「ごめんくださーい!」
今日もまたトレノちゃんのお店に豆腐を買いに来ている。こんな頻繁に食べるんだったら買いだめしておけばいいのに。
「…?ごめんくださーい!」
「はーい…いらっしゃいませ…。」
何があったんだろう。私は今悩み事で頭がいっぱいですって顔をしている。ちょっとギョッとしてしまった。
「どうしたの?トレノちゃん。凄い顔してるけど。」
「いえ、何でもないです。えっと、いつものでいいですか?」
「あ、うん。それでお願い。」
気になる。あそこまで悩んでいるのを見ているとどうしても気になってしまう。でも私には聞く資格はない。
「はい、どうぞ。お代はちょうどですね。ありがとうございました。」
「うん、ありがとうね。あのねトレノちゃん、私明日には東京に帰るから買いに来れるのはこれで最後かも。」
「そうですか。向こうでも頑張ってくださいね。応援はしませんけど。」
「ふぐぅ。心にアッパーが入ったよ…。トレノちゃんも元気でね。それじゃあ。」
立ち去ろうとしたその時、トレノちゃんに声をかけられた。
「あの…!」
正直意外だった。まさか呼び止められるなんて。これは真摯に聞いてあげないとね。
「急なんですけどタマモクロスさんってどの位凄いウマ娘なんですか?」
「タマモクロスちゃん?本当に急だね、でも凄いウマ娘だよ。何てったって国内最高峰のレース、G1含めて7連勝。オグリキャップと共に”芦毛は走らない”って定説を崩して最強とまで言われたんだから。」
ほんのちょいと長くなっちゃったけど、トレノちゃんは真剣に聞いてくれていた。少ししてトレノちゃんが口を開く。
「…”勝てますか”?私。」
勝てる?なんでそんなことをトレノちゃんが聞くんだろう。…え?冗談だよね?
「まさか…レースするの?タマモクロスちゃんと!?」
「いえ、そういうわけじゃ無いんですけど。ただの興味本位です。」
興味本位と言われても疑問しか浮かばない。尻尾も耳も絶えず動き続けている。いったいトレノちゃんに何が…?
「そうなんだ。…結論から言えば勝てないと思うよ。確かにトレノちゃんは速いよ。だけどタマモクロスちゃんに勝てるかどうかは別の話。」
「…そんなに凄いんですか、タマモクロスさんって。」
目つきが変わった。私でもはっきりわかるくらいには。まるでパドックで絶対に勝つって自信満々のウマ娘がする目に似ている。
「そりゃあ凄いよ。さっき言ったのもそうだけど、彼女の武器はその末脚。後方で足を溜めてラストの直線で一気に抜き去るそのスピード、加速力。ほとんど反則だよ。」
頷くでもなくかと言って退屈そうでもなく話を聞いてくれている。
「可哀そうだけど仮にレースしても勝てる見込みは無いかなぁ。相手が悪すぎるかな。」
「…そうですか。ありがとうございます、私の興味本位に答えてくれて。」
「これくらいお安い御用だよ。…それじゃあ、元気でね。」
去り際、トレノちゃんの目が少しキリってしていたような気がするけど、まあそんな無茶しないよね。
タマモクロス、本気なんだな。遠目でもその仕上がりの良さに驚く。いよいよ明日に迫って入るが学園に広まっている様子はない。少し胸をなでおろす。
とおるるるるるるるるるん るるるん。渋川から電話が掛かってきた。
「おう、渋川か、久しぶりに実家はどうだ?快適か?」
「快適なんてもんじゃないですよ。お母さんが事あるごとに色々頼んでくれるから気が休まらかったですよ。」
「へー、良かったじゃねえか。で?いつ帰ってくるんだ?」
「明日には帰ろうかなって思ってます。…じゃなくて、沖野さん、どうにもトレノちゃんがタマモクロスちゃんとレースするみたいなんですけど知ってます?」
は?なんで帰省中の渋川がそんなこと知ってんだ?とりあえず誤魔化しておくか。
「い、いや?知らないな。どうしたんだ?そんな突拍子もないこと聞いて。」
「トレノちゃんにタマモクロスちゃんについて聞かれたので。その様子からどうなのかなって思いまして。」
「そんなわけな…本人が聞いてきたのか!?そもそもどうしてトレノ君の家が分かった!?…まさかストーカーしたわけじゃ無いだろうな?」
あの時は謝りたいとか言ってやがったが全然懲りていないようだ。たづなさんに報告か?
「違いますよ!お母さんにお使い頼まれていったお店で偶然トレノちゃんが店番してただけです!」
「ホントかよ…なんだか胡散臭いんだよなぁ。」
「ホントですよ!それで買い物終わって帰ろうとしたら聞かれたんですよ。勝てますかって。ちょっと可哀そうかなって思ったんですけど相手が悪すぎるからレースはやめておいたほうがいいって言ったんですけど…」
「いや、それでいいだろう。タマモクロスの奴、かなり仕上げてるからな。レースしたとしても、勝ち目はないだろう。」
「そうですよね、それじゃあ明日には戻るので。と言ってもあと二週間ありますけど。」
「悔い改めろ。じゃあな、切るぞ。」
トレノ君がタマモクロスに勝てるか、とはな。彼女にいったい何があったは俺には分からないが、どんな心変わりだ?…まさかな。
「マジか…」
スマホで天気予報を見ると一日中雨の予報になっている。しかもかなり降るみたい。参ったな、仮に電車が止まったらどうやって行こう。渋川さんからタマモクロスさんについて聞いて、”自分の走りがどれほど通用するのか”。そんなに凄いなら実際に見てみたい。いや、一回見たことはあるけど本気じゃ無い走りなんてノーカンだ。
「…ダメ元で頼んでみるか。」
絶対通らない気がするけど駄目で元々、人生はギャンブルだ。
「ねえお父さん。ちょっといいかな。」
「どうした?珍しいな。お前から話しなんて。」
「明日さ、東京に予定あったりしない?」
何だこの回りくどい頼み方。でも口から出てしまったからには後には引けない。
「あるわけねえだろそんな遠いところに。で?あったとしたらどうする気だったんだ?」
「いやぁ?特には無いけど、…観光的な?」
苦しすぎる。観光って。ナナと先週行ったばっかじゃん。素直にレースに出たいから車出してくださいって頼めばいいだろ。
「観光ってお前、先週行って来たばっかりじゃねえか。そんな毎週行っても変わり映えしねぇだろ。」
ですよね。だって私も同じこと思った。
「とにかく、どんな理由があっても車は出せないな。そもそも明日車検に出すからな。」
あじゃぁーやっぱり駄目だったか。車検だとなぁ。仕方ない電車が止まらないことを祈ろう。
「そっか…そろそろ寝るね。」
トレノが二階に上がっていった。あの目つき、レースする気だろうな。まさかアイツが自分からレースしたがるとはな。小学生のころから無理やり新聞配達やらせてたから走るのが楽しいってイメージはなかっただろう。
アイツの中で走りに対するスタンスが変わってきているだろう。
とおるるるるるるるるるん、るるるん。家の固定電話が鳴る。
「はい、豊田とうふ工房ってお前か」
「よう栄治、例のシューズ届いたぜ。蹄鉄もばっちりだ。」
「そうか、急で悪いんだが今から取りに行ってもいいか?明日の配達からトレノに履かせる。」
「そりゃいいけど、”もう”なのか?」
「いや、俺の見立てでは一週間か二週間ってとこだろう。でも明日辺り何かありそうだからな。」
「分かった。用意しとくから取りに来てくれ。」
「おう、それじゃあな。」
ちと早い気もするけど、まあ大丈夫だろ。壁でも超えてこいトレノ。中央は甘くないぜ。
悲報 書くことが無くなりました。
下手に後書きなんてものを書いてしまったが故にこんな所で悩むことになるとは。
仕方ないので何も書かずに終わりませう。
「ちょっといいかな。」
「はい何でしょう榛名さん。」
「私感想でかなりぼろくそ言われてるんだけどキャラ建てちゃんとやってるの?というか挽回できる作ってくれるんだよね?」
「さあ?」
「え?」
また次回!