頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百二十二話 特別出走枠

地下バ道でみんなとトレノちゃんを待つ。すると先にオベイちゃんが来た。

 

「や、オベイちゃん。」

 

「いやー、ユーの担当は速いね。全身全霊で行ったんだけど駄目だったよ。裏をかくためにユーの走りを参考にしたんだけどね。」

 

「それは驚いたけどね。“ほとんど”完璧だったし、私をエミュるとは考えもしなかったから。」

 

「ほとんどかぁ。やっぱりユーの言った通り、こんなものじゃなかったって所なのかな。差し支えなければ、ご教授いただけないかな?」

 

「そうだなぁ…2つかな。まず1つは熱くなり過ぎたこと。」

 

「熱く?ユーの走りは熱い闘争心マックスな全開走行がウリだと思ったんだけどね。」

 

「まぁ、私本来の走り方は…ね。オベイちゃんさ、1コーナーでシーフクローちゃんをスタミナ切れさせようとしてたでしょ。

 

私がバトルで大事だと思ってるのは闘争心むき出しの走りの中に周りの状況を自在にコントロールできる冷静沈着さ。

 

オベイちゃんは最後のロングストレートで後者が少しだけ欠けてしまった。これが1つ目。」

 

キタちゃんやダイヤちゃん、ロータリーちゃんも聞いているけど、これは共有すべきことだと思うから躊躇わずに私は思ったことを率直に言う。

 

「成程ね、その通りだよ。それで、もう1つっていうのは何だい?」

 

「もう1つ…はっきり言ってこれが決定的かな。オベイちゃんは仮想敵を間違えている。

 

オベイちゃんが誰かを真似るなら相応の仮想敵が必要になる。レースが始まる前、トレノちゃんと話してたでしょ。

 

ロータリーちゃんだと思ってたから考えもしなかったけど、私だというなら話がべ…。」

 

ここまで言うとオベイちゃんが手で制止する。

 

「間違えてはいないはずだけどね。ミーが仮想敵にしたのはエイトシックス…つまり“86”だ。」

 

「まぁ、普通はそうなる。夏向君も越えるべき存在として見てるからね。だけど、私が本当に見てるのは“ハチロク”であって“86”じゃない。」

 

「…成程、どうやら本当に情報不足だったようだ。最初からユーたちに負けていたんだね。」

 

「いや、目の付け所は本当に良かったよ。…私からこんなこと言うのは何だけど、いいレースだったよ。」

 

「こっちこそ、いいレースだったよ。今度は笑顔でゴールできるといいな。」

 

そう言って控室に帰っていく。情報不足か。それはこっちも一緒だよ。結果的にはトレノちゃんの瞬発力だよりになった訳だからね。

 

「それにしても、シーフクローが上がって来たのには流石に驚いたな。…スゲェな、レジェンドと呼ばれたウマ娘ってのは。」

 

「確実に限界を超えてるのになぜあんな走りができるのか…私には理解できません。」

 

「あたしたちがあそこまで行くのにどれだけかかるんだろう…。」

 

「担当じゃないからとやかくは言わないけど、上を目指すならあれくらいは出来るようにならないといけないよ。

 

分かってるとは思うけど、限界が近づいてからの引き出しはあればあるだけ強い。

 

…あ、来た来た。おーい、トレノちゃーん!」

 

 

 

「めっっっっちゃくちゃ疲れました…シーフクローさんが上がってきた時なんかどうなるかと思いましたよ。」

 

「あぁ、うん。あれはこっちも想定外だった。あれ怖すぎでしょ。…何はともあれ、おめでとう!」

 

「やったな、トレノ。正直な所、お前にはキツイ条件ばかりだったからな。負けても仕方ないとも思ってたんだがな。」

 

「本当にすごかったです!あのメンバーの中で勝っちゃうんですから!」

 

「トレノさんにはジンクスは関係ないんですね!」

 

「私も勝てるビジョンが見えなかったんだけど、負けたくないって気持ちが勝って最後の最後に限界まで出したって感じだったよ。」

 

「本当に、おめでとう。これからの事とか今から話したいのはやまやまだけど、今はゆっくり休んでライブに備えてもらおうかな。

 

それじゃ、楽しみにしてるよ!」

 

 

 

 

 

「あぁ、熱いわね…。」

 

「あれから3日ですよ。まだ余韻に浸ってるんですか?」

 

「彼女からは、とても熱くて、人を強引に引き寄せてしまう魅力があるわ。特にあのハネ…あなたも見たでしょう?」

 

「今までのレースでオーラを強く感じることはあっても、あれほどはっきりと形になって表れたのは初めてでした。」

 

「妬いちゃうわ…刻み付けるつもりが、刻み付けられてしまった…。次トレノと走るのが楽しみね。」

 

「もうですか。…私も、人の事は言えないかな。」

 

 

 

「やぁフォークイン!もうニッポン観光はいいのかい?」

 

「私はレースをしに来たの。それに観光はレース前にあらかた終わらせたわ。」

 

「真面目だね。ま、人にこう言っておいて、ミーももう少しで帰国だけどね。」

 

「そう。アナタ、トレノがあそこまで走るのは想像できた?」

 

「ある程度は予想してたんだけどね。あれだけ走られると予想外としか言いようが無いね。

 

レース映像でピッチ走法には上限みたいなものがあるのは分かってるとは思うんだけど、トレノはそれを明らかに超えていた。

 

宝塚から成長したにしても、異常な成長速度だ。」

 

「考えられるとしたら、最初から使えたけど、先の事を考えて封印していたんでしょうね。まんまとしてやられたわね。

 

次は勝つわ。負けっぱなしじゃいられないわ。」

 

「そうだね、ミーもリベンジがしたいし、純粋にニッポンで走りたいね。だって、ここの芝は香ばしいからね。」

 

 

 

 

 

「さて、早速なんだけど、次のレースはどうする…と言っても、ほとんど決まってるようなものか。」

 

「そうですね。次の目標は、有馬記念です。」

 

「だよね。そう言うと思ってメニューはもう作ってあるよ。有馬には多分ロータリーちゃんも出る。

 

宝塚のリベンジと行こうか、それじゃ早速…。」

 

「大変です渋川さん、トレノさん!渋川さん!」

 

トレーナー室でミーティングをしているとたづなさんが勢い良く入ってくる。よほど急いでいたのか肩で息をしている。

 

そして渋川さんは音の速さで机の下に隠れた。

 

「どうしたんですか、たづなさん。様子から見ると結構な大事みたいですけど。」

 

「実は、理事長が先ほど…。」

 

(提案ッ!今年のウィンタードリームトロフィーに特別出走枠を設けようと思う!)

 

(特別出走枠ですか?)

 

(うむッ!そこで、推薦ッ!先日ジャパンカップで見事な勝利を収めたトレノスプリンターはどうか!?)

 

(本人さえ良ければいいのかも知れませんが、トレノさん達は順当に行けば有馬記念を考えるはずです。)

 

(実はイエローロータリーには既にこの件を話して了承を得たぞ!)

 

(聞いてませんよそんな話!そもそも、もう提案じゃ無くなってますよ!?)

 

(ちなみに枠は2つ設けようと考えているぞ!)

 

(ほぼ決定事項じゃないですか~~!)

 

「…という訳でして……どうでしょう?」

 

「私は…出てみたいと思います。私の実力が、どこまで通用するのか試してみたいです。それに、ロータリーさんが出走するなら、私も出ないとリベンジ出来ませんし。」

 

「けどドリームトロフィーに出るならジャパンカップと同じくらいのパフォーマンスを要求されるよ。それでもいいかな?」

 

「はい、望むところです。ここでいい結果を残せないようじゃ、先には進めないと思うので。」

 

私の答えを聞いたところで渋川さんが恐る恐る机から顔を出す。そして椅子にゆっくりと腰掛ける。

 

「じゃあ決まりだね!たづなさん、そういう訳なのでお願いします。」

 

「かしこまりました!理事長にもそのように伝えますね。…それと、そこまで怖がられると傷つきます…。」

 

「本人見た瞬間に隠れるのはちょっと可哀そうですよ。」

 

「ふぐぅ、そこは反省しております…。」

 

 

 

「…本当に良かったの、トレノちゃん。」

 

たづなさんが部屋を出てから確認するようにトレノちゃんに聞く。

 

「体の負担が大きいことは分かってます。でも、今の私がどれだけやれるのか、知りたいんです。」

 

「そっか。それじゃトレーニングに移る前に1つだけ…高回転ゾーンは封印するよ。」

 

「確かに負担は大きいですけど、使わなかったら、ジャパンカップで差し切られてました。それでも封印する理由は何ですか?」

 

「負担が大きいのはそうだけど、トレノちゃんのエンジンがどこまで回るかが全く分からないからだね。

 

元々がレース用の高回転型ユニットなだけに、その詳細が出回ることは基本無いから藤原さんが教えてくれた11000をベースにしているだけなんだよ。

 

13000だってほとんど賭けな訳だし、これからの事を考えるとそこまで回すことは許可できない。」

 

「だからと言って回さないのはもっとあり得ません。今から出来る事は限られてます…どうしますか?」

 

「トレノちゃんにとっては簡単じゃないかな。パワーバンドを中回転域でのトルクを太らせて、フラットな出力特性にする。

 

そして上限を10000にする。」

 

この先もレースを出ることを考えると、エンジンに負担を掛けることはあまりしたくない。パワーと寿命を考えるとこの案が妥当だと思う。

 

「でもそうなると、最高速は同じくらいになっても、回してもパワーが出る訳じゃなくなりますよね。」

 

「まぁそうだね。でもやってることはいつもと同じ。高回転ゾーンはあくまで最後の切り札だからね。13000だってジャパンカップで初めて使ったくらいだし、考え方はあんまり変わらないと思うよ。」

 

「確かに、それもそうですね。トレーニングの期間もあまり変わらないですし、早速行きましょうか。」

 

「オッケー、獲るよ、ウィンタードリームトロフィー!」

 

 

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