ゲートが開いて一斉にスタートする。トレノスプリンターが出遅れたわね。初めてのゲートらしいしまあそんなものかしらね。
レース展開のほうはまあ大方予想通り。特に見どころもなく終わるかしらね。
「皆頑張っていますね。」
「ルドルフ、生徒会のほうはいいの?」
「はい、午前中には終わって少し時間が空いたので。」
「そうなの、…あら?」
ルドルフと少し会話をしていただけでレースは少し思わぬ方向に進んでいた。トレノスプリンターが追い上げている。出遅れていたため先頭集団からはかなり離れていたけど今では6バ身ほどまで迫っている。
「ほう、あの子が一般参加のトレノスプリンターですか。」
「ええ、でもあそこまでの子だったかしら。さっきのトレーニングだとそれほどでも無かったけれど。」
「そうなのですか?見ている限りでは優秀なウマ娘に見えますが。」
「そうね。でもなぜかしらね。」
そんなことをする理由がない。いくら一般参加だからと言ってここで力を示せば学園に入れる可能性もある。こうやって思考してる間にもトレノスプリンターが追い上げ、今では先頭争いの位置にいる。相当なコーナリングスピードね。学園の中でも上位にいるでしょうね。コーナーもそろそろ終わる頃、レースも終盤ね。
「今先頭で走ってる子、かなりイン側に寄っていますね。インからの攻撃を警戒しているんでしょうか。」
「そうみたいね、あそこまで寄せていたら突かれる事は無…」
「「ッ!?」」
その瞬間、目を疑った。トレノスプリンターの輪郭がぼやけたように見えたと思ったら、既に先頭にいたんだから。しかも、あそこまで寄せていたイン側から仕掛けていた。あんな狭いところで仕掛けるウマ娘は見たこと無い。
いや、それよりも…。
「東条トレーナー…。今のは…。」
「ええ、見たわ…。異常だわ…あのウマ娘。」
ルドルフを見ると冷や汗をかいていた。いや、ルドルフだけではない。マルゼンスキーやグラスワンダー、他のリギルメンバー、更にはグラウンド全体がどよめきに満ちていた。
そこからのレースは一方的なものだった。トレノスプリンターが後続を引き離し、10バ身以上もの大差でレースを制した。
レースが終わったのに、私含めメンバー全員押し黙っていた。
「何者なのかしら、あの子…。」
「分かりません。地方のレースでもあの顔を見たことがないので…。」
「ただ一つ分かることは、あの子は貴方達と同じくらいの“モンスター”ってことね。」
「トレちゃぁーーーん!」
レースが終わるとナナが駆け寄ってきた。そしてそのままタックルされた。
「トレちゃん凄いよ!どうやったのあのコーナー!内側からビューって抜いてく姿!カッコよかったよ!」
「そ…そうかなぁ。私はただ普通に走ってただけだから。それよりもさナナ…。」
「どしたのトレちゃん?」
「電 車 代。忘れないでね?」
ナナの目が泳ぐ泳ぐ。イワシの群れかと思うくらい泳いでいる。
汗もだらだらと。まさかコイツ、自分で言っておいて無かったことにしようとしてたんじゃないよね?
「その事なんですけどぉ、そのですねぇ、そのぉ…。」
「その、何?」
反応が悪いので少し圧をかけてみる。
「ヒィッ!…すいません!まさか勝てるとは思ってなくて用意してませんでしたぁ!」
「………ハァ~。後払いにしてあげるから。」
「ありがとうぅぅ~~トレノ大明神様ぁ~!」
崇め奉らないで。私そんな大層なものじゃないから。
「じゃあナナ、時間もまだあるし他のところ回ろ?」
「うん!それだったらお勧め紹介するよ!それじゃ、レッツゴー!」
元気だなあナナは。それにしてもナナのお勧めかあ。今度は大丈夫かなぁ?
「ちょっと待って!!」
後ろから声をかけられた。振り向くと東条さんのようなスーツを着た女性が息を切らしていた。
「貴方の名前は!?」
「と、トレノスプリンターです。」
「私は渋川榛名!ほらこれ名刺!」
すごい勢いのせいで名刺を受け取ってしまった。…何故だろう、いやな予感しかしない。
「あ…じゃあ私はこれで……。」
「ねえ!トレセンへの編入考えてみない!?貴方程のウマ娘ならG1勝利も、いや3冠だって夢じゃないよ!」
「いや…あのですねぇ。」
ヤバいこの勢い、デジタルさんと同じ感じがする。早く逃げないと。…あれおかしいな?体が動かない。
よく見るとすでに腕を掴まれていた。振りほどこうと思えば振りほどけるとは思うけど凄いパワーで掴まれている。
「貴方にとっても悪い話じゃないと思うよ!トレセン学園は設備だって最新だし寮も完備!カフェテリアのご飯もおいしいし!今ならなんとトレーナーの私がついてくるよ!」
今のところ私にとってマイナスの要素しかない。最新とか寮とか…学費がどれだけ高いか想像もしたくない。あとおまけに関してはどういうことなのだろう。
「ちょっちょっと待ってください!そもそもなんで私なんですか?走ってたウマ娘は他にいましたよね?」
そもそもなぜ私なのだろう。純粋に疑問に思った。
「貴方の走りを見てビリっときたの!」
「ビリっと?」
「そう!ビリっと!貴方だけなの!ウマ娘の走りはかなり見てきたけど、ビリっと来たのは貴方だけなの!だからお願い!」
早く逃げないと。このままだと知らないうちに話が進んでしまいそうだ。ついでにさっきから腕をブンブン振ってくれるせいでそろそろ肩ががヤバい。外しにかかってるんじゃないかとも思う。
「あの、話を聞いてくれますか?」
「いいよ!何かな!」
思いのほか話は通じそうだ。あの興奮状態から話を聞くモードに一瞬で切り替わったんだから。これがナナだったらこうはいかない。
「私、レースには興味が無いんですよ。だからトレセン学園に編入なんて考えたこと無いんです。」
「…えっ?」
ものすごい分かりやすくポカンとしている。それと同時に渋川さんの手が離れた。チャンスだ。
「だから渋川さんの期待には応えられません。それじゃあ、失礼します。」
「………さない。」
「…えっ?」
渋川さんが小声で何か言った。聞き取れなかったのでつい耳を傾けてしまった。
「逃がさないよ!貴方程の逸材!レースに出ることなく腐っていくのはこの私が許さない!ズタ袋に詰めてでも捕まえて見せるよ!」
「何だよぉおもおおおまたかよぉおぉぉおおおお。」
そう叫ぶとナナを抱えて走る。
「逃がさん!」
嘘でしょ!?ついてくるの!?今日は何回走ればいいのぉ~!
第十話ご覧いただきありがとうございます。
なんやかんやでここまで来ましたけど正直ヤバいです。何がヤバいかというとこのペースで行くとトレノがトレセンに行くのにあと20~30話くらい掛かるくらいやばいです。
どんぐらい進んだかなあって作ったフローチャート見たら4つしか進んでねえんでやんの。いくら何でもヤバいです。
そこでアンケート取りたいと思います。更新ペース遅くして一話を長くするか。それともこのままやるか。なんとなくでご協力いただけると嬉しいです。
また次回!
ここで書くことじゃあないかな?