頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百三話 MFG再び

「大丈夫?まだ痛い?」

 

控え室に戻ってきたトレノちゃんに包帯など応急処置をしながら傷の具合を確認する。

 

「しばらくは傷みそうです。…すいません、ケガした上に勝てなくて。」

 

「そんなに気を落とさないで。しばらくはレースもない掌のケガだから復帰には影響は無いと思うよ。それに、リスクを承知でレブリミットを制限したのは私だからさ。」

 

励ましてみたけど、トレノちゃんの顔は暗い。5着…負けた直後に元気出してって言う方が無理か。

 

「励ましというか、気分転換になるか分からないけどさ、紹介するよ。片桐夏向君、見に来てくれたんだ。」

 

「初めまして、トレノさん。今日のレース、とてもエキサイティングでした。」

 

「ありがとうございます、夏向さん。結果は5着でしたけど、楽しんでくれたならよかったです。私も夏向さんの予選見ました。

 

決勝は見られなかったですけど、ご活躍は聞きました。」

 

なにやら会話が弾みそうなので部屋の隅っこの方でちょこんとしておく。こうやって見ていると、2人ともただの高校生だという事を認識する。…いや、夏向君19歳だった。

 

見た目年齢若すぎない?なんか羨ましい。そんなことを思っていると話がかなり弾んできている。

 

「何というか、トレノさんはフジワラ先生に似ています。話し方とか走り方も。」

 

「へー、私に似てるとなると自分で言うのもなんですけど結構天然な方だったり?」

 

「どうでしょう。でも、とてもいい人で、尊敬できる人でした。」

 

フジワラ…夏向君はレース中にもその名前を言っていた。トレノちゃんの走りがその人の走りみたいだと。少し気になるな。

 

「…話の途中にゴメンね?そのフジワラ先生ってさ、昔豆腐屋にいたとか言ってなかった?」

 

「言ってました。『うちのくそ親父はキレた馬鹿でサイテーで下品で速い人だった』と尊敬してるようでした。」

 

その言い方で尊敬を窺い知れる訳が無いような気がするけど…核心は出来た。藤原さんの息子さんだ。年代を考えても秋名のハチロクのドライバーはその息子さんだ。

 

…藤原…藤原?そういえばラリーの世界で藤原って人がいたような。

 

「その先生の名前って…藤原拓海?」

 

「はい、昔ラリーをやっててボクがMFGのコースを苦にしないのもフジワラ先生のおかげなんです。」

 

「…クク、ハハハ…。なぁるほど、そういう…。」

 

藤原さんのテクはその息子さん、拓海さんに受け継がれ、夏向君に受け継がれた。その直系にトレノちゃんがいる。

 

その全てがハチロクで繋がってる。何というか、奇妙な因果だね。

 

「夏向君、芦ノ湖GTも出るんだよね。」

 

「予選6日目に走ります。ミスターオクヤマがエイトシックスを仕上げてくれたので思う存分暴れられそうです。」

 

「そうか…夏向君にはトレノちゃんの無念も背負ってもらおうかと思ったけど、気が変わったよ。

 

俺も走る。今からエントリーできるか分からんが、走るとなったら今度は敵同士だ。…期待してるぜ、片桐夏向。」

 

「ボクとしても楽しみです。お互い頑張りましょう!」

 

「トレノさん、渋川さん!インタビュールームまでお願いします!」

 

「あ、はーい!さ、行こうかトレノちゃん。また決勝でね、夏向君。」

 

 

「藤原…拓海……。」

 

インタビュールームに向かってる途中、不意にさっき聞いた名前を呟く。はっきりと知らない人の名前なのに、知っている気がする。

 

藤原さんにあった時みたいに、ハチロクを見た時みたいに。知らないはずだ。でも確実に知ってる。

 

(曲がる、曲がってくれ、オレのハチロク!)

 

「…まぁ、いいか。」

 

ふと、込み上げてきた懐かしさで思い出そうとするのを止める。知らないんだから思い出そうとしても無駄だし…それに、多分、またきっと会えるから。

 

 

 

「トレノさんに伺います。5着という結果についてどうお考えですか?」

 

「私自身は万全の状態でレースに挑みましたが、ロータリーさんが上回る仕上がりで手も足も出ずにかかってしまった結果です。

 

言い訳もしようもありません。ですが、得られたものもあります。この経験は必ず活かします。」

 

「ありがとうございます。それでは渋川さん、次走について何か考えはありますか?」

 

「芦ノ湖…じゃない、秋シニア3冠路線を考えています。特にジャパンカップについては必ず出走したいと考えています。」

 

「成程、今後のご活躍を期待しております。」

 

 

 

 

 

『ただただ注目しましょう!MFG史上最高と言われるドライバー、ミハイルベッケンバウアーがいくーーっ!』

 

俺の番まであと10分。正直今更エントリーしても走れないだろとか思ってたら何故か顔パスでいけてしまった。

 

セコンドは今回も付けていない。というより、インカムを通して走るっていうのに慣れてないからこっちの方が気楽っていうのもあるかな。

 

それにしてもミハイルの走り、速いことは速いけど…成程、そう言う事ね。目の前に沢渡のゴーストを出してやがる。ラクしやがって。

 

そのお陰で俺の目標が明確に決まった。狙うはP.P.のみ。胡坐書いてるその姿勢、ぶっ潰してやる。

 

『さて、間もなく今日2人目の注目選手です。1年前、彗星のように現れ、ぶっちぎりのコースレコードを叩き出しました。

 

その年では誰もそのレコードに届かず、ついた異名は[真実のコースレコード]。このレコードは予選2日目にして4号車、沢渡光輝によって破られました。

 

彼女はまた、レコードを塗り替えてしまうのでしょうか!?金縁の100号車、渋川榛名の帰還です!』

 

「さて…いくか…。」

 

『3…2…1…GO!!』

 

ギャアアアァ

 

路面から伝わる感触

 

パンパン パァン

 

エンジン、サス…インプも何の不調もない。それに不思議と心に余裕がある。これならいける、心置きなく、ギリギリの領域へ!

 

『早速注目フラグが立っている!チェックポイント通過タイムはアドバンテージ0.2秒!開幕から飛ばしていきます、去年よりも断然と速い、渋川榛名!』

 

ミハイルが前にゴーストを出すなら、俺は後ろに出す。このタイムアタック中、1度でも抜かれるようなことがあればP.P.は取れない。…ぶっちぎってやる!

 

『メロディーペーブに入っていきます。そろそろ芦ノ湖の死神、スリーピートラップに突入していきます。片桐夏向はここをすべてドリフトでクリアしていきました。

 

渋川榛名は今年、どう攻略していくのでしょう。』

 

路面のミューが落ちてきてる。この前はただただつまらないミスを修正していくのに手間取ってたせいであまり印象には残らなかったけど、今は違う。

 

オーバースピードは確実に死ぬ。だからこそどうするか。簡単な事だ。

 

ドギャ くん ギャアァァアア

 

『100号車、リアを振り出していった!ドリフトだドリフトだ!ミハイルとは対照的な走りです!熱い走りを見せてくれます!』

 

制御できないアンダーよりオーバーを作る。ミューが低いからこそのテクニック…いや、ラリーの基本だ。

 

「どうかな、0.4秒先行って感じだろうけどこれでP.P.取ってもあまり面白くないよな。…デモレコードをどれだけ更新できるか…やるか!」

 

 

「うおーーっ!ものスゲェドリフト!所長、これもしかするかもしれませんよ!くーっ!」

 

「1年前とは比べ物にならないくらいだ。榛名ちゃんが本気でトップを…。高橋啓介の本気を見てるようだ。」

 

「オレら世代の走り屋だと嫌でも引き合いに出したくなるんだよな。あの頃の高橋啓介と比べても、遜色ない位じゃないの?」

 

「そうだな。もっとも、エース2人は負けず嫌いだから認めたがらないだろうけどな。」

 

『死神を抜けた!ここからダウンヒルに入ります、参考までに4号車とのアドバンテージは0.5秒!ミハイルを抜いてトップに躍り出ています!』

 

「だが、この状況をミハイルが黙って見ている訳が無い。何かしらのアクションを起こす筈だ。」

 

 

『ミハイル、一応だが報告だ。セクター1で君のタイムをチェックポイントで0.3秒超えてきてるクルマがいる。86号車みたいに死神を全部ドリフトでクリアしていったそうだ。』

 

「フン、呼びまわる羽虫が1匹増えただけの事。少しプランを変えるだけでいい、P.P.は譲らないさ。」

 

 

『暫定トップのまま湖尻港前ヘアピンをクリアしていく!依然フラグは出っ放し、4号車とのタイム差は1秒まで来ています!

 

1年前もそうでしたが、参戦車両の中で唯一クラシックカーに片脚を踏み入れてしまっているこのインプレッサが最新戦闘機たちを引き連れているとはだれが想像できたでしょうか!?

 

それがまた起こっている!彼女にとってはまだ現役といった所か!まるでWRCだ、吹け上がります、EJ20ターボプラスミスファイヤリングシステム!

 

ミハイルの牙城を最初に崩すのは彼女になるかもしれません!』

 

「良い感じだ!ケイマンもA110もいいクルマだ、限界も何もかもインプの数段上だ。だけどよ、同じことがコイツに出来ないことはねえだろうが!

 

それを考えれば夏向の方がよっぽど恐ろしいぜ。足回りの進化だけであそこまで速くなっちまったんだからな。

 

俺の標的は3人。ミハイル、沢渡、そして夏向。決勝で殴り合おうゼェ!」

 

『林間区間に入ってもなおペースは落ちていないように見えます!フラグ、トップを維持したまま1.5秒差!彼女の辞書に安全という言葉はないのか、見ているこちらが恐ろしくなるような走りを見せてくれます!』

 

 

「渋川ってよ、クルマの事になるとホントに人が変わるよな。」

 

「はっきりと別人じゃない。多重人格を疑いたくなるわよ…。」

 

「まあまあ、今は榛名ちゃんを応援しましょ。…全く、私のリベンジ忘れてないわよね?」

 

「リベンジですか?という事は、マルゼンさんって渋川さんに?」

 

「ええ。前に話したわよね、赤城で初めてバトルした時の事。あの時、全力で走って負けちゃったのよ。それで宣言したの。

 

『次はそっちの地元で勝つ』って。それで秋名でバトルする約束はしたけどそれっきりなのよ。決勝が終わったらとっちめてやるんだから。」

 

『セクター3に入っていきます、ここからダウンヒル!トップを守って4号車との差は3秒!昨年と同様にぶっちぎりのCRをたたき出してしまうのでしょうか!?』

 

 

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