「やったぁぁ!トレちゃんの勝ちだぁ!」
「うんうん、とりあえず一安心かな。でもこれでトレノちゃんはマークされる存在になっちゃうかな。」
「トレノちゃんなら大丈夫ですよ!タマモクロスさんに勝ったんですから!」
それでも不安要素はある。ダイヤちゃんにロータリーちゃん。今は休養中だけどキタちゃんも注意しないといけない。
「見たかよ、すげえなトレノって子!」
「ああ。あのコーナリング、一度見たら忘れられないよ!」
「次のレースが早くも楽しみだぜ!」
「何というかまぁ、当然だわな。」
「トレノさんならデビュー戦は問題無しですから。」
「このケガさえなければあたしもデビュー戦だったのにぃ。」
学園のテレビでトレノのデビュー戦を見ていたが、はっきり言って予想通り過ぎて面白味は無かった。
「俺のデビューは12月だし、それまで東条トレーナーにしごいてもらうか。三冠用のメニューも組んでもらってることだしな。」
「なら一月だけですけど私が先ですね。トレノさんに続きます!」
「コケんじゃねぇぞ。次は俺、その次はキタサンだ。」
「はい!ケガなんかに負けませんから!」
そうか、勝ったのか。トレノの奴。まあ、心配するようなことでも無かったがな。そんなやわに育てた覚えもないしな。
ウイニングライブの前に、デビュー戦を終えたトレノちゃんにはインタビューが待っていた。
「そんなに構えなくてもいいと思うよ。ただ記者から聞かれた質問に答えていけばいいから。」
「そう簡単に言いますけどね、なんて答えればいいのかわかんないですよ。こんなの初めてなんですから。」
「大丈夫、私も初めてだから安心して。」
「なんだろう、一気に不安になるようなこと言うのやめてもらっていいですか?」
そんなことを言って壇上に上がる。するとシャッターが一斉に切られる。
「今回デビュー戦を大差で勝利したわけですが、気持ちの方はいかがですか?」
「気持ち…とりあえず勝てて一安心って感じです。」
「今後の出走予定はもう決まってるんですか?」
「ですって。どうなんですか?」
少し油断しているとトレノちゃんが質問を中継してきた。一応決まってるような決まってないような…。
「二つ案があって、一つは弥生賞に。もう一つはジュニア級G1、ホープフルSにしようかと思ってます。」
記者たちはおおっと声を漏らす。トレノちゃんが何それ聞いてないみたいな顔をしている。だって帰ってから相談しようと思ってたんだもん。
「どっちに出走しても、クラシック三冠には出走する予定です。どちらに出走するかは帰って相談しようと思ってます。」
「成程。クラシック三冠、応援します。」
インタビューもそろそろ終わると思ったその時、トレノちゃんが思いっきり嫌そうな顔をした。視線の先を見るとゴルシがでかめのノートに【ボケて!】と書いてある。
「どこからどうやって入って来たんですか?」
「そりゃあお前天井から生えてきたに決まってるだろ。最近覚えたんだ!凄いだろ!」
「早く帰ってください。周りの方々のご迷惑をおかけしない前に。」
「ゴルシちゃんが災厄みたいな言い方するんじゃねえよ!あ、てめぇ!はーなーせー!」
どこかで見たことあるような人がゴルシを連れて行ってくれた。ひと悶着あったけど。インタビューは無事に終わった。あー緊張した。
群馬県渋川市
「おい、大変だぜ池谷!」
「こんな夕方にどうしたんだよ、健二。」
「もう5レンちゃんくらいですね~。」
「これ見てくれよ!ぶったまげるぜ!」
健二が渡してきたのはウマ娘の雑誌だった。
「なんだこれ、ウマ娘の雑誌じゃねえか。これがどうしたんだよ。」
「表紙の子がかわいかったから持ってきたんですか?」
「ちげーよ!ほらココ、見てくれよ!」
そう言って健二が指差したのは注目のウマ娘特集。おいおい健二、いくら奥さんが冷たいからって逃げる事はねえだろ。
「見ろって言われても俺らウマ娘の事なんか分かんねえぞ。…トレノ…。」
「スプリンターぁ!?ケンジ先輩これマジですかぁ!?」
「ああマジだ。顔写真も出てるんだけどよ、見ろよこの目。」
トレノスプリンターの顔写真を見ると見覚えのない顔なのに20年程前の記憶が鮮明によみがえってくる。
「そっくりだろ?この目。」
「ああ、この天然ボケってした目、びっくりするくらいそっくりだ。それにこの白黒の髪もな。」
その容姿は、秋名最速マシンに、その雰囲気は秋名の天才ドライバー、藤原拓海にそっくりだ。
「それにこの子のトレーナーも見てくれよ。ぶったまげるぜ。」
「渋川榛名…って、あの榛名ちゃんか!?」
「見違えましたねぇ~この前まで大学生だったのになぁ。」
「あの子も神フィフティーン並みの実力だからなぁ。てっきり今年こそMFGに出るもんだとばかり思ってたけど。」
「諸星瀬名が塗り替えるまでコースレコードは榛名ちゃんのものでしたからね。」
一度ナビシートに乗せてもらったことあるけど、拓海と同じくらい怖かったなぁ。まるで参考にならなかった。
「次のトレノちゃんのレース、俺見に行こうかな。どんな走りするのか、この目で見てみたいよ。」
「と言うわけで、トレノちゃんトゥインクルシリーズ初勝利おめでと~!ささ、ちょっと汚いけど入って入って。」
「わあ、ビックリしたぁ。…何なんですかこの部屋。」
デビュー戦の翌日、打ち合わせのために渋川さんのトレーナー室にお邪魔してるけど、部屋に入るなりその言葉とちょっとした料理が置いてあった。
ただ部屋の二分の一が何かの部品で占領されている。よく見ると車のハンドルもシートも置いてある。あれ全部車の部品なのかな。
「ああこれ?全部インプの部品なんだ。他に置ける所もないし、とりあえずここに置いてあるんだ。」
それにしても多い。何かよく分からないパイプがいっぱいあるし工具だって大量に置いてある。
「デビュー戦勝ったんだから少しくらいお祝いが無いと。二人だけだけど祝勝会って事で。ニンジンジュースで良かった?」
「はい、私の為にありがとうございます。」
「それじゃ、カンパーイ!」
ちょっとした料理と言っても色々あった。パスタにから揚げに、やっぱり見慣れない人参ハンバーグもあった。
「これってスーパーの奴じゃないですよね。カフェテリアから貰ったんですか?」
「ああこれ?作ったんだ。私自炊してるからこれ位なら作れるんだ。どう、おいしい?」
「おいしいですよ。料理できたんですね、ちょっと意外です。これで部屋さえきれいなら完璧なんですけど。」
「ふぐぅ。心にハイキックがぁ。」
目の前の料理を食べ進める。ふと本題を思い出す。
「今言う事じゃないと思いますけど、トレーニングの打ち合わせってっていつやるんですか?」
「明日でいいかなって。今日は何も考えずに休みって事でさ。明日からトレーニングだからさ。」
「じゃあ今日はゆっくりさせていただきます。」
「ダイヤちゃんもロータリーさんもいつもより気合入ってるなぁ。私も早くトレーニングしたいなぁ。」
患部の冷却も最近は頻度も減って来たし、そろそろ再開できると思うけどなぁ。今は見学がてら皆さんのサポートに徹している。
「スズカさん、お疲れ様です!これどうぞ!」
「ありがとう。どうだった?キタちゃんの走りとは違うから参考になるかは分からないけれど。」
「いえ、凄い参考になりました!確かにあたしの走りとは違いましたけど落とし込めると思ったところもいっぱいありました!」
直ぐに走ってみてどの程度違いが出るのか試したいけど、それも出来ないので参考になった点を箇条書きでメモしていく。
「フフッ、早く走れるようになるといいわね。」
「はい!これさえ無ければ今すぐにでも走ってるんですけど。」
「そんなお前に朗報だぞ、キタサン。」
「あ、トレーナーさん。朗報って…まさか!」
「ああ、明日からトレーニング再開だ。と言ってもリハビリ程度からの再開になるがな。」
「やったぁぁ!明日からよろしくお願いします!」
この二週間走れなくてもやもやしてた。明日から気合入れて頑張ろう!
「いいか?飽くまでもリハビリ程度だ。経過を見てトレーニングの強度を上げていくからそのつもりでな。」
「分かってます。無理して悪化しちゃったらいけませんから。」
「ああ、順調に行けばクラシックに間に合うかも知れないからそのつもりでな。」
とうとうやってくれたな貴様。
「良いじゃねーか。トレノも受け答えで困ってたんだしよぉ。それにお前だって台詞回し困ってたんじゃねえのか?」
それはそうだけどよ…それでも無暗に出るなって事だよ。出番は一応考えてるんだからそれまで待っててくれよ。
「おおマジか!そんなにアタシを出したかったのかぁ!任しとけ!そん時はゴリっと活躍してやるからな!じゃなーーー!」
危機は去った…と見るべきか。あー良かった。皆さま、三話にわたってお見苦しいところをお見せしました。次回からまともな後書きになると思うのでよろしくお願いします。
また次回!