頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第二十三話 冷めない熱

「トレノスプリンターさんとタマモクロスさんのレース、終わりましたよ。見に行かなくても良かったんですか?」

 

「当然ッ!私とてこの目で見たかった!だが…呆然ッ!この書類の量ではな。」

 

そういう訳で私が代理でレースを見に行ったわけですけど。

 

「凄い熱気でしたよ。盛り上がりで言えば重賞にも匹敵するでしょうね。なんでレースの事を知っていたんですか?」

 

「偶然ッ!一週間前、聞こえてしまってな。結果の方はどうだったかな。」

 

「私も驚きましたよ。1バ身程の差でトレノスプリンターさんが勝っちゃいました。」

 

「驚愕ッ!?それは本当かたづな!」

 

「本当です。異次元のコーナリングで最終コーナー入り口で追い抜いていきました。」

 

度肝を抜かれましたよ。あのコーナリング、一週間前と比べても別物に進化してました。ただ、”私”には負けますかね。

 

「それよりも、もっと驚いたことがあります。」

 

「なんと!それは何かな!?」

 

「明らかに楽しんでいました。レースを、走ることそのものを。」

 

動画内の印象だけでは少し大人びたおとなしい印象を受けましたけど、あの姿は年相応にはしゃいでいるように見えました。

 

「期待ッ!書類の準備を進めても損は無いと思うぞ!」

 

「そう言うと思って既に準備してあります。」

 

「感謝ッ!いつも助かるぞたづな!」

 

何せ期待しているのは私も同じなので。

 

 

 

 

 

「トレノちゃーん、起きてぇ~。着いたよー。」

 

「…んぁ。もぅ着いたんですかぁ~?」

 

トレノちゃんの家の前まで着いたのでゆすって起こす。あれから爆睡で一度も起きなかったので気になってたことも質問できなかったけどまあいいか。

 

「おう、戻ったか。」

 

「あ、豊田さん。今戻りました。」

 

「ただいまぁ~…ふあぁぁ。」

 

「メシは作ってあるから、寝ぼけてないでさっさと食っちまえ。」

 

「はーい、いただきまーガッ!」

 

寝ぼけを放置したトレノちゃんがちょっとした段差で盛大にコケた。さっきまで壮絶なレースを繰り広げたトレノちゃんは見る影もなかった。

 

「…で?榛名、勝ったのか?トレノの奴。」

 

「勝っちゃいましたよ。トレセンの見に来た生徒全員が度肝を抜かれてましたよ。」

 

「ふッそうか。」

 

そう聞いてきた豊田さんは少し嬉しそうだった。

 

「じゃあ私はこれで失礼しますね。トレノちゃんによろしく言っておいてください。」

 

「おう、送り迎えありがとな。」

 

 

 

 

榛名のインプを見送りながら煙草に火をつける。勝ったのか、あいつ。一枚壁を越えただろうな。

 

無理に新聞配達やらせてたから走るのが楽しいってイメージが持てなかっただろう。とことん冷めてたからな。

 

そういや左手に包帯巻いてたな。となると柵に手を引っ掛けて離すタイミングミスってケガってとこか。

 

どれほど手強い奴だったかは知らねえが、まだまだ甘いって事か。先は長いな。”アイツ”に追いつくまでは。

 

 

 

 

「ただいまです。これ、さっき言ってたお土産です。」

 

「戻ったか。どれどれー?ッ豆腐?」

 

「はい。ウチの近所の豆腐屋なんです結構おいしいですよ。」

 

「そうなのか、ありがとよ。」

 

沖野さんと東条さんに豆腐を渡す。お土産に豆腐ってどうなのとは思ったけど豊田さんがサービスしてくれたからちょうどよかったから。

 

「豊田とうふ工房って言うのか。なんかうまそうだなおハナさん。」

 

「そうね、どこかで聞いたことあるような名前なのが気になるけどね。」

 

「そうだ、豊田さんから沖野さんと東条さんに伝言があって。」

 

私には何のことかさっぱりだけど沖野さんと東条さんなら何かわかるのかも。

 

「『沖野と東条によろしく』って。そう言ってました。何のことですかね。」

 

 

 

「…その豆腐屋の店主、豊田って言ったわよね。下の名前はなんていうの?」

 

「?栄治って人ですけど。漢字で書くとこうだったかな。どうしたんですか?そんなこと聞いて。」

 

「…プッ、ハハハハ!」

 

それを聞いて俺はつい吹き出してしまった。なるほど”そういう事”か。いままでトレーナーも無しにあそこまで速くなったトレノ君が不思議でしょうがなかった。

 

だが、その人の名前を聞いたとたんに全てが腑に落ちた。道理で、速いわけだ。おハナさんも納得の言った顔をしている。

 

「沖野さん、どうしたんですか?急に笑って。」

 

「いや、何でもない。豆腐ありがとな。」

 

「…?どういたしまして?そろそろお暇しますね。」

 

「ええ、謹慎開けたら色々話してあげるわ。」

 

「ふぐぅ、で…ではぁ。」

 

そう言って渋川がトレーナー室を後にする。久しぶりにあの人の名前を聞いた。トレーナーやめた後連絡が取れなくなったからどうしたのかと心配していたけど、元気そうでよかった。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!たづなさぁん!これには深い訳がぁ!」

 

「言い訳は署で聞きますからねぇ。」

 

豊田さん、アンタの愛バは途轍もなく怖い人になりましたよ。

 

 

 

 

 

日曜日の昼下がり、昨日のレースで体全体がかなり重い。配達だってちょっと疲れた。

 

…昨日のレースが頭から離れない。気持ちの高鳴りが収まらない。もっと走っていたいと思った。

 

とおるるるるるるるるるん るるるん

 

「電話?ナナからだ。何だろう。」

 

「トレちゃ~ん。私に言ってないことあるでしょ~。見たんだからね私~。」

 

「どうしたの急に。見たって何を?」

 

「タマモクロスさんとレースしてたでしょ!物凄い心配したんだから!今暇でしょ!トレちゃん家に遊びに行くから!」

 

私の家は豆腐以外何にもないけどナナは不定期に遊びに来る。

 

「いいけどさ。いつも通り何にもないよ。」

 

「いいからいいから!じゃあまた後でね!」

 

と言って電話が切られた。ナナはいつも行動が突発的というか予測できるようで予測できない。まあ来るまでゆっく

 

「トレちゃーん!来たよー!」

 

………………はっや。

 

 

 

「どこから電話かけたの?」

 

いくらなんでも早すぎる。電話を切ってから一分と経っていない。ナナがヤード〇ット星で修業した覚えもないし。

 

「そこの曲がり角位で掛けたけど。」

 

「ほぼ家の前じゃん…。」

 

もう電話する必要があるのか疑問に思えるくらいの距離だ。京都じゃないんだよ私の家。

 

「凄かったよタマモクロスさんとのレース!トレちゃんがあんなにすごい走りができるなんて思わなかったよ!」

 

「正直余裕なかったよ。離されないように食らいついてって…抜きに行ったのだって一か八かだったし。」

 

「そうだよ!アレ何やったの!?タマモクロスさん以上のスピードで曲がる秘密でもあるのってどうしたのそれ!?」

 

左手を見て驚いていた。まあ包帯でぐるぐる巻きだしまあ目を引くよね。

 

「タマモクロスさんを抜きに行くときに柵に手をかけたんだけど、抜くことはできたけど離すタイミングをミスっちゃったみたいで。」

 

「大丈夫なのそれ?痛くないの?」

 

「もうそんなに痛くないよ。多分もう少しで包帯も取れるし気にしないで。」

 

配達初めて一年くらいの冬に初めてやった時でもこんなこと無かったんだけどな。でも次はこうならないと思う。コツは掴んだから。

 

「そうなんだ。それじゃあ本題に入ろうかな!今日はこれを見て欲しくてね!」

 

そう言ってナナがスマホを取り出した。何かの動画かな。

 

「私厳選のレース映像だよ!トレちゃんに見せたかった動画いっぱい入ってるから!」

 

「面白そうじゃん。お茶とお菓子持ってくるからゆっくり見ようよ。」

 

「うん!」

 

ナナが見せてくれた動画はどれも刺激的だった。

 

スタート直後から後続を引き離してそのままゴールするウマ娘にその逆、中盤から加速し始め、前に躍り出て一位をものにするウマ娘…私たちを拉致ったウマ娘じゃん。

 

一位争いの末、同着のレースだったりその結果はどれも予想のつかないものだった。

 

「えーっと…次が最後だね。これは私のとっておきだよぉ。トレちゃんも痺れると思うよ。」

 

ナナがそう言って動画を再生する。

 

「これ、タマモクロスさんのレース?」

 

「そう、タマモクロスさんの現役最後のレースだよ。このレースを最後にトゥインクルシリーズを引退したんだ。ウィンタードリームトロフィーには出てるけどね。」

 

「そうなんだ…始まった。」

 

序盤は縦長に展開していった。タマモクロスさんは最後尾につけていた。そのままカーブを二つ通過して直線に入った。…………ッ

 

「ここでタマモクロスさんが仕掛けていくんだよ!私も生で見たかったなぁ。」

 

生で見たかった?冗談じゃない。私がそこにいたらその圧で逃げ出してもおかしくはない。これがタマモクロスさんの全盛期。

 

もし昨日レースしていたのがこのタマモクロスさんだったら間違いなく勝てなかった。圧そのものは私が体感したものと何ら遜色はない。だけど、何かは分からないけど違う。

 

そのままタマモクロスさんが先頭の灰色の髪のウマ娘に迫っていく。

 

「ナナ。灰色の髪のウマ娘って何て名前なの?」

 

「オグリキャップさんだよ。地方から移籍してきてスター街道まっしぐら。後ろから末脚で抜き去る所から”怪物”なんて言われてるよ。」

 

怪物…。女子相手になんて異名だと思ったけどレースを見たら納得してしまう。

 

二人はそのままもつれて最終コーナーを回り最後の直線。

 

タマモクロスさんが有利なのは私でも分かった。それでも未だに並んで走っている。いったいどうして走れて……。

 

「!!?」ビリビリィ!

 

灰色の髪のウマ娘からタマモクロスさんと同じような圧が放たれた。白熱したレースを繰り広げている二人は…とても楽しそうに見えた。

 

レースの事は何も分からないけど、けれど二人が全力でぶつかってレースをしている。その結果は二人並んで…いや、オグリキャップさんが僅差で先にゴールした。

 

「凄かったでしょー!私の中でも一位二位を争うくらい好きなレースなんだ!」

 

「とても凄かった。何というか…私まで熱くなってきた。」

 

私も…走りたくなってきた。この人、オグリキャップさんとレースがしてみたい。走ることにこれほど熱くなれることが嬉しく思える。自分の変化に驚きを隠せない。

 

「これで終わりかな。どうだった?トレちゃん。」

 

「どれも凄い刺激的だったよ。レースの面白さ、奥深さが分かった気がするよ。」

 

「っ~~!トレちゃんが遂にこちら側に来てくれたぁ!じゃあ来週は他の動画を持って遊びに来るね!」

 

「うん、楽しみにしてるね。」

 

「それじゃまた学校でね~!」

 

 




ううん…ここは?

確かハヤヒデさんから避難しようとして…思い出せない。痛ったぁ!よく見たら包帯まみれでミイラみたいになってる。

「目が覚めたようですね。」

何奴!

「主治医です。」

何だ主治医さんですか。僕ってどうしてこうなったんですか?

「何者かに襲われ、ビワハヤヒデさんに運び込まれたんですよ。」

ハヤヒデさんありがとう。それで、どれくらい眠っていたんですか?更新急ぎたいんで割とパッと起きられてればいいなぁ。

「いいですか、落ち着いて聞いてください。貴方が眠っていたのは…12日です。」

ッ…ウゥッ…アァッ!

「落ち着いて!大丈夫!」

ガクッ



「眠ってしまいましたね。更新はされているので安心してと言いたかったんですが…次の機会にしましょうか。ここは変わって私が、また次回。」
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