頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百二十七話 THE TOP

『パドックから30分程しか経っていませんが私には何時間と感じます。ですがもう少しの辛抱です!

 

バ場入場は既に終了、間もなくゲートインです!』

 

「へー、これがMFGのドローンかぁ。結構静かだししっかり付いてくるんだね。後で1台貰えないかな?」

 

「テイオー、これはおもちゃじゃありませんのよ?それにこれほどの機械を簡単にいただけるとも思えませんわ。」

 

「こいつをぶっちぎったらカッケーんだろーなー!」

 

ウオッカさん、無理なこと言わないで下さい。

 

「あんた何言ってんのよ…。ドローンなんて簡単に撒ける訳無いでしょ…。」

 

「んだよ、やってみねぇと分かんねぇだろ!?」

 

「ウオッカさん、絶対に無理です。あれの最高時速は180キロもあるんですよ。神フィフティーンがちぎれないんですから私達じゃまず無理ですよ。」

 

「そんな夢の無いこと言うなよぉ~!」

 

いや流石に無理ですよ…。このドローンは映像を届ける前提で作ってるんですから…。

 

「皆さーん、ゲートインの時間です!」

 

そうこうしていたらもうゲートインの時間になってしまった。…いや、やっとというべきかな。

 

ファンファーレが鳴り、浮ついた気持ちが消えて心も体も引き締める。一筋縄じゃ行かないことはもう当たり前だ。作戦だって通じないだろうな。

 

でも、勝つって決めたんだ。勝ちたいんじゃない、勝つ。自分の中で断定するんだ。

 

『次々とゲートインが完了していきます。最後に大外18番エアグルーヴがゲートイン…完了しました!』

 

「トレノぉ!決着だぁ!」

 

「私が勝ちます!!」

 

ロータリーさんの叫びにそのまま返す。準備は万全だ…いつでも来い!

 

ガコン!!

 

 

『スタートしました、好スタートですサイレンススズカ、ハナを取って先頭に出ます。その後ろがイエローロータリー、ダイワスカーレット。1バ身空いて縦長の隊列のアタマは4番ビワハヤヒデ、ナリタブライアンが並んでいる。後ろにフジキセキ、メジロマックイーン、テイエムオペラオー、アグネスタキオン、トウカイテイオー並んでエアグルーヴ。さらにその後ろがスペシャルウィークにオグリキャップ、ウオッカ。2バ身離れてタマモクロス、エアシャカール、トレノスプリンター、最後尾にシンボリルドルフという並び。

 

隊列の長さは約10バ身程か。シンボリルドルフが最後尾でのスタートとなりましたがどう出るつもりなのか。』

 

「ルドルフ会長が追込の位置…。脚質は先行か差しのはずだけど、やっぱり作戦なのかな。後ろから様子を見るにしても、差しの位置でも十分な気がするけど。」

 

「私には分からないよ。トレノさんを意識するにしてもキタちゃんの言う通り差しの位置でいいはず。」

 

「ふっふー、ミーなら分かるよ。ルドルフが何を考えてるのか。」

 

ルドルフ会長のレース展開に困惑しているとオベイさんが自信ありげな顔で言う。

 

「何ですかオベイさん、教えて下さい!」

 

「隠す意味も無いからね、がっつかなくてもちゃんと教えるよ。まぁ簡単に言えば、後方からのぶち抜きを狙ってるはずだね。」

 

後方からの追い抜きと言われてもアタシとダイヤちゃんは頭にハテナを浮かべてしまう。

 

「おっと、それ位なら私達でも分かるって顔をしてるね。確かにそれ位なら簡単に予想が付く。でもわざわざそうするのは理由がある。トレノを真正面から迎え撃つためだね。

 

仮に同じ脚質、タイミングで仕掛けたなら追い抜いた方がより優れているという事になる。当然だ、追い抜いているんだからね。

 

ルドルフはあえてそれを狙っているんだよ。後ろからの追い抜きは、ボクシングで言えばKO勝ちだからね。…でも。」

 

「でも?」

 

ダイヤちゃんが聞き返すと、フォークインさんがオベイさんの続きを話し始める。

 

「あれほどのウマ娘がそれだけを考えてるとは思えない。トレノが動き出すのが早仕掛けで800メートルだとしてもその辺りで抜いたら抜き返されることも十分に考えられる。」

 

「きっと、それも考えています。多分、先のことまで考えています。私たちはまだ、作戦の一部しか見ていない。」

 

 

意外だった、ルドルフさんが私の後ろに位置取るとは思わなかった。とは言え、作戦を変えるのは少しリスキーかもしれない。だからこのまま行く。

 

『各バ1コーナーに入っていきます。サイレンススズカ快調に飛ばします。2番手イエローロータリーと2バ身差。

 

ナリタブライアン、ビワハヤヒデとポジションを入れ替えそのままダイワスカーレットに迫る。後方に目立った動きはありません。』

 

あれは相当暴れる感じなのかな。つられてペースが上がることを考慮しないといけない。となれば仕掛け始めは800メートルでいいはず。

 

ペース配分を考えれば2コーナー立ち上がりでオグリさんに並んでいるくらいが理想だけど、ウオッカさんくらいでも及第点のはず。

 

私から見てタマモさん、シャカールさんが内、ルドルフさんが外にいる。仕掛けてくる気配はまだ無い。

 

『先頭が2コーナーに入ります。ナリタブライアンがイエローロータリーに追い付きます。後方はスペシャルウィークが1つ順位を上げている。』

 

1600のハロン棒を横切るタイミング……ここからだ!

 

「そう来ると思ったよ。」

 

!??

 

 

『後ろでシンボリルドルフが順位を上げる。そのままトレノスプリンターを外…いや内から抜いて行きます!予想とは裏腹に、あっさりと抜いて行ってしまった!』

 

「嘘だろ…トレノちゃんがこうもあっけなく抜かれるなんて…。」

 

あそこまで簡単に抜かれるとは想像もしてなかったからか、全身の力が抜けそうになってしまう。全てが筒抜けだったという事か。しかしあのテクニック…。

 

「上手いモンだな。消えるラインをああも簡単に使いこなすとはな。」

 

「ええ、皐月賞でトレノちゃんが偶然やったものとは違う、確信犯的に使ってきました。流石皇帝といった所ですね。」

 

「躊躇いの無さから見て仕掛け所から何まで全て見透かされていた訳だ。」

 

「エンペラーの須藤といい渋川といい、しかも啓介さんも感心してる場合ですか!プロジェクトDのダウンヒルエースがこんなに簡単に抜かれてるんすよ!焦りとか無いんですか!?」

 

「この程度で騒ぐなケンタ、バトルは始まったばかりだ。それにトレノの前に立ったって事は藤原の前に立ったのと同じだ。ルドルフって奴ももう一筋縄じゃいかなくなった。

 

背後霊みたいに付いてくる藤原の本領は…ここからだ。」

 

 

あんなに簡単に行かれるとは思わなかった。だけど追い詰められたって感じじゃない。幸か不幸か、ルドルフさんに抜かれたのはこれが初めてじゃない。

 

シリウスさんとのトレーニングで同じくらい簡単に抜かれた。そしてあの時と違うのはこれが本物のレースだという事。

 

抜くために、速くなるテクニックを惜しみなく使うはずだ。見ろ、吸収しろ。出来る事は何でもやるんだ!

 

 

後ろの方で何かあったみたいだな…何があった?チラリと目をやるとトレノの前にルドルフさんがいる。そういうことか…。

 

「おい、後ろを見ているヒマがあるのか?」

 

「…ある訳ねぇよな!」

 

追込の連中は心配せずとも上がってくる。今は横まで上がって来てるブライアンさんをどうにか抑えないことには、何も始まらないよな!

 

「そんなものじゃないだろう、お前の本気は!手を抜いてるとぶち抜くぞ!」

 

嫌味だぜ、ブライアンさん。レースはまだ中盤なんだ。ここでスパート掛けられないだろうが。

 

『先頭変わらずサイレンススズカ、バ群を引き連れ2コーナーをクリア、間もなく1000メートルを通過します。イエローロータリーとナリタブライアンが競り合います。後ろを見るとシンボリルドルフとトレノスプリンターが徐々にペースを上げていきます。全体的にペースが上がっているか、縦長の隊列が少し小さくなったように見えます。』

 

それが分かってるのかペースを上げればいくらでも抜き放題なストレートに入っても抜きに来る気配はない。となると目的は別にあるって事か。

 

どんな目的か知らねぇが、真正面から来られたら戦わねぇ訳にはいかねぇよな!

 

 

『シンボリルドルフ、トレノスプリンターの前に出てから徐々にペースを上げています。現在10番手、トウカイテイオーと競り合っています。トレノスプリンターはそれを後ろから見る形となります。しかしロングスパートであるならまだ上がってくるのかも知れません。』

 

「成程、こういう展開になったか。」

 

「どうなんだ涼介、予想してた展開と同じなのか?」

 

「大体はな。だが少し予想外…というより面白いことが起こってるんだ。」

 

「面白い事?」

 

涼介が面白いというなんてよほどの事か?顔を見ると少し口角が上がっているようにも見える。

 

「ああ、全体で見て4名。前からビワハヤヒデ、アグネスタキオン、シンボリルドルフ、エアシャカールから、群馬プライドに近いものを感じるんだ。

 

啓介や須藤、見ているなら藤原も気が付いているだろう。シンボリルドルフが我流、他3人はトレノをベースに自分に組み込んでいる。思った以上に完成度が高かったので、少しばかり面食らったがな。」

 

「するとどうなるんだ、このバトルは。」

 

「最初から苦戦自体は予想出来てたけど、勝ち筋が少なくなった。だが勝てない訳じゃない。出走者全員がテクニックに長けていたとしても…プロジェクトDのダブルエースは、全て跳ね除けてきた。

 

勝てないバトルなんてものは存在しない。チラチラと見え隠れしている、針の穴のような突破口を付けるか、見させてもらおう!」

 

 

タキオン…お前なら分かったと思うが、渋川に見せて貰ったあの光景を再現するってのは骨が折れるなんてもンじゃねぇぞ。

 

コーナーで加速しようとした時、体が強張った。トレーニングですら出来なかったことが、本番になって出来るなんてことは稀だわな。

 

トレノ、ロータリー。お前らはこの技術を完璧にモノにしている。だがよ、これがどれだけ異常な事か、お前ら分かってンのか?

 

コーナーで限界まで加速するってのが、バカげてるくらいイカれた離れ業だって事をよ!

 

 

分かっているともシャカール君。これを可能にしているトレノ君、ロータリー君は凄まじいまでの走り込みをしているからこそなんだろう。恐らく会長もその類だ。

 

だがハヤヒデ君、君だけはどうにも解せない。トレノ君を研究しているのは君も同じだとは思っていたが、それはあくまでトレノ君に勝つための勝利への方程式を組み立てるためのはずだ。

 

理解を深めるにつれ、群馬プライドが自身にフィードバックされたのか?それなら少しは納得いくが、解せないのはその荒々しい闘争心だ。

 

君らしくもない、知性のかけらもないその走りはまるでブライアン君そのものだ。一体何が君をそうさせた?

 

 

『向正面の直線半ば、テイエムオペラオーを躱しシンボリルドルフがトレノスプリンターを引き連れながらバ群中央まで上がってきました。隊列はさらに小さくなり混戦状態となっています。』

 

3コーナーはすぐそこまで来てる。あそこでルドルフさんの前に出ないと絶対にチャンスはない。でもどうやって抜く?

 

まともな方法は通用しない。脚を使って強引にインを狙いに行くか、アウトからかぶせに行くか…。どっちをやるにしても時間が無い。

 

…そうだ、このバ群を利用すればいいんだ。オペラオーさんの前の2人、マックイーンさんとフジキセキさんの間に位置どる。

 

進路をふさがれてそのまま出られない可能性もあるけど、上手くいけばインを絞めることが出来るし、ルドルフさんの視線を外せる。

 

だけど、あの2人だって簡単にポジションを譲ってくれるとは思えない。私が動いた瞬間に塞ぐように動いてくるか

 

「ここはここで、私にとって絶好のポジションなんだ。簡単には入れさせないよ、ポニーちゃん!」

 

「覇王に挑むからには、相応の覚悟をしてもらうよ!」

 

「やっば…!」

 

感づかれた!もう猶予もない、脚を一気に使って一瞬で飛び込むしかない!

 

「今だ!」

 

フッ

 

「「!??」」

 

 

「…マジかよ、トレノが瞬間移動しやがった。あんなの見たことねぇぞ。」

 

「ただ単純に横っ飛びしただけ…て訳じゃなさそうだね。マルゼン、分かる?」

 

「荷重移動の類ね。サイドステップで左回りだから、右足を軸に飛ぶところを左足を軸に、斜め左に飛ぶ。そうすれば右側にかかる荷重も全て左側に移せる。その慣性も合わせれば、ああいうことも出来るかもしれないけど、超が付くほどの高等テクニックよ。」

 

「フジキセキもオペラオーもあれには対応できないか。…いいぞトレノ、皇帝サマを出し抜いてやれ。」

 

 

『トレノスプリンターがバ群内側に位置どります。』

 

「実はな史浩。お前にも啓介にも言ってなかったけど、MFGドローンを貸し出すにあたって、オレの方で少し細工させてもらったんだ。」

 

「細工?どんな?」

 

「あの追い抜きが出たからには、すぐに分かるはずだ。」

 

『な、なんと!これは…どうなっているんでしょう!注目フラグが、トレノスプリンターに注目フラグが出ました!』

 

 

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