A案
ようやくだ。
執務室の中一人机に座り、机の上に置かれている数十、数百もの書類を前に喜びが湧いてくる。
書類を一つ手に取り、大きく太い文字で書かれたその一文にゆっくりと確認するように読んでいく。
「○○鎮守府最終任務(仮) 敵本拠地殲滅作戦の概要」
文章に書かれている文字を一言一句、間違うことなく読むと更なる喜びが湧いて書類にしわを作る。
この書類を作るにあたり、自分が主導として内容を作ったときにも思ったがこうして書類という形で実物になると実感の湧き方がまるで違う。
一文を眺めること数十秒、又は数分、二行目へと進み、それからはその書類の山を時間を忘れるほど夢中にそして真剣に読み進めた。
だが読み終わると、読む前の喜びは欠片も残ってはいなかった。
「当然と言えば当然だが……」
書類の端々に書かれている我が艦隊の旗艦を務める者たちの言葉。
皆死力を尽くして五分、又は微有利の戦況になるであろうと口を揃えて書いていた。
こういった状況が今までになかったわけではない。
この鎮守府の始まりには当然そういった状況は多々あった。それを何度も乗り越えてきた。
しかしそれはあくまで小規模での話。
ここまで大規模なのは初めてだ。
戦闘が大規模になれば、複雑化し混沌とする。それに伴い不安材料は増し、対処が遅れることなども予測される。
そしてそうなった最悪の場合は――
「俺がそれを考えてどうする」
少し考えすぎたようで、書類を置き、気分転換のため席を立ちお茶を入れる。
すると執務室の扉からコンコンコンとノック音が鳴る。
まだ夜ではと時計を見ると時刻は既に朝になっており、いつの間にか徹夜をしていたことに気付く。
「どうぞー」
自分が了承すると、扉が開かれ、扉の裏から小さな青髪の女の子が現れる。
「おはようございます提督!」
「あぁおはよう五月雨」
屈託のない笑顔で敬礼をする彼女に張り詰めた気持ちがお茶を前に和らぐ。
彼女の名は五月雨。この鎮守府を請け負うにあたり、初めに配備された艦娘だ。
五月雨は敬礼を崩すと、こちらに走ってくる。
同時に私は癖のように身構える。
「提督ーーっ、あわわわわわ――」
まるでアニメのように何もない場所で躓き、手を慌てふためいて動かし上半身のバランスを取ろうとするが、今にもこけそうだ。
長い付き合いで分かっていたこともあり、すぐに五月雨の両手を取り支えてあげる。
「ありがとうございます提督」
「全く、何度も言っているがもっと落ち着きをだな……」
説教口になりそうになるが、私の手を握り楽しそうに笑う五月雨を見ているとそういった気も何処かへ行く。
「どうしました?」
怒られるとは毛ほどにも思わない五月雨に、少し甘くし過ぎたのではと考える。
しかし戦場に立っているのだからこれくらい甘やかしても問題ないだろう。
「いや何でもない。それより五月雨もお茶、飲むか?」
「はい!」
「そうか、それじゃ少し待っててくれ」
「はい!」
五月雨の手を離し後ろの給湯器に向かう。
五月雨は私が手を離すと、先ほどまで私が座っていた場所へと走っていく。
「あっこれ、次の作戦の書類ですか?」
「あぁ、そうだ」
「ついにここまで来たんですね私たち……」
感慨深げなそれでいて何処か寂しそうな声が響いてくる。
「あぁ……」
それに私も饒舌で返すことは出来ない。
ここでの戦闘が終われば、俺たちを待つのは次の戦闘。
それは同時に、この鎮守府にいる皆との別れを意味する。
もちろん、この海域での戦闘が終わるのはめでたい。だが同時にやはり寂しいという気持ちがあるのも本当だ。
五月雨もきっとそう思っていからこそ寂し気な声を出したのだろう。
「五月雨……お茶入ったぞ」
「はい」
二人で客用の席に座り、今この時を楽しむように、思い出にするようにいつも通りお茶を楽しんだ。