頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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番外編6話

スタートしてすぐに隊列が決まる。私の1バ身後ろのブラストちゃん。その1バ身後ろに3人が固まっている。今から私は榛名が言うレコードラインアタックを実践する。しかしちぎりに行く訳じゃない。というかちぎったらほとんど意味がない。重要なのはタイムがどう変わるか…ではない。その向こう側にある理想的な走り方にある。

 

(確かに、普段走ってる時と全然違う!)

 

(オルフェさんとも併せてもろてるけど…なんや、本質がちゃう)

 

「走りっていうのは、はっきり言えば理論を土台にセンスを付け足していく作業だよ」

 

最初のコーナーを立ち上がって次のコーナーまで余裕がある。それまでに私が重要視してることを話していく。

 

「がむしゃらに走っても速い子は速い。けれどその速さにはいずれ限界が来ると思うんだ。私がそうだった。理論とセンスが組み合わされば、理想の走りが出来るようになる。…私の元トレーナー、渋川榛名のように」

 

3コーナーに入ったので話を中断する。榛名のような理想的な走りは、まだ私には出来ない。そして、榛名もまた理想のドライブが出来ていないと思っているだろう。何をどうすれば理想になるのか、具体的な説明はまだ出来ない。…榛名ならできるのかもしれないけど、こればっかりは頼らないで自分で答えを見つけたい。

 

(凄いぞ!同じラインで走っているはずなのに、少しずつ離されていく!)

 

(どこで差が付く、何が違う!?)

 

1バ身の差が2バ身程になる。しかしペースを落とさずに走る。見せるのなら、手加減している暇はない。それに…

 

「やっぱりアイさんには敵わんねぇ」

 

「行きますよ!」

 

アイちゃんが外から仕掛けてこようとしている。だーからこれ併走だって。仕方ない、サービスだよ。

 

「あれが…」

 

「柵走り!本当に主人公みたい!」

 

4コーナーを立ち上がって1.5バ身後ろに皆がいる形になった。今回の併せの意味は果たせた。しかし、何というか…。

 

「教官さん、タイムはいかがでしたか? コホ」

 

「…凄いですね。確かに今までのタイムをある程度と言っている意味が分かりました」

 

「こんな感じで、コースを知ればキメのラインであってもそうでなくても使いこなせるようになる。大事な事だと思うから、覚えておいてくれたら嬉しいな」

 

私が話し終わると同時にチャイムが鳴る。教官さんが授業を閉める。シャワー室に入っていく軍団を逆流するように、さっきの4人が私の所に集まる。

 

「トレノさん、さっきの併走で気になった事ってありませんか?何でもいいんです!」

 

「気になった事かぁ…。前を走ってたからなー…ブラストちゃんは多分走る位置をもう少し前にして仕掛けるタイミングを遅らせてもいいかも。キセキちゃんも同じかな。トレーナーさんと話してみてよ。ララちゃんは何か遠慮?的な何かを感じたからさ、もっと気持ちを前面に出してもいいかな?…どうだろ、こんな感じかなぁ」

 

仕掛けのタイミングから推測できたことを出来る限り出してみたけど…はっきり言ってあんまりよく分からない。今言ったことも的外れかもしれないし。

 

「私はどうでしたか?外から仕掛けたんですけど、もう少し内側に行ってもよかったのかなと思うんですけど」

 

「アイちゃんは…どうだろう。丁寧すぎるのかな」

 

「丁寧ですか?」

 

正統派のアイちゃんにこんなことを言っていいのかは分からないけど、私なりの意見を言わせてもらおう。

 

「アイちゃんって負けず嫌いなんだっけ?勝つために色々な文献やトレーニングを実践してるはずだけど、それに縛られてるのかな。セオリーは確かに勝つために必要なプロセスだけど、貴方ならセオリーを無視した走りができるはず。アレンジを加えてもいいかも知れないね」

 

「アレンジ…分かりました!」

 

「それじゃあ皆、頑張ってね。私に出来る事があったら何でも相談してよ。今なら基本暇だからさ」

 

今日の出来事をメモに取りながらトレーナー室へ戻る。アレンジが必要と言ったのは、アイちゃんの走り自体、自在に変えられる柔軟性を感じたからだ。多分、教えれば柵走りも出来るようになるはず。けれど、アイちゃんにそんな“苦し紛れ”をやってほしくない。…それよりも。

 

「…負けた」

 

私も、アイちゃんの事を言えないな。併走と分かっていながら、アイちゃんのゴーストを前に出して追い抜けるか試していたんだから。

 

 

 

 

 

「トレちゃん、どう?めぼしい子はいた?」

 

「ナナがそれ聞くって事はそっちもあんまりって事?」

 

「そうなんだよ~!トレちゃん誰かいい子紹介してよーいっぱい知ってるでしょ!」

 

「いや知ってるけどさ、そういうのは自分で調べようよ。あと重い、背中に乗っからないで」

 

背中に乗ってきたナナを引っぺがしながら私の技術を教えてあげられそうな子をリストアップする。出来る限り正統派から外れてる…フリースタイル出身の子がいいかも知れない。

 

「トレノさん、今時間ありますか?」

 

「うーん、あるけど…どうしたの?」

 

何の前触れもなくアイちゃんが部屋に入ってきた。会話を聞いて、天を見上げていたナナが起き上がりアイちゃんを見る。

 

「あれ、アイちゃんじゃん!一昨日ぶりだね」

 

「ナナさん、こんにちは。先日はありがとうございます、ナナさんに教えてもらった通りでした」

 

「あれ、知り合いなの?」

 

「はい。一昨日初めて会ったんですけど、その時にトレノさんとレースするにはどうしたらいいのかを教えてもらったんです」

 

…ん?

 

「あ、アイちゃん、ちょっとそこまでに…」

 

「お陰で昨日は後ろからトレノさんの柵走りを見ることが出来ました!」

 

「ナ~ナ~????」

 

「ごごごごべんごめん!謝るからほっぺ引っ張らないでー!」

 

成程、アイちゃんが妙に突っかかって来たのはそういう事だったのか。あの後私ハンカチ買い替える羽目になったんだから。…まぁその事はいいとして。

 

「それで、用事って何かな?」

 

「はい!私の走りを見てもらいたくて、どこか改善できるところが無いか、教えて欲しいんです」

 

「分かった。じゃあコースに行こうか。…言っておくけど、私は走らないからね?」

 

「分かってますって!走るのは授業の時ですもんね!」

 

ナナを置いてアイちゃんとトレーナー室を出る。さて、教えられるのかどうか。頑張りますか。

 

 

 

 

 

「先を越されたーーーー!!」

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