ようやく完成を迎えた建造ドッグと入渠ドッグ。
そして建造ドッグが完成したとなればすることは一つ。
建造である。
妖精さんたちが建造を始めてから丸一日。
気ままに鎮守府(家)で待っていると、一人の妖精さんが帰ってくる。
仕草からもうすぐ出来そうだということを察し、妖精さんを肩に乗せて急いで建造ドッグへと向かう。
建造ドッグに着き、建造ドッグの扉が開かれるのを待つ。
「時間からして駆逐艦だろうが。誰が出てくるか」
そう言っていると、扉が開くと何の蒸気か分からないものが視界を覆いつくすほど出てくる。
毎度のことではあるが、少しじれったく感じるが、大人しく蒸気が霧散するのを待つ。
待つこと一分近く、蒸気が霧散し目の前に誰かが立っていることに気付く。
「Guten Morgen(グーテンモルゲン)。僕の名前はレーベレヒト・マースよろしくね」
誰だ!?
始めて出会う艦娘。本部のデータにもない名前の艦娘。
酷く困惑してしまうが、相手のほうが不安であろうという、長年の経験から表情を表に出すことはしない。
「あぁこれからよろしく頼む。れーべれひと、まーす君」
「ふふっ、言いづらいならレーベでいいよ」
「それじゃお言葉に甘えてレーベと呼ばせてもらおうかな」
「うん」
何だこの美男。本当に艦「娘」か?
艤装を持っているため艦娘と同じような何かであるのは疑いようのない部分ではある。が娘かどうかは疑わしい。
データに無い子が出たなら、それを資料にまとめるのも提督の義務。
しかし相手は小さくても女の子。性別を聞くのは失礼であろう。
なれば私がすることは一つ。
「すまないが。建造した艦は資料にまとめるしきたりでな少し手伝ってもらえるか?」
レーベに対しての情報をこれで引き出し、趣味、性格、仕草、その全てをもってレーベが男か女か判断する。
大丈夫だ。私ならやれる。
「うん、任せて」
「そうかとりあえず移動するか」
鎮守府(家)に戻って来て、扉を開ける。
靴を脱いでたんすから一枚の書類を取り出しちゃぶ台を前に座る。レーベは恥ずかしそうにスカートを抑えながら対面に座る。
ふむ女の子っぽいに一点。
「それじゃ軽く自己紹介からお願いしようかな」
「僕の名前はZ1(レーベレヒト・マース)ドイツ生まれの駆逐艦だよ。あまり外洋での艦隊戦は得意じゃないけど…僕頑張るよ!」
ふむふむ、駆逐艦か。妖精さん今回は注文通りに作ってくれたんだ。
名前記入欄にレーベヒト マースと書いていく。
「提督。僕の名前は確かにレーベヒト マースだけど……」
「ん、何か違ったか?」
聞き返すと、レーベは小さく頷く。
可愛い女の子に一点。
消しゴムを使い、レーベの名前を消す。
「ちょっと貸してもらえるかな?」
「あぁ」
レーベに書類と鉛筆を渡し、名前を書いてもらう。
そして帰ってきた書類にはZ1とその上にレーベレヒト・マースと書かれていた。
「そうか、ドイツ生まれだから私たちとは言語が違っていたのか」
「うん」
「それじゃ次。趣味は?」
「んー、ボイラーの整備と料理かな」
ボイラー整備は男の子に一点。料理は女の子に一点。
いやボイラー整備は自分の装備を整えているだけと考えるなら除外してもいいか?
「なるほど次に好物は」
「好物はザワークラウトとアイスバインそれにニュルンベルガーソーセージが好きかな」
「ザワークラウトにアイスバイン。後ニュルンベルガーソーセージと。ちなみにそれらはどういうものなんだ?」
「ザワークラウトはこっちで言うキャベツの漬物でアイスバインは香辛料とか野菜で煮込んだお肉のことなんだ。ニュルンベルガーソーセージはそのままかな」
「なるほど」
お肉系が二つ、男っぽいが漬物が好物に入って来るか……。
甘いものが入ってこないあたりは好みもあるかもしれないが、男の子に一点か。
「次に将来やりたいことは?」
「それならお腹いっぱいになるぐらいにビールが飲みたいかな」
「ん? 酒か。まぁ、ほどほどにな」
酒! それも物凄く豪快な飲み方!
これが女の子の夢か? いやー、考えにくいだろ。
いやしかし世の中にはそういう女の子もいるのかもしれない。だから一万点とかじゃなく男の子に三点ぐらいで。
「それじゃ最後に。深海棲艦との戦いが終わったらどうしたい?」
「んー、ごめん。まだ思いつかないかな」
「そうか。ここは必須項目じゃないから、思いついたら教えてくれ」
「ダンケ、助かるよ」
書類を書き終え、情報を整理するためその書類を茶封筒へと入れる。
女の子ポイント3点、男の子ポイント5点。
仕草に関しては女の子。趣味嗜好は男の子。
普通なら判断に迷うが、ポイント形式のため迷うことはない。
結論!
レーベレヒト・マースは男の子!
つまるところ艦娘だけじゃなく、艦息子はいたということ!
これは後から本部に連絡をしなくては。
「これが向こうに届き次第、君は我が鎮守府に所属するということになるが良いか?」
「はい!」
「それじゃよろしく頼むぞレーベ!」
ちゃぶ台の上に手を差し出す。レーベは上目遣いでこっちを見てきては恥ずかしそうに手を握ってくる。
子どもならではの柔らかい手を優しく握り握手を行った。
これからレーベとは仲良くできそうだと思いながら、握りあっていた手を離すのだった。
「ただいまー、ってやっぱ駆逐艦なんだ」
「初めまして、僕の名前はレーベレヒト・マースって言うんだ、気軽にレーベって呼んで欲しいな」
「そうですか、よろしくお願いします。レーベさん」
「はいよろしく――」
「北上さんに手を出すつもりなら容赦するつもりはないので」
「そこのところよろしくお願いしますね」
「ヒェッ……こ、怖いです」
「まっ、駆逐艦だからって言ってどうとかないんだけど。まぁよろしくね」
「は、はい……」
「五月雨、帰還しました!」
「おっ、お帰り」
「あー! 私と同じ駆逐艦だ! やったー! 私五月雨って言うんだ! あなたのお名前はなんていうの!」
「レーベレヒト・マースだよ。気軽にレーベって呼んでね」
「レーベちゃんこれからよろしくね!」
「うん、よろしくね五月雨ちゃん!」
「ん? ちゃん呼びされるのは嫌じゃないのか?」
「提督、僕だって女の子なんだよ。嫌なわけないよ」
「…………へ」
「帰りましたよー、って提督どうしたんです。女の子だと思ったら男の子だったみたいな顔して」
「い、いや~! 俺がそんな顔をしてるわけないじゃんそれより今からご飯作るから誰か手伝ってくれないんか!」
「超早口じゃん」
「あっ、それなら私手伝いますよ」
「私も手伝います!」
「お、おう。そうか助かる二人とも」
この世に生まれ、血のつながったものも自分を守ってくれるものもいない
その上、武器を持たなければただの少女
将来を望むにはあまりにも過酷
故に彼女たちは自分たちを作った人と契約する
輝かしい将来を保証してもらう為、その力を持って深海棲艦と戦う
もとよりそれ以外の道など存在しないが……