頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百八話 芦ノ湖GT 終幕

「負けたのか…渋川の奴。」

 

「死神で集中しすぎちゃったわね。2週目の駅伝ストレートで抜いちゃったのが結果的に勝敗を分けちゃったわね。」

 

「ぶつかったと思ったらあっけなくラインを開けちまったな。まるでいきなりの事に驚いたように…。」

 

「そうね、榛名ちゃんが完全に集中すると外からの衝撃にとびきり弱くなっちゃうのよ。それこそ虫がぶつかったくらいで途切れてしまうくらいに。

 

消耗も相まって普段なら予測できた接触も予測できなかったって感じかしら。」

 

「なんにせよ、どうせ落ち込んでるでしょうし、2位なんだから祝ってもいいんじゃないかしら?準備して待ってましょう。」

 

 

 

「渋川さん…。」

 

ブースを出て渋川さんの所へ向かう。2位完走、結果は勝てなかったかもしれないけど、十分すぎるくらいの戦績だと思う。

 

それにいろんなものを見れて成長の機会にもなった。

 

少し待っているとドアが開いて渋川さんが出てくる。

 

「トレノちゃん……。」

 

「完走おめでとうございます。無事に帰って来てくれてホッとしてます。」

 

「…ぐす……うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」

 

「頑張りましたもんね…。」

 

人目を気にせずに泣きながら駆け寄ってくる渋川さんを優しく抱きしめる。こんなに大泣きしてる渋川さんを初めて見る。

 

病院で目が覚めた時よりも泣いているような気がする。よっぽど悔しかったんだろうな。少しサポートしていたからか、私まで泣きたくなってきてしまった。

 

暫く泣いて、涙が枯れたのか

 

「…いい匂い……。」

 

ペシン

 

「引っ叩きますよ?」

 

「引っ叩く前に言ってよぉ…。」

 

 

「えと…再車検が終了して順位が確定しました。2位完走おめでとうございます。この後の表彰式への出席もお願いします。

 

それでなんですが…祝福のキスがエンジェルスから送られるのですが、指名はありますか?」

 

「「え~…。」」

 

いや困ったな。トレノちゃんも困ってるし。指名なんか無いしそもそも俺、女だし。指名無しでいいか。

 

「誰でもいいで」

 

「ちょっと待った渋川!7番ちゃんを指名してくれ!」

 

「あ、相葉君?どしたの急に。」

 

「いやよ、ちょっとしたオレの個人的な事情なんだがよ…お前が誰でもいいなんて言うと沢渡がロリコンのくせに7番ちゃんを指名しそうなんだよ!

 

だがお前だったら女同士だし何より見ててムカつかない。な、お願いできるか?」

 

「……誰でもいいです。」

 

「ガーン!」

 

 

 

表彰式も終わって他の出走者も引き上げる準備をしている。

 

「さ、私たちも帰りましょうか。」

 

「そうだね、ホント疲れちゃったよ。ぶっ続けでこんなに走ったのは初めてだよ…ふぁ~。」

 

「ハハ、ハンドル握ってる時はカッコ良かったんですけどね、こうしてるといつもに渋川さんで安心しました。」

 

「でしょ~カッコよかったでしょ~もっと褒めて~。」

 

「やっぱりいつもの渋川さんだ…。」

 

少し呆れていると後ろから9号車が来た。相葉さんに会うのは結構久しぶりだけど、覚えてくれてるかな。

 

「ようトレノちゃん、久しぶりだな。」

 

「お久です。レースの方は…あんまり見てませんでしたけど。」

 

「いいさ、渋川のセコンドなんだからな。それよりも、オレとカナタ達であの時のホルモン屋で打ち上げするんだがお前らも来るか?オレのおごりだぞ。」

 

「私は大丈夫だけど、トレノちゃんは大丈夫?」

 

「多分ダメだと思います。外泊届けなんか出してないですし、そうなると門限が…。渋川さんだけでも楽しんできてください。私電車で帰りますから。」

 

「それだったら私もパス。ゴメンね相葉君、誘ってくれたのに。」

 

「ま、次の機会にするさ。またな、2人とも。」

 

そう言って颯爽と走り去っていく。良い人だな、相葉さんって。あまり接点のない私でも誘ってくれるしさばさばしてるっていうか。

 

 

 

「そろそろ行きましょうか。お疲れでしょうし、私が運転しましょうか?」

 

「いや流石にそれはって言いたいけど、まだアタマが白っぽいんだよね。運転雑になるかもしれないし、トレノちゃんなら大丈夫だし本当にお願いしてもいい?」

 

「良いですよ。何の為のスペアキー持ってきたと思ってるんですか?」

 

依然渋川さんに突然渡されたスペアキーを指でくるくるしながらいたずらっぽく話す。

 

「じゃあお願いするね。寝ちゃったらゴメン。」

 

「疲れてるでしょうし、ぐっすりお眠りください。」

 

 

 

 

 

「そろそろ来る頃だと思うんだけどな。」

 

スピカとリギル、サトノダイヤモンドやアグネスタキオンだったりそれなりに交流のあるウマ娘も出迎えに来ている。

 

「疲れてるでしょうし、途中で休みながら来てるんじゃないかしら。…来たみたいね。」

 

耳を澄ますと遠くの方で渋川のクルマの音が聞こえ始める。うるさいクルマっていうのは分かりやすくて助かる。

 

少しすると正門に車が止まる。さて、ヒーローを迎えに行ってやりますか。歩いていくと運転席からトレノが降りてくる。

 

「「「……ん?」」」

 

その場の全員が首をかしげる。そこから出てきたって事は…運転して来たって事だよな?渋川どこ行った?

 

「渋川さん、起きてください。着きましたよ。」

 

トレノが降りたその場で助手席に話しかける。あー、そういう事か。

 

「んぁ…芦ノ湖出たあたりから記憶が無いよ~。」

 

「結構最初から寝てましたから。起こさないような運転してたからあれですけど……渋川さん寝ぼけてる場合じゃないですヤバいですどうしましょう。」

 

「どうしましょうって?よ…っと背中がバキバキだよー…どーすんのこれ。」

 

思い切り渋川と目が合った。あの困惑の仕方、無免許なんだな。トレノの方は、運転したのかさせられたのか。

 

「渋川さん、これはどういうことですかぁ?」

 

いずれにせよ、たづなさんをどう落ち着けるかの方が最重要事項だ。

 

「これはですねぇ…私の方からお願いしたっていうか…甘えちゃったっていうかぁ。」

 

「無免許なのは分かってたんですけど、お疲れだったのでつい、うっかり…。」

 

「…クック、アッハッハッハ!」

 

突然ロータリーが大声で笑いだす。たづなさんの注目もロータリーに向く。

 

「まあいいじゃねえですかたづなさん。事故なく無事に帰って来てますし、何より天然2人組ですよ?これ位の事は日常茶飯事じゃないですか。」

 

「「ちょっとそれどういう事(ですか)?」」

 

「そうね、私だって制服のままタッちゃんでドライブ行ったことあるし、若干法に触れてるのも今に始まった事じゃないわよ?」

 

「ハァ…今回だけは特別ですよ?渋川さんが付かれてることは私も分かりますから。ですが、トレノさんはまだ免許を取ってなんですから今後運転させないで下さいね?」

 

「は~い…。」

 

「全くもう…それじゃあ、改めて。」

 

たづなさんが音頭を取って皆で一斉に声を上げる。

 

「「「MFG2位完走おめでとう!」」」

 

「ごぼあぁ!」

 

「「「!?」」」

 

「あぁ、やっぱり。」

 

渋川が突然血を吐いて倒れた。白目をむいておもっくそあわ吹いている。見ているだけで心配になったがトレノだけ平然としていた。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ですよ。渋川さん、相当悔しかったみたいでレース終わってすぐにギャン泣きしてましたもん。何なら寝言で『ミハイルこの野郎』って言ってましたね。」

 

「そうか、この様子じゃしばらく起きなさそうだからな。トレーナー寮に放り込んでおくか。トレノももう休め、疲れたろ?

 

渋川は俺たちが連れて行くからよ。」

 

「お言葉に甘えさせていただきます。…あ、クルマだけ戻しちゃいますね。」

 

「トレノさん?」

 

「じょ、冗談でーす…。」

 

 

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