ブラック・ブレット 転生者の花道   作:キラン

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珍しく早起きして「ヒャッハー!!リアルタイムで鎧武見るぜ!!」と喜び勇んでテレビをつければ今日は休みだった。林先生ぜってぇ許さねえ!!!【カチドキィ】
そしてDX金のリンゴ、銀のリンゴを買いました。いやはや、デザインいいですね~


第八話 襲撃 パートナー

「任務失敗ですか……」

 

「その通り、思った以上に蛭子影胤のペアが強く。思った以上に民警が弱かったおかげで今この東京エリアはステージⅤガストレアの脅威に晒されている!!いやはや、絶望的状況かな?」

 

「プロフェッサー凌馬。聖天子様の御前だ。言葉は慎め」

 

 これは失礼、と大仰に頭を下げるプロフェッサーの言葉に私は静かに聞いている。菊之丞さんから受け取った里見蓮太郎の資料を見た時は何とかなると思っていた。けれど、見通しが甘かったとしか言えない。

 

「蛭子影胤のペアと戦った民警のペアは?」

 

「意識はまだ回復しておりませんが、命に別状はありません。医者も諦めかけた時に心臓が動き出したそうです」

 

「正に奇跡だ。とはいえ、人一人が生き返る奇跡よりステージⅤを消滅させる奇跡を私は望みたいが、奇跡は既に売り切れかな?」

 

 そういって、彼は何処か楽しそうに告げ、紅茶を啜る。その仕草が何時も通りで少しだけ腹立たしい。

 

「……楽しそうですね」

 

「おや、そう見えましたか?まぁ、否定はしませんよ。けど、少し不安もあるんですよ?」

 

 何だろう、と興味が顔を出す。

 

「私が死んだ場合、今まで保管していた私の研究データが誰かの手に渡ってしまう。その時、私のデータを手に入れた者は果たしてそのデータを理解出来るのか?そんな不安です」

 

 彼らしい言葉に頬が引き攣る。

 

「死ぬのが怖くないんですか?」

 

「全然」

 

 即答だった。彼は紅茶をテーブルに置くと、大仰に両手を広げる。

 

「人は何時か死にます。それは寿命であり、不慮の事故であり様々です。そもそも生まれたのならば必ず死ぬ。自然の摂理ですよ。ソレが遅いか早いかの違いです」

 

「けれど、未練は残りますよね?」

 

「それこそ、仕方がありません」

 

 肩を竦める。

 

「未練を残さないで死ぬ人間なんてそもそも存在しませんよ。私だって何時死ぬか分からない。ソレがこの後すぐだった場合、私にとっての未練はロックシードの解析と戦極ドライバーの開発が行えない事。しかし、ソレは仕方ありません。死は絶対であり、逃れられないモノ。抗う事は出来るでしょうが、所詮は問題の先延ばしです」

 

「そうかもしれませんね。でも、私は諦めたくありません」

 

 真っ直ぐ見つめて、告げればプロフェッサーは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ふむ、ではこれからどうします?」

 

「無論、蛭子影胤を止めます」

 

「どうやって?彼は恐らくモノリスの外にいる筈。あれから一日とそろそろ三時間ですから、そう遠くまで彼等は動いていないでしょう。しかし、もう既にステージⅤが呼び出されているのでは?」

 

「いいえ、ソレはありません。蛭子影胤が【七星の遺産】でステージⅤを呼び出そうとしても、準備が必要です。その間に彼を倒せさえすれば」

 

「ほう?準備……ですか」

 

 彼の瞳が一瞬鋭くなる。

 

「やはり、聖天子様は我々に隠しごとをしておられましたか」

 

「……無論です。全てを知らせては混乱が生じます」

 

「えぇ、その通り。貴女のお考えは正しいでしょう。しかし、その言葉を彼に言えますか?」

 

 プロフェッサーの言葉に身体が金縛りに合った様に固まる。プロフェッサーの言う彼とはコウタさん以外に考えられない。

 

(コウタさんも同じです。言えばきっと、パニックを起こしてしまう)

 

 そう考えながらも頭の片隅では違う考えが浮かぶ。もし、その事を教え、結果的に彼を騙していた事が分かった時、果たしてコウタさんは私にどんな感情を向けるのか。怒りや悲しみなどはいい。けれど、侮蔑?軽蔑?嘲笑?憐れみ?頭の中で様々に表情を変えて、私を見るコウタさんを想像した瞬間、知らず私は自分自身を抱きしめていた。

 

「ふむ、少し苛め過ぎたか?」

 

「今戻りましたよ~」

 

 そんな時である。コウタさんがそんな呑気な声と共に部屋に入ってきた。

 

「市民の様子はどうだった?」

 

「何時も通りでしたよ。マスコミの方も気を使って何時も通りに動いていました。とはいえ、アナウンサーとかは緊張していたし、他の方も結構キテるみたいでしたから。不審に思う人間はいるでしょうね」

 

 そうか、と菊之丞さんの声がやけに遠く聞こえます。

 

「どうかしたのか?」

 

 そう俯いた私を見上げる為に片膝を突いたコウタさんが聞いてくる。

 

「い、いえ。その……」

 

「ねぇ、コウタ君。君は隠しごとをする人間をどう思う?」

 

 私の言葉を遮る様にプロフェッサーの楽しそうな声が部屋に響く。同時に私の肩が震える。

 

「どう思うって言われても、誰だって隠し事は一つ二つあるだろ?」

 

「そうだね。でも、真実を知る権利は誰にだってあるじゃないか」

 

「知らせる事でソイツにメリットがあるならいいけど。無駄に混乱させたらダメだろ?あぁ、俺の感想だったか……そうだな」

 

 そういって、彼は私の手をそっと握ってくれた。

 

「その隠し事が誰かを想う為に隠していたなら俺は仕方ないと思う。そりゃ、自分の為に隠し事するのは流石に不味いけど、自分以外の誰かの為に隠し事する奴は嫌いになれないさ」

 

 握った手を離して、私を安心させるように二、三度優しく叩く手は大きく、暖かい。

 

「成る程ね。よく分かった。君はお人好しだ」

 

「それくらいは自覚してるよ。手が伸ばせるのに伸ばさない様な生き方をしたくないって思ったからこうなったしな」

 

 そういって、彼は私を見て、何時ものように笑う。

 

「大丈夫だ。俺はどんな事があってもお前を守るから」

 

 きっと、コウタさんは私がステージⅤに怯えているのだと思ったのだろう。だけど、たとえ勘違いだとしてもその言葉に勇気づけられた私は笑って。

 

「頼りにしてます」

 

 そう答えた。何時もの笑顔が出来たか疑わしいけど、今はそんな事に構っていられない。

 

「直ぐに手を打ちましょう。菊之丞さん、直ぐに対策会議を開きます。あの、コウタさん。それまで私の手を離さないでくれますか?」

 

「それくらいはお安い御用だ」

 

 そういって、私の手を握る彼の手を握り返す。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ふん、民警の人間は随分としぶとい様だな」

 

 意識を取り戻し、木更さんから大体の経緯を聞いたその時、入口からそんな声が聞こえた。

 

「どなたかしら?」

 

「済まない、火急の案件なのでノックを忘れていた」

 

 小さく頭を下げた青年とその後ろにいるのは俺と同い年くらいの少年だ。

 

「我々は政府の使いだ」

 

「なんだよ、失敗した小言なら要らねえぞ」

 

「ふん、失敗した人間に説教した所で現状が変わるのか?そんな無駄な事よりもっと、事態を好転させる行動をするんだな」

 

 壁に背を預け、両手を組んだ奴の言葉に反論できない。もう一人は一つため息を吐くと俺達の前にやってくる。

 

「ステージⅤが来るという事は?」

 

「聞いてるよ。正直、冗談であって欲しいけどね」

 

「残念ながら事実だ。そこで政府から全ての民警に二つの依頼が出された。選ぶのはどちらか一つだ」

 

「二つの依頼……?」

 

 木更さんの疑問の言葉と共に俺は身体を起こす。隣に座る延珠が心配そうに見つめて来るが、頭を撫でて安心させる。余計に心配された。どうすりゃいいんだよ。

 

「一つは蛭子影胤ペアの追撃と【七星の遺産】奪取」

 

「もう一度、あのバケモノと戦えってか?」

 

「隊長、時間の無駄だ。そこの腰抜けは最早、戦う気力すら無い敗者だ。他の民警を当たった方が合理的だ」

 

「蓮太郎は腰抜けではない!!!」

 

 壁際の声に延珠が噛み付く。

 

「ほう?面白いな。無様に負けて、そして奇跡的に手放さかった命を賭けて、もう一度命懸けの戦いに挑むと?」

 

「今度は負けない!!」

 

「戒斗」

 

 男性の言葉に少年、戒斗は肩を竦めて黙る。

 

「この依頼を受けなければもう一つの依頼を受ける事になる」

 

「どっちも受けないって言ったら?」

 

「ならば、君は非難する市民を見捨てる事になる」

 

 無表情に告げられた言葉に一瞬、呼吸が止まる。

 

「依頼の話をする前に話しておくべきだったな。もし、この任務までもが失敗し、この東京エリアにステージⅤが襲来した場合に備えて既に大阪、仙台エリアの両方から東京エリアの市民受け入れの準備が整っている」

 

「……つまり、もう一つの依頼ってのは」

 

「非難する市民の護衛だ。陸海空の内、水棲ガストレアが存在する海は除外、空路である空は警備が困難な為これも除外し、民警は陸路を行く避難民の護衛をやってもらう」

 

「無茶だ!!」

 

 ほぼ無意識に叫び、男の胸倉を掴んでいた。

 

「お前、モノリスの外がどうなってるか知ってんのか!?あそこには大量のガストレアがいるんだぞ!!一体、どれくらいの人間が避難できると思っているんだ」

 

「多くて一割だ」

 

 即答の言葉に掴んでいた手の力が緩む。だが、相手は俺の手を掴み、引き寄せる。まるで、現実から目を逸らそうとする俺を逃がさないように。

 

「非難する市民はどれだけ護衛を付けようと辿りつくまでに九割が死に絶える。多くて、一割だ。最悪……いや、確実に陸路の避難民はガストレアになるか、奴等の食料に成り果てる」

 

「確か、シェルターがあった筈じゃ……」

 

「食料の備蓄は精々、二ヶ月が限界。収容できる人間も高が知れている。そんな短期間で助けが来ると思っているのか?」

 

 戒斗の言葉に木更さんが俯く。

 

「お前等のトップはコレを容認したのかよ?」

 

「当然だ。そして避難民の中に聖天子様は含まれていない」

 

 男の言葉を聞いて、俺は理解できなかった。

 

「……どういう事だ?」

 

「各エリアからの市民受け入れの際に条件が言い渡された」

 

「どんな……条件なのだ?」

 

 延珠の言葉に彼は一度、眼を伏せた後。

 

「聖天子を含む、東京エリアの重鎮全てを東京エリアに残る事が条件だ」

 

 血を吐く様に告げられた言葉に俺は身体から力が抜ける。つまり、他のエリアは東京エリアを見限ったのだ。市民を受け入れるのは建前。壊滅した後の東京エリアを手中に収める腹積もりなのだろう。

 

「貴方達はどうするの?見たところ、条件に当てはまらないようだけど」

 

「私達は聖天子様の護衛だ。あの方の傍を離れる気はない」

 

 毅然と告げられた言葉は見栄などではなく本気の言葉だ。きっと彼らは最後まで聖天子の盾となる気だ。

 

「選べ、里見蓮太郎。僅かな希望か光の無い絶望か。君が選べるのは二つに一つだ」

 

 その言葉に俺は震えた唇で。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「そうですか、里見蓮太郎は追跡任務の方を選びましたか」

 

 報告を聞いて、そう呟いた後、大きくため息を吐いて背もたれに体重を預ける。これで、小さいが希望の光が見えた。

 

「後はコウタさん達を向かわせられればいいのですが」

 

 恐らく、無理だろう。彼らの力は強力だ。理論上ならばステージⅣ相手でも十分通用する力を持っているらしい。それでも、コウタさん自身から聞いたリスクが彼らの足を引っ張ってしまう。

 

「はぁ……言い訳ですね」

 

 苦笑して呟く。そう、言い訳だ。コウタさんが言ったリスクを差し引いても彼らの一人を投入すれば作戦の成功確率は上がる。けれど、コウタさんには傍に居て欲しいという卑しい私がいる。

 

「我が侭ですね」

 

 ため息を吐いて、窓の外を見る。窓の外には綺麗な月が浮かび、ここ十年間ですっかり見通しが良くなった星空が浮かんでいる。

 

「母が子供の時はこれより綺麗な夜空だったんでしょうね」

 

 綺麗で、穏やかな夜空。けれど、今は綺麗なだけだ。眼を凝らして見れば、きっとおぞましいナニカが蠢いているのだろう。そんな事を考えていると扉がノックされる。きっと菊之丞さんだ。

 

「どうぞ」

 

 告げると共に扉が開かれ、菊之丞さんが入ってきた。

 

「そろそろ時間です」

 

「分かりました」

 

 これからきっと色んな困難が続くのだろう。それには先ずステージⅤを退けなければいけない。けれど、諦めなければきっと道は開かれる筈だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「暇だな」

 

「あぁ、ガストレアでも降ってくればいいんだがな」

 

「戒斗、流石にソレは暇だからって求める物じゃないと思うんだが」

 

「ふん、此処で護衛をしている時点で俺達が出来る事は限られているんだ。これくらいの軽口はいいだろう?」

 

「まぁ、そうだけどな」

 

 そういって、俺は月を見上げる。場所は東京エリア第一区の作戦本部前。数十人の自衛隊に混じって俺達実働部隊は警護任務に着いていた。背中の建物の中にある会議室では内閣官房長官や防衛大臣など、主だったこの国のお偉いさんが集っている。その中には聖天子と菊之丞さんも含まれる。先程、木更さんが数人の男性を連れて建物に入っていったが、目立った事は特にない。

 

「しかし、拍子抜けだ。折角、大物が集っているのにテロリストの一人も来ないとは。本気でこの国を変えてやろうという革命家はいないようだね」

 

「凌馬、不謹慎だぞ」

 

 視界の端では白衣を纏って、呉島さんと談笑している戦極さんがいる。あの人も随分と自由な人だな。

 

「さて、暇だし。自衛隊のおっさんからコーヒーでも貰ってくるかな」

 

「俺はブラックだ」

 

 当然のように注文してくる戒斗に手を振って答えて、歩き出す。ふと、何気なく見上げた空を見て、違和感を覚える。

 

「ん……?」

 

 夜空はまばらな雲によって月が隠されており、やや暗い。だが、問題はそこではない。

 

「呉島さん、照明!!!!!」

 

 違和感の正体をほぼ掴んだ俺が叫べば呉島さんは即座に自衛隊へと指示を飛ばす。その直後に設置されたサーチライトが夜空を照らす。同時に自衛隊から悲鳴が上がる。

 

「ガストレア……」

 

 照明によって照らされた頭上には一頭のガストレアがいた。一体何処からやってきたのか、そのガストレアは眼下の俺達を嘲笑うように降りて、否、落ちて来た。

 

「アイツ、どういう神経してんだよ!?」

 

「ソレは直接奴に聞け!!」

 

 轟音と共に地面のコンクリートを陥没させながら俺達の目の前に降り立つ。

 

「総員、絶対にこの場でガストレアを駆逐しろ!!」

 

「ほう!!詰まらないと思っていたが、面白くなりそうだ!!」

 

 嬉しそうな声と共にビデオカメラを取り出す戦極さんを尻目に俺達は前に出る。

 

【オレンジ!!】

 

【バナナ!!】

 

【メロン!!】

 

 ロックシードの音声にガストレアは巡らしていた視線を俺達に向ける。一見すれば鷲の様だ。だが、その頭部はイヌ科のように細長く三対の赤い瞳が俺達を睨む。胴体も鳥とは随分違い、ライオンの胴に一対の翼が生えている。更に翼には凶悪な爪を持つ腕があり、爪をコンクリートにバンカーの如く突き立てている。明らかに単一の遺伝子ではない。ガストレア戦はこれで三度目。しかも、今度は明らかな格上。だとしても俺がやる事は変わらない。

 

「「「変身!!!」」」

 

【ロック・オン!!】

 

 法螺貝とファンファーレが鳴り響き、ガストレアが俺達を敵と判断して吼える。

 

【カモン!!バナナアームズ!! Knight of Spear!!】

 

【ソイヤッ!!メロンアームズ!!天・下・御免!!】

 

【ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道・オンステージ!!】

 

 変身が完了した瞬間、ガストレアが突っ込んでくる。戒斗は左へ呉島さんは右へ跳んで避け、俺は股下へと潜り込む。そして滑り込む勢いと相手の勢いを利用して股を大橙丸で斬りつける。手応えは硬いが、皮を斬り裂き、血が吹き出た。

 

「おっしゃ!!別に硬いって訳じゃなさそうだ!!」

 

「なら、問題ないな」

 

「総員、ガストレアを建物に近づけないように射撃しろ!!」

 

 呉島さんの号令の下、ガストレアへ向けて、バラニウム製の銃弾が殺到する。銃弾は抵抗なくガストレアの皮膚を破り、肉へと食いこむ。悲鳴を上げて、腕を乱雑に振り回すが、奴がいる場所はかなり広く作られている為、早々建物には当たりそうにない。

 

【カモンッ!!マンゴーアームズ!! Fight of Hammer!!!!】

 

【ソイヤッ!!ブドウアームズ!!龍・砲・ハッハッハッ!!】

 

 後ろで響く音を聞きながら無双セイバーの銃弾で牽制する。

 

「成る程、銃か」

 

「オォッ!!」

 

 呟きと共に紫色の弾丸がガストレアの肉を抉る。悲鳴を上げているガストレアに戒斗が近づき、マンゴーパニッシャーで殴る。骨と肉が潰れる音が辺りに響くと同時に俺は素早く近づき、右足を両手の剣でズタズタに切り裂く。

 

「まだまだ行くぜ!!」

 

 叫び、大橙丸と無双セイバーを合体させ、走り出す。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 眼の前でズラリと並んだ牙を見せつけるように開いた口に銃口を突っ込み、引き金を引く。眩いマズルフラッシュが視界を一瞬染める。同時に後ろに跳んで、木を足場に駆け上がる。頂上に着いた直後に昇っていた木がナニカ重いモノによってへし折られる。倒れる木を足場に走り、腰からグレネードを二つ取って一息にピンを抜き、追いかけるガストレアの足下に投げる。直後、背後で爆発。爆風に乗って跳躍。着地と同時に前へ転がって振り向けば着地地点に爪を突き立てたガストレアがいる。その顔に向かって発砲。グラリと倒れるガストレアに体当たりして後続を巻き込む。そして最後のグレネードを投げて後ろに跳ぶ。爆風が顔を撫でるが、眼は閉じない。そして炎の中からゴリラ程の大きな猿が躍り出る。横に跳ぼうとするが、何かに足を引っ掛ける。

 

「尻尾……!?」

 

 巻きついた先を見れば猫のガストレアが私を睨んでいた。逃げる事が不可能と判断した私が正面を向いたとき、私が見たのは振り下ろされる猿の拳と。

 

「オラァッ!!!!」

 

 この先に居る筈の、たった今猿を横からバスターソードで両断した将監さんがいた。

 

「な、なんで?」

 

「あん?そりゃ、お前が遅いからだよ!!ったく、お前一人で何やってんだ?」

 

「そ、それは時間稼ぎです!!」

 

 言葉を返しながら足に絡めている尻尾の持ち主を撃ち抜く。丁度弾切れだ。マガジンを装填し直し、前を見れば赤い瞳が最初の頃よりかは僅かに減っている……と思う。

 

「全く、プロモーターの俺を放っておいて、他のペアのお守りとはな」

 

「いけませんでしたか?」

 

「別に」

 

 素っ気なく答える。だがよ、と彼は続けた。拗ねているんでしょうか。

 

「俺のパートナーはお前だけだ。お前がいねえと、こう……しっくり来ねえんだよ」

 

「だから助けに来てくれたんですか?」

 

「あぁ?寝ぼけんじゃねえぞ?俺は単に襲撃間近に小便したくて待機場所から離れたんだよ。そしたらお前がガストレア相手に無双してたからな」

 

「成る程、心配になって助けに来てくれたんですね」

 

 だから、違えって。と叫ぶ彼の声を聞き流しつつ、私は緩む頬を制御できない。蓮太郎さん。私のパートナーも捨てたものじゃありませんよ。

 

「それなら直ぐに終わらせないといけませんね」

 

「あぁ、んでもって漁夫の利って奴だ」

 

「……ちょっと見直しました。そんな難しい言葉知ってたんですね」

 

「お前……後で覚えてろよ?」

 

 頬をピクピクと動かしている彼が何処か可笑しかった。そして同時に前へと視線を向ける。気力は回復、いいえ。先程よりも上だと判断できます。残弾は少ないですけど、将監さんがいるなら負けません。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

【ロック・オフ】

 

 ベルトからオレンジロックシードを取り外して、ナギナタモードの無双セイバーに取りつける。

 

【ブドウスカッシュ!!】

 

【マンゴーオーレ!!】

 

【ロック・オン!!イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・オレンジチャージ!!!】

 

 戒斗がマンゴーパニッシャーを振りまわし、呉島さんがブドウ龍砲の銃口をガストレアへ向ける。俺は刀身にエネルギーが溜まったのを確認した後、ガストレアを睨む。

自衛隊の銃撃によって、ガストレアの羽根は穴だらけ、眼は半分潰れ、胴はブドウ龍砲の銃撃によって抉られ、マンゴーパニッシャーの攻撃によって骨が砕かれ、陥没している。他にも俺が斬りつけた場所からはダラダラと血が流れて、地面に池を作っている。見るも無残な姿で、何処か同情してしまう。

 

「ハァッ!!」

 

「行け!!」

 

「オラァ!!」

 

 斬撃によって生じたオレンジの檻に捕まったガストレアにブドウとマンゴーのエネルギーが加わる。そして俺が走り出し、跳び上がる。

 

「セイヤー!!」

 

 オレンジを斜めから斬り裂けば、エネルギーが膨張し、大爆発を起こして、夜闇を照らす。そして肉片となったガストレアが降り注ぐ。

 

「これで、終わりですか?」

 

「そのようだな」

 

 そういって、俺達が変身を解くと戦極さんが拍手をしてやってきた。その手にはビデオカメラがある。

 

「三人とも、良いデータが取れたよ。協力ありがとう」

 

 そういって、笑う戦極さんに俺は苦笑する。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あのレールガンってお飾りじゃなかったんだな」

 

「稼働出来ても一度だけだろう」

 

 俺達は建物の上からモノリスの外。東京湾から迫りくるステージⅤとソレに狙いを定める巨大レールガン【天の梯子】を見ている。

 

「ほほう、これは素晴らしい!!ステージⅢとの戦闘に加えて、生のステージⅤ!!しかもあれは【スコーピオン】だ。いやいや、今日は素晴らしい日だ!!」

 

 ビデオカメラ片手に叫ぶのは満面の笑顔を浮かべている戦極さん。きっと、この人は世界最後の日でも変わらないだろうな。そう考えているとレールガンが淡く発光し始め、次いで砲身や施設の至るところから火花らしきモノが弾けているのが確認出来る。因みに俺達のいる場所とレールガンとは優に数十キロを超える距離だ。その距離をかなり正確に確認出来る仮面ライダーの視力は凄まじい。

 

「あれって、ヤバくないですか?」

 

「発射しなければ爆発するんじゃないか?」

 

 俺の言葉に戒斗が付け足す。

 

「今入った情報に寄ればレールガンの射出する弾丸が無いそうだ。代わりに里見蓮太郎の右手【超バラニウム】の義手を使うそうだよ」

 

 そう何処から聞いた情報なのか、パラボラアンテナを展開した謎装置から伸びるヘッドフォンを耳に当てた戦極さんがそう告げた瞬間、レールガンが爆発した。

 

「うおっ!?」

 

 爆発したのは錯覚で弾丸が発射されたのだ。その際の衝撃と閃光が爆発に見えただけのようだ。そして閃光とほぼ同時にステージⅤの胴体が一瞬膨らみ、弾け飛び。その姿を消滅させる。弾丸は限界まで加熱され、融解しながら空へと流星のように飛んで行き、消える。

 

「総員、耳を塞げ!!!」

 

 呉島さんの叫びとほぼ同時に大地を揺るがす程の轟音が大気を響かせる。ビリビリと震える大気を感じ、数秒後に消える。そして変わる様に聞こえたのは味方からの大歓声だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おい、夏世。生きてるか?」

 

「えぇ、生きてますよ。そんな事より早くシャワー浴びたいです」

 

 頭上から降ってきた何時もの声にスカーフの下で苦笑する。そして視界を夜から朝へと変わっていく空から戻せばそこには幾つものガストレアの死体が山となって積み上がっている。百を超えた頃から数えるのを止めた為、正確な数は分からないが、余裕で自己ベストは更新している筈だ。愛剣も最後の一体と相打つように根元から折れてしまったし、パートナーの銃はとっくのとうに折れて不慣れな接近戦をしていた。だが、結果的に俺達は生き残った。残念ながら無傷とはいかないが、それでも生き残った。

 

「おい、夏世。お前、今回の戦闘で侵食率どれくらいイッたと思う?」

 

「……恐らくは30%を超えたんじゃないでしょうか。計器で測らないと詳しくは分かりませんが、傷の数と咬まれた回数を考えれば」

 

「ハッ!!出撃前に確か測った筈だが、俺が見た時はお前、15%位じゃなかったか?」

 

「……凄いですね。将監さんは記憶力も良いみたいですね。もしかして、私が好きなんですか?」

 

「寝言は寝て言え、糞餓鬼。俺の気を引こうと思うんなら、後二倍は歳とってからにしろ」

 

「照れ隠しですね、分かります」

 

「よし、一度お前と拳で語り合うか?」

 

 そろそろ我慢の限界なので、起き上がり、夏世を見る。

 

「……将監さんのエッチ」

 

「どう見ても、冤罪だろうが」

 

 お気に入りと言っていた服が破れ、彼女の幼い肌が見え、未発達の肢体に大小の歯型が見え隠れしている。それらはゆっくりとだが、治癒し始めている。俺はため息を吐いて、ジャケットを投げる。

 

「朝方は冷える。とっとと隠せ」

 

「意外と紳士なんですね。てっきり、猛獣みたいに襲いかかると思ってました」

 

「ハッ!!俺様から理性を外させたかったら身長と胸を増やせっての」

 

「前言撤回です。やっぱり将監さんは変態です」

 

「おいこら、俺は成人男性を代表して言っただけだろうが」

 

「その言葉が未来ある幼女にとってどれほど残酷な言葉か考えた事あるんですか?」

 

「一度もねえよ。つうか、さっさと、回収ポイントに向かうぞ。レールガンの奴等も拾わなくちゃいけねえしよ」

 

「おや?優しいんですね。ガストレアウイルスに脳がやられたんですか?」

 

「よし、一発ぶん殴らせろ!!」

 

 あぁ、これからどうすっかな。

 




さぁ、原作一巻終了です!!あ、速すぎるからって石はやめてください!!果物はもったいないので投げてはいけません!!
まぁ、何はともあれ原作一巻終了です。えぇ、無駄に引っ張るつもりはなかったので後半は巻きました。後、コウタが戦ったガストレアのモデルはOOOの夏の映画に出てきたアレですね。ちょうど、映画を見返してたときにこれはイケルと思ったので。
後、皆さんがあまりにもプロフェッサーが綺麗と言うので、少し汚くしてみました。といっても、ちょっとした意地悪なんですけどね。
次回は原作一巻のエピローグに加えてオリジナルを幾つか、そして二巻の為にティナを原作より速く出します。そして皆さんお待ちかねの三人目のオネエさんも……次回もお楽しみに!!



次回の転生者の花道は……



「わ、私はアミティエ・フローリアン……です。コッチは妹のキリエ・フローリアンです」



「お前は正しい事をした。ソレはその延珠という子が感謝の言葉を述べたのが証拠だ。だから、お前は何も恥じる事はない。胸を張っていろ」



「こ、こら!!何を泣いておるか!!これでは我がお前を心配させたように見えるではないか!!心配したのは我の方なのだぞ!!分かっておるのか!!」

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