「ゴッホッ!ゲフ!」
「トレノちゃん!」
ゴールして、ターフに大の字で倒れてせき込んでいるトレノちゃんの元に行く。
「大丈夫!?ケガとかしてない!?」
「大…丈夫…です。結果は…どうだったんですか?」
「今確認してるみたい。かなり僅差でゴールしたからちょっと時間かかってるみたい。立てる?」
「ちょっと…肩を貸していただけると。」
トレノちゃんの手を引いてそのまま肩を貸す。すると、オグリちゃんが歩いてきた。
「まだ結果は出ていないが…とてもいいレースだった。」
「はい、全力で走れました。今日はありがとうございました。」
「協議の結果が出た!」
その声を聞いて、トレノちゃんとオグリちゃんは顔を向ける。あ~ドキドキする~。どっちなんだろう。
「カメラで確認しても、差が見られなかった!よってこのレース、”同着”とする!!」
「同着、引き分けって事?」
「そうでもあるし、勝ちでもあるかな。凄いことだよ。」
結果を聞いてオグリちゃんが向き直る。
「君は本当に速かった。またいつか、レースしよう。次は私が先にゴールする!」
「…いいえ、先にゴールするのは私です。さらに速くなって、勝ちます!」
トレノちゃんがまあまあ凄い宣言をした。確かにトレノちゃんならまだまだ成長できそうだけど…。実際一週間でかなり成長してしまった。
「…最近、走ることが楽しいって心から思えるんです。今だって、レースして疲れて足も動かないくらいなのにまだ走りたいって思えます。」
「そうだな、私もそう思う。ありったけを出して走り続けたい。今だってそうだ。この一週間、トレーニングもいつも以上に楽しかった。」
「私もです。…オグリキャップさんから見て、私ってもっと速くなれますか?」
「どうだろう、私はそういう…教えるのは苦手でな…。君のトレーナーはどう言っているんだ?」
トレノちゃんのトレーナー、豊田さんの事かな。確かにトレノちゃんもどう評価してるのかは気になるけど。
「私トレーナーいないんですよ。初めてのレースも二週間前ですし、学園生じゃないですから。」
「…?彼女は君のトレーナーではないのか?レースが終わってすぐに駆け寄ったからそうだと思ったんだが。」
オグリちゃんが私の方を向く。
「そういえば、渋川さんってトレーナーでしたよね。」
「え、うん、そうだけど。酷いなぁそういえばって。」
「どう見えました?私って、もっと速くなれますか?それとももう限界ですか?」
「そんなことないよ。トレノちゃんはまだまだ伸びていけると思うよ。」
トレノちゃんには底知れない何かを感じる。それにテクニックもまだ増やせるような、そんな気がしてならない。
「私、もっと速くなりたいです。これからも胸が熱くなるようなレースがしたいです。」
「ちょっと、それってまさか…。」
「私、決めました。」
トレノちゃんが息を吸うと少しためて、高らかに宣言した。
「私、トレセン学園に編入しますッ。」
衝撃だった。二週間前のトレノちゃんを知っているだけに困惑してはいるけど、嬉しくもある。トゥインクルシリーズでトレノちゃんが走る姿を見られる。これほど嬉しいことは無い。
「いいの、トレノちゃん!?この前はその気は無いって言ってたのに?」
「この二週間で感謝祭、タマモクロスさん、そしてオグリキャップさんとレースして分かったんです。私は、走るのが大好きだって事。
そして、レースで誰かと一緒に走る、鎬を削ることが楽しいって事に。」
その言葉にオグリちゃんも頷いている。人の成長を見るのはここまで感動するものなんだね。正直もう泣きそう。
「それに、最初に編入を誘って来たのは渋川さんじゃないですか。分かってます?元凶さん?」
「そうだったね、これからよろしくね、トレノちゃん。」
「歓迎ッ!これからよろしく頼むぞ!」
「理事長!?いらしてたんですか?」
「盛観!事の一部始終、見させてもらったぞ!必要書類はすでに揃っている!証明ッ!君の実力ならば編入試験も問題ない!後は君の親御さんの許可を頂くだけだ!」
「秘書の駿川たづなです。こちらがこの書類になります。必要事項の記入が終わったらポストに入れてくれれば大丈夫です。」
「ありがとうございます。」
お礼を言いながら、少し厚い封筒を受け取る。…少し渋川さんが震えてるように見える。
「ありがたいですけど何というか、妙に用意がいいですね。」
「理事長も私も、トレノさんの編入を心待ちにしていましたから。」
「そうですか。それよりも、お父さんがいいって言ってくれるかなぁ。」
「多分大丈夫だと思いますよ。許可してくれるはずです。」
「え?どうしてそう言い切れるんですか?」
お父さんの性格をいくら良く見ても簡単に許可をくれるとは思えない。
「フフッ、勘です。自分の気持ちを素直にぶつければ大丈夫です。」
「そんなものですかねぇ。ま、どうにかこうにかしてみます。」
「トレちゃぁーーーん!!」「トレノーーーー!!」
後ろを振り返るとナナとチケゾーさんが飛びついてきた。
「トレちゃんがぁ、無気力なトレちゃんが成長したぁ!」
「がんどうじだぁあぁぁあぁーー!」
「ちょっちょっと二人とも、そんなに強くしないで…いででで!」
ヤバい折れる。ナナはともかくチケゾーさんも本気で絞めてきてるのでそろそろ終わる。
「二人とも、気持ちは分かるがトレノ君もレース直後で疲れているんだ。少し離れてやれ。」
「ぁああゴメン!感動しちゃってつい!」
「いや、大丈夫ですよ。」
BNWの皆さんやタマモクロスさんも集まってきてレースの結果を祝ってくれた。
ぐううぅぅぅぅぅぅ…っと、そんな音がオグリキャップさんから発せられた。
「すまない、レースの後だからお腹がすいてしまった…。」
「ハハッ、確かにちょっとお腹すきましたね。」
「全くしゃあないな二人とも。ウチがたこ焼き焼いたるさかい仰山食べてってや!」
「タマのたこ焼きか…!たくさん食べるぞ!」
この後、タマモクロスさんのたこ焼きを頂いた。オグリキャップさんが沢山という言葉では到底表せないくらいの量を平らげたのはまた別の話。
トレセンからの帰り道、後ろでナナちゃんが大量の色紙を持って寝ている。少し気になることがあってトレノちゃんには話しかける。
「トレノちゃん、豊田さんをどうやって説得するの?簡単には首を縦に振ってくれ無さそうだけど。」
「どうしようか迷ってます。どうすればうんって言ってくれるか。いきなり編入させてくれなんて言っても厳しそうなんですよね。」
「たづなさんが言ってたみたいにトレノちゃんの情熱をそのまま伝えてみるしかないんじゃないかな。」
「それはそうなんですけど、大きな問題はもう一つあって。」
「そのもう一つって?」
大きな問題っていうくらいなんだからかなり深刻なことなんだろう。
「トレセンって言っても学校ですよね。そうなるとお金かかると思うんですけど。」
「まあ、そうだね。URAから色々と支援されてるから負担は少ないと思うけど。」
「じゃあだめかもしれません。ウチのお父さん、死ぬほどケチですから。」
「そんな夢も希望もないこと言わないでよぉ。」
そんなことを言ったけど金銭面の問題は避けては通れない。困ったなぁ。…あれ、前の二台。あれぶつかるなぁ
「トレノちゃん、ナナちゃん。ごめん、かなり揺れるよ。」
「えっ?」
その言葉の直後、車線変更した車の右バンパーに後ろから来た車にぶつかる。その衝撃で追突された車が左に流れる。
「えいっと。」
ステアを右に切ってその車を避ける。追突した車はガードレールにぶつからないためにステアを左に切って制御不能になったのかスピンしている。
さて、右か、左か。あのままの挙動だったら…。
「「右。」」
ステアをそのままにして通り過ぎる直前に左に切り直す。それと同時にクラッチキックでドリフトの姿勢を作る。
無事切り抜けてバックミラーを見ると玉突き事故になっていた。
「あちゃー酷い渋滞になりそうだね。」
「ちょっちょっと!?何が起きたんですか!?」
「そういえば耳栓してたね。前の車が事故っちゃってね。」
「目の前で起こったんですか?大丈夫だったんですか?」
「まあ、大丈夫ではあったよ。…それよりもトレノちゃん。」
事故が目の前で起こればだれでも少しはパニックになって判断が鈍ると思う。でもトレノちゃんは。
「どうして右ってわかったの?そうすればいいって分かってたみたい。」
「え?私何か言いました?」
「…そう。まあいいや。」
無意識だったのかは分からないけど事故というハプニングの中でもトレノちゃんは冷静に状況を判断できることが分かった。
レース経験が3回しかないのにあのレベルの判断が出来るのは、やっぱり才能なのかな。改めてトレノちゃんの底は知れないと思った。
今日は、トレノちゃんのお父さん、豊田栄治さんが、煙草を何吸いで吸い終わるのか、知っておこう。
スパー。
スパー。
スパー。
スパー。
ライターカチッ
二本目に入ったね。じゃあ!