鎮守府に提督が帰還しました   作:二クス

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A案 提督が退役しました

あれから時計の短針は百八十度回った。

その間ずっと自分の不手際を責めたが、まるで心は晴れない。

それどころか、自分の情けなさに物にまで当たってしまった。

何と滑稽だろうか。

失意に落ち込む中、艦娘たちが帰ってくる波の音が聞こえる。

そして一人の艦娘が先行して、私の元にやって来る。

「提督。全艦娘、帰還しました……」

「……、五月雨はいないんだな……」

帰還の報告をしてきたのは五月雨ではなく大淀だった。

本当にいなくなってしまったんだ。

実感すると、心はさらに落ち込んでいきそうになる。

だがその前に、すべきことがあると、自分を何とか鼓舞し言葉を紡ぐ。

「ご苦労だった……。損傷の酷いものから入渠させてあげてくれ……」

「はい、分かりました……」

大淀は旋回し、艦娘たちの元へ戻っていく。

同時に鼓舞していた心は、弱りきり枯れ果てた涙を出そうとしてくる。

「私にはもう無理だ……」

雨の中、そうつぶやき帰ってくるはずのない五月雨を待ち、その場で一夜を過ごした。

 

二週間の入渠の後、鎮守府のすぐ近くに全員で五月雨の墓を作った。

中に入れれるものは残っていないが、作った。

そして全員で墓参りをした。

皆、五月雨と別れることは出来ただろうか。

さよならと言えただろうか。

少し不安に思うが、それも夜のお別れ会になるとその不安もなくなった。

夜のお別れ会では、皆この鎮守府での思い出を語らい、楽しそうに酒やジュースを飲み楽しそうに盛り上がっていた。

彼女たちの心配はどうやら無用なようだ。

夜のお別れ会を少し抜け出し、五月雨の墓へと向かう。

 

五月雨の墓がある場所に着くと、そこには一人の艦娘が手を突きながら、けだるげに墓の横に座っていた。

「北上か?」

「ん? 提督どったの。こんな夜更けにさ~」

顔を後ろに倒してこちらをみてきたのは、やはり北上だった。

「墓参りだ」

「ふーん、そうなんだ~」

じろじろと北上に見られる中、五月雨の墓の前に腰を下ろし手を合わせる。

目を瞑り祈る。

五月雨への懺悔を済ませ、すぐそばにいる北上の横に座る。

「北上は何しに来たんだ?」

「うーん、何しに来たんだっけ~」

「そうか……」

横から見る北上の顔は俯いていて本当に悩んでいるように見えた。

彼女らしくもないと思う反面、彼女も私同様に苦しんでいるのかと勝手に納得する。

「北上は○○鎮守府への異動だったか」

このまま考えさせるのも酷だろうと、話題を逸らす。

「うん、大井っちも一緒にね~」

北上もそれについて突いてくることも無く、話を変える。

「向こうでも頑張れよ」

「言われなくても分かってますよ~」

強がりからそう言っているのか、素でそれを言っているのか分からないが、きっと大丈夫だろう。

それに大井も一緒とのことだ。大井が上手く北上を励ましてくれるだろう。

「それで提督はこれからどうすんの」

心臓をキュッと掴まれたような感触を覚える。

口の中の少ない唾を飲み下し、声を出す。

「……後方勤務になる……が頑張るさ……」

情けない自分を隠すように声を震わして嘘をつく。

退役するなんて誰が艦娘に言えようか。

戦場で戦うことを運命づけられた彼女たちに「怖くなり逃げることにしました」など誰が言えようか。

いや違う。私は言うべきだ。言って、彼女たちに嫌われここを出て行く。

それが私のしたことに相応しい末路ではないか。

「あ――」

「ふ~ん。提督も頑張りなよ~。私も同じぐらいには頑張るからさ」

声が漏れる程度で言えなくなった。

北上が良いように誤解してくれたから。

それを訂正してまで嫌われたくないという気持ちが強くなり、首を縦に振る。

「……あぁ……」

数秒静けさが、空間を支配すると二つの足音が訪れる。

十中八九艦娘の誰かだろうと、重い気の中体を捻り、訪れた二人に目を向ける。

「北上さんやっぱりここにいたんですね」

「なんでい、北上と提督も来てたのかい?」

大井はいつものように北上に向かい走ってくる、一方涼風は涼風の胴体と同じくらいの瓶を大事そうに両手で抱えてこちらへやって来る。

「あ、大井っちと涼風じゃん」

「そういう涼風は墓参りか」

「あぁ! 五月雨の好物のオレンジジュースをたらふく飲ませてやろーっと思ってな!」

道理で大事そうに持ってきていたのかと納得する。

「それにしてもその量は多すぎるんじゃないか」

「そ、それぐらい分かってらぁ! だからコップを――」

「私が持ってきました」

そう会話に入ってきた大井を見ると、北上には抱き着いておらずいつの間にか三つのコップを五月雨の墓に並べていた。

「こまけぇことはいいだろ!」

大井より遅れてやってきた涼風がその瓶を五月雨の墓の前にゆっくりと降ろす。

「まぁまぁ、そういうのはいいからさ、オレンジジュース頂戴」

「はい北上さん」

降ろされたオレンジジュースの瓶を大井は颯爽と取り、コップに注ぐ。

「てやんでーい! 最初に注ぐのは五月雨の分だろ!」

大井は聞くことなく、最後まで入れきり、コップを北上に渡す。

「ん、ありがとう大井っち」

「おい! 人の話聞けよ!」

「誰から入れても一緒じゃないですか!」

「一緒じゃねぇだろ!」

今にも喧嘩しそうなほど、顔を近づけガンを飛ばし合う二人。

仲が良いなと思いながら、二人の顔を離し落ち着けさせる。

落ち着いた二人は、互いに謝り涼風は二つのコップにオレンジジュースを注いでいく。

「喜べ五月雨。お前の好物持ってきてやったぞ!」

涼風はそう言って瓶を降ろし、手を合わせて目を瞑る。

大井も涼風と同じく行う。

二人は十数秒と続け、手を離す。大井は立ち上がり北上の傍に移動する。

涼風は一つのコップを手に取り、大きく傾け一気に飲み干す。

「あのさ提督。五月雨の死は無駄じゃねぇよな……」

突如見せられる本音に目を見開くが、拳を強く握り首を大きく縦に振る。

「あぁ! 皆が全国へ派遣されることにより、各地で行われている深海棲艦との戦いも余裕が生まれる。それにこの鎮守府も新たな提督、艦娘の教養施設に変わり、艦娘の生存確率を大きく上げてくれる。だから……だから……」

何故だか、それから先の言葉は出てこない。

ただただ、それを肯定したいだけなのに、出来なかった。

「そっか……」

言葉足らずながらも、涼風は察してくれたのか短く言葉をこぼし、空を見上げる。

その嬉しくも切なさや悲しみが見える姿に、心が刷り潰れ自然と目をそらしてしまう。

そのすぐ後に何か肌を叩く音が聞こえてくる。

「よし。辛気臭いのはもう終ぇだ。いつまでたってこんなんじゃ、五月雨がゆっくり眠れなくていけねぇ」

「だから提督もよ、早く立ち直って五月雨を安心させてあげてくれよ!」

涼風に励まされるが、地面を見る目は一向に上がらない。

だが涼風を安心させなければいけない。

それが残り少しの提督である私の責務。

彼女たちを戦場に送る友人としての私の責務。

笑顔を作れ!

「そうだな……」

必死に笑顔を取り繕う。

口角は引きつっている。

目尻から零れそうになる涙を我慢して、必死に横に伸ばす。

涙を我慢できなくなる前に、涼風も北上も大井も五月雨もいない方向へ向き歩いていく。

「少し冷えてきたな。すまないが先に部屋に帰らせてもらう」

「んー」

「あまり遅くならないようにな」

逃げて、鎮守府の私室にて叫ぶように泣いた。

そして全艦娘を見送り、私は退役した。








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