頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百十三話 見えない勝負

『885号車、86号車もターンしてヒルクライムに入ります。驚きました、まさか折り返し地点で追い抜きが発生するとは思いませんでした。』

 

『100号車には躊躇がありませんでした。最初からそこで仕掛けることを決めていたかのようでした。

 

これが地元故の判断力という事でしょうか、サーキットやMFGのコースではこのような事はあり得ません。これが峠の真の面白さなのでしょうか!』

 

『トレノから渋川さんへ、聞こえてますか?』

 

「さっきぶり、何とか先頭をもぎ取れたよ。この隊列なら、駆動方式で俺が優位を取れる。と言っても、それほどデカいアドバンテージって訳じゃないけどな。」

 

『さっきの追い抜き、こっちだと結構なバッシングですよ。相当無理した追い抜きでしたから。』

 

「そりゃそうか。でも何人かは何が起こったか把握できてるんじゃないか?もちろんトレノちゃんも。」

 

『大体ですけどね。…分かってると思いますけど、厳しいのはここからですよ。このまま逃げ切らせてはくれないはずです。』

 

「モチのロンだ。さぁ、かかってこいや!」

 

 

『マルゼンスキー、少しばかり動揺しているかもしれないが、大丈夫か?』

 

「ええ、大丈夫よ。確かに驚いたけれど、あれが卑怯だとは思わないわ。流石榛名ちゃんね。油断してたところを行かれちゃったわ。」

 

『神フィフティーンの壁は厚いという事か。厳しいのはここからだぞ。』

 

「分かってるわ。全力で頑張ってくるわ。」

 

 

『秋名のヒルクライムは勾配がきついのでクルマにパワーが求められます。

 

4台共に300馬力クラスですが、3.9リッターV12のカウンタック、3リッターのスープラがエンジンでは有利、駆動方式では4WDのインプレッサとそれぞれに武器があります。』

 

『やはりそれぞれに武器があるんですね。それでは、86号車の武器は何でしょう?』

 

『86号車、片桐夏向のメカ的な武器はタイヤでしょう。グリップウエイトレシオのハンデを受けないFRですからね、100号車、マルゼンスキーのタイヤと比べると出来る事は多くなるでしょう。

 

その点に関しては885号車も同じですが、もう1つの武器があります。それは類まれなコーナリングスピードですね。

 

開幕戦から非力なトヨタ86GTをまるで手足のように操り、戦闘力の高いライバル達をごぼう抜き、予選の時はとんでもないルーキーが現れた…と思いました。

 

その点で言えば、渋川榛名の担当、トレノスプリンターと共通点が多いですね。』

 

『そうですね、メイクデビューではそのコーナリングで圧勝。それから格上相手に何度も勝利を挙げていますからね。

 

…話すと長くなりそうですね。この話はまた後程、目の前のレースに集中しましょう。

 

既に100号車が5連続ヘアピンに差し掛かろうとしています。マルゼンスキー、885号車が圧力をかけていきます。86号車1歩下がった位置で様子を伺います。』

 

仕掛けるならこの5連ヘアピンだろ。抜かれてからそこまで時間も経ってないからまだ立ち直り切ってないだろう。

 

いつまでも渋川だけにいい顔させる訳には行かないぜ!

 

『100号車5連ヘアピンに入ります、インベタギリギリ!マルゼンスキーも同じラインを流していく!885号車はその外だぁ!』

 

「これじゃ、カウンター取られるわね…!」

 

アンタも速い、だから狙える時に狙っとかないとな!

 

『コーナー立ち上がりで2台が並ぶ!インとアウトが入れ替わります!パワートレインではやはりスープラに分があるか!?』

 

ブレーキング、突っ込みは互角か。それでもインとアウトには絶対的な差がある。頂いたぜ。

 

『神フィフティーンの牙がまたしてもマルゼンスキーを捉えてしまった!トゥインクルシリーズでの彼女の速さを知っている私としては驚きを隠せません!

 

恐るべし神フィフティーン!』

 

『マルゼンスキーが下手という訳では決してありません。むしろMFGに出れば確実に神フィフティーン入りするレベルの実力です。

 

…が、今走っているのはその15人の中の上位。私たちの常識では測れない所にあります。

 

順位の入れ替わりはないと思われていた5連ヘアピンでオーバーテイクが起こってしまいましたから。』

 

 

「抜かれちまったか、マルゼンちゃん。あの仕掛け方だといくらカウンタックでも無理があるか。ミッションの差っていうのはやっぱでかいな。

 

それじゃ、来いよ諸星瀬名。上りじゃどっちが速いか勝負と行こうか。もちろん、ノッてくれるよなぁ?」

 

『5連ヘアピンを抜けて群馬出身の2人が争う形になりました。この2人にはやはりライバルという言葉が似合うような気がします。ペニンシュラ予選での乱入以来のレースになります。

 

どちらに軍配が上がるのかとても楽しみです!その後ろをマルゼンスキーと片桐夏向が追いかける!

 

しかしいくらターボとは言え2リッターの86には分が悪いか!』

 

「ここからヘアピンまでは直角の高速コーナーが3つ続く。3つ抜けた先のストレートはいくらインプでも並ばれる。

 

いくらパワートレインが違うとはいえFRに上りで詰められるのは少しばかりな。

 

4WDの威信にかけて、上りでFRに負けるなんてことはあってはならないぜ!」

 

 

上りの4駆の速いのなんのって。どんなコースにも対応できるオールラウンダーなクルマに仕上げたと豪語するだけの事はあるな。

 

ここで無理について行ってもいい。MFGのコースより断然短い。チョンボかまさない限り、タイヤが駄目になるなんてことも無いだろうが…そうだ、なんかの拍子にボスが言ってた作戦を使ってみるか。

 

「瀬名よりブースへ、渋川を追いかけるのを一度中断する。勾配が無くなる秋名湖まで我慢する。」

 

『それはいいけどよ、群馬最速天使相手にそれでいいのか?上りのレコードはトントンだろ、組み立ては出来てるのか?』

 

「出来てなきゃこんなことやらないですよ。タイム差は頂上で7秒って所か?やってやるぜ!」

 

『気を付けろよ、多すぎても少なすぎても失敗するぞ。そこまでシビアって訳じゃないだろうけど。』

 

『5連ヘアピンを抜けて左の直角です。100号車の突っ込みに対し885号車が少し遅れているように見えます。

 

その切り返しでも遅れ始めています、やはり4駆の上りの強さは絶対的か!それとも885号車の作戦なのか!?』

 

 

何というか、偶然なんだろうな。ゴッドアームのおっさんがやった折り返し地点の追い抜きを見て、そのバトルでやったアニキの作戦を実践し始めるとはな。

 

設定したのは7秒そこらか。この状況でやるってものかなりのリスクだがな。

 

チューニングのレベルも同等、それに後ろからはウマ娘のねーちゃんに片桐夏向が来てる。

 

オレはこの展開、あまりいい方向に向くとは思わないが…いい傾向だ。

 

 

「ブースよりカナタへ、885号車のペースが落ちてるみたいだけど、何かあったのか?」

 

『ノープログレムです、緒方さん。ボクはミスターモロボシの作戦に乗ります。ミスマルゼンスキーもその様子です。

 

少しむず痒いですけど、勾配が無くなる区間でその差が詰まってくるはずです。』

 

マジかよ…全開で逃げる榛名ちゃんを放っておくのかよぉ。これで本当に勝てるのか?信じていいんだよな、カナタ!

 

「カナタが作戦に乗ったんだ。885号車にどんな考えがあるのか分からんけど、きっとどんでん返しが待ってるはずだ。」

 

「…瞬、お前どこから出てきてんだよ。」

 

「最初からいたぞ。ただウマ娘のねーちゃん達を見てたらいつの間にか出走時間になってただけで。」

 

「お前にも沢渡病がうつっちまったか…。オレは貰わねぇようにしないと。」

 

「違ぇよ!…じゃあ聞くけどよ緒方。お前、マルゼンスキーって子のセコンドについてる子、あの子がJKに見えるか?」

 

瞬に言われて隣に目をやる。セコンドの子っつったらあの子か。…恋ちゃんがあれぐらいだろ?それでトレノちゃんが…。

 

「見えない…。」

 

「だろ?」

 

 

『右のヘアピンを抜けて高速区間へ突入していきます。100号車と885号車との差は約コンマ7秒!どれだけの差が生まれてしまうのか!』

 

ノッてくると思ってたけど勝負は秋名湖は入ってからってことか。ペースを落として破綻させてやってもいいけど、そんなしけたことは出来ねぇ。

 

ペース上げて逃げても後ろで調整出来るから自分の首を絞めるだけだ。

 

仕方ねぇ…このままいくか。ここまでクレバーな作戦に出てくるとはな。面白いバトルになって来たじゃねぇか。

 

『渋川さん、喋るの忘れてますよ。熱くなるのはまだ早いですよ。』

 

「おっとそうだった…ついつい黙っちまう所だった。 せぇの、どりゃあ!」

 

『速い速い上りが速い!これだけ見ればMFGにはまるで見えません、WRCです!その姿は正にストリートスペシャリストです!』

 

「距離にして20メートルって所か。瀬名が仕掛けてくるまでにどれほどの差になっているのか。

 

舐めんなよ、手ぇ抜いてっとぶっちぎるぜ!」

 

『逃げますね、渋川トレーナー。ですがこの展開、後ろ2台はそれ程苦にしてはいないでしょう。渋川トレーナーはその差を広げていくため、相手が見えなくなります。

 

ただそれだけならいいのですが、そのクルマが見えた時、追いついた時の焦りというのは計り知れません。』

 

『追い上げられて平静を保てる人間もそうはいないでしょうからね。

 

…赤坂さんばかりに解説されていてはMFGの生き字引の名が廃ります。ここからは私が。

 

対する885号車はじわじわと相手が見えなくなります。レースに生きるものとして、逃げる相手を黙って見ているというのは耐えがたいものです。

 

作戦だとしても、それに耐えている訳ですからね、ルーキーとは言え、流石神フィフティーンです。

 

ですがマルゼンスキー、86号車には885号車程の焦りは無いでしょう。』

 

 

マルゼンスキーがこの位置でレースを展開していくのか。彼女の脚質が逃げなだけに不安になる。

 

「マルゼンスキー。老婆心かもしれないが、決して焦る必要はない。その位置にいることで確実に脚を溜められる。今は885号車に付いていくことに集中するんだ。」

 

『当たり前田のクラッカーよ。普段が逃げだから少し慣れないけど、悪くないわね♪タッちゃんの本領発揮は近いわよ!』

 

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