頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百九話 激励

「改めて、表彰ッ!MFG2位完走、実に天晴!」

 

「私自身あまり納得はしてないですけど、久々に本気で走れたからまぁ、結果オーライですかね。

 

それでですね、2位完走の賞金なんですけど…。その8割をトレセンに寄付させてくれませんか?」

 

「驚愕ッ!?2位完走の賞金はたしか5000万円だから…」

 

「4000万の寄付になりますが…本当によろしいんですか?」

 

「お願いします。今年中のMFG出走予定はありませんけど…“決めた”ことがあるんです。それにMFGに出た目的はお金じゃないですから。

 

だから私としては全力で走ったら賞金が付いてきたって認識なんです。賞金の授与が11月のシーズン終了時なので寄付はそれからになりますけどそれでもいいですか?」

 

「些事ッ!むしろこちらが頭を下げることだ!多額の寄付、心より感謝するぞ!」

 

「少し疑問なのですが、残りのお金はどのように使われるのですか?やはり貯金ですか?」

 

「あ、聞きます?何回かインプいじくろうか考えたんですけど私としてはインプはあれで完成してるから今更いじるのもどうかなって思ってその時の思い出したんですよそういえばセカンドカーが欲しいなーって思っててFRの振り回して脳汁出しまくれるようなクルマ探してたんですよそしたら見つけちゃったんですよお手頃な物件がそれがこのなんですけどねS2000って言って私の師匠も乗っててアタマ変になりそうなくらい速いんですよそれで」

 

「たづな…。」

 

「スイッチが入っちゃいましたね…。」

 

 

 

 

 

「海だー!」

 

季節は7月、芦ノ湖GTが終わってトレセンでは恒例らしい夏合宿に入学以来、初めて来ている。砂浜を歩いているけど慣れない感覚でむず痒さを感じる。

 

「そんなにはしゃぐことはねぇだろ。海なんてそんなに珍しいものじゃねぇだろうし。」

 

「海なし県舐めないで下さいよ。お父さんは冗談半分らしかったですけど諏訪湖を海だって教えられたくらいなんですから。」

 

「そんなバカな…。」

 

「それに去年は私色々あって合宿来られなかったので何というか、感慨深いんですよ。」

 

「ああ、そういう事か。渋川の事だろうしトレーニングは明日からだろ。今日くらいははしゃいでもいいんじゃねぇか?」

 

もちろんそのつもり出来ている。トレーニングはもちろんするけど自由時間は思いっきり海を満喫したいよね。

 

「トレノちゃーん!浮かれてる所悪いけど気を引き締めていかないとジャパンカップ勝てないよー!」

 

「ありゃ?渋川さん真面目にトレーニングやるつもりみたいです。今日は泳ごうかと思ってたんですけど残念で」

 

渋川さんの声に振り向いてみると絶句できるほどの格好をしていた。

 

「どうした?何かあ」

 

そこには水着、浮き輪、シュノーケルを装備した渋川さんが。後ろにはデッキチェアだったり日傘だったりが置かれていた。

 

「もうアイツ沈めちまわねぇか。」

 

「一番浮かれてるのはそっちじゃないですか…。」

 

 

 

 

 

2週間くらい経ったけどトレーニングの効果は十分に出ている。特に夏向君に走りはいい影響を受けている。戦略の面としても確実に成長している。

 

ただ、どうかな。ジャパンカップは日本のウマ娘だけでなく、海外のウマ娘も出走する。誰が出るかはまだ分からないけど向こうじゃ接触が当たり前らしい。

 

接触してくることが事前に予測できていても実際にやられると思いの外焦る。実際沢渡、ミハイルにやられた時は姿勢を一瞬崩されてあっけなくインを明け渡してしまった。

 

だからこそ対策する必要がある。接触してもインを開けないような対策が。

 

…そういえばそろそろ第3戦の出走日が出てるはず。リリース見ておくか。

 

「夏向君が3日目で…相葉君が4日目か。ミハイルはどうせ最終日だろうし…。」

 

マウスをスクロールしていくと6日目の出走者のある一人が目に止まった。おいおい、遂に出るのかよ。

 

「諸星…瀬名…!」

 

ようやくかよ、随分と遅かったじゃないか。直接会って話をしねぇとなぁ!

 

「渋川さーん、海の家の焼きそばでーす。」

 

「待っていやがれ、瀬名!…あ、焼きそばありがとねー。今日はもう予定も無いし泳いでくる?」

 

「トレノさーん、早くしないと置いて行っちゃいますよー!」

 

「今から行くよー! それではー。」

 

 

 

 

 

『予選6日目、柳田拓也、赤羽海人と目玉選手が走り終え視聴率が下がってくる時間帯ですが、めげずに実況していきます。

 

次に出走するのは初出場のルーキーです。カーナンバー885号車の諸星瀬名。どんな走りを見せてくれるんでしょうか。』

 

そろそろ出走か。MFG運営には悪いが、迷惑掛けさせてもらうぜ。

 

『スタートしました!この頃のルーキーには期待を寄せてしまいます。昨年の渋川榛名、ミハイルベッケンバウアー。

 

今年は片桐夏向と彗星のように現れてきました。彼もその一人になることがああぁ!?

 

今スタートゲートから100号車のインプレッサ…つまり渋川榛名が突如として現れました!ゲートカメラに切り替えます!

 

ご覧ください、こんな事件は今まで一度としてありませんでした!』

 

 

『瀬名、後ろからインプレッサが来てる。感づいてると思うが、アイツだ。“群馬最速天使”のご乱心だ。』

 

「ご乱心ってもんじゃないだろ、予選で乱入って…。」

 

ミラーで見るとそこそこの距離まで来ている。多分最後まで付いてくるペースじゃないな。

 

『100号車が885号車の後ろに付けている!100号車にドローンカメラが無いのが悔やまれます!…じゃなかった、彼女の乱入により後続の出走者は待機を余儀なくされています。

 

しかし本部からは通達はありません。このまま続けるそうです!100号車が第3戦に参戦しないことが心残りでしたがこれで解消できそうです!』

 

結構近づいてきたな。ペースが全く違うからな、当然か。トンネルを2つ抜けた所で渋川が横に並ぶ。

 

目を合わせてアイコンタクトで会話する。

 

(1位を取れ、なんて言わねぇ。だがショボい走りはするんじゃねぇぞ。)

 

(分かってるっての。ボスの手前もあるからな。アンタの分まで群馬プライドを見せつけてくるさ。)

 

(生意気、だが今は預けてやるよ。かましてこい、諸星瀬名!)

 

『2台並んだままオー・ルージュをクリアしていきます!目配せしていたかのようなライン取り!息の合ったツインドリフトです!

 

立ち上がった所で100号車がドローンの映像から消えていきます。併走はここまでのようです!もう少し見ていたいような気もしますがこれ以上は885号車の予選タイムに影響しそうなのでやむなしでしょう。』

 

ボス曰くオレと夏向が群馬プライド正統継承者だとするなら、渋川はその流れに属さない、だが似通っているいわゆる亜種のようなものらしい。

 

群馬のレコードを塗り替える時に秋名が一番手こずったからな。渋川がどれほどの完成度なのかはよくわかる。

 

『有料道路区間を超えます。スピンターンを決めて内陸区間に入ります!100号車はターンせずに通過していったようです。

 

渋川榛名と諸星瀬名がどのような関係なのかは分かりません。ですが先ほどの並走でスイッチが入ったかのように885号車が加速していく!

 

驚きのパフォーマンスを見せてくれそうです!』

 

だがそんなものは関係ない。オレのバックボーンは正統な群馬プライドだ。負ける要素は何一つとしてない。

 

ライバルに遅れは取れない。見せつけてやるぜ、群馬プライド!

 

 

 

「ただいまー。ゴメンね急に自主トレにしちゃって。」

 

「ああいえ、大丈夫ですよ。ただ渋川さんの方が心配ですけどね。」

 

「私が?何かあった?」

 

「これですよ。早速ニュースになってますよ。」

 

トレノちゃんがスマホの画面を見せてくる。そこには[MFG予選6日目に渋川榛名乱入!?諸星瀬名との関係性はいかに]という見出しのネットニュースがあった。

 

「噓でしょ…。1時間でもうニュースになってる…。ちょっと併走しただけなのに?」

 

「取材の申し込みもかなり来てるぞ。内容も諸星瀬名とはどんな関係なのかって感じだ。どうすんだ、受けるのか?」

 

「受けるって返事しておきます。先方さんの連絡先下さい。」

 

「これだ。…実際どうなんだ、その諸星瀬名とは。」

 

少しからかうように聞いてくる。まさか色恋沙汰を期待してるな?

 

「沖野さん、期待してるところ悪いんですけどそういう関係じゃないです。追い越しては追い越され、会う機会はあまりなかったですけどリザルトで競い合って…。

 

そうやってお互いテクを磨いていったんです。今日乱入したのは私なりの激励なんです。ショボい走りだけはするなって背中は押してきたんですけどね。」

 

「そうか…何にせよ、伝わってるはずだ。予選の順位は暫定7位、上々なんじゃないか?」

 

ドンッ!!!

 

その話を聞いた瞬間に机を思い切りぶん殴ってしまった。

 

「俺はトップ通過したんだぞぉ?だったらお前もそれ位しろやぁ上毛三山スカイウォーカーさんよぉ?」

 

「こっわ。」

 

 

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