頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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「いやー一時はどうなる事かと思いましたよ。」

「全くだ。私や姉貴に至っては死ぬ寸前まで行ったんだぞ。」

「まあブライアン、こうやって生きているんだからいいじゃないか。それにいざとなったら作者君をそのまま始末できるからな。」

「うっ…肝に銘じておきます……。」

「それではな、今日はもう疲れたから帰らせてもらうよ。」

「同じくだ。もうこれ以上巻き込むなよ。」

「はーい。……えー、皆さま長らく茶番にお付き合いいただきありがとうございます。

多分もうこんなことにはならない多分。まあ後書きなんてほとんど誰も見てないでしょうけどw

それでは本編どうぞ!」


第百一話 もっと先へ

「さて、まずは一言。昨日はとんだご迷惑をおかけしました。今年中は禁酒を宣言します。」

 

ミーティングの為にトレーナー室にきたら渋川さんに謝られた。会っていきなり謝られるというのは心臓に悪い。

 

「あ、はい。反省してるなら大丈夫ですから…。」

 

「うん、今後気を付けるよ…。じゃあ気を取り直して、ミーティング始めようか。早速だけど、昨日の擦り合わせから行こうか。私からいいかな?

 

私の提案はいたってシンプル。エンジンのパワーアップだよ。」

 

「パワーアップですか。具体的にはどうやるんですか?」

 

「意識を変えていくって感じかな。トレノちゃんの今のエンジンでも11000まで楽に回る超高性能ユニットだけど、私はこれが最高のパフォーマンスじゃないと思ってる。もっと、先があると思うんだ。」

 

「先ですか?」

 

「つまり、もっともっと回ると思うんだ。まだ1000…いや2000は回るんじゃないかって思ってる。元々が耐久度外視でチューニングされたレース用エンジンだから、ストリートという限定されたステージで走るとなるとデチューンされたはず。

 

でも今トレノちゃんが走ってるのはレース。クルマで言うF1やSUPERGTだからね。その性能を、出し惜しみする必要は無いし、してたら勝てない。

 

だから、宝塚までにレブリミットを1000引き上げるのが私の提案かな。」

 

このエンジンが…脚がもっと回る…。そんなことは考えても無かった。でもここからは限界を超えないと勝てないレースが続くはず。どんなことでも、何回だって限界を超えてやる。

 

「さて、次はトレノちゃんだよ。」

 

「はい。昨日のカナタさんの走りを見て、思ったんです。いくらコーナーでその差を詰めても、長い直線で苦も無く取り返されてしまう。言ってしまえば、私と同じじゃないですか。」

 

「そうだね。夏向君の86にはパワーが無いからね。カマボコストレートで230キロで頭打ちになって後続車に追い抜きを許した。他のクルマは300キロを上回ってるのにね。」

 

「でも、私とあの86号車とじゃ、違うところがあると思ったんです。…渋川さん、私のギアに、6速を追加することってできませんか?」

 

渋川さんが考えこむ。昨日の自主練の時に思いついて、実際に6速をイメージしてシフトアップしようとしたら、感覚がおかしくなってしまった。そこにギアは無い。あってもそれはバックギアだ…という感覚が体を襲ってしまったから。

 

少し考えて、渋川さんが口を開く。

 

「トレノちゃん…それは”アリ“だ。」

 

「本当ですか!?…でも、昨日やってみてちょっと変になっちゃったんですよ。」

 

「感覚の違いだろうね。元のトレノ…ハチロクのギアは5速。そして86は6速。バックギアの位置が全く違うんだよ。頭で意識した時にそこの辺りがバグを起こしたんじゃないかな?」

 

「…なんで分かるんですか?流石に気持ち悪いです。」

 

「ごめんって。でも着眼点は最高だよ。更に1段上のギアは最高の武器になる。…でも出してしまうと今度こそ戦闘力が丸裸になるから、文字通り、最後の切り札だね。」

 

「そうですか。そうなると、当面の間は渋川さんの案を中心でトレーニングをしていく感じですか?」

 

「…いや、ちょっと待ってね…。これなら…多分…。……よし、決まった。今後のトレーニング方針は……。」

 

トレーニング方針は、今後戦っていく上での体調面、戦闘力の面でしっかり考えられていた。気になるところもなく、その案を受け入れた。

 

……ただ1つを除いては。

 

「じゃあ明日、サーキット行こうか。」

 

「………はい?」

 

 

 

 

 

「やってきましたー、富士スピードウェイ!」

 

「まさか、本当に来ることになるとは…。」

 

という訳で、本当にサーキットに来た訳だけど…まさか”平日“に来るとは。

 

 

「あれ、今日トレノって休みなの?ロータリー、何か知らない?」

 

「アイツなら渋川に連れられてサーキット行ったぞ。」

 

「は?」

 

 

「調べたらちょうど今日にライセンス講習やってたからさ。機会を逃すと次が結構遠いから。さ、2時間程度で終わるから言っといで!あと体験走行の紙は持って来てね!」

 

「はーい…。」

 

知らなかったけど、やっぱりライセンスとか、そう言う資格はやっぱり必要なんだなぁ。2時間程度か。まあいつのも授業みたいに受ければ問題無いかな。

 

 

……

 

「どうだった?いろいろな注意事項ってだけで簡単だったでしょ。」

 

「まあ…そうですね…。」

 

確かに講習会自体は渋川さんの言った通りだったけど分野が違うだけであそこまで混乱するとは思わなかった。でも大体の事は分かった。

 

「それじゃ体験走行行こうか。はいカギ。」

 

「ホントに走るんですか?」

 

「うん、6速は実際に使ってみないと感覚が分からないだろうしさ。でも今日が平日で良かったよ。休みだとサーキットで渋滞が起きるからさ。」

 

「起きるんですか?」

 

「起きるよ。制限速度130キロだしコーナーの突っ込みで大体もたつくから。でも今日は人も少ないし、セーフティカーに付いて行けば大丈夫だから。」

 

 

 

「それじゃ30分頑張ってねー。ストレートに入ったら6速使ってねー。」

 

「気が…気が重い。」

 

体験走行を終えて、30分の走行券を買ってトレノちゃんを送り出す。近くのレストランからADVANコーナーを眺める。

 

そう言えば今日が決勝レースだったな。夏向君頑張ってるかな?もう終わってないといいけど。

 

『苦しいですね石神君は…。余裕があるようには見えません。ベッケンバウアーが激しくプレッシャーを掛けています。』

 

あー、ダメかなこりゃ。近いうちにベッケンバウアーに食われる。…夏向君が最下位に居ない。うん、これなら前の二人も抜き返せるね。

 

カマボコストレートで抜きかえされるだろうけど。それにしても、あそこまで攻めていても、タイヤは残っている。タイヤマネジメントも私以上か?

 

この所、立て続けに凄腕に出会ってる気がする。3年前のマルゼンちゃんから始まって、藤原さん、相葉君、そして夏向君。

 

瀬名も入れれば超えないといけない壁が多すぎる。

 

そんなことを思っていると外からスキール音が聞こえてくる。始まったね。どれどれ~?

 

「……。」

 

ブレーキングで速度を落として慣性でリアを振り出す。スライドしてるけどカウンターを当てていない。ゼロカウンターで鮮やかにコーナーをクリアしていく。

 

「すげ。」

 

そのドリフトは、夏向君の、藤原さんの、ビデオで見たハチロクとそっくりだった。あれだけの芸当が出来る事に驚く。

 

 

 

「おかえりー。どうだった?楽しかった?」

 

「つ、疲れました…。でも6速のイメージが固まりました。あとは自主トレで仕上げようと思います。」

 

「おっけ。それじゃ帰ろうか。助手席で休んでて。目を開けたころには到着してるから。」

 

 

 

サーキットで掴んだ6速の感覚を思い出す。クルマならただ入れるだけだけど、頭の中じゃそうはいかないんだよね。

 

早朝の誰もいない道路なら気楽に試せる。4速から5速に。そこから回転を上げていって…11000、今!

 

ガコン

 

頭の中でそんな感じの鈍い音が鳴る。同時に加速が鈍る。だけどこの前より変な感じはしない。確実に6速に入ってる。

 

だけどこんな状態じゃとてもじゃないけどレースで使えない。渋川さんが言った通り、当面は回転数を上げることが目標になるかな。

 

ただ、今のこの調子で6速が使えるようになるとは思えない。もっと理顔を深めて、自分の中の6速を確実なものにしないと。

 

…あまり体裁はよろしくないけど、もう一度クルマ借りられないかな。…止めとこ。

 

 

「相変わらず眠そうな顔するよなお前。もう慣れたけどよ。」

 

「ナナにも同じこと何回も言われてましたよ。なんにも言わないでくださいよ。」

 

でも、このやり取りをするとなんだか落ち着くな。ナナと遊んでたころを思い出すからかな。

 

「んで、どうだった?サーキット攻めた感想は。」

 

「んぇぐ…あまり大きな声で言わないで下さいよ。何かしらの誤解を生むかもしれないじゃないですか。…まあ、ターフとはまた違った難しさがありましたね。」

 

「そうか。まあどうせ渋川の事だ。これもなんかのトレーニングなんだろ。どんなトレーニングを積んでたとしても、俺はもうお前には負けねぇ。」

 

「あ、トレノちゃん。今大丈夫?」

 

「よう渋川、どうした?」

 

渋川さんが朝会の前に会いに来るなんて珍しいな。何かあったのかな。

 

「これ、渡しておこうと思ってさ。手ぇ出して。」

 

言われるがまま手を出すとその上に何か置かれる。…嘘だろこの人。

 

「これは?」

 

「インプのスペアキーだよ。」

 

「あ、そう言う事じゃなくてですね。なぜこれを渡すのかって事です。私免許持ってないですよ。渡すにしても1年待ってください。」

 

「大丈夫でしょ。預けておくから、インプ使いたくなったらLANEに一言言ってくれればいいから。じゃあねー。」

 

そのまま帰っていく。静まり返る教室。呆然とする私。今にも笑いだしそうなロータリーさん。そんな中、遂に言ってしまった。

 

「あの人正気か?」

 

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