頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第三十二話 説得

家に着くと、既に6時ほどになっていた。軒先でお父さんが煙草を吸っている。

 

「おう、帰ったか。どうだったんだ?」

 

「同着だった。ホントにぎりぎりだったよ。」

 

「そうか、同着か。まあ良かったじゃねえか。メシ作ってあるから温めて食え。」

 

「う、うん…。分かった。」

 

分かったではない。まだ話したいことがある。

 

「…っ、あのさ。話があるんだけどさ…。ぇえっと。」

 

そうは言ったけど、なかなか出てこない。けど重要なものほど言い出しにくい。

 

「何だよ。」

 

「あのさ、私、トレセン学園に入りたい。この二週間でレースをして分かったんだ。レースが、走るのが大好きだって。」

 

お父さんは頑固な所がある。正面切っての説得は通用しないかもしれない。だからたづなさんから貰った書類を見せる。

 

「編入の書類ももう貰って来たんだ。お金の方も私向こうでバイトするし、お願い!私をトレセン学園に行かせて!」

 

「私からもお願いします。トレノちゃんはトゥインクルシリーズで必ず活躍できます。三冠だって夢じゃないはずです。」

 

「お願いします!トレちゃんのお父さん!」

 

ナナと渋川さんもお願いしてくれているけど、反応は薄い。やっぱりダメか…。

 

「…今日出せば入寮は来週ってところか。ちゃっちゃと書いちまうぞ。」

 

「えっそれって…。」

 

「行けばいいじゃねえか。俺の事は気にするな。」

 

「ほ、本当に…?お金かかるんだよ?貧乏性のお父さんらしくないような。」

 

すんなりと許可が下りて素直に嬉しいのに困惑のほうが強かった。

 

「俺の事を何だと思ってんだ。それに新聞配達のバイトやってただろ。お前の名義で貯金してある。たまに飲むのに借りてるが、学費は問題ねえだろ。」

 

「お父さん…。」

 

「それにあの理事長の事だ。なんか言えば学費くらい何とかしてくれるだろ。長くなりそうだから榛名とトレノの友達も上がってくれ。」

 

そう言うと吸っていた煙草を消して家に入っていく。ここまで父親らしいことをしてくれたのは初めてかもしれない。

 

「よかったねトレノちゃん!どうなるかと思ったけど一安心だね!」

 

「トレちゃぁーん!おめでどぉぉ!」

 

「うん、渋川さんもナナもありがとう。早くて来週かぁ。色々準備しないとね。」

 

「でも豊田さん、なんで理事長の事知ってたんだろう。トレノちゃん、何か知ってる?」

 

「そんなこと言っても何も知らないです。物心ついた時には豆腐屋だったので。聞こうとも思わなかったです。」

 

渋川さんに聞かれると私も気になってきた。お父さんの過去なんて聞いたこと無いし。

 

「折角ですし聞いてみます?」

 

「いいねぇ、根掘り葉掘り聞いちゃおう。」

 

「お前ら、いつまでも突っ立ってないでさっさと上がれ。」

 

「「「は、はーい。」」」

 

 

 

「これも書いて…証紙も貼ってある…よし、これで大丈夫かな。豊田さん、ありがとうございます。」

 

「おう、いつも思うがこういう書類は見てると硬すぎてうんざりするな。書くところに付箋貼ってあるのは楽だったがな。」

 

「そうはいっても豊田さん、書類の内容を知ってるみたいな感じでしたけど、前職ってホントな何だったんですか?」

 

「さあな。」

 

また流された。最初は質問攻めで流されまくったので今度はさりげなく聞く作戦に変えても結果は変わらない。

 

「それじゃあ、私は帰ります。入寮の時期が決まったらトレノちゃんに連絡します。」

 

「何か向こうに持っていった方がいいものってありますか?」

 

「寮だから普段着だけでいいと思うよ。キャリーバック一つで足りるんじゃないかな。」

 

「分かりました。連絡待ってます。」

 

そういうわけで、トレセンに帰るために車に乗り込む。すると豊田さんが豆腐を持ってきた。

 

「その書類、たづなに渡すんだろ。ついでにこれも渡しといてくれ。入学金だっつってな。」

 

「良いですけど、どうしてたづなさんの名前を?」

 

「さあ、どうしてかな?」

 

もう流されるのは慣れたのでツッコまない。

 

「まあいいや、それではお疲れさまでした。」

 

 

 

「じゃあ私もお暇するよ。それじゃ、月曜日ね!」

 

「うん、またね。」

 

そう言ってナナも帰っていった。

 

「…ありがとう、お父さん。」

 

「どうした急に。やりたいことが出来たんなら、背中押してやんのがトレーナー…親の務めだろ。」

 

トレーナー?確かにお父さんがトレーナーって言った。捉えようではお父さんはトレーナーだったって事?

 

「お父さん、それってどういう?」

 

「何でもねえよ。それより早くメシ食っちまえ。」

 

「分かってる、明日の配達もあるんだし、編入の準備も少しずつ進めたいし。」

 

まあ、お父さんが何でもないって言うとそれで押し通しちゃうからいいや。早ければ来週らしいし、そっちを考えないと。

 

 

 

 

 

「送り迎え、お疲れ様です渋川さん。書類も届けていただいて。謹慎中とは思えませんねぇ。」

 

「ふぐぅ。すいません…。あと一週間はおとなしくしていますので…。それではぁ~。」

 

「そうして頂きます。それと、豆腐ありがとうございます。」

 

「ああいえいえ、お構いなく。」

 

そう言ってそそくさと言ってしまいました。何に怯えているんでしょうか。心配ですね。それよりも、書類の確認をしなければいけませんね。

 

「ふむふむ、記入漏れは…なさそうですね。…フフッやっぱり。」

 

親御さんの指名記入欄に懐かしい名前がありますね。あの頃が懐かしいです。もう何年も前になるんですね。

 

トレノスプリンターさんのあの走り方、あの人好みの走りでしたからすぐにピンときました。

 

「期待していますよ。トレノスプリンターさん。」

 

 

 

 

 

それからの一週間はあっという間だった。

 

翌日には渋川さんから編入の手続きが済んで土曜日の入寮が決まったこと、後日制服が届くことが伝えられた。

 

編入するから学校にそのことを伝えたら先生たちは大騒ぎ。

 

「ウチみたいな片田舎からトップスターが生まれたぞぉ!」

 

「え、いやちょっと…。」

 

「誰か横断幕を作れ!仕事なんぞ知ったことか!盛大に送りださなければ!」

 

「あの、まだスターになってませんし…。」

 

「全校生徒に伝えるんだ!こんなおめでたいことは無いぞ!今後のトゥインクルシリーズが楽しみだ!」

 

…と終始こんな感じだったので祝ってくれてはいるんだけどテンションが凄い。報告したその1分後には校内放送が流れた。

 

そのせいでクラスまでの道中、着いてからも質問とエール攻め。

 

「いつからトレセン行くの!?見送り行くからね!」「今のうちにサイン貰っておかなきゃ!」「絶対応援するから!」「バクシーシバクシーシ!」

 

とまあこんな感じのノリが三日続いた。途中そもそも質問でもエールでもなんでもない言葉が飛んできたけど聞き流しておこう。

 

極めつけは誰が流したのかは知らないけど隣町の中学校の人から「応援するからね!」って言われたこと。

 

いや怖いよ。いきなり見ず知らずの人から応援するなんて言われても反応に困る。ナナからは「スターだねぇ」なんて言われたけど言われるこっちの身もなってほしい。

 

そんなこんなで金曜日、家の帰って荷物の最終確認をする。

 

「着替えよし、ノートとかペンの類もよし、制服…着ていかないとだと思うしかけておこう。」

 

新天地に行くとなるとどうしても忘れ物が気になる。いざとなれば向こうで買えばいいとは思うけど持って行った方が良いに越したことは無い。

 

「明日からトレセンかぁ。自分で言いだしたけど、実感ないなぁ。」

 

そう言って窓から空を見つめる。東京に行けば伊勢崎には気軽には帰れない。そう考えるとなんだか寂しく感じてきた。

 

「ご飯作ろ。」

 

寂しさを紛らわすように私は台所へ向かった。

 

 

 

配達の時間、いつも通りに起きてジャージに着替える。

 

「トレノ、分かってるとは思うが配達はこれで最後だ。まあなんだ、今までご苦労だった。」

 

「…そうか、そういえば今日で最後なんだ。なんだか感慨深いな。」

 

「希望とあらば向こうの新聞配達探してもいいぜ?」

 

「いえ結構です。」

 

「なあんだ。じゃあ行ってこい。最後だからって零すなよ。」

 

その顔を見るに頷いたら本気で探したな。

 

「分かってるよ。じゃあ行ってきます。」

 

 

 

全力で走る配達路。普段何気なく、最近は技術とかを考えながら走ったこの道ももう最後。

 

そんなことを思いながら走っていると、ついついペースが上がってしまう。今更になって気付いたけど嫌々やってた日課でも結構好きだったらしい。

 

だからと言って向こうでもやりたいというのは話が違うけど。

 

「ハハ…ハハハ…!」

 

向こうでのトレーニング、レースの事を考えたら自然と笑みがこぼれた。楽しみでしょうがない。

 




むにゃむにゃ…。うーん…あれ、なぜ椅子に縛られているんでしょう?

「起きたか、あまりに起きないものだったから起こそうと思ったが、手間が省けたよ。」

ハヤヒデさん?どういう状況ですかこれ。

「それは君が一番よく知っていると思うが?」

ギクッ。な、何のことでしょうねぇ~。

「気付きたくないなら気付かせてあげよう。投稿を一日開けた罪だよ。」

いや違うんです!これには深くないし割と浅い事情が!

「まあ投稿は個人の自由、無理のない範囲でやるものだ。」

そうですよね!ハヤヒデさん分かってらっしゃる!

「しかし君の場合、自分で決めた間隔で投稿していた。それをまあいいやというだけでその取り決めを破棄した。私はそれが許せんのだよ。」

ま、待ってください!次回は一日早く出しますから!それで手打ちにしてください!

「ほう?もし出来なかったら?」

その時は僕でキャンプファイヤーしてくれて構いませんよ。

「…いいだろう。それで構わない。それではな。」

フーっ何とかなりました。さて、死にたくないんで頑張りますかね。また次回!

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