「よし、着いた。」
今回は迷わずにトラックに着いた。これで迷ってしまったら確実に学園が悪い。トラックを見渡して…あの灰色の毛、あの人かな?声を掛けてみよう。
「お前がトレノか?」
「ヒュい!?は、はい。そうですけど…。」
後ろからおじいさんに声を掛けられた。少し見ただけで凄い人なんだと分かるくらいの貫録を感じる。
「オグリならあそこでストレッチしてる。レースの準備は俺らの方でやっとくからお前もウォーミングアップしておけ。」
「あ、はい…。」
そう言ってその人はトラックに降りて行った。さて、私もオグリキャップさんに挨拶しに行こう。
「あの、オグリキャップさんですか?トレノスプリンターって言います。今日はレースを受けてくれてありがとうございます。」
「君がトレノか。オグリキャップだ、よろしく頼む。」
そう言うとオグリキャップさんは私に手を差し出してくる。私はその手を握る。
「精一杯頑張ります…えっと、それと、楽しいレースにしましょう。」
「そうだな。私も楽しいレースにしたい。ストレッチを済ませたら言ってくれ。待っている。」
「ありがとうございます。それでは。」
オグリキャップさんもああ言ってくれたので入念にストレッチをしよう。それと、コースの確認も。ペース配分、ラインの取り方、スパートの掛ける位置を見ておかないと。
それにしても凄かった。動画で見るのとは大違いだ。まさか握手だけでここまで緊張してしまうなんて。
「オグリちゃん、調子はどう?」
「良い感じだ、足も思い通りに動いてくれている。それにご飯が美味しかった。」
「そ、そうなんだ。それにしてもトレノさん。結構念入りにコースを確認してるね。」
見ていると、コースの先を見ているような確認をしていた。走るラインとか考えてるのかな。
「ベルノ、トレノは凄いぞ。握手しただけでゾクゾクきた。今でも鳥肌が立ってしまっている。」
「そんなに凄いの?」
「ああ、タマが負けてしまった訳がよく分かった。…少し走ってくる。」
そう言ってオグリちゃんはトラックに走っていった。このレース、どうなっちゃうんだろう。
「やあやあシャカール君!調子はどうだい?」
「タキオン、何しにきやがった。オレは忙しいんだ。後にしやがれ。」
「まあそう言うなよ。とっておきのニュースを持ってきたのにそう無下にしないでくれよ。」
「知ってるよ。トレノがオグリキャップとレースするんだろ?どうせお前もデータを取りに行くんだろ?」
このクレイジーな奴がこの話題を無視するわけない。オレもこうやって見に行くんだからな。
「そこまで読まれているとはねぇ。もしかして、君の観察対象に私も含まれているのかな?これはいけない!シャカール君はツンデレって奴かな?」
「違うに決まってンだろ。頼まれたってテメーの観察なんかしねぇよ。じゃあな。オレは行く。ついてくんな。」
「つれないじゃないか、私とて目的は同じなんだがねぇ。」
「お、やっとるなぁ。」
「あーやっと来たぁ!どこ行ってたのさー!心配したんだよ!?」
「アンタが勝手に走っていっただけ。後、ナナだっけ?いい加減鬱陶しいんだけど?」
「すいません、本物が目の前にいるのでつい、ちっちゃくてかわいいなぁうへへ。」
「うわ…シンプルに引く…。」
ナナちゃんが傷心したところでトラックを見ると、トレノちゃんがストレッチとしてか、ジョギングでコースを走っている。
「かなり入念にコースを見ているな。そこまでバ場があれているようには見えないが、既にレースの事を考えて?」
「多分、家で覚えてきたコースとの誤差を修正しながら走ってるんじゃないかな。」
「成程な。写真と実物とでは差があるからな。それでも彼女のあの様子だとそれほど誤差があるようには見えないが。」
「どこで仕掛けるか、そこの下見やろな。柵を使ったコーナリングはインに極端に寄るからな。あれの仕掛け所も重要になるやろな。」
それぞれが思い思いに考察をしている。何を考えて走っているかは分からないけど、コースでまず確認するべき所を分かっているのは驚いた。
サーキットだって全開走行の前にどこに水たまりがあるのか、路面状況を確認してそれでようやくアタックに入る。峠もしかりだ。
「よう、謹慎トレーナー殿。」
「うぼあぁ、沖野さん、今のはかなり効きましたよ。」
呼ばれて振り向くと沖野さんがいた。沖野さんも見に来たんだ。
「謹慎中に奴がこうやって学園内にいればこうも言いたくなるだろ。」
「まあそうですけど…沖野さんもレース見に来たんですか?」
「いや、俺は飽くまでも審判だ。さっき六平さんに呼ばれてな。それと、来た来た。」
「私もいるわよ。」
後ろの方から東条さんが来た。凄いメンツが揃った。審判がこの二人であるならひいき無しの公平な結果になる。
「それじゃ、私たちは準備があるから、また後でね。」
そう言ってトラックに降りて行った。早く始まらないかなぁ。
ウォーミングアップを十分にやって、コースの把握も出来た。私の準備は出来たのでオグリキャップさんにレースを始めてもらおう。
「オグリキャップさん、準備できました。いつでも始められます。」
「分かった、ろっぺいは…あそこか、ついてきてくれ。」
オグリキャップさんについていくと先ほどのおじいさんがいた。
「ろっぺい、準備が出来た、いつでも始めてくれ。」
「よろしくお願いします。ろっぺいさん。」
「六平だ。レースの距離は2500、あそこからスタートしてゴールはあそこだ。二人立っているだろう。」
六平さんが指さす方向を見ると、沖野さんと東条さんがいた。それにカメラもある。
「カメラは横並びにゴールした時の判定用だ。何か質問はあるか?」
「いえ、特にはありません。」
「それじゃあスタート位置につけ。合図は頼んだぞ、ベルノ。」
「は、はい!」
私たちはスタート位置に着き、合図を待つ。その時、オグリキャップさんが話しかけてきた。
「トレノは、こうしてスタートを待っている時間をどう思う?」
「どうなんでしょう。まだよく分かんないです。でも、何というか落ち着かないんですよね。」
「そうなのか、私はもうすぐレースが始まるとうずうずしてしまう。楽しみなんだ。」
スタートまでの時間が楽しみ…か。
「私もそうなんですかね。レース中は楽しいって思うんですけど。」
「きっとそうなんだろう。それに、今日のレースを楽しみにしていたんじゃないか?」
「まあ、それなりには…。」
「その割には顔が綻んでいるように見えるぞ?」
そう言われ、口元に手を当ててみる。確かに少し口角が上がっていた。
「楽しみにしていたのは君だけじゃないさ。さあ、始めよう!」
空気が変わった。オグリキャップさんの周りにオーラのようなものが漂う。
「良いレースにしましょう!」
「それでは始めます。用意ッ…スタートぉ!」
「いっけートレちゃーん!」「頑張れオグリさーん!トレノー!」「うオーッ推しの走る姿をまた見られるとはー!」
ナナちゃんとチケットちゃんが声援を飛ばす。デジタルちゃんはいつの間にか増えていた。ここに着いてから一分くらいでいつの間にか合流していた。
それは置いておいて、その他の観客も思い思いに声援を飛ばす。レースが始まるまでの間に観客は前回の倍くらいに増えた。
リギルにスピカ、カノープスもいる。入学したてで早速注目を集めているキタサトコンビもいる。他にも、様々なウマ娘が集まっている。
「2500、有馬記念と同じコースか。出だしからコーナーになるから、あまり差が出ないな。」
「一旦は腹の探り合いやろな。トレノはこの段階からプレッシャーかけとるやろし。せやけどオグリはそれを気にせんと走っとる。」
「プレッシャーを気にしないで?どういう事、タマモさん。」
「さっきオグリから聞いたんや。トレノから発せられる情報をほとんどシャットアウトしとるんや。」
「成程、確かに理にかなっている。後ろを気にするって思ったより神経使うし、前だけに集中してた方が自分の走りを維持できるからな。」
ハヤヒデちゃんがタマモクロスちゃんの解説に頷く。
「でもさ、後ろを気にしないで走るって簡単にできるの?前に誰かいても気になるのに後ろなんてもっと気になるでしょ?」
「それもそうだよね、オグリちゃんレベルにもなれば後ろからの気配だけで何をやろうとしてるのか分かるかもしれない。…だけど。」
後ろを気にしない、やはりというかやってみると本当に難しい。有馬の時だって後ろからくるタマの気配が嫌というくらい感じられた。それこそ気にするなと言われても無理な話だ。
だけど、気にしないと決めて走ったら、これが思った以上に前に集中できる。トレノからのプレッシャーはビリビリと確かに伝わってくる。それでも前に集中できる。
さて、最初のコーナーを抜けた。トレノがどう仕掛けるかは関係ない。私は私の走りをするだけだ!
やあ。
書いてるときに「あの」って書いたら阿耨多羅三藐三菩提って出ました。
まず「?」ってなりました。当たり前のように知らないので検索したこともありません。
それで気になって調べたんですよ。まあジずらから察せるように仏教用語でした。
何の話だよって?私にもわからん。
じゃ!