頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第二十四話 解析

月曜日、土日で少しズレた生活リズムが私、ひいては国民全員に牙をむいてくる。休日になると配達終わってからの睡眠時間が一時間長くなる。

 

その一時間ですら、恨めしいほど月曜の寝覚めの邪魔をしてくる。

 

「おはよ~。」

 

「おはよートレちゃん!」

 

…前言撤回、月曜の苦しさはナナみたいなハイテンションの人には関係ないみたい。

 

 

 

授業中も家に帰っても、下校途中もレースの事しか考えていないように思う。それほどトレセン学園での出来事が私の中で大きいという事なんだろう。

 

オグリキャップさんと走りたい気持ち、なぜかその気持ちは強くなっていく。抑えようにも抑えきれないような。走ってみれば分かるのかな?

 

いっそのことトレセンに連絡とってみる?

 

「でもなぁ。トレセンに連絡して「オグリキャップさんとレースさせて下さい。」って言ってもなぁ。」

 

あの時沖野さんの名刺貰ってればなぁ。話位はできると思うんだけど…名刺?渋川さんから貰ったな。勢いに流されて貰っておいてよかった。

 

確か…あの後どうしたんだっけ?あの流れだと…ジャージのポケットに入れたんだっけ?でもあれ洗濯したし…やったかもしれない。

 

「ジャージ全部出してみないとかぁ。多分しわくちゃになってるなぁ。」

 

電話番号だけでも残っていることを祈って漁り始める。一着目…無し。二着目…あった。

 

早くに見つかってよかったと思いつつ恐る恐る取り出してみる。

 

「よかった。思った以上に大丈夫そう。」

 

想定よりダメージが無かった。名刺の素材の良さに感謝だ。でも、私個人の頼みってだけで掛けていいのかな。迷惑にならないかな。

 

……いいや、思ってみれば迷惑掛けられまくったんだから少しくらい迷惑してもらおう。

 

 

 

反省文…これでいいのかな?…いや、まだ書けることあるよね。原因、改善策、全部書く位じゃないと反省文じゃないような気がする。

 

とおるるるるるるるるる るるるん

 

「電話?誰からだろう、知らない番号だ…。」

 

非通知じゃないだけ怖さはあまりないけどそれでも知らない電話番号というのは怖い。とりあえず出てみよう。

 

「もしもし、渋川ですけど。」

 

「よかった。出てくれた。私です。トレノです。」

 

「ヘアァッ!?ト、トレノちゃん!?どうしたの?なんで私の電話番号知ってるの?」

 

相手はまさかまさかのトレノちゃんだった。しばらくは会うことも無いんだろうなと勝手に自己完結していたら向こうからコンタクトを取って来てくれた。

 

でも電話番号を教えた覚えは無いんだけど。

 

「初めて会った時、名刺くれたじゃないですか。そこに書いてあったので。」

 

「ああ、そういえば渡してたね。ナイス、あの時のイカれた私。それで、何かあったのかな。もしかして忘れ物でもしたの?」

 

「実は、お願いがあるんですけど、聞いてくれますか?」

 

トレノちゃんのお願い事。何だろう。この前はタマモクロスちゃんについてだったり…なんだか担当がついたみたいだなぁ。ウキウキしてきた。

 

「もちろん、何かな、そのお願いって。」

 

「来週の土曜、オグリキャップさんとレースがしたいんです。お願いできますか?」

 

 

???

 

 

「…ゴメン、ちょっと電波が悪かったのかな?良く聞こえなかったからもう一回お願いできる?」

 

「いいですけど…オグリキャップさんとレースしたいんです。」

 

「…本気で言ってるの?冗談とかじゃなくて?今日エイプリルフールじゃないよ?」

 

これを青天の霹靂って言うのかな。トレノちゃんから電話貰って、オグリちゃんとレースしたいって言ってる。…整理すると意味わからなくなってきた。

 

「昨日、友達にレースの動画見てたんです。そこに映ってたオグリキャップさんを見てたら私も走りたいって思ったんです。」

 

…グスッ。あのトレノちゃんからこんなに熱い言葉が出てくるなんて…。成長したなぁ。興味ないって言ってた頃のトレノちゃんとは大違いだよぉ。…グスン。

 

「この気持ちが何なのか、知りたいんです。渋川さん、お願いできますか?…聞いてます?」

 

「聞いてるよ…ズズッ、つい感動しちゃって。分かったよ、話だけでもしてみるね。話が出来次第電話するね。」

 

「ありがとうございます。期待していますね。では、失礼します。」

 

…さて、どうやって交渉しようかな。六平さん気難しそうだし、接点あんまりないし、連絡先知らないし。

 

 

 

 

一昨日夕方からトレノ君のデータとにらめっこしていて分かったことがある。まずトレノ君のあの走りはコーナーに著しく特化した走りだという事。

 

直線での伸びが他のウマ娘より劣っていることは目で見ても分かったがシャカール君に協力してもらって数値にしてみても同じことだった。

 

シャカール君がトレノ君のデータ、映像すべてを解析してパソコンに打ち込んでこんなことを言っていたなぁ。

 

「確かにあの時オレもあのレースを見ていたし疑う訳でもない。だが、Parcaeにデータ打ち込んでエラー吐き出したことなんてなかった。唯の一度も。どうなってんだ?」

 

シャカール君の優秀な相棒が匙を投げるとは思わなかった。まあ私も一人では解けない可能性が出てきたからこうしてシャカール君を頼ったわけだが。

 

さて、研究を続けるとしよう。答えは出ていないのだからねぇ!

 

 

 

タキオンから戴いたデータをParcaeに打ち込みエラーの修正を繰り返し、ようやくparcaeが結果を表示した。途中からParcaeを疑いたくなったが、こいつは完璧だからな。

 

コイツから示されたのは中の上くらいのウマ娘って事だ。これだけ見ればどうやったってタマモクロスに勝てっこない。だがあいつは勝っちまった。

 

悔しいが、Parcaeの力だけではアイツの速さは解明できない。趣味じゃねぇが有象無象のインターネットでも漁ってみる。タキオンが言うにはトレノってやつはレースするのがあれが三回目らしい。

 

もう何も信じられねぇ。芝でなく舗装路で速く走る方法を洗った方が速そうだ。こんなおおざっぱで抽象的なやり方を実行するなんてな。

 

「あぁ…?”公道最速理論”?」

 

何だこりゃ?最後の更新が二十年ほど前のサイトが目に留まった。…チョイとみてみるか。

 

 

 

トレーナー室でリギルメンバーのトレーニングメニューを立て、書類をまとめる。トレーナー業というのは半分はデスクワークね。いつ見ても辟易する書類の量にため息をついていると電話が鳴る。

 

「榛名から?もしもし。」

 

「あ、お疲れ様です。渋川です。ちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」

 

「面倒事でなければいいわよ。って言っても貴方が相談してくることなんて大体面倒事よね。」

 

「ふぐぅ。じゃ、じゃあ、六平トレーナーとお話しさせてほしいなぁって。」

 

六平さんと?榛名と六平さんとは接点があまりない。このタイミングで話があるって何かしらね。

 

「話って、何を話すのよ。育成論とか?謹慎開けでもいいじゃない。」

 

「いやぁ、今じゃないといけないんですよねートレノちゃんに頼まれちゃって。」

 

「何で今トレノスプリンターが出てくるのよ。貴方反省のはの字もしてないの?」

 

「違いますよ!酷いなぁ、今回はトレノちゃんが頼んできたんです。オグリちゃんとレースしたいってさっき電話があって。」

 

「トレノスプリンターが?詳しく聞かせてもらってもいいかしら。」

 

榛名から事の顛末を聞いた。まさかトレノスプリンターからそんな言葉が出るなんてね。

 

「分かったわ、話だけでもしてみるわ。ただ結果は保証しないわよ。」

 

「すいません、よろしくお願いします。本当は自分で行くのが普通なんですけど自業自得ですね。」

 

「話が出来たら電話するわ。じゃあね。」

 

「はい、失礼します。」

 

電話が切れる。この書類にケリがついたら話に行こうかしらね。

 

 

 

 

 

公道最速理論…読んでみるとこれが思った以上にレースに通じるものがあった。

 

ストレートで速くて初心者、コーナーが速くて中級、上級者ともなればそのどちらでもない第三のポイントで差をつける…か。

 

その第三のポイントについて詳細に書いてあるわけではない。恐らくはその状況に応じたエトセトラなんだろうな。

 

それに最も難しいのはコーナーの侵入スピードを決定する判断力というのも納得だ。オレ達ウマ娘はレースの最中、幾度となく判断する状況に置かれる。

 

坂路に対する走法の変化、前に行くためのライン取り、スタミナ配分、仕掛けるポイント。どれを取っても難しいが一番難しいのはコーナーだ。

 

コーナーでは遠心力のせいでオーバースピードで曲がるとかえってロスになっちまうし走行ラインを開けちまうことになる。総合して良い事が無い。

 

それ故にコーナー入り口では多少なりとも減速するなりの対策をする。だが、曲がれると判断できるスピードがたとえ1キロでも違えば。

 

その差を詰めるアドバンテージとしては十分だろう。読めば読むほどこいつを書いたヤツが天才だと思い知らされる。

 

「やあシャカール君、どうだい、解析のほうは順調かい?」

 

その点を踏まえてタマモクロスとトレノスプリンターのレースを見返すと、さっきでは気付かなかったことに気が付いた。

 

トレノスプリンターのラインのシビアさには改めて舌を巻くがコーナーの侵入スピードがトレセンで比べてもトップクラスだ。これなら確かにタマモクロスをコーナーで突っつきまわすこともできるだろう。

 

「シャカール君~?」

 

それに、コーナーで加速している感じ、スパートをかけているような印象を受けた。…ともすれば、コイツにとってはすべてのコーナーでスパートをかけているのか?

 

クソ、この動画だけじゃあ流石にデータ不足だ。アイツがトレセン学園の生徒ならすぐにでもデータを取りに行くんだが。

 

「随分と熱心だねぇシャカール君は。君もトレノ君に夢中のようだねぇ。」

 

「ゲッ、タキオン、いつから居やがった。」

 

「数分前にお邪魔させてもらったよ。声をかけても反応しないからねぇ。…シャカール君、パソコンに映ってるその論文は何だい?」

 

「公道最速理論っつうらしい。読んでみるか?」

 

「ふぅン、君から読むことを薦めるとはねぇ。では、読ませてもらうよ。」

 

タキオンに席を譲る。良い食いつきだな。タキオンがPCに釘付けになっている。暫くして読み終わったのかタキオンが口を開く。

 

「実に興味深い論文だ。公道での論文とは言え、私たちにも通ずるものがある。それに、トレノ君の速さを理論的に説明できる判断材料にもなる。…だが。」

 

「データが足りない…だろう。オレもある程度までいった所で行き詰ったからな。」

 

「せめてあと1レースでもしてくれればデータとして十分なんだがねぇ。」

 

だかトレノはトレセンの生徒じゃない。そんな奴がレースする機会なんか滅多にない。このまま行き詰っちまうのか?

 




エアシャカールだ。作者の野郎が卒倒したとかで後書きをやることになった。

ったく、めんどくせえなぁ。

今回はトレノの速さの秘密が分かったり分からなかったりだが、絶対に解き明かしてやる。Parcaeにエラー吐き出させたんだ。そのツケは払ってもらうぜ?

それじゃあな。オレは忙しいんだ。またいつかな。
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