「よし、じゃあミーティング始めようか。お題は次に出走するレースについてだね。」
「確か弥生賞かホープフルSでしたっけ。」
「うん…その前に。超が付くほど個人的な事なんだけどいいかな?」
個人的な事とは何かあったのかな。
「良いですけど、何ですか?」
「トレノちゃんって私の事って何て呼んでる?」
…?いきなり何の確認だろう。そんな事の確認を取られたのは初めてだ。
「渋川さんって名字で呼んでますけど。」
「”それ”!”それ”だよ!名字で呼ぶのはいいんだよ?でもぉ…。」
「でも…何ですか?」
「出来たらぁ…トレーナーって呼んでほしいなぁって。ほら、沖野さんとか東条さんとか皆トレーナーって呼ばれてるからさ。私も呼ばれてみたいなぁって。」
想像の斜め上を行く位個人的な事だった。まあお世話にはなってるし本人たっての希望なら呼んであげよう。
「渋川トレーナー。次のレースは何にするんですか?」
「トレーナー!呼ばれるのっていいなぁ。ねえもう一回!」
「…弥生賞かホープフルSのどっちですか?渋川さん。」
「あれぇ!?」
変にトレーナーと呼ぶと図に乗ることが分かったから呼び方はあのままで行こう。
「うぐぐぐぅ。じゃあ話を戻して、まずレースの簡単な説明からするね。まずホープフルSはジュニア級で挑める数少ないG1で、弥生賞が皐月賞のトライアルレースって感じなんだけど。」
「どっちも重要なレースなんですね。トライアルって事は皐月賞で有利になるとかですか?」
「そうだね。レースごとの決められた出走枠があるんだけど弥生賞で三着以内だと優先出走権ていうのを貰えるから重要だね。」
皐月賞…クラシック三冠最初のレースの出走権を貰えるならそっちに出るべきかも?
「でもホープフルSも注目度的には負けてないよ。何てったってG1だからね。」
「そっちはどんな感じなんですか?」
「さっきも言ったけどジュニア級で挑める数少ないG1だね。特徴は年内最後に開催されるG1って所かな。どっちに出走しても皐月賞の出走で有利になるだろうね。」
「少し考えさせてください。」
「オッケー。好きなだけ考えていいよ。」
トレノちゃんが俯いて10分ほど経った。トレノちゃんがどちらを選んでもいいようにメニューを組んでおく。
「…決めました。」
「決まった?どっちにする?」
「両方出ます。」
「分かった。じゃあその方向でメニュー調整するね。」
両方出るとなると先にホープフルSのメニューを組んで、流れを見て弥生賞に向けて組んでいく…感じ…かな?
「両方出るって言った?」
「はい。注目度が高いなら両方出たほうが皐月賞に有利になるかなって。」
「それは確かにそうだけど…分かった。その方向で行こうか。」
「ありがとうございます。トレーニングはこの後やりますよね?」
「それなんだけどさ、スピカと合同トレーニングにしたんだけどどうかな。」
編入してから私とのマンツーマンのトレーニングばっかりだったからたまにはいい刺激になるかなって思ったんだけどさあどうかな。
「良いですよ。どうすればいいですか?」
「内容は沖野さんに任せてあるんだけど、いつものようでいいって。それと、紙コップ持って来てほしいとも言ってたよ。」
「分かりました。それじゃあまた後で。」
「沖野さん、今日はよろしくお願いします。」
「おう、こちらこそよろしくな。昨日言った通り、今日はトレノとの合同トレーニングだ。双方に学べるものも多いはずだ。」
「いえいえ、私が学んでばっかりだと思うのでご指導のほどよろしくお願いします。」
「まあそんなに気負わなくていいぞ。アイツらに交じってジョギングしてくれば気も解れるだろう。ほら行ってこい。」
そう促してトレノをスピカのジョギングに参加させる。交じって少し経った頃には楽しそうにジョギングしていた。
「学んでばかりかもとは。シニア級でも十分通用するウマ娘の発言とは思えないくらい謙虚だねえ。渋川も見習ったらどうだ?」
「私だって謙虚ですぅ!こうやってどんなトレーニングが効果的かいつも勉強させてもらってますぅ!」
「じゃあ聞くが、俺がトレノを担当したいっていったらどうするよ。」
「そんなこと出来るわけないじゃないですかw現段階で一番理解してるのは私なんですからw」
「あーはいはい。少なくともお前の辞書に謙虚なんて言葉が無いことが分かったよ。」
若干殴りたくなったが先輩の威厳でグッとこらえる。
「それで、ホープフルと弥生賞、どっちになったんだ?」
「両方出ることにしました。他ならぬトレノちゃんの希望なので。」
「両方出るとなると、それだけ相手に情報を与えることになるが、いいのか?」
俺としては対策が立てやすくなる分嬉しいが。
「大丈夫です。トレノちゃんは連日想定した成果を超えてくるので。タイムは伸び悩んでますけどテクニックは日を追うごとに良くなっていってますから。」
「対策する側にしてみれば厄介この上ないがな。」
「そうは言いますけど、今期のクラシック有力候補、ダイヤちゃんロータリーちゃんだって成長が早すぎて対策してもしきれないですよ。」
確かにそいつらも入学から二か月で急成長を遂げた。体だけの仕上がりだったらすでにトレノを超えている。だがな。
「キタサンが抜けてるぞ。昨日からだがトレーニングに復帰してる。クラシックに間に合うかは賭けになるが、間に合わせて見せる。」
今も隅の方ではあるがトレーニングをやらせている。本人のやる気も十分だし、俺も頑張らないとな。
「私もトレノちゃんも間に合ってほしいと思ってます。頑張ってください。私も何か手伝えることがあれば手伝いますよ。」
「気遣いありがとな。何かあったら頼らせてもらうよ。ジョギングもそろそろだな。お前ら!集まってくれ!」
号令を掛けると小走りで集まる。
「トレノ、突然で悪いんだが紙コップを付けて走ってもらっていいか?」
「良いですよ。距離はいくつにしますか?」
「2000メートルだ。一度やってみてほしいんだ。キタサン、手伝ってやってくれ。」
「分かりました!」
キタサンが紙コップにスポドリを入れる。大体半分くらいか。まあそんなとこだろうな。
「これ位かな…トレノさん、どうぞ!」
「ありがとう…ちょっと少ないかな。8割くらいでいいよ」
「おいおい、そんなに入れるのか?」
「はい。いつもこれ位ですね。と言うか最初からこの量でした。」
いつもこの量って。頭にのせる紙コップでそんなに入れようなんて考えが豊田さんらしいと言うか…。
「酷いときは9割の時がありましたけどね。あの時はさすがに入れすぎでしょって思いましたね。じゃあ、行ってきます。」
そういう問題じゃないんだよなぁとスピカメンバー全員が思っていると颯爽と走っていった。
「どうマックイーン?残ってると思う?」
「俄かには信じがたいですが、いつもやっていらっしゃるのなら出来るとみていいかも知れませんわ。」
「今の所零した感じもないですね。」
「ええ、とても気持ちよさそうに走ってるわ。」
「俺にも出来るか?まあスカーレットには無理だろうなぁ。」
「はぁ!?むしろアンタこそ出来ないんじゃないの?」
皆が思い思いの事を言ってる中、トレノは卒なく2000メートルを走り切る。
「フゥ…どうでした?一応零れてないとは思いますけど。」
トレノから紙コップを受け取る。…マジかよ。
「ホントに零れてない…。減った跡が無い。」
「帽子も髪も濡れてない…。どうやったんですか!?」
「どうやったって言ってもなぁ。私だってコップの様子見たこと無いし。でもお父さんがコップの中で水を回せって言ってたかな。」
「コップの中で?出来るのか?」
言葉だけなら簡単だが、いざ頭についてる水をコップの中で回すとなるとかなり難しそうだ。
「多分ですけど表面張力か何かで水が零れないのかもしれません。」
「おぉ!なんか面白そうだな!アタシにもやらせろよ!」
「…フフッ。良いですよ。どうぞやってみてください。」
「珍しく話が分かるな!それじゃ帽子借りるぜ!ナイスフィット!」
トレノが邪悪な笑顔でゴルシの準備を手伝う。
「よっしゃぁーーー!一発でクリアして超ゴルシちゃんにアタシはなあぁあぁる!出走じゃーい!」
「大丈夫なんですかトレノさん。ゴルシさんはああ見えてとても速いウマ娘なんです。レースの経験も豊富ですし本当に一発でクリアしちゃうかも…。」
「大丈夫、私なりの仕返しだから。それに…。」
少し息を吸って少しいたずらっぽく笑ってこう言い放った。
「いくら天才が集まるトレセンって言っても、一瞬で出来るようになるとは思えないかな。」
今日のスぺゲスさんは誰がいいですかねぇ。ヨシ、テイオーさんカモーン!
「ムーーーー。」
どうしました?浮かない顔をしてらっしゃいますが。おや?頭が少し濡れていますね。タオルお使いください。
「ワケワカラナイヨーー!」
落ち着いてください。何があったんですか?
「いやね?トレノの紙コップのやつを真似したら全然出来」
それ以上はいけない!ネタバレになってしまいますわ!
「でもキミがこうしたんだからさ、せめてもの仕返し的な?」
これ以上関わっては次回が全部ばらされてしまう。そうなる前に締めなければ。
「ちなみにマックイーンもスぺちゃんも…。」
また次回!!!