『86号車がブレーキングでマルゼンスキーに襲い掛かります!おっと、同時に注目フラグが立ちました!
MFGのダウンヒルスペシャリストが遂に本領発揮です!』
「渋川さん、諸星さんが2.5秒の所まで来ました。それと…マルゼンさんが夏向さんに抜かれました。」
『そっか…やっぱ攻撃力は圧倒的か。報告ありがとう、また何かあったら言うよ。』
「了解です…事故らないで下さいね。」
『分かってるって。』
事故らないでと言ったのは、何も渋川さんのテクニックを疑っているからじゃない。第2戦のミハイルとの一件がある。
黙ってしまうと、外からの衝撃にめっぽう弱くなってしまう。黙った状態で並ばれる、追い抜かれる…。
そういう衝撃を受けた時、そういう時は間違いなく限界領域にいる。そんな状態でミスなんかしたら…考えるだけでも恐ろしい。
ありふれた言葉だけど、無事に戻ってきてくださいよ。
「遂に4位ね…マルゼンがこの位置とは、予想もしてなかったわ。残念というよりも、ここまでよく頑張ったわよ。」
「いえ、マルゼンスキーはまだ諦めてません。彼女が、このまま黙っている訳が無い。
ですが、私たちにとってもあれは青天霹靂。あれほどの攻撃でショックを受けないものはいない。立ち直るのも艱難辛苦でしょう。」
『86号車が火の玉のように加速していきます!マルゼンスキーも懸命に追います!』
後ろから追い上げてくる…片桐夏向か?どこで仕掛けた?
まさか、第1コーナーか?ハードなブレーキングで、軽いカウンタックが有利なはずだが、そんなところで行くのか。
…そういえばそんな奴だったな。予想できない所で防げないような攻撃を繰り出す。それでこそ、もう1人の群馬プライド継承者だ。
『885号車が2連ヘアピンに突入します、その背中を捉える位置にすでに86号車が来ている!』
『まさにトレノスプリンターを彷彿とさせます。見ているこっちがゾッとするような走りです!』
この先の高速テクニカル区間はスープラより軽い86の方が有利と考えた方が良い。
3速の暴れっぷりはペニンシュラでも体験してるからな。抜かせる気は毛頭ない…が、片桐夏向の殺気がどんどん強くなってくるぜ。
『2連ヘアピンをクリア、100号車の背中をまで1.3秒!その背中を追うのは885号車か86号車か!?
スケートリンク前のストレート、パワートレイン有利のスープラが僅かに離します!』
オレはさっきここで渋川にやられた。片桐夏向がここで仕掛ける来ることは何となく予想できるが、さっきの二の舞にはならないぜ!
『左コーナー!885号車が先程よりもタイトなラインで侵入します!あアァッとぉ!?』
バカか、そこまで行ったらほとんど岩の壁だ。お前…いったいどこ走ってるんだぁ!?
『『…』』
『す、すみません。あまりに衝撃的な追い抜きで言葉を失ってしまいました。田中さん、今なにが起こったのでしょう?』
『私には、排水用の側溝のさらに内側を走っているように見えました。ペニンシュラで片桐夏向が溝を使うテクニックを披露しましたが、これはその延長線なのでしょうか。
私では完全な解説は出来ません…。とんでもないことが起こりました…。』
やっぱ…前に出られると不利か…。いくらこっちのタイヤがいくらか太いからって軽いっていうのはとんでもない武器だ。
この区間はマジで勝負にならない。次のコーナーまで全開にする区間が短すぎる。
…いや、ボスが言ってたことを思い出せ。あの時ボスは、群馬プライドは踏むための技術体系だと言った。
がむしゃらに、ただ踏むだけじゃない。ボスはコーナーに合わせてアクセルの開け方を変えていた。それが一分のスキも無い流れるような荷重移動を体現してたなら…。
磨くにはもってこいじゃねぇか…やってやる、付いて行ってやるぜ片桐夏向!
『ここで885号車にも注目フラグが出ました!抜かれてから速くなるというのか!?
100号車が右のヘアピンを抜けます、続いて86号車、間を置かず885号車、マルゼンスキーが行きます。』
『マルゼンスキーはよく頑張りましたね…。トゥインクルシリーズでは無類の速さでしたが、こちらの分野では更に上がいたという事ですね。』
夏向がすぐそこまで来てる。もうここまで来てタイヤがどうの言うつもりはない。この長いストレートで離しても、ブレーキングで詰められる。
詰められると一瞬でオーバーテイクされる。あの攻撃をかわすには、夏向を上回るしかない。
そのためのイメージは…出来てる。でもあのコーナーだけ。その先はどう頑張っても俺の走りをするしかない。
唯一、俺が藤原さんの走りを後ろから見れたあのコーナーで勝負するしかない。
『このストレートで離しましたが、この先のヘアピンの突っ込み勝負で並ばれればいくら渋川と言えどオーバーテイクは避けられないでしょう!』
見てろ
『そのヘアピンが目前に迫ります!』
これが
『100号車がアウトに行きます、それを見て86号車がインを占めます!決まってしまうのか!?』
お前らが目指すべき群馬プライドの頂点だっ!!!
…amazing!
『渋川榛名、片桐夏向のオーバーテイクを許しませんでした!何と片桐夏向がブレーキングで負けてしまったぁ!
注目フラグを立てながら先頭を死守しました!』
ボクではあれ以上突っ込めなかった。全てにおいて負けてしまった。ボクは今、自分のテクニックに自信を失いかけている。
ですが負ける訳には行かない。何か、不思議な力がボクに勝てと言っている気がする。
そして、その声に応えなければいけないという確信がある!
「こんな事あるのかよ、カナタがブレーキングで負けるなんてよ。」
「正直、あの瞬間の渋川からはカナタを超えるほどの集中力を感じた。いろんな偶然が生んだ、奇跡的なパフォーマンスなのかもしれない。
カナタ自身、少なからずショックだろう。あの様子じゃ、すぐに立て直したようだがな。」
「瞬、どうなるのかなこのレース。」
「そんなものオレに聞くな。オレだってこんなレース見たこと無いんだからよ。」
…いつまでうじうじしてるのよ。こんな姿、カッコ悪くて後輩ちゃん達に見せられないじゃない。
「ルドルフ…3人に注目フラグは立ってるかしら。」
『ああ。英俊豪傑、途方もない位の才能だ。だが、それに付いていく君も同じだと私は思う。』
そうね、いつまでも黙っていられないわ。確かに貴方達は速いわ。だからって、それを黙って見てるだけ?
そうじゃないでしょ。神フィフティーン…あたしは貴方達を!
「超えて見せるわっ!」
『5連ヘアピン残り僅か、このタイミングでマルゼンスキーにも注目フラグが出されました!
4人同時に注目フラグが出されるのはMFGにおいても前代未聞です!5連ヘアピンを抜ければゴールは目前です!』
まずは諸星君、君からよ。さっきのお返しと行くわよ!
「とんでもねぇバトルになって来たな…。来たぞ、突っ込んでくるぞ!」
ガリッ ガリッ
「当たり前のように溝落としを使うな…。あれの助手席なんか乗ってられないぞ。」
「所長、カウンタックが仕掛けてます!」
『2個目のヘアピン、カウンタックが885号車の左に並びます!』
ガシュン
『カウンタックから火花が散らされます!まさに限界ギリギリ、神がかりなプッシュです!』
「なんて根性だ、ただでさえ車高の低いカウンタックで溝落としをやるなんて。」
『ミッドシップのトラクションでクルマ半分前に出ますがすぐ右のヘアピンです!』
ガリッ
『譲りません、諸星瀬名!5連ヘアピンで全員が溝を使いました!もはや理解が追い付きません、あり得ないことが立て続けに起こっています!
この際はっきりと言ってしまいましょう!本家MFGより白熱しています!この4人のレースをいつまでも見ていたいぞ!』
『ゴールは近いですからね。ラストスパートでの末脚勝負、誰が勝つのか全く予想できません!』
やっぱ付いてくるか。この先にも溝はある。夏向が立ち上がり重視の溝落としを知らないとは考えられない。
だがここまで来たら勝負所は2つのRが重なる複合コーナーしかない。あそこさえ凌げれば、追い抜きのポイントはなくなる。
……フゥ…タイヤの感触もほんの少し怪しい。だがこれ位些細な事だ。なんてことは無い。
「5連ヘアピンは超えたみたいだ。そろそろここに来るぞ。」
「ああ、勝負が決まるとなれば、このポイントしかない。秋名のハチロクが高橋涼介を抜いたこの複合コーナー。
ここで仕掛けられなければこの先でどうすることも出来ない。」
「このコーナー立ち上がって、アタマ取ってたやつの勝ちだ!」
ギャン ドギャン
「来た、渋川のインプだ!」
「86も来てる、4台連なってるぞ!さぁどうする、どう攻める!」
「どう選択をする、インか、アウトか!」
クン
「86がアウトだ!スープラとカウンタックは渋川の後ろだ!」
ガオッ パパパン ドギャ ギャアアァァァ
「インプが前に出るぞ、インが絶対有利だ!」
…ズルッ
「インプが外へ膨らんでいく、クリップに付けない!まさか86は!?」
ピタッ
「付きやがった!ラインがクロスするぞ!スープラも並んで前に出ていくぞ!」
「86が前に出やがった!だがスープラとインプは横並びだ!カウンタックはスープラの後ろだ!」
「マジかよ、あれじゃ2位争いはまだ続くぞ!」
くそがぁ、俺のスペースがねぇ…こっちはミスファイヤリングシステムも、4駆のトラクションも…パワーを発揮できねぇ!
『885号車が100号車をオーバーテイクします!マルゼンスキーと100号車が横並びになります!
伊香保階段までコーナー2つ!駐車場ヘアピン!2台並んでクリア!位置有利は100号車だ!
今チェッカーが振られます!1位86号車、2位885号車、3位100号車、4位マルゼンスキー!
このエキシビションマッチを制したのは英国のダウンヒルスペシャリスト、片桐夏向です!』
「すげぇバトルだったな…。」
「ああ、あんな抜き方見せられちゃ嫌でも秋名のハチロクがちらついちまう。」
「あの時の感覚が戻ってきちまった…慎吾、帰ったら1本走るか?」
「良いのかよ毅。ナイトキッズのリーダーを頂いちまうぜ?」
「んなこと言ってももうオレら2人だけだろうが。それに、負けるつもりはみじんも無いぜ?」
「オレのEG6もあの時から進化してんだ。昔みたいに付いて来られるかな?
…それと毅、帰る時は少しタイミングずらそうな。知らない奴が見たら仲いいみたいに見えるから。」
「あ、あぁ…。」