「浮かない顔ですね。どうかしたんですか?」
「あぁ、いや。まぁ、昨日少しな」
聖居の聖天子の私室でテーブルを挟んで俺は彼女と会話している。
「悩み事なら相談に乗りますよ?あ、でも……男の人特有の悩みごとは」
「いや、別にそっちじゃないから安心してくれ」
顔を赤らめて、なにやら妄想している彼女を止めて、小さくため息を吐く。
「昨日、レヴィと一緒に夕飯の買い出しに行ってた時に。蜘蛛のガストレアと遭遇したんだ」
「っ!?それで、倒したん……ですよね」
「あぁ、近くに居合わせた民警の仕事を奪う様な感じでさ。んで、そのお詫びとしてその事務所にお邪魔したんだ。そしたら、そこの社長が俺達と同じ位の人でさ」
「……女性なんですか?」
なんだか、聖天子のトーンが下がったが、頷く。
「それでお茶したんですか?」
「あぁ、そうなる……かな?」
カチャン、と彼女がティーカップを置く。何故だか背中が寒い。
「その社長がな、俺が仮面ライダーだって事を知っててさ……勧誘された」
ピク、と彼女が反応する。
「それで、返事は?」
「断った」
そう告げると彼女が顔を上げる。何故だか分からないが嬉しそうだ。
「その……理由を聞いても?」
「そりゃ、今の仕事がいいからだな。こうやって聖天子と何気ない事で喋ったり、君を守ったり、それに俺に民警は合わない」
「合わない?」
民警の事を調べたのだが、俺が仮面ライダーである限り、あの仕事は合わない。
「確かに仮面ライダーの力は折り紙つきだ。けど民警はほぼ、ガストレアとの戦闘だ。ソレはモノリスの外にまで及ぶだろ?」
「えぇ、外の状況を調査する場合の護衛として活躍するプロモーターやイニシエーターもいます……あっ!!」
「そう、俺が変身すると音が鳴るだろ?それもかなりの音量で、しかも夜間だと眼が光るし。これじゃ、目立ってしょうがない。それに引き換え、護衛ならあの姿も音も犯人の意識を聖天子から俺に変えられる。だから、俺はコッチの方が合ってるんだ。それに」
「それに?」
俺は紅茶を飲んでから笑う。
「俺は聖天子を守りたいから、こっちが良いんだ」
自分で言ってて恥ずかしいな、コレ。まぁ、本心でもあるし。コレで二度目だから別にいいのだが。告げた彼女が真っ赤になって俯いた。
「そ、そうですか……」
そういって、彼女は深呼吸を二度ほど繰り返した後。
「私もコウタさんが私の護衛を止めないでくれて嬉しいです」
そう、笑顔で言われれば頬が熱くなる。
「聖天子様」
すると、扉を開けて菊之丞さんがやってきた。
◆◆◆
「ステージⅤを呼び寄せる【七星の遺産】……か」
制服に着替え終え、民警が揃う防衛省の一室へ向かって歩きながら呟いた言葉にため息を吐く。
「遂に原作が始まったか。というか、こっちにきてから何だかんだで一カ月近く経ってるんだよな。あっという間だったから気が付かなかったけど」
何とか、原作の部分を思い出そうとして無駄だと分かる。原作は一巻までしか読んでいない為、これ以降の情勢が全く分からない。更に内容を殆ど忘れている。まぁ、当然だろう。死んだ事も理解できずに空想の世界に飛ばされ、これまた空想の力を手に入れてからは毎日をかなり騒がしく過ごしていたのだ。かつての記憶など霞んで覚えている事も少ない。その中にある本の内容などギリギリ覚えている事だけでも良い方だ。
(流れに沿ってなるようにしかならんか)
かなり情けないが、自分一人で出来る事などたかが知れている。だからこそ、自分に出来る事は全力でやる。その為には自分の立ち位置をしっかり理解しなければならない。
「にしても、実働部隊ってのはこんな雑用もするんだな」
聖天子の命令で防衛省にやってきた途端、俺に手渡される資料と民警に依頼する任務内容。コレについては聖天子本人から伝えられている為、俺が言う事はない。
「進行役か……俺、こういうの苦手なんだけどな~」
気持ちを切り替える為に大きくため息を吐く。胸に抱えた靄をある程度吐き出せた俺は前を向く。
「おいクソアマ、いまなんつったよ!!」
「うわぁ……」
目の前で見知った顔の男女が見知らぬ男に絡まれている。あぁ、確か原作に合ったな。とはいえ、入り口を塞がれるのはこっちとしても邪魔で仕方がない。
「部屋に入れないんですけど?」
「あら、貴方」
「あ、お前。なんで此処に?」
「あ?誰だテメエ?」
三者三様の言葉に俺は小さくため息を吐く。
「取り敢えず部屋に入らせてくれ。入ったら自己紹介とかしてやるから」
「してやるだぁ?随分と偉そうなガキだな」
そういって、標的を俺に変える男に俺は辟易する。何故こうも、面倒な奴がいるのか。
「偉そうではなく、偉いんですよ将監さん」
そういって、男、将監の服を引っ張ったのは十歳位の少女だ。
「この人、先日のお披露目で変身したオレンジの人です」
「あ?あの仮面ライダーっていうふざけた奴か?」
お前が?というような視線に俺はため息を吐き、ベルトを持ち上げる。
「何なら、お見せしようか?そろそろ俺も仕事しないといけないんだ。退くか退かないか、ハッキリしろ木偶の坊」
告げた言葉に蓮太郎と木更の顔が引き攣り、少女が額に手を置く。
「ぶっ殺す!!」
叫びと共に背中のバスターソードに手を掛ける将監の懐に一歩前に出る。
「がぁっ!?」
左腕を取り、捻り上げつつ、足を払って地面に倒す。遅い、俺を鍛えてるのは元凄腕の傭兵二人。更に上司である呉島さんは元SPだ。対人戦の心得は身を持って教えられている。
「お前の序列がどれだけ高くても。得物を抜けなきゃ、少し鍛えただけのチンピラだろうが、あんまり騒ぐなよ」
ミシ、と捻り上げた腕に力を込めれば、痛みに歪んだ顔の将監は俺を睨む。それはもう、視線だけで殺せるような勢いだ。
「もういいでしょう。彼を離してやってくれないか?」
そう後ろから声を掛けるのは椅子に座った一人の男性。恐らく将監の上司だろう。
「コイツを離した途端、また襲われるかもしれないのに?」
「そうなれば、今度は私から彼に言い含めます」
「今の今まで何も言わなかったアンタがか?」
軽く睨むも相手はどこ吹く風。まぁ、相手は大企業の社長。これ以上やって聖天子に迷惑が掛かるのは不味いか。小さくため息と共に足下の男から離れる。
「ぐっ!?このガキ!!」
「将監!!!」
男の一喝で将監は舌打ちしてから男の方へと歩き出す。取り敢えず乱れた服を直していると裾を引っ張られる。
「私のプロモーターが迷惑を掛けてすいません」
「別に。気にしなくていいさ。こっちも仕事の邪魔されてイラついてたからな」
「そうですか。その……こんなタイミングでする話ではないのですが」
そういって、彼女はモジモジと身を揺すった後、背負っているバッグからマジックペンと色紙を取り出す。
「サイン貰えますか?」
驚いた。それも俺だけじゃなく、この場に集まった全員が。
「あ、あぁ。構わないけど。どんな風に書けばいいかな?」
「あ、夏世ちゃんへと」
そう言われて頷くも、さてサインなんて初めてなんだが……まぁ、チーム鎧武のエンブレムを弄るか。前世で培った美術の才能がこんな所で役に立つとは。
「はい、どうぞ」
ロゴはオレンジの中に鎧武の文字。その中央に刀を差しこんだ感じという、元との違いは外側の円がオレンジになっただけという手抜きだ。それでも、彼女が嬉しそうに色紙を抱いて、ペコリと一礼した後、そそくさと去っていく。うん、悪くないな。帰ったら、レヴィにも書いてやるか。
「それじゃ、依頼の話をしましょうか。まぁ、こんな若造の話じゃ、信用できないだろうから。それなりの人に話して貰うけど、その前に」
そういって、俺は全員の視線を集める。好奇、奇異、驚愕、嘲笑、と多種多様な感情がそれぞれの視線に集まる。
「依頼を聞く前に退出したい人はどうぞ。コレは政府からの重要な依頼だ。聞いてから止めますは出来ないと思ってくれ」
返事はなし、動きもなし。恐らくだが、子供の戯言だと思ったのだろう。先程から雰囲気が変わっていない。これで何人かは後悔するんだろうな。とはいえ、菊之丞さんもえげつない事を俺に頼む。
「退出は無しか。なら、依頼主から依頼を聞いてもらうか」
そういって、俺は身を引く。同時に俺の後ろにあった巨大スクリーンに聖天子が映る。同時に集まった社長たちが泡を食ったように立ち上がる。
『皆さん、どうぞ楽にしてください。依頼は私からお話します』
そうはいうが、誰も着席しようとしない。それは彼女も分かっているのだろう。彼女は全員を見渡した後、一つ頷く。
『依頼そのものはシンプルです。民警の皆さんに依頼するのは先日東京エリアに侵入し、感染者を一人出した感染源ガストレアの排除とそのガストレアの体内に取り込まれていると思われるケースを無傷で回収する事』
その内容に質問が幾つか上がり、そして木更の質問により、室内がざわつく。
(まぁ、当然気になるわな。さて、どう答えるのやら)
そんな事を想いながら会話に集中すればどうやら聖天子は答える気はないようだ。何故かは知らないが、木更に対して怒っている様な、いや木更が昨日俺を勧誘した事は伏せている筈なんだが。
「別に答えてもいいんじゃないか……?」
聞こえないように呟いたつもりだが、部屋に集まった数人の少女に聞かれたらしく、視線が集中する。まぁ、無視しよう。そう思った瞬間、室内に笑い声が響き渡る。
『誰です?』
「私だ」
ベルトを装着し、ロックシードを取り出した俺が睨むのはこの部屋で唯一の空席。そこには案の定、蛭子影胤が座っていた。そのあまりに自然な姿に部屋の人間が驚き。その中でも両隣に座っていた者達が椅子から転げ落ちる。
『貴方は……!?』
「先日の言葉通り、正式に挨拶に参りました。私は蛭子影胤。以後宜しく、無能な国家元首殿」
【オレンジ!!】
「変身!!」
テーブルに上がった影胤の前、スクリーンの聖天子の前に立った俺の頭上にはクラックから現れたオレンジが浮かんでいる。
「なんで、オレンジが浮かんでいるんだ!?」
社長の中には細かい事を気にする奴がいるようだ。
「数日ぶりだね、我が新しき敵よ」
「あぁ、そうだな」
【ロック・オン!!】
「私は挨拶と宣戦布告に来ただけだ。争う気はないよ」
「お前になくても俺にはあるさ」
【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】
鎧を纏った俺は大橙丸の切っ先を影胤に向ける。
「俺は聖天子の護衛で、お前は聖天子の敵だ。なら、戦うのは必然だろう?」
「くく、それもそうだな。だが、今はまだ宣戦布告の途中なんだ。邪魔しないでくれるかね?」
その言葉に俺は僅かに大橙丸を下ろす。それで意図が通じたのだろう。彼は視線を俺から聖天子へと変える。
「さて、聖天子と呼ばれ、崇められる愚かな娘よ。端的に言えば、私は君の敵だ」
その言葉に室内から複数の殺意が影胤に集中する。だが、彼は変わらずそこにいる。まるで眼下の者達を敵とは見ていないかのように。
「お前、どっから……?」
そう声を掛けたのは彼に銃を向けている蓮太郎だ。
「正面から堂々、と答えておこうか。あぁ、来る時に小うるさいハエがいたから潰してしまった。あまりにも呆気なさ過ぎてね、私も少々驚いた。おっと、忘れていたよ。皆さんにも紹介しよう。小比奈」
そう影胤の言葉と同時に首筋がピリと静電気の様な物を感じ取る。
「っ!?」
「また防がれた!!」
咄嗟に大橙丸を左に振り抜いた瞬間、甲高い音と共に嬉しそうな少女の声が聞こえた。
「チッ!!」
「わっ!?」
空中に静止している刹那の瞬間、大橙丸から手を離し、無双セイバーを居合いの要領で抜くが、彼女は間一髪で避ける。カランという大橙丸が落ちた音が会議室に響く。
「今のは凄くドキドキした。鎧武って本当に面白い。弱いと思ったのに強いなんて初めて」
「それはどうも。なぁ、保護者さん。なんとかしてくれないか?」
「そうだね。こら、小比奈。最初に約束した事を忘れたのかい?」
「……分かった」
渋々と小太刀を鞘に仕舞い、影胤の所に向かう小比奈を見て、俺は荒くなった呼吸を整える。幾ら、鎧武の装甲が厚いとはいえ、あそこまでストレートに殺気を向けられては生きた心地がしない。
「さて、話が逸れたね。これから私も彼らと同じレースにエントリーしようと思ってね」
「エントリー……?」
「おや?話していないのかい?なら、鎧武君。君も仕事なのだろう、しっかり果たしたまえよ?」
「何のことやら」
「おや?まさか、聖天子に一番信頼されている君が知らぬ筈はあるまい?【七星の遺産】だよ【大絶滅】を引き起こせる代物だ」
やっぱり、知っていたか。そう思いつつ、周囲を見れば騒然としている。後ろへと視線を向ければ硬い表情の聖天子が映っている。
「民警の諸君、ルールを確認しよう。君と私達。どちらが先に感染源ガストレアを発見し【七星の遺産】を手に入れるか。なぁに、簡単なレースさ。生死を賭けた。この東京エリアを賭けたレース!!実に面白いと思わないかね?」
「ごちゃごちゃと!!」
ダン、という踏み込みの音と共に将監が躍り出る。その手には彼の身の丈と同等のバスターソードが掲げられている。
「要はテメェを殺せば済む話だろうが!!!」
「残念♪」
青い燐光と弾ける雷鳴の音と共にバスターソードが明後日の方向へ弾かれる。
「将監さん!!」
彼の後ろにいた少女、夏世がフルオートタイプのショットガンを構えて叫ぶ。同時に将監は身を低くして、後退。その瞬間、部屋中に集った人間が発砲する。
(恐らく、これじゃ死なない)
俺の考えを肯定するように煙の中には無傷の影胤と小比奈。そして二人の周りに浮かぶ銃弾がある。
「バリア……随分と面白い物を」
「君には負ける。とはいえ、コレは斥力フィールド。まぁ、私は【イマジナリー・ギミック】と呼んでいるがね」
「何者なんだ?」
蓮太郎の震えた声に影胤は小さく頷く。
「私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊【新人類創造計画】蛭子影胤だ」
長い。名乗りを聞いた瞬間の感想だ。しかも、ソレが何なのか、どんな組織なのか分からない。
「済まないが、俺はソレについての知識が無い。出来れば教えてほしいんだが」
「おや、そうだったのか。そうだな、簡単に言えば身体の一部を機械化して超人的な攻撃力、または防御力を持つ兵士を作り出す計画だ。私は後者だね」
「非効率だな。アンタをツクル金でどれだけの子供たちが鍛えられるんだ?」
「ヒヒ、確かに非効率だね。けど、コストに見合った戦果は上げられるさ。それに子供たちの有用性は私がツクラレタ後だからね。今更だ」
「そうか、それじゃ!!」
足下に転がっている大橙丸を蹴り上げ、手に持つと同時に突進。斬りかかるも斥力フィールドに阻まれる。
「先程よりもいい攻撃だ。だが、私には届かないようだね」
「それはコイツを受けてから言いな!!」
【オレンジスカッシュ!!!】
大橙丸が光ると同時に斥力フィールドごと切り裂く。
「……驚いた。まさか、私のフィールドを抜けるとはね」
「浅いな。まぁ、次はもっと深く斬れるさ」
斥力フィールドは意外とあっさり斬れた。とはいえ、威力はかなり殺されたようで、影胤の手には小さな斬り傷が出来るに留まっている。
(これならスパーキングで行けるか?)
刀に手を置いた俺がそう考えていると影胤は両手を上げる。
「此処は一端、退いた方がいいね。おっと、忘れる所だった」
そういって、彼は右手にハンカチを持って、手品のように大きめの箱を取り出す。
「コレは里見君に。そしてこちらは以前言われた菓子折りだ。気に行ってくれれば幸いだけどね」
そういって、影胤は俺と蓮太郎の前に箱を投げる。そのまま、彼は攻撃の余波で割れた窓に近寄る。
「では、ゲーム開始だ」
「待てっての!!」
「やぁだ♪」
近づく俺に小比奈が刀で迎撃する。思わず弾いてしまい、その反動を利用して既に窓から飛び降りた影胤を小比奈が追いかけるように跳び下りる。
「こりゃ、追いかけても無駄だな」
窓の外には既に二人の姿は無い。それに俺の攻撃が通用したとしても二対一。コッチが不利だ。
「そういえば、菓子折りって言ってたけど」
テーブルに置かれた箱に目を移す。白い箱で赤いリボンで舗装されている。俺はリボンを取り外し、ゆっくりと箱を開ける。
「うわぁ……」
そこにはガストレアの生首。そっと、俺は蓋をしてリボンを結び直した後、軽く放り投げる。
【オレンジスカッシュ!!】
「ライダーキック……」
呟きと共に光が集まった右足の回し蹴りで箱を粉々に砕く。ガストレアの生首は蹴りに込められたエネルギーによって塵へと変える。
◆◆◆
「待って!!」
あれから聖天子の言葉で解散という流れとなり。俺も聖居に戻ろうとした所を木更に止められる。
「何だよ。勧誘は昨日断った筈だぞ?」
「えぇ、出来れば諦めたくないけど、今はいいわ」
諦めてないのかよ。ていうか、何故か蓮太郎がこの場に居ないのは何故だ。
「アンタの護衛は何処行ったんだ?」
「蓮太郎君?彼なら先に帰ってるわよ。それよりも、聞かせて【七星の遺産】は一体どんな代物なの?どうやって【大絶滅】を引き起こすの?」
近づき、聞いてくる彼女に内心、ため息を吐く。
「教えなきゃ、ダメか?」
「知っているのね?なら、教えて。私には知る義務があるわ」
何処か懇願する様な声音。理由は恐らく蓮太郎だろう。
「ステージⅤ」
「……冗談よね?」
聞き返す彼女に背を向けてサクラハリケーンのロックシードを放り投げる。
「信じたくなければそうすればいい。けど、あと数日の内に現実になるかもしれない。もし、アンタ達が失敗したら最後に何処で、誰と一緒に死ぬかくらいは考えておくといいんじゃないか?」
そういって、俺はヘルメットを被って、サクラハリケーンに跨る。静止の声を振り切って、バイクを発進させる。
(なんで、教えたんだろう?)
遅かれ早かれ知る事だが、今知らせる必要はない筈だ。なのに、なぜ教えてしまったのか。それはきっと、彼女の表情だろう。
「蓮太郎って案外幸せ者なのかもな」
そのまま、警察に捕まらない速度で聖居に着く。サクラハリケーンをロックシードに戻して、聖天子の私室に入ると。そこには聖天子と菊之丞さんに加えて戦極さんがいた。
「おや、葛葉君。無事に戻ってきたようだね」
出迎えたのは戦極さんだ。
「どうかしたんですか?」
「ん?あぁ、そうだ。君にも伝えなくちゃね」
そういって、彼は嬉しそうに開いたアタッシュケースを俺にも見せる。
「え?戦極ドライバー?」
「といっても、変身機能はないがね。再現できたのは外見とロックシードから栄養を抽出する機能だけだ。このまま順調に行けば後数週間で量産可能さ」
規格外すぎるなこの人。
「まぁ、今回の依頼が失敗すれば徒労に終わりそうだけどね」
「戦極さん。それは冗談でも性質が悪いですよ?」
「いやいや、あながち冗談でもないさ。私も先程の戦闘を見せて貰った。そこから考えて蛭子影胤には仮面ライダーを当てるしかない。まぁ、それでも勝算はあるかどうかは分からないけどね。それにどの道、彼を倒してもステージⅤを呼ばれてしまっては私達の生存は絶望的だ」
「そりゃ、そうだろうけど」
言葉を濁しながら俺は聖天子を見る。彼女は膝の上で両手を強く握りしめて俯いている。
「俺もガストレア探しした方がいいですかね?」
「いや、君には聖天子様の護衛に着いて貰う」
俺の言葉に答えたのは意外にも菊之丞さんだ。彼は俺を真っ直ぐ見て。
「ガストレア捜索は駆紋戒斗にやって貰う。君には聖天子様の傍に居てやってくれ」
最後の言葉は俺の耳元で告げて菊之丞さんは戦極さんと一緒に部屋から出る。
(信頼されてるのか)
取り敢えず今はそう思っておこう。それよりも今は聖天子だ。
「……」
とはいえ、どうすべきか。聖天子の対面に座ったものの、どんな言葉を掛ければいいのか分からない。そんなもどかしい時間が随分と長く感じた。時計の針の音がやけに室内に響く。
「……無能な国家元首ですか」
零れたような呟きに俺は彼女を見る。彼女は俯いたままだ。
「聖天子として今まで未熟ながら人々の為に尽くしてきました。それが全部正しいとは思っていません。きっと間違っていることだってあるだろうし、誰かに恨まれたりもしていたんでしょう。それでも、私はこの東京エリアの人々の為に努力してきました」
ソレはまるで罪人が神父の前で全てを告白する懺悔のようで、正直聞きたくなかった。けど、聞きたくないからといって耳を塞ぐほど俺は身勝手にもなれない。
「でも、蛭子影胤の言葉で全てが否定された気分です。私は間違っていたんでしょうか……?」
顔を上げた彼女は今すぐにでも泣きそうな顔だった。俺は彼女の瞳を見て、一度だけ深呼吸した後。
「それは……俺にも分からない」
告げる。残酷な様だが、俺は彼女と出会ってまだ一カ月。彼女の公務なんて片手で数えるほどしか知らない。
「けど、そういうのってきっと誰にも分からないんじゃないか?」
「え……?」
だから、俺は俺が思う事を告げようと思う。ソレが一番彼女に響くと思うから。
「正しいから、間違ってるからなんて線引きなんてさ。関係ないと思うんだ。だって、そんな線引き意味なんて無いんだから」
「意味が無いんですか?」
「あぁ、意味ないよ。聖天子ってさ。好き嫌いする人をどう思う?」
「え?」
聖天子の目が点になった。あぁ、これは面白いかも。
「だから、好き嫌いする人だよ。食事でもいいし、趣味でもいい」
「えっと……好き嫌いはいけないと思いますけど」
「そっか、でも俺は誰だって好きな物、嫌いな物があるから。別にいいんじゃないかなって思うんだ」
「いいんですか、それで?」
「いいんだよ、所詮は他人事だし」
そういって、笑う。
「今聞いて聖天子も分かっただろ?俺と君は細かい所で違う。良い事と悪い事の線引きが微妙に違うんだ」
「……それは分かりますが」
「だからさ、アイツの言葉なんて気にしないで、君は君の価値観で動けばいいんだ」
「でも、それは自分勝手ではありませんか?」
「別にいいじゃん、自分勝手?我が侭?大いに結構、国の舵取りをするやつなんて我が侭な方がいいんだよ」
「我が侭……ですか」
元々、人間はそれぞれ違う価値観を持っている。魚が好きな人がいれば嫌いな人がいる。そういった線引きが常にある。そしてその線引きが幾つか似ている人はいれど、細かい線引きまで似ている人間はそうそういない。
「だからさ、聖天子。お前はお前がやりたい事を一生懸命やればいいんだ。他人の評価なんて放っておけ。そんな物。全部終わった後の評論家の仕事なんだから。大事なのは今この瞬間だ」
「……私がやりたい事」
そういって、彼女は組んだ手をゆっくりと解く。
「……そうかもしれませんね。私は私のやりたい事をやる。でも、私は東京エリアの代表ですからそこまで個人的な事は出来ませんよ?」
「あ~、それもそうか。でも、そういう匙加減が腕の見せ所じゃないか?」
「ふふ、そうですね」
そういって、彼女は大きく息を吐いた後、俺を真っ直ぐ見る。
「では、改めてこの件が終わる間、私の身辺警護をお願いします」
「了解しました」
◆◆◆
「あれ?延珠さん」
「あ、光実か」
蓮太郎から先に帰れと言われ、退け者にされた気分のまま歩いていると前から声が掛かった。見れば、最初の男友達である呉島光実がいる。
「どうかしたんですか?元気ないですけど」
「わ、妾は何時でも元気だぞ!!」
胸を張ってそう答える。すると、光実は苦笑して、買い物袋からアイスを取り出した。
「一つ多く買ってしまったんです。一緒に食べませんか?」
柔らかな笑みとその言葉につい妾も頷いてしまう。そのまま、二人で公園のベンチに座ってアイスを食べる。
「そういえば、さっき大通りで騒ぎがあったらしいんですけど」
「……いや、妾は知らないな」
先程の事を思い出して、そう答えてしまう。
「御免なさい」
「光実は悪くないぞ?」
「いえ、その。実はその騒ぎ知っているんです。ちょっと話題作りに使ったんですけど、不謹慎でしたね」
そういって、もう一度頭を下げる光実に困ってしまう。最初に会った時から素直で正直な光実は一緒に居て、とても安心する友人だ。勿論!!蓮太郎の方が万倍良いのだが、まぁ、それは置いといて。
「その……光実は【呪われた子供たち】をどう思っている?」
ふと、そんな事を聞いていた。後から思えば、きっと光実なら妾達の事を悪く言わないだろう、とそう考えて口にしたんだと思うが、この時は殆ど無意識に口にしていた。
「そうですね……正直言って、よく分からないです」
「ん……?憎いとか怖いとかではなく、分からないのか?」
はい、と光実はそう答えて、アイスを食べきる。
「僕の兄が言うには僕の両親は僕を生んだ後、ガストレアに殺されてしまったそうなんです」
驚かない。光実に親がいないのは知っていたし、妾と光実が友人となった切っ掛けだ。
「兄さんはガストレア事態に恨みや憎しみを持っていますけど、僕は正直、怖いだけなんです」
「では、その子供達も怖いのではないか?」
「そんな訳ないじゃないですか」
朗らかに笑って否定された。その表情、言葉に思わず呆けてしまう。
「だって、あの子たちは身体の中にソレを持っている以外は普通なんですよ?それに僕自身、そうやって皆がそうだから自分もそうだっていう考えは好きじゃないんです」
「そ、そうか?」
「先ずは話して、それからです。もしかしたら怖い目に遭ったりするかもしれないけど、先ずは知り合ってみないと分からないじゃないですか」
「そ、そうだな!!」
妾は困惑していた。光実の言葉は真っ直ぐでキラキラした感じで、最初は嘘なんじゃないかと思っていた。けど、光実の声と表情が何時もと同じだと気付くと今の言葉が光実の本音だというのが分かった。ソレがとても嬉しかった。
「その、光実。妾は隠し事をしているのだ」
「僕や舞さんも知らない事?」
「舞ちゃんにも教えていない事だ。けど、ソレを教えるのが凄く怖い」
「嫌われるかもしれない?」
頷く。光実の本音を聞いても口に出来そうにない。それだけ、自分の正体を教えるのが怖いのだ。
「じゃあ、無理に言わなくていいですよ」
だからだろうか、何時ものように優しげな光実の言葉が毒のように身体に染み渡る。
「僕や舞さんは何時でも待ってます。だから、決心が付いたら僕達だけに言ってください」
そういって、光実は笑顔を浮かべる。
「どんな事があっても僕達は友達なんですから」
きっと、失望する。きっと、怖がられる。きっと、騙されたと言われる。そんな思いが心を支配していた。
あれから一日と経たずに学校中に妾が【呪われた子供たち】だという事が伝わった。最初、その事を確かめられた時は心臓が止まったと思った。そしてソレが致命的で否定する事が出来ずにクラスの皆の視線が変わった。怖い、気持ち悪い。昨日まであったクラスメイト達がいなくなった。
「延珠さん!!」
だから逃げた。力を使って一気に走った。後ろから光実の声が聞こえたけど、気の所為だ。きっと、光実なら優しい言葉を掛けてくれる。そう思ったからこそ聞こえた声だ。そうに決まっている。
◆◆◆
周囲のクラスメイトは一日経って登校してきた延珠さんを遠目に見ている。そんな中、僕はなんで彼女に何時ものように声を掛けないんだろう。何故、僕は窓際の席で彼女を盗み見る様な真似をしているんだろう。
(きっと、彼女だって怖い筈なのに)
このままじゃ、きっと延珠さんは耐えきれずにまた逃げてしまうのでは。そんな考えが浮かんだ。頭を振って、その考えを彼方に吹き飛ばす。そして、ふと尊敬する兄さんの言葉を思い出す。
『光実。お前はお前の思うように生きろ。どんな生き方を選んでも俺はお前の味方だ』
その言葉を聞いた時はずっと、兄さんが一緒に居てくれるという事だと思って嬉しかった。その言葉を聞いてからまだ三年位しか経ってない。けど、今なら少しだけあの時の言葉の意味が分かる。兄さんはどんな事があっても僕の味方であってくれる。あの強くて、優しくて暖かな背中を持った兄さんが。
(馬鹿だな、僕は。もうとっくのとうに決めた筈なのに)
あの時、苛められていた僕を助けてくれた彼女と友達になったあの時に。そう思った時、僕は席を立って、延珠さんの前に来ていた。
「光実……?」
「少し廊下で話しませんか?」
何時ものように声を掛けた。ソレが一番驚いたんだろう。延珠さんは少しだけ驚いた後、頷いた。
「おい、呉島。お前、ガストレアと仲良くなってどうするんだ?」
そんな野次が飛んできた。その言葉に立ち上がった延珠さんの顔が強張る。ソレを皮切りに周囲から非難、罵声の声が上がる。僕は首だけで振り向き、最初に声を上げた奴を睨んだ。
「黙ってろよ、クズ」
口にした僕でも驚くほど平坦な声だった。その言葉に野次がピタリと止まる。それもそうだろう。何時もの僕だったら皆を落ち着かせようと丁寧な言葉を使った筈だ。ソレがこんな汚い言葉を口にしたんだ。驚かない方がおかしい。
「お前等、今まで延珠さんと仲良かったじゃないか?なんで、そんな言葉を平気で口に出来るんだよ?」
「ソイツは俺達を騙してたんだぞ!!お前だって騙されたんだろ!?」
「そうだよ。僕だって、延珠さんに騙されていたさ。けど、ソレが何なんだよ!!」
「光実……」
僕は何時の間にか怒鳴っていた。きっと、心の中に溜まっていた色々な物を吐き出したかったんだろう。
「延珠さんは僕の友達だ!!ガストレアだからとか人間だからとかじゃない。僕は藍原延珠さんの友達だ!!」
力一杯叫んだ。きっと、今までで一番叫んだと思う。そんな時、入り口で黒い制服の男の人がいるのに気付いた。一度だけ会った事がある。延珠さんの保護者で、彼女は【ふぃあんせ】って言っていた。その言葉の意味を兄さんに聞いた時は驚いた。だって、二人は恋人っていうより仲の良い兄妹に見えたのだから。
「ソイツは人間のフリをしてたんだぞ!!」
「違う!!延珠さんは人間だ!!【呪われた子供たち】は皆、僕達と同じ人間だ!!」
殆ど、条件反射で叫んでいた。口がカラカラに渇いて、喉が痛い。けど、だからって止めるわけにもいかない。だって、僕が此処で止めたらこの学校で彼女の味方が誰もいなくなってしまう。
「もういい。もういいんだ、光実」
「良くない!!だって、このままじゃ延珠さん。また一人ぼっちじゃないか」
彼女の肩に両手を置いて、そう告げる。
「一人ぼっちではない。今は光実がいる。それに蓮太郎もいるから妾は一人ぼっちじゃない」
「……延珠」
後ろから声が聞こえた。振り向けば蓮太郎さんが立っていた。蓮太郎さんは僕の頭に手を置いて乱暴に撫でる。兄さんと違う撫で方に少しだけくすぐったい。
「有難うな、延珠の味方してくれて。でも、もういいんだ」
「でも、それじゃ延珠さんが」
「お前だけでも味方がいてくれた事が一番良かったんだ。御免な、辛い役やらせて、これじゃ、お前まで学校に居辛くなっちまうのに」
もう、ダメなのだろう。でも、諦めたくなかった。そんな僕の気持に決心させるかのように延珠さんは涙で濡れた顔で精いっぱいの笑顔を浮かべていた。
「有難う、光実。今の光実は蓮太郎よりもずっとずっと、格好良かったぞ」
そういって、もう一度有難うと言って、彼女は僕の手を離そうとする。けど、僕はその振り払おうとした手を強く握って、彼女に聞いた。
「また一緒に遊べますか?」
その言葉に彼女はキョトンとした顔を作った後、何時もの様な笑顔を浮かべて。
「うむ、何時でもいいぞ」
今度こそ、僕は手を離す。そして彼女達を昇降口まで見送った。
「これからどうしようかな」
ため息と共に洩れた言葉。きっと、以前以上に僕の風当たりは強くなるだろう。ならば、いっそのこと、彼女達と同じように学校を移ろうか。
「悪くないかな」
お互い、一度やり直す。それも悪くない。だから、直ぐに行動しよう。先ずは鞄を取りに行って、職員室で早退を告げないと。
ミツザネェ!?(感想用の挨拶)はい、今回は会議室での一幕と延珠と光実のお話です。原作とは違い、ショタなので自分が想うとおりに白く染めていった結果、何故か僅かに濁りました。おのれ、ディケイドぉぉ!!!
仮面ライダーのデメリット云々は投稿初期に貰った感想というより批判を基に考えてみました。興味があれば感想版を覗いてください。後、隠されている為に不快になる場合があるので、ご注意を。後、原作知識云々は作者の感覚です。作者自身が忘れやすいのもありますが、転生してから数年、又は数十年経っているのに小さい事を覚えているのが結構、謎だったので、この作品のコウタは原作知識を持っていますが、かなり虫食い状態です。
また、原作鎧武の小説を合間合間に書いています。ズバリ、赤心小林拳を使うスターフルーツとドラゴン繋がりで忍者なドラゴンフルーツの女性アーマードライダーです。まぁ、投稿するのはもっと先か、最悪お蔵入りしそうですがww
では、次回もお楽しみに
次回の転生者の花道は……
「任務失敗ですか……」
「大丈夫だ。俺はどんな事があってもお前を守るから」
「依頼の話をする前に言っておくべきだったな。もし、この任務までもが失敗し、この東京エリアにステージⅤが襲来した場合に備えて既に大阪、仙台エリアの両方から東京エリアの市民受け入れの準備が整っている」