あれから日数が経ち、中等部のクラスは1つを残してすべて回り終えた。今日が最後のクラス。このクラスが終われば晴れて2周目に突入する…んだけど…。
「よろしくお願いします、トレノさん!」
「あぁ…うん…よろしくね…」
「あらあら、随分気合入ってはるなぁ、アイさんは」
個人的にずっと避けていたアイちゃんのクラスが来てしまった。別にアイちゃんが苦手っていう訳じゃない。ララちゃんと一緒の時に話したこともあるし、純粋で真面目でいい子だと思う。けれど…正統派のアイちゃんに私のテクニックを教えていいものなのか。…使わないなら使わないでいいか。
「それじゃあいつも通り始めるぞ!」
教官さんの号令で授業はいつも通り始まる。しかし少し経ってから生徒たちのひそひそ話が聞こえてくる。
(トレノさん、実は教える気ないって噂知ってる?)
(あぁ聞いた。最後に一本だけ数人と併走してくれるらしいけど先輩も後輩も揃えて走ってるラインがおかしいって言ってる)
(それで言えば同じラインで走ってる日が無いみたいだよ?いくらG1を4つ取ったからって…どうなの)
いくら小声でも聞こえてるよー。…G1を4つ?……あ、4つだ。ホープフルが抜けてた。ナナも3つって言ってたしその次の弥生賞が激戦過ぎて忘れてた。
「トレノさん、ちょっとええですか?」
「いいけど、何かな?」
「あんな陰口叩かれてますけど、なんや言うてやったほうがええんやないですか?トレノさんの事や、併走の意味、ちゃんと考えてくれてはるんですよね?」
「そうだね。意味があるって気付いてくれてて良かったよ。…今日あたり説明するかな。教官さんにはタイムを取ってもらうように言ってあったし」
「タイム?」
「そう。あとで種明かしするから」
そういってララちゃんには納得してもらった。…説明できるかな。この前のあの失態を考えてしまう。…榛名が言ってたことそのまま言ってみるか。そう考えると榛名って人並みに説明できたんだなぁ。
「へっくしょん!」
何か誰かにバカにされた気がする。…まぁいいか。さーて、三ヶ根山スカイライン攻めるぞー!
「そこのクルマ。まだ何にもしてないけど取り敢えず止まりなさい」
「」
改めて見ていると、このクラスだけでも中々…怪物揃いな事で。既にデビュー、三冠を狙うキセキちゃん、これからクラシックを走るであろうブラストちゃん。ティアラ路線のアイちゃん、ララちゃん。その後輩を見ればあの3人に今は目立っていないけどマルシュちゃんも注目していきたいかな。
「むー…」
「ど、どしたのブラストちゃん…」
「やっぱり色々と考えてるんだな!あの噂は嘘みたいだな!今日はどんなことを教えてくれるんだ!?」
ノートを覗いていたから何事かと思ったけど…興味本位で質問されただけっぽいね。見ているとなんでか撫でたくなる。なんでだろう。
「お手」
「? これでいいのか?」
「よく出来ました。これ飴ちゃん」
「やったー!」
これあれだ。大型犬だ。たまーに町で見る大型犬のそれだ。もふもふした髪が撫でたい欲を掻き立ててるんだろうなぁ。
「よし、今日はここまでだ。さて、トレノさんと併走したい奴は手を上げてくれ!」
「はい!私に走らせてください!」
「アイさんが走るんやったら、うちもやらせてもらお」
「ならあたしも!せっかくの機会ですし、トレーナーとも共有しておきたいです!」
「ブーもやりたいぞ!」
「今日は4人ね。あー…えっとー…他にはいないかな?」
「くすぐったいぞー」
ブラストちゃんを撫でながら呼びかけるが誰も手を上げない。多分噂のせいだろうね。まぁ人数集まってるし、講義を始めようかな。
「さて、併走を始める前に種明かしをしていくよ。教官さん、取ってもらってたやつを頂けますか?」
「はい。…これっていったいどうやってるんですか?」
「今から説明しますから」
教官さんにプリントを貰って皆に配る。少し経つと少しざわつき始める。おー期待通りの反応。説明のし甲斐があるってもんですな。
「皆に聞かれたことだけど、コーナーを速く曲がるコツ…。はっきり言えばコースをどれだけ熟知してるかにかかってると思う。タイムっていうのは熟練度が顕著に表れるものだから…こうやってタイムを揃えることも出来る」
「そうは言いますけど、トレノさんのラインはいつもバラバラで参考にならないって聞きますけどそれはどういうことですか?」
「それもコースを知れば出来るようになるよ。大事なのはそのコース特有の抑えるべきポイントを知る事。そして脚をちゃんと使い切る事。この2つが出来るようになればタイムを揃えられるようになるよ」
榛名から聞いたことをそのまま伝えていく。それでも納得できないような顔をしている子が多数だ。私も1回の説明で理解してもらおうとは思っていない。私も2週間分からなかったんだもん。
「質問いいですか?タイムを揃えられるのは分かったんですけど、このタイム、2000メートルにしては少し遅いですよね?コースを熟知すると言ってましたが、決めのラインがあると言う事ですか?」
アイちゃんの質問は、まさに今教えようとしていたことを的確に突いてくる。というより、今の説明で私が言いたいことに気付くとは、流石と言うか、恐ろしいセンスとしか言いようが無い。
「その通り、それが今から実演することだよ。脚を使い切って結果的に出来上がったラインが脚の効率のいいラインという事になるんだ。…それじゃあ、行ってみようか」
説明をそこそこに併走の準備をする。今の説明を踏まえて4人、他の子たちも少しでも成長してくれるはず。彼女たちにはそれだけの可能性があるはずだから。…それよりも心配なのは。
「負けませんよ、トレノさん!」
アイちゃん、これ併走だからね?