頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百十八話 強化メニュー

「さて、賭けの戦利品だ。トレノは借りてくぞ。」

 

「ほーい。一応ジャパンカップ控えてるから壊さないでねー。」

 

そう言ってどこかに行ってしまう渋川さん。人をものを貸すみたいに簡単に貸すのはどうなんですかね?

 

「さてトレノ、まず私のとり巻きたちの相手をしてもらおうか?」

 

シリウスさんが指をパチンと鳴らすとどこからともなくほんの少しだけガラの悪そうなウマ娘が大勢出てきた。

 

……え、私今日死ぬの?

 

「ルールは簡単だ。距離は2400、左回り。トレノ先行でその後ろをアイツらが走る。お前は一度も抜かれないように走れ。

 

万が一、2400走り切る前に抜かれるようなことがあればうさぎ跳び50回だ。

 

そしてもう1回走ってもらう。ラフプレイもある程度は許容する。クリアできるまで続けるぞ、文句はないな?」

 

「シナナキャダイジョウブデース。」

 

これだったら柵を破壊しまくってたほうがマシだった。

 

兎に角スタート位置に付く。私の後ろには10人くらいいる。いや、こわぁ。

 

「始めろ!」

 

走り出してすぐに、後ろから抜こうとしてくる。この人ら、私を無限うさぎ跳び編に引きずり込む気だ。

 

あまりそういう訳には行かないので合わせるようにしてペースを上げる。

 

コーナーに入る。もうここで引き離せるだけ引き離してマージンを作っておこう。

 

……! 何か来る! この感じ、イン側からか!

 

予感は的中した。備えた方向から軽くぶつかられる。備えていたから大きく体勢を崩すことは無かったけど、それでも弾かれてしまう。

 

「……ッ、ヤバっ!」

 

インに集中していたせいでアウトへの意識を怠ってしまった。2分の1バ身ほど前に出られてしまう。

 

「このっ!」

 

走った後のうさぎ跳びは来るものがある。それを回避するためにハナを取り返す。

 

 

 

「はぁ、何とかなったぁ…。」

 

「ご苦労。じゃあ30秒後、うさぎ跳びだ。」

 

「……いや、抜かれてはいませんよ?」

 

「コーナーで半分出られてただろ。まさかそれがノーカウントだと思ったか?」

 

「…思ってました。」

 

まさか抜かれかけるだけでもダメだとは思わなかった。つまり1位をキープしてゴールしないといけなかったとは。

 

「ほら、さっさと50回やってこい。」

 

「ひっひえ~~~。」

 

悲鳴を上げながらうさぎ跳びを始める。走った後だからやっぱりつらいよ~。

 

「鬼っすねーシリウス先輩。」

 

「何言ってんだ、お前らもだ。さっさと行ってこい。」

 

 

 

 

 

「む、む~り~……。」

 

これで3セット目、相手は10人いるせいか、代わる代わる攻撃してくるおかげで終わる気がしない。

 

一緒にうさぎ跳びしてるから疲れてるのは一緒のはずなんだけどなぁ。

 

「そら、4本目、行ってこい。」

 

これ以上は限界を超えてしまう。このあたりで終わらせる!

 

「おらっ!」

 

「当たらない!」

 

自分の後ろの大体どの位置にいるのか分かってきた。そのお陰で攻撃もタイミングもなんとなくだけど分かってきた。

 

もろに食らう事はもうない。だからと言ってスタミナ的にちぎるのは難しい。この差を維持しつつ、ゴールするんだ!

 

「……そろそろか。」

 

 

 

「今度こそ、クリアしたでしょ……!」

 

「よし、トレノはコースを歩いて1周、そのあと5分の休憩だ。それとお前ら、坂路5本だ。」

 

背中から聞こえてくる悲鳴に耳を塞ぎながら指示通り、コースを1周する。

 

ここまでやって、シリウスさんのトレーニング?は厳しいながらも私に足りない部分を確実に補おうとしている。

 

シリウスさんが絶大な人気を誇る理由がなんとなく分かった。何故かあまりいい話は聞かないけど。

 

スポドリ飲んで、冷やしたりしていたら5分は簡単に過ぎてしまった。

 

「いつまで休んでる、次に行くぞ。」

 

「次って何をやるんですか?」

 

「なに、条件はさっきと一緒だ。相手は私。2本立て続けに走る、その両方で勝て、それだけだ。位置に付け、始めるぞ。」

 

それだけって…シリウスさんに勝つって相当難しいじゃないですか。それを2本立て続けってマジですか。

 

「それじゃ行きますよ、用意、スタート!」

 

スタートと同時にシリウスさんは私の前に出る。走り出してすぐに分かった、やっぱり速い。

 

ダービーウマ娘は伊達じゃない。この人に2回勝てって課題が難しすぎる。

 

兎に角、勝つんだったら追い付くしかない。やり方としたら、皐月賞でキタちゃんにやった時と同じ、徹底マークしてばてるのを待つ。

 

ただ、相手は歴戦の猛者だ。これだけで簡単にばててくれるとは思えない。

 

……そういう事か?さっき私がやられたみたいなことを、今度は私がやればいいんだ。

 

ぶつかるまでは行かなくても、かなり近づいてプレッシャーを与える。それも一方向からじゃない、内から、外からと変えながら仕掛ける。

 

これでだめなら、本当に考え物だけど!

 

 

中々考えたな。さっき自分がやられたことをそのまま返して来るとはな。

 

近づいては離れてを繰り返して、それを内と外とで仕掛けてくる。応用が上手い奴だ、後ろで見た訳でもねぇのに受けた感覚だけで再現するか。

 

天性の才能って奴か、少しずつペースを上げていっても一定の距離で付いてくる。成程な、タマモクロスが背後霊と称するだけの事はある。

 

コイツには、何でか期待しちまう。私が獲れなかった世界の頂き。コイツが凱旋門賞に出る訳じゃないが、ジャパンカップという世界の強豪が集まるレースって事で変に肩入れしちまってるのかもな。

 

ここ最近は、あのガキやテイエムオペラオーなど、日本勢が勝っているがそれは海外勢がオグリ世代ほどじゃないか、レースの殆どが日本勢で占めていたからだ。

 

だが今年は違う、なんでか知らねぇがオグリ世代の化け物、それに並んでヴェニュスパーク、リガントーナまで出てくる。

 

今年のジャパンカップの水準は、あのころまで戻った。

 

だから、これじゃまだ足りない。ジャパンカップに勝つには、まだ、足りない。

 

世代の頂点が到達する領域まで、まだこいつは達していない。

 

「ハァッ!」

 

さぁ、喰らいつけ、私に勝てないようじゃ、ジャパンカップも勝てねぇぞ!

 

 

 

「届かない…か…。」

 

「さぁ、次だ。言っただろ、立て続けだってな。」

 

シリウスさんが走り出すのと同時に私も走りだす。休憩する時間すらくれないんですね…!

 

走っていて、うっすらと分かったことがある。シリウスさんのトレーニングは多分ジャパンカップに向けた強化メニューかもしれない。

 

2400の左回りで、ジャパンカップを意識しているコース設定だし、最初のラフプレイ許容も激しい位置取り争いを想定しているはず。

 

それを考えれば、ここでの負けはジャパンカップは確実に負けることを意味している。

 

この状態からでも限界を超えないといけない。多分シリウスさんはそれを狙ってる。

 

出来る出来ないじゃない…やるんだ!

 

 

 

真意に気付いたな。さぁココからだ、お前は限界を超えられるか?

 

 

……

 

……………ん? 誰だ、トレノの後ろからもう一人付いてきてる。

 

 

シリウスとトレノとは、珍しい組み合わせだな。つい、トレーニングに割り込んでしまったよ。

 

 

いや、この気配、この走りは…!

 

 

私もトレーニングに入れてくれないか、いやという2人ではないとは思うが。

 

 

 

「皇帝…シンボリルドルフ!!」

 

 

 

まさかルドルフさんが乱入してくるとは思わなかった。さっきまで気配はなかった。それなのに意識した瞬間に、意識を切れなくなってしまった。

 

「先を行かせてもらう。」

 

コーナーを抜けてストレート、ルドルフさんが私を軽くパスするとシリウスさんの後ろに付く。

 

「動揺しているのか?君らしくないな、シリウス。」

 

「ッ! いつの間に!」

 

左右の揺さぶりであっという間に並んでしまう。後ろから見ていて、その動きに一切の無駄が無く洗練されたものだと一瞬で感じ取れた。

 

「上等だ、その鼻っ柱へし折ってやるよ!」

 

シリウスさんが加速していく。それに呼応するようにルドルフさんもさらに加速する。コーナーに入っても、その勢いが収まるどころかさらに増していっている。

 

何とか食い付いてるけど、限界目一杯で走ってやっとだ。ここからさらにギアを上げていかないといけないのか。

 

ジャパンカップまで温存しておきたかったけど…シミュレーションも兼ねて、1回だけ使ってみるか。

 

さらに上の領域、6速を、コーナー立ち上がった直線で使ってやる!

 

「中々だ…だがここまでだ、ハァッ!!」

 

「チッ、まだ届かねぇか!」

 

ガリッ

 

「お前もここで来るか!」

 

「お先です!」

 

強引に距離を詰める。この状況で6速がどれほど伸びるか分からない。ここで追い付くためには…

 

 ピシッ ビキッ

 

限界を…超えるんだ!

 

「ならば付いてくるんだ、トレノ。君の目指すものの正体を、私が示そう!」

 

4コーナーに入った瞬間、ルドルフさんを纏う空気が変わった。その周りだけ景色が歪んで見えるほどのオーラだ。

 

タマモクロスさんとレースした時にも同じようなものを後ろから感じた。

 

これが領域か…。

 

気圧されてる場合じゃない、何が何でも食らいつく!

 

  ビギッ ビギャリ

 

「今…超えるんだぁァ!」

 

パリイィィッ グオォン

 

 

 

…成りやがった、この土壇場で、遂に領域に到達しやがった。

 

あれが、トレノの領域なのか。コーナーの随所で急に離される。まるで点と点を瞬間移動してるみたいに消えやがる。

 

春天でも同じような事をしてたが、あれとは根本的に何かが違う。まるで、今までが本来の走りじゃなかったみたいに、職人度合いが格段に上がりやがった。

 

「1本目の影響か…ここまでか。」

 

既にアイツらに付いて行けるだけの余力は残ってねぇ。こればっかりは私の負けか。

 

 

4コーナー立ち上がって、既に1バ身程まで縮まっている。国士無双、やはり本気を出した時のコーナーリングは私…ひいては学園イチだろうな。

 

だが直線の伸びは私に分がある。直線に入ってから君の走法は2回切り替わる。それが既に1回。あと1回切り替わった時、そこからの伸びは鈍くなる。

 

…2回目、これでもうすぐ頭位置になってしまう。これで最高速が伴っていたら、一体どうなっていたことか。

 

だが、領域の覚醒、勝負勘、ラフプレイへの対応を見るにジャパンカップへの対策は十全とみた。

 

期待しているよ、トレノ。世界の強豪が集うジャパンカップを、その走りで勝ってきてく

 

「逃がさ…ない!」

 

「何ッ!?」

 

なぜそこにいる?既に頭打ちになっていたはず。咄咄怪事とは正にこの事だろう。

 

まさか、領域とは別の奥の手を隠し持っていたのか!

 

ゴールは目前、差し切らせるものか!いくら模擬とは言え、勝利までは譲りはしない!

 

「ハアアアァァァ!!」

 

「ゴール!」

 

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