「おめでとう、ダイヤちゃん!」
「ありがとうキタちゃん。作戦通りにレースが進んだから何とか勝てたかな。」
「レース全体で落ち着いてたからこっちも安心して応援できたよ。」
あの落ち着いたレース運びは私も驚いた。レース中に落ち着くことはあるけど全体で見て落ち着いてたことは無い。
「特に最後の直線末脚のキレは凄かったよ!一気に先頭に出てそのままゴールしちゃったもん!」
「あの加速力は驚いたよ。オグリキャップさんみたいだった。」
一発のキレは私より上、要注意だね。
「そんなこと無いですよ。私は精一杯走っただけですから。」
こんな調子でレースの振り返りをしていると、ダイヤちゃんが違う話題を振ってきた。
「話は変わりますけど、来月はロータリーさんですね。」
「だね。何というか、ダイヤちゃんみたいに普通に勝っちゃいそうだけど。」
「トレノさんがデビューしてから今まで気合の入り方が違いますから。勝ってくれると思います。」
と言ってもロータリーさんが負けるところがあまり想像できないな。それこそ一瞬で終わっちゃいそう。
「ま、ざっとこんな所だ。」
やっぱり。スタートから先頭に立って後続を引き連れたままなんの危なげもなくゴールした。心配のしの字もしないまま終わってしまった。
「正直張り合いなかったな。トレーニングの方がよっぽどヒリついてたぜ。」
「そこまで言っちゃいますか。他の子が可哀そうになってきました…。」
「ところでキタサン、デビュー戦いつになったんだ?トレーニングも本格的にやってるし。まだ決まってないのか?」
ロータリーさんが聞くとキタちゃんが誇らしげに腕を組む。
「ふっふっふ…。何と間に合いました!来年一月です!」
「良かった。クラシックをこの四人で戦えるんだね。」
「面白くなりそうじゃねえか。その前にだ…トレノ、弥生賞出るんだろ?」
ロータリさんが前触れもなく私に話題を振ってきた。
「はい。その前にホープフルがありますけど。」
「あの時の約束、ようやく果たせるってだけだ。まさか忘れたなんて言わせないぜ?」
「そんな訳ないじゃないですか。ホープフルより弥生賞の方が手強くなりそうです。」
あんなに凄い走りをするんだ。生半可な事ではすぐに負けちゃう。全力で行かないと。
「ホープフル負けんなよ。お前を負かすのはキタサンやダイヤじゃねぇ。この俺だからな。」
「プレッシャーですね。負けられなくなっちゃったじゃないですか。…ロータリーさんにもね。」
「言うじゃねえか。そう来なくちゃな。」
「二人だけで盛り上がらないで下さい!まるであたしが眼中に無いみたいな感じじゃないですか!」
しまった。ついロータリーさんとで盛り上がってしまった。
「そんなこと無いよ。トレーニング見てる感じだと厳しいライバルだと思うよ。もちろんダイヤちゃんも。」
「ああ、下手したらこっちが足を掬われそうだ。だからデビュー戦頑張れよ。」
「はい!よぉ~し!デビュー戦まで追い込みだ~!」
「お邪魔しまーす。」
「お、来た来た!やっと届いたよ、トレノちゃんの勝負服!」
「あー、あれですか。デザイン出したのって一昨日位でしたよね。」
渋川さんに呼ばれてトレーナー室に入るとそこには白を基調として黒のラインが2本入った、パリッとした勝負服があった。
「こうやって見ると気合入るねぇ。早速着てみて!裾直しとかいろいろあるしさ!」
「じゃあ向こう向いててください。なんでか目が怖いので。」
「そんなー。」
渋々と向こうを向いたのでその間に着替える。
…凄、こんなにもピッタリなんだ。ぶかぶかな所もきつい所もない。それでいて頻繁に動かす部分はしっかりと動きやすくなっている。
足回りなんてスカートという中々動きにくいタイプの服なのに普段のジャージよりも動きやすい感じがする。
「採寸してもらいましたけど、こんなにピッタリになるんですね。裾直しも必要ないですよ。試しに走ってみてもいいですか?」
着心地もいいし不思議と気合が乗る。だけど実際に走ってみて不安なところが無いかは探っておきたい。
「そう言うと思ってトラックの予約は取ってあるよ。思う存分走ってきて。」
「ありがとうございます。…そのカメラは仕舞ってくださいね。」
「うそだー。」
「トレノちゃん、緊張してない?」
「…まず渋川さんはそのシャーペンを仕舞ってください。」
ホープフルS当日、控室でトレノちゃんの心配をする。とはいえG1、私だって緊張している。トレノちゃんはここまでで沢山トレーニングを積んできた。
だからと言って勝てる、という訳ではない。他の子だってレベルが高い。身体的な能力だったら確実のトレノちゃんは負けている。
「そんなに心配そうな顔しないで下さい。確かに周りは強豪揃いです。負けちゃうかもしれません。」
トレノちゃんも弱音を吐きだす。でもすぐにその目に光が宿る。
「でも頑張って来たのは私も同じです。勝ってみせます。」
「トレノちゃん…そうだね、俯いてたら勝てるものも勝てないしね!」
「それにロータリーさんとの約束もあるので。ここで負けたらなんて言われるか。…行ってきます!」
「トレノちゃんは多分マークされる側になると思うけど、頑張って!」
「…プレッシャーが凄い。四方八方から視線を感じる…。」
パドックに出たはいいけど一人一人からプレッシャーを感じる。
「絶対に負けない。」「トレノさえどうにかすれば私の勝ちだ…。」
「マークされる側ってやりにくいな…。」
「やっぱりマークされてる。レース展開もスローペースになってトレノちゃんが仕掛けた始めた瞬間に全員が動くかも。」
「あれがトレノちゃんか。写真で見るよりも似てるなぁ。」
後ろから聞き覚えがある声が聞こえた。この声、池谷さんか。懐かしいなぁ。走りこんでた日々…ふぉ?
「い、池谷さん、来てたんですか!?」
「久しぶりだな、榛名ちゃん。トレノちゃんのデビュー戦、雑誌で見たよ。圧勝だったらしいじゃん。遅れてだがおめでとう。」
「あ、ありがとうございます。そうだ、武内さんと健二さんは来てるんですか?」
「いや、本当はテレビで見る予定だったんだがな…樹がな。」
『仕事は俺らに任せて下さいよぉ!出会いもありそうですしぃ。』
「だとよ。樹の奴、俺には忘れられない人がいるんだ。」
池谷さんが少し涙を浮かべて天を仰ぐ。何があったのか分からないけど触れちゃいけない奴なのかな。
「ところで似てるって言いましたけど誰に似てるんですか?」
「いや、後輩にちょっと雰囲気がな…。特になんか天然っぽい感じが。」
「あ、当たりです。トレーニングとかレースの時はそうでも無いんですけど。たまにぼーっとしてる時もあるんですよ。」
「そこまで似てるのか…。他人の空似って訳じゃなくなってきたな。うーん。」
「お、トレノのトレーナーじゃねえか。今日は親子で観戦か?」
池谷さんが何か考えているとロータリーちゃんが後ろから声を掛けてきた。
「ロータリーちゃん。キタちゃんもダイヤちゃんも来てくれたんだ。…あと親じゃないよ?池谷さんからも言ってくださいよ。」
「よく考えたら親子ほど年が離れてるからな。あの時ちゃんと待ち合わせに行ってればホントに結ばれてたのかもなぁ…真子ちゃん。」
「ちょっと、しみじみしないで下さいよ!皆、決して親子じゃないから!知り合いだから!」
池谷さんの肩を掴んでブンブン振る。あの三人の中だったら池谷さんが一番いいけどさ!…あれ?私今まで彼氏できたこと無いや。
「ま、だろうな。からかっただけだ。…なんで急に泣くんだ?悪かったって。どうなんだ?勝てるんだろ?」
「展開次第かな。どうなるかは想像できないけど、確実にインは潰されるだろうね。」
「ふうん、ズバリ勝利のカギはどこにあると予想する?」
勝利のカギか…難しいことを聞いてくれる。私が突破口にするなら。
「ライン取りかな。全員がトレノちゃんをマークしてるとなるとトレノちゃんが動いたらそれを察知して走行ラインを潰すような感じで動くかもしれない。」
「聞いた限りだとヤバそうだが…まだ続きがあるんだろ?」
「うん。トレノちゃんならそこに突破口を見出せるはず。インを潰される経験は初めてじゃないし。」
「初めてじゃ?あぁ、オグリさんとレースした時の経験が役立つのか。」
流石ロータリーちゃん。察しが早い。キタちゃんもダイヤちゃんも呑み込めたみたい。
「話が呑み込めないぜ。どういう事なんだ?」
「まあまあ、そこはレース中に説明します。あと少しで始まりますから。」
いやー軽症でよかったです。最初の一発もかなり痛かったですけど二発目は明らかに人が出せる威力じゃなかったです。誰か怒らせましたかね?
「少なくとも怒ってるやつがここにいるぜ?」
うお!?ランサーさん!?この作品には関係ないはずでは?
「前回の後書きでサラッと殺そうとしただろ。感想でも気づいてる奴いたぜ。」
普通に気付かれてびっくりしましたよ。ああもうお帰り頂いて結構ですよ。
「雑だなオイ!…俺を急に登場させた理由は?」
ただ単にスカイさんと絡ませようかなって。アングラー同士で面白そうだったので。まあ出すにしてもここじゃなくて短編集的な奴作ってそこに出す感じですかね。
「そうかい。あの弓兵やキンピカに邪魔されなきゃいいや。」
あ、思いっきり出ますよ。
「は?」
また次回!