頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第百二十九話 ダブルエース

『シンボリルドルフここで来た!注目フラグを立てながらトレノスプリンターに襲い掛かります!』

 

来るであろうことは分かってたけど…この圧は予想以上過ぎる!嫌でも意識を持っていかれる。…マズい、仕掛けてくる!

 

「本意ではないが、前に出るにはこうするしかないだろうな!」

 

『3人がもつれたまま第4コーナーに入ります!注目フラグは未だ立ちっぱなし!コーナーでまだ波乱が待っていそうです!』

 

ポスン

 

4コーナーに入る瞬間、擬音で表すならこの3文字で表すのが妥当なくらいな力で押される。

 

「クッ!」

 

たったそれだけでラインを外してしまう。予想外の攻撃という訳じゃなかったけど、まさかここまで簡単に抜かれるなんて!

 

 

『シンボリルドルフ、オーバーテイク!トレノスプリンターをインから抜き去りました!残るはイエローロータリー!皇帝はこのレースでも絶対を見せるのか!?』

 

あそこまで簡単にインを開けさせるとは…会場の喧騒で気づくのが遅れたけど、池谷さん達がスマホを見ながら不服そうな顔をする。

 

「あのルドルフって奴、わざとぶつからなかったか!?」

 

「ありゃどうなんだ?ドローンが審議フラグを出さないって事は、何も問題ないって事でいいのか?」

 

「残念ですけど、私としても問題は無いです。スピン…転ぶするほど強くは押してないですし、何よりあれくらい私たちの世界じゃ日常茶飯事です。

 

仮にこれで審議フラグが出るようならミハイルはとっくの昔に審議フラグまみれになってますよ。」

 

「た、確かにな…。だけどこうなったらトレノちゃんはここからどうやって巻き返すんだよ!ストレートじゃ、ハチロクのエンジンじゃどうにもならないだろ!」

 

…確かにストレートに不利な材料を抱えたまま突入することになってしまう。

 

「大丈夫です。まだ策が尽きた訳じゃありません。私は…俺は、トレノちゃんを信じます。」

 

「…そうだな。プロジェクトD時代の時のように、オレ達はトレノちゃんを信じるんだ!絶対勝ってくれるって、信じて見届けるんだ!」

 

「勝ってくれよぉ、トレノちゃーん!」

 

とはいえ、アレが通用するなんて確証はどこにもない。色々な面を考えて使用を禁止していたからどれほどのポテンシャルを秘めているのか、全く分からない。

 

全くダメでした、なんてこともあり得るかもしれない。

 

「その策っていうのは。アレの事だろ、渋川。」

 

不安に駆られていると高橋さんが口を開く。目を見ると俺の考えを見透かしているようだった。

 

「安心しろ。アレを使えば勝負が分からなくなるほどだっていう保証はする。あのエンジンは、そういうエンジンだからな。」

 

 

トレノが抜かれたか。流石というか、皇帝の名はやっぱ伊達じゃねぇな。こうしてルドルフさんと本気でレースするのはよく考えたらこれが初めてだ。

 

さぁ、どこからでも来いよ。小細工はしない。真正面から受けて立ってやる!

 

『シンボリルドルフ勢いそのままにイエローロータリーにも襲い掛かる!』

 

「そこだ!」

 

「あめぇんだよ!」

 

外から仕掛けられるが体を外に振って追い抜きを防ぐ。インががら空きにならないようにぶれたラインを一瞬で修正する。

 

『イエローロータリー追い抜きを許しません!トレノスプリンター追いすがるがその後ろにはビワハヤヒデ、トウカイテイオー、更にはスペシャルウィークにオグリキャップが追い上げてきている!』

 

もうすぐ4コーナーも終わる。トレノがこのまま終わるとは思えないが、直線での伸びはジャパンカップで見せて貰った。残念だが俺たちに付いてくることは出来ないだろう。

 

もし付いて来られたとしてもこっちにも十分な脚がある。最終直線でルドルフさん共々、ぶっちぎってやる。

 

 

「ダブルエースの代理戦争は啓介に軍配が上がったと見てもいいかもな。条件がサーキットに似ているとやっぱりFDの方が強いか。」

 

「いや、事はそう簡単じゃなさそうだぞ。」

 

涼介がオレの言葉を否定する。コーナーはもうすぐ終わる。それまでに前に出られなければトレノちゃんの勝機は無さそうだけどな。

 

「オレから見て、イエローロータリーの馬力をクルマに換算すればおよそ神奈川最終戦のFDに匹敵するだろう。他のウマ娘もそれと同等か、20馬力下くらいだろう。

 

だがトレノスプリンターは、今現在のマックス出力は230馬力程度といった所だ。」

 

「じゃあやっぱり…。」

 

「結論を急ぐな史浩。お前もあのハチロクに乗ってたエンジンがどんなものか知ってるだろ。」

 

「ああ、グループAの4A-G 5バルブヘッドの超高回転型ユニットだ。今考えてもとんでもないエンジンだったよ。」

 

「あのエンジンの真骨頂は11000オーバーの回転域で、240馬力を絞り出す。だがあの時は、ストリート用にデチューンされていたからな。あの時ですら、エンジン本来のポテンシャルを発揮できなかったんだ。

 

だが、サーキットに似た条件のトゥインクルシリーズなら、そんな縛りは必要ない。峠では扱いきれないエンジン性能を、余すことなく使えるはずだ!」

 

「もし使ったとして…どれくらい馬力が出るんだ?」

 

「本人の感覚の切り替えもあるから一概には言えないけど…280馬力は確実に超えてくるはずだ!」

 

「280…。ハチロクの軽さを考えれば対抗できるのかもしれないな。」

 

「ああ、だがもちろんリスクもある。最終戦で藤原がやってしまった様な事があれば…。」

 

 

4コーナーもそろそろ終わる。後ろからもどんどんと迫って来てる…追い込まれた!

 

勝つためには手段を選んでいられない…もう1回、ぶち抜く!

 

『シンボリルドルフがイエローロータリーに並びかけます!最終直線は目前だ!このままもつれて末脚勝負となるか!』

 

超高回転ゾーンの連続使用…それに今回は前回よりも時間が長くなる…。こらえてよ…私のエンジン!

 

ギアを4速から3速に落とす。回転数が11000を超える。まだ上限は2000もある。もっと回していけぇ!

 

「何だと…!?」

 

「トレノさん、どうやって加速してるんですか!?」

 

『トレノスプリンター食い下がります!1バ身の差を徐々に縮めながら各バ最終直線に差し掛かります!』

 

ダメだ、まだ足りない!最高底を稼ぐなら、もっと体制を低くして空気抵抗を下げないと!そんなこと1回もやったこと無いけど、可能性があるなら何でもやってやる!

 

アタマを限界まで下げて体勢を低くする。更に顔を地面に向けて睨むようにロータリーさんとルドルフさんを見る。

 

「絶対に…捉える!」

 

 

『シンボリルドルフ、イエローロータリーが並んで最終直線に入りますその後ろにはトレノスプリンター!後続もジリジリと迫りますが果たして間に合うのか!?』

 

ここまで来ちまったら小細工も何もねぇ。純粋な末脚勝負になる。追込勢の末脚が少しばかり怖い所だがここまできて差し切らせるようなことは無いと思うし、あってもさせない。

 

後ろを見て、2バ身以内には誰もいないことを確認する……。

 

「アイツ、どこ行きやがった!?」

 

意図せずそう言った瞬間に外からほんの少し接触した感触が伝わる。嘘だろ…お前が伸びてくるとは全くの想定外だ!

 

『外からトレノスプリンターが、上がってきた!完全に予想外です!ジャパンカップで追いかけられる立場だった彼女が今、追いかける側に付きました!』

 

姿勢を低くしてるせいで全くこっちを見てやがらねぇ。思いっきり幅寄せしやがるから息苦しくなりやがる。内にいるルドルフさんも相当なもんだろうな。

 

「負けられねぇんだよ!」

 

「右に同じだ!」

 

「脚はまだ残ってる…末脚の加速なら負けない!」

 

 

成程…あの体制の低さならトレノちゃんの課題だった最高速度をある程度クリアできる。それに加速性能が付いてくれば、ロータリーちゃんやルドルフちゃんにも対抗できる…いや。

 

『夢を見ているようです!トレノスプリンターが直線で他のウマ娘と同等に張り合うところは今まで見たことがありません!』

 

多分、段々と前に出ていける。それに無意識なのか、風にあおられてる耳を強引に畳んだ。最高速度を稼ぐためのギリギリのアクション…瞬時にああいうことが出来る所がやっぱり天才としか言いようが無い。

 

だけど、視界は極端に悪くなる。聴覚もあまり機能しなくなる。とんでもないことにならないといいけど…

 

 

『まさに頂上決戦!雷鳴を轟かせながら駆けるシンボリルドルフ!灼熱の炎を纏い疾走するイエローロータリー!そして空を舞えるほどのツバサをはためかせるトレノスプリンター!私にはそう見えるほどのオーラを彼女たちは纏っている!

 

後続も追いすがりますがもう既に間に合いそうにありません!この3人による優勝争いが確実でしょう!

 

残りは300メートル!この3人の誰が先にゴール板を通過するのか!』

 

下向いてるせいで前がほとんど見えない…耳も畳んだおかげで周りの音が聞こえずらい…。だけどロータリーさんとルドルフさんの位置は気配だけで分かる!まだ横一線、絶対に前に出る!

 

『3人は未だ横並び!半歩としても譲りません!しかしどうしてか、ドローンの順位はトレノスプリンターが先頭になっています!トレノスプリンターが直線で前に出ている!体制を低くしたおかげで最高底を稼げているのか!?だがまだ直線は続きます、残り200!』

 

マジかよ、伸びてくるのですら想定外なのにここまで粘るかよ!…嫌でも熱くなるじゃねぇか!息が止まるほどの、体中の血液が全て沸騰するような、こういう走りこそ、こういうバトルをしてこそ俺たちだよなァ!!

 

「そのまま先頭を取れるなんて思うんじゃねぇ!絶対逃がさねぇぞ!」

 

『150メートル程まで来てハナ差ではありますがトレノスプリンターが抜け出ています!だがここまで来たら頭打ちになってしまいそうです!いくら稼いだとしても最高速では2人に敵わないでしょう!しかしここまで怒涛の追い上げです!

 

この僅かなリードを守り切れるか!?残り100メートル!』

 

難攻不落!これほどの相手に出会えたこと、とても嬉しいぞ!私の主観だがシービーにシリウスやマルゼンスキー、そしてラモーヌすらも越えてしまっているのかもしれない…走りの才能は私をとうに超えている。

 

世代交代を認めざるを得ないのも事実だ。だが、認めたくない私もいる。だからこそ、皇帝としての走りを君たちに見せる!

 

「「「ハアアアァァァァァァァァァァァ!!!」」」

 

『ハナ差のまま変わりません、残りは僅か!トゥインクルシリーズのダブルエースが皇帝を下すのか!それとも皇帝がその意地を見せつけ、変わらない絶対を示すか!ラスト…』

 

…50メートル!

 

そのタイミングで顔を上げる。耳も立て、視界が、聴覚が元に戻る。そして気付いてしまう…。

 

「…あ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレノが血を吐く。

 

同タイミングで体全体の動きが止まり着いた足を軸に空へ放り出される。

 

それを視界に入れたシンボリルドルフとイエローロータリーは反射的にブレーキをかけスピードを落とす。後続にもその流れが伝播する。

 

この場の全員が1秒が1分にも感じられるくらいスローモーションになった空間で、不思議にもロータリーとトレノの目が合う。

 

その目は生気を失って、まるで死人のような目をしていた…。そして同時にその目に光が宿るのも目撃した。ほんの少しの角度の違いか、ルドルフにはこれを見ることが出来なかった。

 

そしてロータリーは加速する。誰よりも早く…ゴール版へ向かって手を伸ばし始めているトレノよりも早くゴールするために。

 

「「とどけぇえええええぇぇぇぇッ!!」」

 

渋川とトレノの叫びが同時に起こる。ルドルフもロータリーにコンマ2秒遅れたのち加速する。しかしこの差が勝敗を分けてしまっていた。

 

空中で手を伸ばしゴール版へ吹き飛んでいくトレノ。既に追い抜こうとしているロータリー。2人がゴール板を通過するのに、もはや1秒と掛からなかった。

 

『ご、ゴー――ル!…ですが、どう判断すればいいんでしょう…。トレノに故障が発生して、それでもなおゴールしましたが…どんな判定になるのでしょうか…。』

 

事実、掲示板には番号は表示されず、審議のみが点滅していた。

 

「ゲフッ、グホッ…ゲッホ!」

 

強引に着地したトレノは溜まっていた値を吐き出すように咳き込む。ターフを、勝負服を赤く染める。

 

「おい、お前はどう見えた。」

 

ロータリーがトレノに問う。当たり前のようではあるが、ロータリーにも正確な所が分からないのだろう。

 

「さぁ…私に聞かれても分からないですよ。故意じゃないとはいえ、そもそも飛んでたんですから。」

 

「後ろから見ていた私にも正直どちらか分からなかった。同着と見てもいい程にな。」

 

「同着か…しっくりこねぇんだよな。それじゃ、このドローン様に聞いてみるか。おい実況!ドローンがなんて判定してんのか教えろ!」

 

会場全体に聞こえるほどの声で叫ぶ。その甲斐あってか実況席まで声はしっかりと届いた。

 

『は、はい!お待ちくださいね…ど、ドローンは1着をトレノスプリンターと出しています!2着との差僅かコンマ022秒でイエローロータリーです!』

 

「…やっぱりか…。」

 

ロータリーが小さく漏らす。そして息を吸い再び叫ぶ。

 

「トレノは最後まで走り切って、自分でゴールまで走った!この競争は有効だ、ドローンの結果で確定させろ!」

 

そう言い放って数秒、掲示板に番号が表示され、すぐに確定される。

 

『それでは確定します!1着は6番トレノスプリンター!特別出走のトレノスプリンターがウィンタードリームトロフィーを制しました!』

 

 

 

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