頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第二十七話 意識

ピロン

 

「LANEだ。トレノちゃんからか。なんだろう?」

 

『土曜の模擬レースなんですけど、距離のお願いってしていいんですか?』

 

そういえば距離は決まっていなかった。よほどのことが無い限り拒否されることは無いと思う。

 

『大丈夫だと思うよ。何メートルかな?』

 

『2500メートルでお願いできませんか?』

 

2500…有馬記念と同じ距離。この前は2400メートルで走れていたのでトレノちゃんの適正距離ではあると思う。

 

『分かった。向こうに伝えておくよ。後でまた連絡するね。』

 

『ありがとうございます。待ってますね。』

 

さて、六平さんに電話かぁ。大丈夫かなぁ。こわばって変な声でそうだよ。

 

とおるるるるるるるるるん

 

「わあ、電話だ。もしもし。」

 

「お前が渋川か?」

 

この少しどすの利いた声、もしかして…。

 

「六平さん…ですか?」

 

「一度は顔合わせただろうが。もう忘れちまったのか?」

 

「いえいえそのようなことは!アハハ…それでご用件は…。」

 

「今度の模擬レースの距離は何メートルなんだ?」

 

好都合だ。たった今さっき打診があったからね。

 

「2500メートルでお願いしたいです。」

 

「分かった。じゃあな。」

 

淡々とした会話で電話は終わった。なんでか緊張したなぁ。ああいう人だと接点が無いとどうにも緊張しちゃう。

 

『2500メートルに決まったよ。後でコースの概要送るね。』

 

『分かりました。来たら確認しておきます。』

 

さて、コースの詳細ちゃちゃっとまとめて送らないとね。

 

 

 

 

 

金曜日放課後、この一日の終わりを私、ひいては国民全員が待っている。ほとんどの人がこの土日のために頑張っていると言っても過言ではないだろう。

 

だけど、私には休日よりも楽しみにしていたことがある。

 

「トレちゃーん!いよいよ明日だねーオグリさんとのレース!」

 

そう、オグリキャップさんとのレースが明日に迫っている。一日が終わるたびに早く土曜日にならないかなと思いながら過ごしていた。

 

「トレちゃん。今更なんだけど、何の対策もないままレースするなんてことは無いよね?」

 

「本当に今更だね。一応、配達の時にもイメトレしながら走ってる。ペース配分とか、スパートのかけ方とか。」

 

「イメトレ…でもさ、実際のコースとアスファルトって結構違わない?曲がるところもいっぱいあるし。」

 

「確かにね。私もどれだけイメージしたことが出来るかは分からない。でも何もやらないよりも少しでも何かやっておきたいなって思って。」

 

「気合十分だね。じゃあそんなトレちゃんに!情報を授けましょう!」

 

何とも自信ありげに、鼻高々にしている。でも情報と言われても…。

 

「オグリさんの長所は何といっても「その末脚?」そう!それを更に脅威的なものにしているのはその「踏み込みの強さ?」…まさかもう勉強してきた?」

 

「うん、渋川さんが色々対策してくれてるから。…全部読むのにかなり時間かかったけど。」

 

「あぁ~今思い出したけどあの人トレーナーだったね。こうやって聞いてると本当にまともな人だね。」

 

「ね。私は今でもイメージにずれがあるくらいだし。かけ離れすぎてて誰だよってなるくらい。」

 

こう言いながらイメージしてみると…どうしても初めて会ったあのおかしな渋川さんが浮かぶ。

 

「なんだかすごいなぁトレちゃん。つい二週間前にはレースのれの字も知らなかったのに。なんだか雲の上の存在になっちゃいそう。」

 

「雲の上なんて…そんな大それたものにはなりたくないな。第一そんなガラじゃないし。」

 

「うん、私もそう思う。」

 

少しばかりカチンときたのでナナを小突く。

 

「セイッ。」

 

「はぐぁ。や~ら~れ~た~。」

 

「ップ、何それ。変なの。」

 

「良いじゃん良いじゃん!というわけでお返しだよ!」

 

と言ってくすぐってきた。そんな攻防が自宅まで続いた。

 

 

 

 

 

模擬レースを明日に控えて、オグリちゃんは最終調整に入っている。

 

「オグリ、明日のレースの作戦を伝える。今日はその作戦に沿って仕上げていく。」

 

「分かった。どうやって走ればいいんだ?」

 

そう言ってオグリちゃんは特大おにぎりを食べる。見慣れた光景だけどやっぱりすごいなぁ。

 

「ベルノが仕入れた情報だと、恐らく脚質は追込、だかタマモクロスのそれに比べれば切れ味は無いだろう。それを補うように超ロングスパートをかけられるスタミナもある。」

 

追込のウマ娘というのは往々にして末脚の切れ味が他のウマ娘と比べても別格だ。白い稲妻、鬼脚、などの異名がつくくらいには。

 

「どこでそのスパートが始まるのかは分からん。最終コーナー手前かも知れんし、もしくはもっと手前からかも知れん。そこでだ…。」

 

六平さんが少しためる。だけどすぐに続ける。

 

「レースの展開は任せるが、もしトレノが後追いになったら”後ろ”を気にするな。」

 

「”後ろ”を気にしない?」

 

「ああ、さっきトレノの脚質は追込と言ったが、その気になれば先行でも行けるだろう。」

 

「その気になれば先行でもって、どういうことですか?」

 

「あのタマモクロスが直線で離せているのにコーナーで追い付かれるんだ。コーナーで一時的にスパートをかけているとしか思えん。」

 

コーナーで一時的にスパート…。何というか、そんなウマ娘今までいたかな。あまり覚えがない。

 

「そういえば、タマが”背後霊”みたいと言っていたな。」

 

「そう思うのも無理は無いだろう、離れたと思ったら急に後ろに現れるんだろうからな。だからこそ、”後ろ”を気にするな。」

 

「…具体的にはどうすればいいんだ?」

 

オグリちゃんが作戦の詳細を尋ねる。

 

「具体的も何もない、相手との差、プレッシャー、その他全てだ。いっその事いないものとして考えたほうがいいかもしれないな。」

 

「いないものとして。…出来るだろうか。」

 

「やらねえと相当厳しいレースになるだろうな。」

 

「なんだか無視しているようで可哀そうだ。」

 

そっちかい。二人してそう思った。

 

 

 

 

 

「じゃあ行ってくる。今日も少し遅くなるかも。」

 

「それは構わんが、はしゃいで零すんじゃねえぞ。」

 

「分かってるって。それじゃ。」

 

ここまでで確かにトレノは速くなった。榛名のデータを基にイメトレしていったことでそれなりの仕上がりにもなっている。トレノが曲がっていく。

 

…なるほどな。考えとしては合っているが、いつもそれが正解とは限らないからな。明日にでもそれっぽいこと言っとくか。

 

 

 

思いついた事その1、曲がるときは出来る限り内側で、無理のないラインで曲がってみる。

 

これはすぐに成果が出た。いつもの配達で早く帰りたいと思って走っていたラインが似通っていたから。でも修正箇所がいくつもあった。

 

例えばコーナーで出来るだけ弧を大きく描くようにすればスピードを損なわず曲がれることが分かった。それに、立ち上がりでも少し余裕を持つこともできた。

 

思いついた事その2、コーナーではなく、直線に比重を置いてみる。

 

やる前から分かってたけど、私のパワーだといくら直線を頑張ったところであまり意味は無かったし、体感遅くなっているような気がした。

 

そのほかにも色々とやってみたけど…正直実りがあるのか分からない。何というか、成長してる気がしない。いや、してるとは思うけど、大した実感が無い。

 

実感できたのはもっと速くなりたいという思いが強くなったことくらい。

 

 

 

 

 

「おはよートレちゃんいよいよだね!オグリさんとのレース!…どうしたの?そのクマ。」

 

「いやね、帰ってからレースのこと考えてたら少し寝不足になっちゃった。」

 

「大丈夫?本調子で走れそう?」

 

「多分大丈夫だと思う。…そろそろ来ると思う。」

 

遠くの方からパンパンと音が鳴る。ほんの少し聞き慣れた…いや、間違っても聞き慣れたくないうるさい音が渋川さんが来たことを知らせる。

 

「来るって渋川さんが?…まさかさっきから聞こえてるこの音が…?」

 

「うん、渋川さんの車の音だよ。ナナにも聞こえてるってことは本当にうるさいんだね、あれ。よく耳が壊れないなぁあの人。」

 

「…。」

 

「あれ、ナナ?」

 

少し反応が無かったので振り返ってみるともう既に耳栓を装備していた。その上から指で耳を塞いでいる。意味あるの?それ。

 

「お待たせ、トレノちゃん。それと、そっちの子がナナちゃんかな?…なんだかすごい顔してるけど。」

 

「渋川さんの車のせいです。何とかしてください。」

 

「ふぐぅ。ま、まあそこは置いといて…宜しくね、ナナちゃん。」

 

「…?なんて言ったんですか?」

 

おっとこれは。耳栓してるの忘れてそのまま会話してる。少し面白そうなので放置してみよう。

 

「宜しくね、ナナちゃん。」

 

「はい?もう一回お願いできますか?」

 

「宜しくねッ!ナナちゃんッ!」

 

「…あ。」

 

思い出したように耳栓を外すナナ。それを見て少しショックを受ける渋川さん。

 

「ごめんなさい。耳栓してるの忘れてて…ハハ。」

 

「…セカンドカー買おうかなぁ。…じゃない。とりあえず車に乗ってて。一応豊田さんに挨拶してくる。」

 

「俺ならここにいるよ。店先でうるさくしてんじゃねえよ。」

 

知らないうちにお父さんが出てきてた。まあ渋川さんの車がうるさいのと渋川さんが叫べばそうなるか。

 

「す、すいません。それじゃあ、トレノちゃんお借りしますね。」

 

「おう、おいトレノ。」

 

「なに、お父さん。」

 

「たまには“外”も悪くないぜ?」

 

急に何を言うんだろう。”外”っていったい何のことなんだろう。

 

「?何それ。意味わからないんだけど。」

 

「だろうな。だがその時になればわかる。精々頑張ってこい。」

 

「…じゃあ行ってきます。」

 




はいはいどうも作者ですよっと。

ウマ娘三期、トプロアニメ発表されましたね。ウマ娘界隈がまた更に拡大していくことでしょう。いやー喜ばしい!

なんて言ってられないんですよね。ライバル枠キタサトにしようと思ったら三期発表ですよ。アニメ、シングレをベースに書いているこの作品には致命的でしてね。このままいくと100%食い違う。

…いいや、三期ガン無視で行こう。じゃないと更新できなくなっちゃう。

そんなこんなでまだまだ続きます。また次回!
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