スピカへの挨拶を終わらせてリギルの所へ向かう。
「トレノちゃん、さっきから少しむくれてるけどどうしたの?」
「別に大したことじゃないです。」
そう言って視線を落とす。何があったんだろう。
「東条さん、謹慎開けてきましたー!」
「そんなこと大声で言わないの。待ってたわよ、トレノ。」
「一週間ぶりです。これからよろしくお願いします。」
「ええ、よろしくね。…グラス、エル、2000メートルで模擬レースをする。準備しろ。」
「負けまセーン!」「負けせんよぉ。」
エルちゃんとグラスちゃんはてきぱきと準備を済ませるとスタート地点に立つ。
「見学がてらちょっと休憩しようか。」
「そうですね凄いですね、リギルのトレーニング。無駄が無いのが私でも分かります。」
「流石東条さんだよ。ウマ娘の得手不得手を把握して一人一人に合ったメニュー組んでるんだ。」
「うわぁ、凄いですね。」
「ロータリー!2000メートルのタイムを計るわよ。」
「はい!」
あ、ロータリーちゃんだ。確かこの前のリギル入部テストでぶっちぎりで合格した逸材だったっけ。
「まだデビューしてないのに仕上がってるなぁ。クラシック手強いだろうなぁ…あれ、トレノちゃんどこ行ったんだろ。」
周りを見渡すとトレノちゃんがいなくなってた。少し探すとロータリーちゃんの所にいた。
「ロータリーさん、リギルに入ったんですね。」
「ん?お、トレノじゃねーか。どうしたんだ?お前も走りに来たのか?」
「いや、今は学園内を案内してもらってるところです。まあ休憩中ですけど。」
「じゃあ本格的なトレーニングは明日からってわけか。」
「そうなんですかね?後で聞いてこよ。」
渋川さんってどんなトレーニング組むんだろう。スピカみたいのじゃないといいけど。
「ロータリー!そろそろ始めるぞ!」
「はい!それじゃ後でな。」
「はい、頑張ってください。」
ロータリーさんと別れて渋川さんの所に戻る。少し驚いたような顔をしている。
「ロータリーちゃんと知り合いだったの?」
「はい、偶然にも同室だったので。リギルだったのは知りませんでしたけど。」
「そうなんだ。良いライバルになるかもね。じゃあ、最後にもう一か所。学園の象徴、三女神像だね。」
連れられてきた所には水瓶を持った三人のウマ娘が背を合わせている像があった。
「これが三女神像ですか。…何というか、ただの噴水ですね。」
「見た目はね。でもこの像にはいろいろと逸話が残ってるんだ。」
「逸話ですか?」
「うん。何でも、ウマ娘がこの像に想いを残していくんだって。その想いが誰か違うウマ娘に継承されていくとか。」
何ともオカルトチックな話が出てきた。逸話なんだからそれ位のものはあるだろうけど。
「何とも信じがたいですね。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。」
「いやこれがあながち何故か本当というかね?現に無意識でここにきて三女神像を眺めてたら体の奥底から力が湧いてくるって子が割といるらしいんだ。」
「何というか眉唾ですね。」
「いや、疑問に感じるところは確かにあるけど私は本当だと思う。理由は無いけどね。」
眉唾だけど、本当にそんなことがあったら素敵だな。そんなことを思いながら三女神像を眺めていると渋川さんが手をたたく。
「さて、案内はこれで終わりかな。明日から新しい学校生活、それにトレーニングもあるからお互い頑張っていこー!」
「おー。ところで明日のトレーニングって何時からですか?」
「授業終わるのが大体4時くらいだから4時半にしようか。ジャージとシューズだけ持ってきてくれればいいから。やることは後でLANEに送るから。」
「分かりました。それじゃ、お疲れさまでした。」
渋川さんと別れて、自由時間になった。とはいえやることが無い。スマホを見ると4時半。
「どうしようかなぁ。荷解きも終わっちゃったしな。」
そのまま寮に帰ってもいいけどじっとしてるのもなんだか時間がもったいない気がする。
「散歩かなぁ。」
「明日からトレーニングって言っちゃったけど一旦は適正とかタイム計測だよね。」
トレーナー室に帰って当分のメニューを組んでいく。どうせ来週あたりには組み直しになるので三日分から先は仮に作っておく。
「それに今はウイニングライブの練習の方が重要かな。トレノちゃんならメイクデビュー余裕だろうし。」
とりあえず今はライブ練習の方に時間を取ってトレーニングはそれなりでいいのかな。トレノちゃんの走り方についてもしっかり理解しないと。
ストライドからピッチに滑らかに変わって行くあの走り方、それも何度も。トレーナーとしてっていうか今まででも見たこと無い。
「ロータリーちゃんも同じような走りしてたな。何かしら関係あったりして?」
矯正してみてもいいのかもしれないけどこれがトレノちゃん本来の走りなら、矯正なんてもってのほかだろう。
「………あー秋名行きたい赤城行きたい妙義行きたい!」
真面目なことを考えれば考えるほど走りたくなる。近場に走れるような所が無いのがトレセンの唯一にして最大の欠点。
「スープラに私が持ってたレコード全部塗り替えられちゃうしさぁ。更新したいのに走れないなんてぇ!」
そんなことを思いながらメニューを組む。トレノちゃんとのトレーニング、楽しみだなぁ。
「おはようです。」
「おう、今日も走って来たのか?」
「まさか。…と言いたいところですけど、目が覚めちゃって。癖ですかね。」
こんな癖がついたのは配達の習慣をつけたお父さんのせいだ。でも今はちょっとだけ感謝している。
「じゃあ朝飯食って行こうぜ。」
「ういーす。」
「「「おはよー。」」」
「…あれ、トレノどこ行った?」
教室に入って振り返るとトレノの姿が無い。おかしいな。さっきまで後ろにいたけどな。
「いた、何してんだ?」
「何というか、緊張しちゃって…。」
「何言ってんだ。ほら、早く来い。」
「ちょっ!?行きますから引っ張らないで…うわぁ!」
とりあえずトレノを教室に放り込む。少し強引だったか?皆の視線がこっちに向く。
「後で先生から説明あると思うけど、今日から同じクラスになるトレノだ。」
「と、トレノスプリンターです。今日からよろしくお願いします。」
「ねえ、トレノちゃんってタマモさんとオグリさんに勝ったあのトレノちゃん?」
おお、俺と同じような質問だ。まあ確認したくなるわな。入学当初キタサンやサトノに向いてた目をあっという間に塗り替えたんだからな。
「はい、一応…。」
「やっぱり!ねえ、どんなトレーニングしてるの?どこかレース教室行ってたとか!?」「勝ったときどんな気持ちだった?やっぱり気持ちよかった?」
「質問は一つずつお願いしま…ロータリーさん助けて!」
「いやどうにもならんだろ。オレも含めてここにいる連中は走りに対してマジな奴らだ。先生が来るまで耐えてくれ。」
「そんなー。」
軽く見放したらトレノが簡単にもみくちゃにされた。皆と打ち解けるにはこれが一番だろ。
「ほら皆席について。編入生を…ってもう顔合わせしてたんだ。」
「た、助かった…。」
「もう皆さん知ってるよね。じゃあトレノさんの席はあそこね。」
俺の隣か。
「はい。改めてよろしくお願いします。」
「デビューを果たしたらクラシック級、シニア級となります。この中でクラシック三冠とは一度しか挑戦できないレースです。」
「…?」
クラシック級?シニア級?分からない単語が先生からマシンガンのように繰り出される。ノートを取るので精いっぱいだ。
「さて、クラシック三冠のレースとは皐月賞、日本ダービー、あと一つはトレノさん!」
「ふぇ?えと、分かんないです…。」
教室が少し静かになる。皆が私を見ている。え?分かんないといけなかった?
(おいトレノ冗談だろ?)
(冗談で分かんないって言うと思いますか?)
(これ割と一般常識だぞ。)
「ゑ?」
「あと一つは菊花賞です。トレノさん、覚えておくように。続けますね。」
授業は続く。国語とか数学は段階を踏んでいるからまあ理解できなくもないけどレースの授業は私にとって5,6段位飛ばしてくれているから分からないことだらけだ。
この先が不安になってきた。
今日のスぺゲスさんは…ガラガラポンっと。出ました!はい特殊召喚!
「あ?どこだここ。」
どもどもロータリーさん。ようこそ後書き欄へ。
「後書き?結局俺らと一問一答する形式になったのか。前募集してた質問はどうしたんだよ。」
来てませんけど?
「え?」
質問なんて一つも来てませんけど?
「ふーん。」
それで済ませます?いいですけど。まだ決まってませんがトレノとのレースは楽しみですか?
「当たり前だろ。アイツを倒すのは俺だ。それまで負けんじゃねえぞ。」
良い気合ですね。これは気合入れて執筆しなければ。多分あと二十話くらい先になりそうですけど。
「は?」
また次回!