「ハァ…ハァ…。」
「見つけたよぉ!言ったでしょ!逃がさないって!」
「ヒイィィィィィ!!!」
なんでここまでして追ってくるの!?いくら隠れても見つけてくるし!…仕方ない!
「ナナ!ごめん!ここに置いてく!」
「うぇえ!?ちょっとトレちゃん!?」
「このままだとあの人振り切れないから!後で迎えに来る!」
「いいけど、そんなこと言ってまた迷子にならないでよー!」
「分かってるよー!」
ナナと別れても振り切れる未来が見えないけど、とにかく逃げないと!
「ゼェ…ゼェ…ハァ…もう………無理……!」
「ま……待ってよ~~トレノちゃ~ん…!」
あれから30分程隠れては見つかりを繰り返している。驚いたんだけどどうにもあの人、私の匂いを探知して追跡してるらしい。なんでって?あの化け物、「クンクン、こっちからトレノちゃんの匂いがする。」って言ったと思ったら正確に隠れた場所を当てたんだから。それも五回も。人か?
「ヘブッ!」
化け物がこけたらしい。きっと私の事を思ってくれているんだろうけど、この学園に入る気も無ければレースに興味も…興…味……も…。とにかく、良心が痛むが最後の力を振り絞って渋川さんを振り切った。
「ふえええぇぇ~~~ん。」
なんでそこまでして逃げるのぉ~。私はトレノちゃんの才能が埋もれていくのが、トゥインクルシリーズで活躍して欲しいだけなのにぃぃ~~。結局逃げられちゃったしぃ。グスン。何としてもあの子を学園に引き込まないと。
あの子はレースに出ずに終わるようなウマ娘じゃない!とはいえ、どうすればいいんだろう。あの様子だと私を見るだけで逃げ出しそうだしなぁ。…今考えると悪いことしちゃったなぁ。今度会ったらちゃんと誤らないと。とおるるるるるるるるる
「あれ、誰からだろう?」
ポケットからスマホを取り出すと、東条さんからの電話だった。
「もしもし。渋川ですけどぉ。グスッ。」
「その様子だと逃げられたみたいね。榛名。」
「ふえぇぇ~~ん。そうなんですよぉ。私はトレノちゃんにトゥインクルに出て欲しいだけなのにぃ。」
「そんなことだから担当決まらないんじゃない?情熱は買うけど、もう少し相手のこと考えないと。」
ですよね~。分かってはいるんだけどどうしても前が見えなくなっちゃうというか。
「それはそうと貴方、今から私のトレーナー室に来てくれないかしら。」
「え?今からですか?いいですけどどうしたんですか?」
「貴方、カメラ置きっぱなしにして行ったでしょ?私が回収したから取りに来て頂戴。」
忘れてた。あの時はトレノちゃんに夢中になりすぎてカメラなんてそっちのけで追いかけてた。
「すいません!すぐに取りに行きます!」
「それともう一つ、トレノスプリンターの走りについてよ。沖野もいるし話し合わないかしら?」
「…!分かりました!すぐ行きます!」
そうだよね!トレノちゃん程の才能、東条さんが見過ごす筈ないよね!だからと言って担当するのは私ですけどね!
「どうせ疲れているんでしょう。ゆっくりでいいか……。」
「?どうしたんですか?東条さん?」
「やっぱり来なくていいわ。それと、生きて帰れるといいわね。」
「え!?それってどういう意味ですか!?、切れてるし…。」
いったいどうしたんだろう急に来なくていいなんて。まあ来るなと言われなくても行きますけど。
「渋川さん…。」
「はい、何です……か………。」
終わった。振り返らなければよかった。
「貴方に対する通報が30分前から山のように届いてですね…。どう落とし前付けてくれるんですか?」
「そのお………あのぉ……。」
下手なことを言えば殺される。何回かたづなさんに捕まったことはあるけどここまでの殺気を込められたのは初めてだ。それと笑顔が怖い。それだけで人を殺せそうなくらいに。
「今回は理事長からも話があるそうですよ。楽しみですねぇ。」
そう言うとたづなさんは私の服の襟をつかむとそのまま引きずって理事長室に連行していく。
「すいません!私はただ才能を潰したくなくて!」
「はいはい、言い訳は理事長室で聞きますからねぇ~。」
こうして私は理事長室にドナドナされるのだった。
「榛名は来れなくなったわ。」
「え?どうして?」
「分かるでしょ?今頃はたづなさんに連行されてる頃でしょうね。」
「あぁ…それじゃ早速始めるか。」
私は頷くと部屋を暗くし、プロジェクターが起動した。映し出されたのは榛名が撮影したトレノスプリンターのレース映像だ。
「直線のスピードは並のウマ娘より少し上くらいなのよね。」
「いや…どちらかというと加速力か?出遅れてから少しして取り戻すようにペースを上げてるよな、それで二人抜かしてはいるがそれでもテイオーやスぺのような加速力は見えない。」
レースは進みコーナーに差し掛かる。
「そして、問題はここから。コーナーに入った瞬間、内側から流れるようなごぼう抜き。こうやって見てると芸術ね。」
「コーナーが速いのはもちろんだが、あの狭い内側に何の躊躇もなく突っ込んでくんだからな。見てるこっちがゾッとするよ。」
「それに柵との距離が極端に近いわね。そしてそのまま順位を上げていって。」
「んで、気付いたら一着争いっと。」
そう、本当に度肝を抜かれたのはここから。このコーナリングでも十分度肝抜かれたけどここからが目を疑った。
「そして先頭を走ってる子を捉えたと思ったら…。」
「いつの間にかアタマ取ってたわけだ。コーナーだけ取ったらこの学園でも抜きんでてやがる。」
「あの”ぶれる”コーナリング…どんなトレーニングをしたら身に着くのかしら。」
「分からん。こればっかりは本人の才能としか言いようが無いだろ。」
そうなると尚更謎だ。榛名との会話を聞いた限り、レースには興味が無いという。興味が無いのにあそこまでの脚をどうやって仕上げたのか。あの仕上がりは学園内でもトップクラスと言ってもいいわね。
「ねえ、あなたはどう考えてるの。榛名みたいに走ってほしいって思ってるんじゃないの?」
「確かに、榛名の学園に引き込みたいって気持ちは分からんでもないが、本人にその意思が無いとなるとどうしようもないだろ。」
「そこなのよねえ。」
二人して頭を抱える。レースに出て走ってほしいのは私だってそうだ。ただ本人に走る意思がないのなら強要もできない。そう考えていると扉からドン!と大きな音が鳴った。
「な、なんだぁ!?」
沖野が扉の向こうを確認する。誰もいなかったようで戻ろうとすると。
「あ?何だこれ。手紙?」
「何それ?どこにあったの?」
「扉に貼ってあった。えーと何々、「話は聞かせてもらった!なんか面白そうだな!アタシも混ぜろよ!待ってろ今連れてきてやるからな!」…だとよ。」
「十中八九ゴールドシップね…早く行って止めてきなさいよ。」
「出来たらもうやってるよ…。」
今度は胃が痛くなってきた。はぁ…丸く収まればいいんだけどね。
「罪状ッ!被告は30分ウマ娘を追いかけまわした罪に問われている!容疑を認めるか?」
「はい…その通りです…。」
現在私は理事長室にて裁判を受けています。どうしてこうなったのかは明白なんだけど。
「普段の君は情熱溢れる優秀なトレーナーなのだがどうしてこう自制できないのだ!」
貴方がそれ言います?っと思ってしまった。なんやかんや貴方も暴走してるじゃないですか。
「理事長?それは貴方も同じですよ?」
「うぐっ!とにかく!今までの問題行動には目を瞑ってきたが今回ばかりは君はやりすぎだ!」
「待ってください!その前にこれを!これを見てください!」
このままでは終われない。スマホでもレースを撮っていたのが功を奏した。さあ理事長、くらえ!
「これは、レースの映像だな。君が撮ったのか?」
「はい、先ほど行われた模擬レースの映像です。出遅れた子、トレノスプリンターに注目してご覧ください。」
「どれ…ふむふむ。」
やっぱり食いついた。たづなさんも食い入るように見ている。すると理事長の目が見開く。たづなさんは驚きの声を上げる。多分あのシーンを見たんだろう。
「理事長、お願いがあります。」
「…話したまえ。」
「トレノスプリンターを説得してもらえませんか!あの子の才能をレースに出ないまま終わらせたくないんです!」
「傾聴。彼女から話は聞いたのか?」
「はい。ですが、レースに興味はないと。そう言っていました。」
「それでは彼女の意思に反するのでは「違います!」
理事長の話を遮って私は続ける。
「レースに興味のない子がここまでの仕上がりになるとは思えません!本人は否定していますが心の中ではきっとレースが…走ることが大好きなんです!」
「うっ…だがしかし…。」
「お願いです理事長!」
しばらく考え込んで、理事長が口を開く。
「承諾ッ!結果は保証できんが掛け合ってみよう!」
「ッ!本当ですか!?」
「うむっ!それに、君の気持ちもわからんでもないからな!」
「ありがとうございます!」
流石理事長!こういう時本当に頼りになる。理事長が掛け合ってくれるなら一安心だ。
「じゃあ私はこれで。失礼します。」
「?疑問、なぜ帰ろうとするのだ?」
………あっ
「まだ話が残ってますよ?渋川さん?」
そういうとたづなさんが私の肩を掴んできた。ちょっと力加減間違えてませんか?このままだと砕けるんですけど。
「判決ッ!被告を3週間のトレーナー寮待機とする!」
「ひでぶっ!!」
こうして私は昇天しました。
文章の肥大化が止まりません。後ここに書くネタも尽きました。
書くこと無いのでまた次回!