蓮太郎の代わりに叫ぶのは延珠だ。

 

「お主、イニシエーターではないのか?」

 

「そだよ~。ボクはパティシエ見習いのレヴィ・ラッセル~♪」

 

 そういって、二カッと笑うレヴィの首根っこを捕まえて、釣り上げる。

 

「アンタ等、民警なんだろ?仕事横取りして悪かったな」

 

「いや、別にガストレア駆除に協力してくれてコッチは感謝するけど」

 

「あの程度のガストレアなど妾だけで充分だ」

 

「ボクより足遅いくせに~」

 

「お前は規格外だから比べるな」

 

 黙らせる為にレヴィを背負う。

 

「さてと、俺達も夕飯の買い出ししなくちゃな」

 

「今日はお魚~♪」

 

「夕飯……?あぁ?!タイムセール!?」

 

 そういって、走り出す蓮太郎が何やらもやしと叫んでいた。その後を延珠が追いかけて遠くなる。

 

「おいおい、アイツ等報酬どうするんだよ」

 

 封筒を持って途方に暮れている強面のおっさんがため息を吐いた。

 

「ボク達が届けようか~?」

 

「お前等が?……まぁ、大丈夫そうか」

 

「そんな簡単に信用していいのか?」

 

 封筒を渡してくるおっさんにそう声を掛ける。

 

「いいんだよ。どっちにしろ俺が持ってると厄介だしな。それに俺はこれでも人を見る目は良い方なんだよ」

 

「……分かったよ。んじゃ、アイツ等の事務所の場所とか分かる?」

 

 おっさんから彼らの事務所の住所を聞き出し、携帯で凰蓮さんに報告してから買い出しに向かう。

 

「お魚、あんまり無いね~」

 

「まぁ、水棲ガストレアがいるからな。魚もそう簡単に手に入らないだろ」

 

 当然だが、ガストレアは空にも海にも陸にも存在する。もしかすれば宇宙にも適応できるかもしれない。隕石サイズのガストレアが大気圏外から都市部に突入。衝突の被害に加えて、その隕石からうじゃうじゃとガストレアが出て来る。うん、悪夢だな。

まぁ、拙い妄想は置いといて。今日の夕飯は野菜サラダと冷しゃぶだ。

 

「また、野菜~?」

 

「お前ね、そろそろ野菜も食えるようになろうよ。大きくなれないぞ?」

 

「王さまみたいな事言い始めた~」

 

 王さまというのは分からないが、ソイツはどうやらかなり家庭的な性格のようだ。俺が小言を言う度に出て来る。

 

「んじゃ、帰るか」

 

「思い切り、振り切るぜ~」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ただいま~♪」

 

「戻りましたよ~」

 

「あぁ、二人ともお帰り。丁度良かったわ」

 

 そういって、凰蓮さんが出迎えてくれる。その手にはケーキを入れたであろう、箱を持って。

 

「これから御挨拶でしょう?これ、ウチの宣伝とお詫びに持って行ってくれない?」

 

「あぁ、それくらいなら構いませんよ。だとするなら、今日は外食の方がいいかな?」

 

「そうね。偶には外で食べて来るのもいいかもね」

 

「え!?外で夕飯!?やったぁ~!!!」

 

 そういって、背中の上ではしゃぐレヴィに苦笑しながら買い物袋とケーキ入れを交換した俺は外へ出る。

 

「えっと……?あぁ、意外と近いな。レヴィ、走るから持っててくれ」

 

「りょうか~い♪う~ん、いい匂い~」

 

「食べるなよ?」

 

 釘を刺しつつ、走り出す。出来るだけ背中のレヴィを揺らさないようにする。何故か、コイツ物を運ぶ時は頭上に掲げる癖があるので、もし落としたら悲惨な事になる。

 暫く走り、目的地の建物に着いた。目的の事務所は三階で看板も見える。

 

「帰りたい……」

 

「どうして?早く行こうよ~」

 

「そこのお兄さ~ん、安くするから寄ってかな~い?」

 

「ちょっと~、このお兄さんは最初に私が目を付けたのよ?勝手に取らないでよ」

 

 そういって、ゲイファッションの青年と派手なドレスを着たホステスの女性が口げんかする。そう、何故かこの建物。一階はゲイバーで、二階はキャバクラという立地なのだ。

 

「これで、客が来るのか?」

 

「さぁ~?」

 

 そう互いに喋っていると件の事務所。その扉の奥から少女の怒鳴り声が聞こえる。取り敢えず扉の前でノック。

 

「……どうぞ」

 

 私、怒ってますという感情を隠そうとしないその声にため息が出る。俺が扉を開けると。

 

「【シャルモン】デリバリーサービスで~す♪ケーキ送りに来たよ~♪」

 

「こら、レヴィ。何変な事言ってんだよ」

 

 いきなり大声を上げたレヴィの首根っこを捕まえて、注意する。

 

「えっと……どちらさま?」

 

「あぁ、今日アンタ等の仕事奪っちゃった通りすがりだ。お詫びとそっちのプロモーターにお届け物」

 

 そういって、取り出した封筒を無造作に投げる。慌てて受け取った蓮太郎が封筒の中を見て、驚く。

 

「これ、今日の収入!!」

 

「え、嘘!?」

 

「中身に手は出してないから安心しろ。んじゃ、俺達はこれで」

 

 テーブルの上にケーキを置いたレヴィと一緒に外へ出ようとしたら肩を掴まれる。

 

「ちょっと、個人的にお話があるんですけど、付き合ってくれますよね?仮面ライダーさん」

 

「……そういうのは色々と手順踏んで欲しいんだけどな」

 

 そういったが、彼女は満面の笑顔で肩を掴んだ腕に力を入れて来る。今日の帰りは遅くなりそうだ。

 




原作冒頭はこんな感じです。なんか、妙に長かったような短かったような。まぁ、何はともあれ原作始まります。サクラハリケーンなどのロックシードはこれからもしっかり活躍するので、ご期待ください。



次回の転生者の花道は……



「サイン貰えますか?」



「なんで、オレンジが浮かんでいるんだ!?」



「……驚いた。まさか、私のフィールドを抜けるとはね」



「あ、光実か」

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